[5月14日21:00.宮城県仙台市太白区・平賀家 平賀太一]
「……ええ、そうなんです。実は作業自体は既に着手してまして、それで完成が今週末と……」
平賀は自宅の電話で、敷島に電話していた。
「申し訳無いですね。本当は最初に連絡したかったんですが……」
{「まあ私自身、仕事で忙しいし、それに機密が保持できているということですから。それにしても、よく費用が捻出できたものです」}
「哀しい話ですが、テロの脅威に対抗する為には、テロリスト以上の物を持たなければならないということなんですかね。マルチタイプが必要とされる以上、その技術を持つ自分はそれに応えなければなりません。もちろん、正義の範囲を越えない程度でね」
{「分かります。私もユーザーとして、それに立ち会う必要があると……」}
「シンディの調子はいいみたいですね」
{「アリスが上手く調整してるんで」}
「でしょうなぁ……。それにしても敷島さん、よく政府に『マルチタイプの存在は2機まで認める』なんて約束させましたね」
ご存知の通り、実弾を発砲できる銃火器が標準装備のマルチタイプは、それだけで違法な存在である。
ましてや東西冷戦時代、共産圏側の粛清の産物なのだから。
しかしそこが解散前の財団の尽力というか、敷島が何かしたと平賀は見ているが、政府にマルチタイプの存在を超法規的な措置として認めさせている。
「最初は『2機』までなんて文言、無かったでしょう?」
{「でしたっけ?ww」}
「またまた……。今度のエミリーは、自分が持つ最新の技術を取り入れました。かなり軽量化に成功したと思いますよ」
{「それは楽しみですね」}
スキャナーを使って敵が人間か否かを見極め、使用する銃火器を決めるというプログラムを組んだのも平賀。
人間に対しては絶対に実弾を使わないという制約が政府から課せられた為、人間相手には模擬弾を使用し、それ以外の者には実弾を使用する。
{「警察や自衛隊だって実弾使うのに、マルチタイプはダメだなんて……」}
「文句があるなら、政府に寄越せってことでしょう。条件付きで実弾を使わせてOKという風にさせた敷島さんの方が凄いと思います」
{「そ、そうですか?」}
「ロボット・テロを幾度と無く生き延びた勇者なのは結構ですが、その特権、悪用しないでくださいよ」
{「もちろんですよ」}
後に敷島は、
「その技術、絶対に悪用しないでくださいよ」
というツッコミを飲み込んでいたと語っている。
電話を切り、平賀は手近にある煙草に火を点けた。
当作品でも数少ない喫煙者である。
そして、目の前のPCの画面にエミリーの設計図を出す。
「太一様、コーヒーが入りました」
そこへ、メイドロボットの七海がコーヒーを入れてきた。
「ああ、悪いな。子供達は?」
「もうお休みになりました。奈津子博士もです」
「……分かった」
七海は平賀が1番最初に作り上げたロボットで、且つ本邦初のメイドロボットである。
ほとんど平賀の私財で作られたこともあって(技術提供などは一部、南里志郎も含む)、所有権は平賀にある。
「本来は……。お前のような、家庭内作業ロボットの方が需要があるんだ。エミリーのような兵器ロボットじゃない」
「メイド長……エミリーは、私より何でもできます」
「それでも、だ。俺は南里先生の遺言に従ってエミリーを引き受けたが、政府やエミリーに興味のある企業からの需要に応える義務が無かったら、恐らく放棄していたと思う。だけど、放棄したら、どこでテロ組織の手に渡るか分からないから、持ち続けているんだ」
別に平賀はエミリーが嫌いというわけではない。
何でもできるだけに、実は維持費が相当掛かるのである。
交換用のボディなんか、既に個人が用意できる額ではない。
政府が防衛費なんだか分からないが、その辺から回してくれなければ、交換用のボディはいつまで経っても作れなかっただろう。
原発除染としての用途はどうかというと、元々がテロリズム用として開発されたマルチタイプをそれに使った際、もし作業中に暴走でもしたら大変だと敬遠されている。
「鉄腕アトムは正義の味方として平和的に利用されているが、現実は厳しいということだよ」
「太一様……。どちらかというと、“ロックマン”に近いような気がしますが?」
「お前、何でそれを知ってるんだよ?」
[同日同時刻 東京都江東区・某マンスリーマンション 敷島孝夫&シンディ]
「平賀博士の所に電話してたの?」
「ああ。どうやら俺に連絡が来る前に、既に作業はしていたみたいだぞ」
「さすが平賀博士ね」
「予算さえ付けば、どんなロボットも作り上げてしまう。恐ろしい技術を持った博士だよ」
敷島がしたり顔で言うと、シンディは苦笑いに近い顔をした。
「何を今さら……。もう10年近い付き合いなんでしょ?」
「もう、そんなに経つのか」
「平賀博士からしてみれば、私や姉さんの銃弾を受けても平気な社長の方が化け物だと思ってるんじゃない?」
「ああ。最後に言われたよ。受けてもって……いや、撃たれたらヤバいけどさ、そりゃ……」
「社長に銃弾当てようとしたら、このくらいの距離でないと……いや、この距離でも当たるかどうか……」
ジャキッ!(右手をショットガンに変形させるシンディ)
「こらこらこら!仮にも俺はユーザーだぞ!?」
「冗談よ。ネタにマジレスw」
「うるせっ!」
右手を元に戻した。
「お風呂にお湯溜まったから入りなよ」
「ああ。ちゃんと温度は40度だぞ?分かってるな?」
「はいはい。私の温度計でピッタリ40度だよ」
「どこかのメイドロボットみたいに、『お茶が美味しい温度』ってのはナシだぞ?」
「それ、七海のこと?今は大丈夫でしょ?」
「……だと、いいけどな」
[同日22:00.平賀家 平賀太一&七海]
「太一様、お風呂の用意ができました」
「おう、ありがとう。……別に、わざわざお湯を入れ替えなくてもいいんだぞ?俺はこれでも父親なんだから、子供達が入った後くらい……」
「いえ。今日はジャグジーとミストサウナをご用意致しました」
「は?そんなのあったっけ?」
「はい。お試しください」
「何か、嫌な予感が……」
平賀はバスルームに向かった。
そして、
「七海!お前はまた!!」
平賀の怒号が家中に響いたという。
ジャグジーというのはグラグラにお湯が煮立っている状態、ミストサウナというのはそれで発生した湯気のことであった。
「お前、また頭のネジが緩んでるようだな、ああっ!?」
「大丈夫です!ちゃんと自分で締め直して……」
「うるせっ!ちょっとこっち来い!」
メイドロボットの実用化まで、あと一歩……らしい。
「……ええ、そうなんです。実は作業自体は既に着手してまして、それで完成が今週末と……」
平賀は自宅の電話で、敷島に電話していた。
「申し訳無いですね。本当は最初に連絡したかったんですが……」
{「まあ私自身、仕事で忙しいし、それに機密が保持できているということですから。それにしても、よく費用が捻出できたものです」}
「哀しい話ですが、テロの脅威に対抗する為には、テロリスト以上の物を持たなければならないということなんですかね。マルチタイプが必要とされる以上、その技術を持つ自分はそれに応えなければなりません。もちろん、正義の範囲を越えない程度でね」
{「分かります。私もユーザーとして、それに立ち会う必要があると……」}
「シンディの調子はいいみたいですね」
{「アリスが上手く調整してるんで」}
「でしょうなぁ……。それにしても敷島さん、よく政府に『マルチタイプの存在は2機まで認める』なんて約束させましたね」
ご存知の通り、実弾を発砲できる銃火器が標準装備のマルチタイプは、それだけで違法な存在である。
ましてや東西冷戦時代、共産圏側の粛清の産物なのだから。
しかしそこが解散前の財団の尽力というか、敷島が何かしたと平賀は見ているが、政府にマルチタイプの存在を超法規的な措置として認めさせている。
「最初は『2機』までなんて文言、無かったでしょう?」
{「でしたっけ?ww」}
「またまた……。今度のエミリーは、自分が持つ最新の技術を取り入れました。かなり軽量化に成功したと思いますよ」
{「それは楽しみですね」}
スキャナーを使って敵が人間か否かを見極め、使用する銃火器を決めるというプログラムを組んだのも平賀。
人間に対しては絶対に実弾を使わないという制約が政府から課せられた為、人間相手には模擬弾を使用し、それ以外の者には実弾を使用する。
{「警察や自衛隊だって実弾使うのに、マルチタイプはダメだなんて……」}
「文句があるなら、政府に寄越せってことでしょう。条件付きで実弾を使わせてOKという風にさせた敷島さんの方が凄いと思います」
{「そ、そうですか?」}
「ロボット・テロを幾度と無く生き延びた勇者なのは結構ですが、その特権、悪用しないでくださいよ」
{「もちろんですよ」}
後に敷島は、
「その技術、絶対に悪用しないでくださいよ」
というツッコミを飲み込んでいたと語っている。
電話を切り、平賀は手近にある煙草に火を点けた。
当作品でも数少ない喫煙者である。
そして、目の前のPCの画面にエミリーの設計図を出す。
「太一様、コーヒーが入りました」
そこへ、メイドロボットの七海がコーヒーを入れてきた。
「ああ、悪いな。子供達は?」
「もうお休みになりました。奈津子博士もです」
「……分かった」
七海は平賀が1番最初に作り上げたロボットで、且つ本邦初のメイドロボットである。
ほとんど平賀の私財で作られたこともあって(技術提供などは一部、南里志郎も含む)、所有権は平賀にある。
「本来は……。お前のような、家庭内作業ロボットの方が需要があるんだ。エミリーのような兵器ロボットじゃない」
「メイド長……エミリーは、私より何でもできます」
「それでも、だ。俺は南里先生の遺言に従ってエミリーを引き受けたが、政府やエミリーに興味のある企業からの需要に応える義務が無かったら、恐らく放棄していたと思う。だけど、放棄したら、どこでテロ組織の手に渡るか分からないから、持ち続けているんだ」
別に平賀はエミリーが嫌いというわけではない。
何でもできるだけに、実は維持費が相当掛かるのである。
交換用のボディなんか、既に個人が用意できる額ではない。
政府が防衛費なんだか分からないが、その辺から回してくれなければ、交換用のボディはいつまで経っても作れなかっただろう。
原発除染としての用途はどうかというと、元々がテロリズム用として開発されたマルチタイプをそれに使った際、もし作業中に暴走でもしたら大変だと敬遠されている。
「鉄腕アトムは正義の味方として平和的に利用されているが、現実は厳しいということだよ」
「太一様……。どちらかというと、“ロックマン”に近いような気がしますが?」
「お前、何でそれを知ってるんだよ?」
[同日同時刻 東京都江東区・某マンスリーマンション 敷島孝夫&シンディ]
「平賀博士の所に電話してたの?」
「ああ。どうやら俺に連絡が来る前に、既に作業はしていたみたいだぞ」
「さすが平賀博士ね」
「予算さえ付けば、どんなロボットも作り上げてしまう。恐ろしい技術を持った博士だよ」
敷島がしたり顔で言うと、シンディは苦笑いに近い顔をした。
「何を今さら……。もう10年近い付き合いなんでしょ?」
「もう、そんなに経つのか」
「平賀博士からしてみれば、私や姉さんの銃弾を受けても平気な社長の方が化け物だと思ってるんじゃない?」
「ああ。最後に言われたよ。受けてもって……いや、撃たれたらヤバいけどさ、そりゃ……」
「社長に銃弾当てようとしたら、このくらいの距離でないと……いや、この距離でも当たるかどうか……」
ジャキッ!(右手をショットガンに変形させるシンディ)
「こらこらこら!仮にも俺はユーザーだぞ!?」
「冗談よ。ネタにマジレスw」
「うるせっ!」
右手を元に戻した。
「お風呂にお湯溜まったから入りなよ」
「ああ。ちゃんと温度は40度だぞ?分かってるな?」
「はいはい。私の温度計でピッタリ40度だよ」
「どこかのメイドロボットみたいに、『お茶が美味しい温度』ってのはナシだぞ?」
「それ、七海のこと?今は大丈夫でしょ?」
「……だと、いいけどな」
[同日22:00.平賀家 平賀太一&七海]
「太一様、お風呂の用意ができました」
「おう、ありがとう。……別に、わざわざお湯を入れ替えなくてもいいんだぞ?俺はこれでも父親なんだから、子供達が入った後くらい……」
「いえ。今日はジャグジーとミストサウナをご用意致しました」
「は?そんなのあったっけ?」
「はい。お試しください」
「何か、嫌な予感が……」
平賀はバスルームに向かった。
そして、
「七海!お前はまた!!」
平賀の怒号が家中に響いたという。
ジャグジーというのはグラグラにお湯が煮立っている状態、ミストサウナというのはそれで発生した湯気のことであった。
「お前、また頭のネジが緩んでるようだな、ああっ!?」
「大丈夫です!ちゃんと自分で締め直して……」
「うるせっ!ちょっとこっち来い!」
メイドロボットの実用化まで、あと一歩……らしい。