[5月17日16:00.天候:晴 仙台市宮城野区・夢メッセみやぎ 井辺翔太、結月ゆかり、Lily、未夢、初音ミク]
今日はライブが無かったはずだが、何故か特設ライブ会場で昨日のライブを行った新人ボーカロイド3人。
実は……。
「わたしの後輩、期待の新人の皆さんでしたー!」
初音ミクがお忍びで来仙し、ゲリラライブを行ったのだった。
ミクの新曲のバックダンサーを務めたゆかり達。
そのついでに、デビュー曲も披露させてもらったというわけだ。
「このコ達、ダンスも上手いけど、歌も上手かったでしょ?それじゃ、ゲリラライブの感想でも聞いてみましょうか」
舞台袖で見ていた井辺。
「なかなか、いいコ達じゃないですか」
主催者の目にも留まるほどだった。
「申し訳ありません。本日のイベントの趣旨に反してしまって……」
「いえいえ。お陰様で盛り上がりましたよ。これからの時代、メカっぽいものより、よりソフトな人間に近いタイプの方がウケるようです」
「敷島エージェンシーは、正にそれが業務ですから」
[5月17日17:40.JR多賀城駅 上記メンバー]
〔「2番線に停車中の電車は17時43分発、各駅停車のあおば通行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕
「……ええ。こちらは順調です。これから、仙台駅まで向かいます。……ええ」
井辺はホームに降りて、敷島に電話していた。
{「ミクのヤツ、本当に来たのか。あいつ、やるなぁ……。後でちゃんと礼を言っといてくれよ」}
「はい、分かりました」
{「こっちは大変な騒ぎが起きたが、ケガ人はゼロだ。さすがはマルチタイプだよ」}
「それで、そちらのプロジェクトの方は?」
{「ああ、こっちもエミリーの新型ボディの起動に成功した。記者会見も終わったし、もうすぐキミにもお披露目するよ」}
「ありがとうございます」
{「ミクはもう今日の予定は無いんだっけ?」}
「はい。明日は9時からPVの撮影が入っています。エキストラで、結月さん達も入っています」
{「なら今日は皆、一緒に帰れるな。彼女らは適当に待たせておいて、キミも打ち上げに参加してくれ」}
「分かりました」
{「仙台駅じゃなくて、あおば通駅まで乗ってってくれ。西口でやるから」}
「はい、西口ですね。……はい、分かりました。……はい。では、失礼します」
井辺は電話を切って、電車内に戻った。
最後尾は通勤電車にしては珍しく、クロスシートが備わっている。
「プロデューサーさん、たかお……社長は何て?」
向かい合わせになったシートに座るミクが聞いて来た。
彼女は有名人になってしまったため、帽子と赤い縁の眼鏡で変装をしている。
「皆さんはもう、今日の予定はありません。ただ、社長命令で、私も打ち上げに参加することになりました。申し訳ありませんが、皆さんはそれまで待機して頂くことになります」
「そうですよね」
「どこで待機していればいいの?」
「打ち上げの会場が複合ビルなので、そこで適当にお待ち合わせて頂ければ」
「うーん……」
〔「お待たせ致しました。17時43分発、仙石線上り、各駅停車のあおば通行き、まもなく発車致します」〕
ミクが何か考えている。
そうしているうちに、電車が走り出した。
〔「本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。17時43分発、仙石線上り、各駅停車のあおば通行きです。途中、仙台には18時4分、終点あおば通には18時6分に到着致します。【中略】次は中野栄(なかのさかえ)、中野栄です」〕
人名みたいな駅名が流れてきた頃、西日が車内に差し込んで来た。
乗客の中には、それを合図にするかのようにブラインドを下ろす者も見受けられた。
ブラインドレスの新型車両が増車される中、そのような光景も過去の遺物となるのだろうか。
「あの、プロデューサーさん」
「何でしょう?」
クロスシートの反対側の窓際の席は、海の方を向いたロングシートになっている。
要は、日本三景である海を見る為の車両というべきか。
もっとも、多賀城からではあまり意味が無いかもだが。
ミクが手を挙げて、何かを提案した。
「プロデューサーさん達が打ち上げをされてる間、少し歩いて来てもいいですか?」
「?」
[同日18:06.JRあおば通駅 井辺翔太、敷島孝夫、平賀太一、平賀奈津子、シンディ、エミリー]
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、あおば通、あおば通です。お出口、変わりまして左側です。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがございます。お立ちのお客様は、お近くの吊革、手すりにお掴まりください。仙台市地下鉄南北線は、お乗り換えです。ホーム後方の乗り換え改札口をご利用ください」〕
地下ホームに入線した電車から多くの乗客達が吐き出された。
そこから改札口の外に出ると、敷島達が待っていた。
「よお、皆。お疲れさん」
「お疲れさまです!」
「社長、メールの件ですが……」
「ああ、分かってる。帰りは東京行き最終の“やまびこ”60号だ。発車の10分前くらいに、それまで新幹線改札口まで来てくれればいい」
「はい、ありがとうございます!じゃあ皆、行こう!」
「は、はい!」
ミクは後輩達を連れて、買い物に行く提案をしたのだ。
「シンディは、彼女達について行ってやってくれ」
「了解」
敷島の命令に素直に頷くシンディ。
ボーカロイド達は自衛の手段すら持たない為、シンディのような武闘派が護衛に付くことが多い。
「エミリーは俺達と来てくれ」
「かしこまりました」
[同日18:30.仙台駅西口近辺・飲食店 敷島孝夫、井辺翔太、平賀太一、平賀奈津子]
「それじゃ、お疲れさまでした!」
「カンパーイ!」
「井辺君もお疲れさん」
「ありがとうございます」
「エミリーは本当に見た目は変わりませんね」
「それでも軽量化したんですよ」
計量器に乗せたら、確かに重さは約150キロであった。
「これで、あと何十年かは大丈夫なわけですね」
「まあ、そうですね」
「テロ組織に狙われたということですが……」
「どうして研究室が、いかにも秘密的な地下にあるのかが分かりましたよ」
「そうでしょう?テロからの被害を防ぐ為に、地下に堅牢に造ってもらいました」
(実は予算余ってたんじゃ……?)
敷島はそれは黙っていることにした。
「それで、エミリーはこれからどうするんですか?」
「しばらくは国内外から研究者が見学に来るでしょうから、しばらく記念館に置いておくことになるでしょうね」
「旧ボディはやはり部品取りに?」
「それが実用的なんですが、どうしても旧ボディとどう変わったかを見たがるので、比較の為に、それもしばらくは記念館に保管ということで……」
「テロ組織に狙われたのに、あそこに置いといて大丈夫なんですか?」
「ええ。安全ですよ」
と、平賀は答えた。
(ヘタに平賀教授の家に置いといて、そこが狙われるよりは……ということでしょうか)
井辺は敷島達の話を聞いて、そう思った。
今日はライブが無かったはずだが、何故か特設ライブ会場で昨日のライブを行った新人ボーカロイド3人。
実は……。
「わたしの後輩、期待の新人の皆さんでしたー!」
初音ミクがお忍びで来仙し、ゲリラライブを行ったのだった。
ミクの新曲のバックダンサーを務めたゆかり達。
そのついでに、デビュー曲も披露させてもらったというわけだ。
「このコ達、ダンスも上手いけど、歌も上手かったでしょ?それじゃ、ゲリラライブの感想でも聞いてみましょうか」
舞台袖で見ていた井辺。
「なかなか、いいコ達じゃないですか」
主催者の目にも留まるほどだった。
「申し訳ありません。本日のイベントの趣旨に反してしまって……」
「いえいえ。お陰様で盛り上がりましたよ。これからの時代、メカっぽいものより、よりソフトな人間に近いタイプの方がウケるようです」
「敷島エージェンシーは、正にそれが業務ですから」
[5月17日17:40.JR多賀城駅 上記メンバー]
〔「2番線に停車中の電車は17時43分発、各駅停車のあおば通行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕
「……ええ。こちらは順調です。これから、仙台駅まで向かいます。……ええ」
井辺はホームに降りて、敷島に電話していた。
{「ミクのヤツ、本当に来たのか。あいつ、やるなぁ……。後でちゃんと礼を言っといてくれよ」}
「はい、分かりました」
{「こっちは大変な騒ぎが起きたが、ケガ人はゼロだ。さすがはマルチタイプだよ」}
「それで、そちらのプロジェクトの方は?」
{「ああ、こっちもエミリーの新型ボディの起動に成功した。記者会見も終わったし、もうすぐキミにもお披露目するよ」}
「ありがとうございます」
{「ミクはもう今日の予定は無いんだっけ?」}
「はい。明日は9時からPVの撮影が入っています。エキストラで、結月さん達も入っています」
{「なら今日は皆、一緒に帰れるな。彼女らは適当に待たせておいて、キミも打ち上げに参加してくれ」}
「分かりました」
{「仙台駅じゃなくて、あおば通駅まで乗ってってくれ。西口でやるから」}
「はい、西口ですね。……はい、分かりました。……はい。では、失礼します」
井辺は電話を切って、電車内に戻った。
最後尾は通勤電車にしては珍しく、クロスシートが備わっている。
「プロデューサーさん、たかお……社長は何て?」
向かい合わせになったシートに座るミクが聞いて来た。
彼女は有名人になってしまったため、帽子と赤い縁の眼鏡で変装をしている。
「皆さんはもう、今日の予定はありません。ただ、社長命令で、私も打ち上げに参加することになりました。申し訳ありませんが、皆さんはそれまで待機して頂くことになります」
「そうですよね」
「どこで待機していればいいの?」
「打ち上げの会場が複合ビルなので、そこで適当にお待ち合わせて頂ければ」
「うーん……」
〔「お待たせ致しました。17時43分発、仙石線上り、各駅停車のあおば通行き、まもなく発車致します」〕
ミクが何か考えている。
そうしているうちに、電車が走り出した。
〔「本日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。17時43分発、仙石線上り、各駅停車のあおば通行きです。途中、仙台には18時4分、終点あおば通には18時6分に到着致します。【中略】次は中野栄(なかのさかえ)、中野栄です」〕
人名みたいな駅名が流れてきた頃、西日が車内に差し込んで来た。
乗客の中には、それを合図にするかのようにブラインドを下ろす者も見受けられた。
ブラインドレスの新型車両が増車される中、そのような光景も過去の遺物となるのだろうか。
「あの、プロデューサーさん」
「何でしょう?」
クロスシートの反対側の窓際の席は、海の方を向いたロングシートになっている。
要は、日本三景である海を見る為の車両というべきか。
もっとも、多賀城からではあまり意味が無いかもだが。
ミクが手を挙げて、何かを提案した。
「プロデューサーさん達が打ち上げをされてる間、少し歩いて来てもいいですか?」
「?」
[同日18:06.JRあおば通駅 井辺翔太、敷島孝夫、平賀太一、平賀奈津子、シンディ、エミリー]
〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、あおば通、あおば通です。お出口、変わりまして左側です。ホーム進入の際、ポイント通過の為、電車が大きく揺れることがございます。お立ちのお客様は、お近くの吊革、手すりにお掴まりください。仙台市地下鉄南北線は、お乗り換えです。ホーム後方の乗り換え改札口をご利用ください」〕
地下ホームに入線した電車から多くの乗客達が吐き出された。
そこから改札口の外に出ると、敷島達が待っていた。
「よお、皆。お疲れさん」
「お疲れさまです!」
「社長、メールの件ですが……」
「ああ、分かってる。帰りは東京行き最終の“やまびこ”60号だ。発車の10分前くらいに、それまで新幹線改札口まで来てくれればいい」
「はい、ありがとうございます!じゃあ皆、行こう!」
「は、はい!」
ミクは後輩達を連れて、買い物に行く提案をしたのだ。
「シンディは、彼女達について行ってやってくれ」
「了解」
敷島の命令に素直に頷くシンディ。
ボーカロイド達は自衛の手段すら持たない為、シンディのような武闘派が護衛に付くことが多い。
「エミリーは俺達と来てくれ」
「かしこまりました」
[同日18:30.仙台駅西口近辺・飲食店 敷島孝夫、井辺翔太、平賀太一、平賀奈津子]
「それじゃ、お疲れさまでした!」
「カンパーイ!」
「井辺君もお疲れさん」
「ありがとうございます」
「エミリーは本当に見た目は変わりませんね」
「それでも軽量化したんですよ」
計量器に乗せたら、確かに重さは約150キロであった。
「これで、あと何十年かは大丈夫なわけですね」
「まあ、そうですね」
「テロ組織に狙われたということですが……」
「どうして研究室が、いかにも秘密的な地下にあるのかが分かりましたよ」
「そうでしょう?テロからの被害を防ぐ為に、地下に堅牢に造ってもらいました」
(実は予算余ってたんじゃ……?)
敷島はそれは黙っていることにした。
「それで、エミリーはこれからどうするんですか?」
「しばらくは国内外から研究者が見学に来るでしょうから、しばらく記念館に置いておくことになるでしょうね」
「旧ボディはやはり部品取りに?」
「それが実用的なんですが、どうしても旧ボディとどう変わったかを見たがるので、比較の為に、それもしばらくは記念館に保管ということで……」
「テロ組織に狙われたのに、あそこに置いといて大丈夫なんですか?」
「ええ。安全ですよ」
と、平賀は答えた。
(ヘタに平賀教授の家に置いといて、そこが狙われるよりは……ということでしょうか)
井辺は敷島達の話を聞いて、そう思った。