[8月9日16:40.JR八王子駅・中央線ホーム 敷島孝夫、1号機のエミリー、8号機のアルエット]
「あー、死ぬかと思った。でも、無事で良かったな」
何事も無かったかのように八王子駅のホームを歩く敷島達。
あの後、救助された敷島は東京都八王子市内の病院に搬送された。
あの大爆発の中、関係者もびっくりの微傷ぶりだったという。
『お前、サイボーグか何かじゃないのか?ちょっと背中の裏蓋開けてみせろ』
と、事情聴取に来た鷲田警視も皮肉るように言ったくらいだ。
無論、敷島はれっきとした人間である。
『芸能事務所の経営よりも、警視庁の機動隊か自衛隊のレンジャーが合ってるんじゃないのかい?もし何だったら、私が紹介するよ?』
と、村中課長も言っていた。で、
『この男にとっては、レンジャーでもヌルい。米軍特殊部隊グリーンベレーのキャンプにでも送ってやりゃいいんだ』
と、ヒドい言われようである。
それでも一応、確保した研究所の資料は警察に引き渡した。
後で敷島の口座に、多額の捜査報償費が振り込まれることだろう。
エミリーは取りあえず、収容された八王子市内の警察署で充電させてもらった。
そうでないと、メモリーが取り出せないからである。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の3番線の電車は、16時54分発、快速“むさしの”、大宮行きです。この電車は4つドア、8両です〕
「鷲田警視達にはウィリーとKR団関係の証拠品を渡したわけだから、俺達の事は御咎め無しだ」
因みに八王子駅から乗り付けたレンタカーに関しては、達夫の家ごと跡形も無くなっていた。
事故ということで、上手く警察も処理してくれたらしい。
「あとは帰るだけだな」
〔まもなく3番線に、当駅始発、快速“むさしの”、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は4つドア、8両です。……〕
「エミリー、せっかくだからシンディを見舞ってやるといい。見舞いの品を持ってな」
「シンディと・会えます・か?」
敷島がシンディの名前を出すと、エミリーはパッと顔を明るくした。
「ああ。アリスに電話しておいてやろう」
敷島がケータイを取り出した。
〔「3番線、お下がりください。16時54分発、武蔵野線、湘南新宿ライン回りの快速“むさしの”号、大宮行きの到着です。新宿、東京方面には参りませんのでご注意ください」〕
オレンジ色の帯を巻いた電車が入線してきた。
普段は武蔵野線を走行している電車だ。
元は山手線を走っていた。
「……ああ、よろしく」
敷島が電話が切ると同時に、今時珍しい、何のチャイムも無いドアが開いた。
「アリスのヤツ、OKだってさ。良かったな」
ドア脇の座席に座って、敷島は笑みを浮かべた。
「ありがとう・ございます」
エミリーはペコリと頭を下げた。
夕方のラッシュなので、座席はすぐに埋まる。
エミリーとアルエットは着席せず、敷島の前と横に立った。
武蔵野線の205系電車は、座席の脇に不透明のアクリル製防護板が取り付けられている。
〔「ご案内致します。この電車は16時54分発、武蔵野線経由、快速“むさしの”号、大宮行きです。停車駅は豊田、日野、立川、国立、新小平、新秋津、東所沢、新座、北朝霞、終点大宮の順に止まります。国分寺、三鷹、中野、新宿方面には参りませんので、ご注意ください。……」〕
座って車内放送を聞きながら、
(何だろう?この中韓みたいな感じは……)
と、思った。
(新小平、しん・しょうへい。新秋津、しん・しゅうしん。東所沢、とん・しょたく。新座、シンツァ。北朝霞、ペ・チョンカ……)
おい、何言ってんだ!
きっと、在日・創価系芸能事務所に仕事を取られて気にしているのだろう。
[同日16:54.JR中央線・武蔵野線快速“むさしの”号、大宮行き車内 敷島孝夫、エミリー、アルエット]
電車は帰宅客を満載して八王子駅を発車した。
八高線回りとまた違ったルートを通って、埼玉へ向かう。
〔「お待たせ致しました。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。16時54分発、中央線、武蔵野線経由、快速“むさしの”号、大宮行きです。停車駅は【中略】。終点、大宮到着は17時45分の到着です。【中略】次は豊田、豊田です」〕
「お姉ちゃんの具合はどうですか?」
アルエットが敷島の顔を覗き込むようにして聞いた。
白いブラウスからは、ピンク色のジュニアブラが少し透けて見える。
ジュニアアイドルしてデビューさせられたらと思う敷島は、
「両足の修理が終わるまで、もうしばらく歩けそうに無さそうだ。エミリーは仙台に帰らないといけないから、あとはアルがシンディの介助とかしてやるんだぞ?」
と、答えた。
「はい!」
(下半身の・修理が・終わる・まで、シンディは・動かさない・と・思う)
[同日18:15.埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポレーション・ジャパン埼玉研究所 敷島、アリス、3号機のシンディ、エミリー、アルエット]
大宮駅に定刻に着いた敷島達は、大宮駅構内の花屋で花束を買い求めると、西口からタクシーに乗って研究所に向かった。
さすがに今はバージョン・シリーズが待ち構えているわけも無く、無事に到着した。
「遅かったじゃない」
アリスが少し不機嫌そうな顔をした。
「東京の端っこからここまで来たんだ。大目に見ろよ。それより、シンディは?」
「首長くして待ってるよ」
「首を長くしてますか?」
アルエットは自分の首を持ち上げた。
「いやいや、本当に長くなってないから」
敷島が苦笑いしながら否定すると、
「???」
アルエットには、まだ分からないようだ。
「おう、シンディ。姉さんと妹が見舞いに来たぞ」
敷島が研究室に入ると、上半身だけは取りあえず元に戻っているが、下半身はまだ骨組み剥き出しのシンディが迎えた。
「本当に社長、不死身だねー。アンドロイドマスター、だね」
シンディは笑みを浮かべた。
「アンドロイドマスター?面白いこと言うな」
「マルチタイプもメイドロイドもボーカロイドも全部使いこなしてる人間、社長だけだよ」
「そうか?」
「シンディ。お花」
エミリーがやってきて、シンディに花束を渡した。
「あら、キレイ」
「無事で・良かった」
「ええ。レイチェルは気の毒だったけど……」
「仕方が・ない。ドクター達夫を・殺して・しまった。その罪は・許されない」
「あ、あの……」
シンディは何か言い掛けた。
「えっと、ね……」
「いいよ、シンディ。俺から言おう。シンディの情報だと、達夫博士に銃弾を撃ち込んだのは本当だが、頭を撃ち抜いて殺したのはレイチェルじゃないんだ」
「え……?」
エミリーが不思議そうな顔をした。
「誰がやったと思う?」
「誰・ですか?」
「本当に分からないか。ヒントは光線銃を使うロイドって誰だ?」
「アルエット!?」
「バカか。だったらとっくにKR団の側について……あぎゃっ!?」
突然、敷島の体に電流が流れる。
シンディが左手で敷島を掴んで、電流を流したのだ。
シンディは眉を潜めて、
「姉さんに『バカ』って言わないでくれる?」
と、抗議した。
「お、おい、アリス。こいつ、ユーザーの俺に電流流しやがったぞ?どうしてくれる?」
「オーナーのアタシが許す。アンタが悪い」
「マジかよ……。と、とにかく、達夫博士を殺したのはもう1人のレーザービーム使い、キール・ブルーだよ。お前が惚れたオトコな?」
「シンディ!」
エミリーはキッとシンディを睨みつけた。
「本当だって!レイチェルのデータから抜き取ったヤツだから、モノホンだよ!嘘だと思ったら、そのデータ、姉さんにも送信しようか?」
「キールが・人殺しを……」
肩を落とすエミリー。
「鷲田警視でも追ってるらしいんだ。あとの捜査は警察に任せている状態だから、まずは警察隊がキールと見(まみ)えることになるだろう。その時、どうなるかだな」
「お姉ちゃん……」
アルエットが今度はエミリーを抱き寄せる。
(なるべくキールとエミリーは会わせない方がいいわね)
と、アリスは思った。
その後で、
「タカオ。お腹空いたから、早く帰ってディナーにしよう」
「……お前、空気読めよな」
敷島は溜め息をついた。
「平賀先生はホテルに戻ったのか?」
「ええ」
「じゃあ、平賀先生を誘って何か食いに行こう。エミリー達はここにいていい」
「分かりました」
「明日また来るからね」
「はい」
「あー、死ぬかと思った。でも、無事で良かったな」
何事も無かったかのように八王子駅のホームを歩く敷島達。
あの後、救助された敷島は東京都八王子市内の病院に搬送された。
あの大爆発の中、関係者もびっくりの微傷ぶりだったという。
『お前、サイボーグか何かじゃないのか?ちょっと背中の裏蓋開けてみせろ』
と、事情聴取に来た鷲田警視も皮肉るように言ったくらいだ。
無論、敷島はれっきとした人間である。
『芸能事務所の経営よりも、警視庁の機動隊か自衛隊のレンジャーが合ってるんじゃないのかい?もし何だったら、私が紹介するよ?』
と、村中課長も言っていた。で、
『この男にとっては、レンジャーでもヌルい。米軍特殊部隊グリーンベレーのキャンプにでも送ってやりゃいいんだ』
と、ヒドい言われようである。
それでも一応、確保した研究所の資料は警察に引き渡した。
後で敷島の口座に、多額の捜査報償費が振り込まれることだろう。
エミリーは取りあえず、収容された八王子市内の警察署で充電させてもらった。
そうでないと、メモリーが取り出せないからである。
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の3番線の電車は、16時54分発、快速“むさしの”、大宮行きです。この電車は4つドア、8両です〕
「鷲田警視達にはウィリーとKR団関係の証拠品を渡したわけだから、俺達の事は御咎め無しだ」
因みに八王子駅から乗り付けたレンタカーに関しては、達夫の家ごと跡形も無くなっていた。
事故ということで、上手く警察も処理してくれたらしい。
「あとは帰るだけだな」
〔まもなく3番線に、当駅始発、快速“むさしの”、大宮行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この電車は4つドア、8両です。……〕
「エミリー、せっかくだからシンディを見舞ってやるといい。見舞いの品を持ってな」
「シンディと・会えます・か?」
敷島がシンディの名前を出すと、エミリーはパッと顔を明るくした。
「ああ。アリスに電話しておいてやろう」
敷島がケータイを取り出した。
〔「3番線、お下がりください。16時54分発、武蔵野線、湘南新宿ライン回りの快速“むさしの”号、大宮行きの到着です。新宿、東京方面には参りませんのでご注意ください」〕
オレンジ色の帯を巻いた電車が入線してきた。
普段は武蔵野線を走行している電車だ。
元は山手線を走っていた。
「……ああ、よろしく」
敷島が電話が切ると同時に、今時珍しい、何のチャイムも無いドアが開いた。
「アリスのヤツ、OKだってさ。良かったな」
ドア脇の座席に座って、敷島は笑みを浮かべた。
「ありがとう・ございます」
エミリーはペコリと頭を下げた。
夕方のラッシュなので、座席はすぐに埋まる。
エミリーとアルエットは着席せず、敷島の前と横に立った。
武蔵野線の205系電車は、座席の脇に不透明のアクリル製防護板が取り付けられている。
〔「ご案内致します。この電車は16時54分発、武蔵野線経由、快速“むさしの”号、大宮行きです。停車駅は豊田、日野、立川、国立、新小平、新秋津、東所沢、新座、北朝霞、終点大宮の順に止まります。国分寺、三鷹、中野、新宿方面には参りませんので、ご注意ください。……」〕
座って車内放送を聞きながら、
(何だろう?この中韓みたいな感じは……)
と、思った。
(新小平、しん・しょうへい。新秋津、しん・しゅうしん。東所沢、とん・しょたく。新座、シンツァ。北朝霞、ペ・チョンカ……)
おい、何言ってんだ!
きっと、在日・創価系芸能事務所に仕事を取られて気にしているのだろう。
[同日16:54.JR中央線・武蔵野線快速“むさしの”号、大宮行き車内 敷島孝夫、エミリー、アルエット]
電車は帰宅客を満載して八王子駅を発車した。
八高線回りとまた違ったルートを通って、埼玉へ向かう。
〔「お待たせ致しました。今日もJR東日本をご利用頂きまして、ありがとうございます。16時54分発、中央線、武蔵野線経由、快速“むさしの”号、大宮行きです。停車駅は【中略】。終点、大宮到着は17時45分の到着です。【中略】次は豊田、豊田です」〕
「お姉ちゃんの具合はどうですか?」
アルエットが敷島の顔を覗き込むようにして聞いた。
白いブラウスからは、ピンク色のジュニアブラが少し透けて見える。
ジュニアアイドルしてデビューさせられたらと思う敷島は、
「両足の修理が終わるまで、もうしばらく歩けそうに無さそうだ。エミリーは仙台に帰らないといけないから、あとはアルがシンディの介助とかしてやるんだぞ?」
と、答えた。
「はい!」
(下半身の・修理が・終わる・まで、シンディは・動かさない・と・思う)
[同日18:15.埼玉県さいたま市西区 デイライト・コーポレーション・ジャパン埼玉研究所 敷島、アリス、3号機のシンディ、エミリー、アルエット]
大宮駅に定刻に着いた敷島達は、大宮駅構内の花屋で花束を買い求めると、西口からタクシーに乗って研究所に向かった。
さすがに今はバージョン・シリーズが待ち構えているわけも無く、無事に到着した。
「遅かったじゃない」
アリスが少し不機嫌そうな顔をした。
「東京の端っこからここまで来たんだ。大目に見ろよ。それより、シンディは?」
「首長くして待ってるよ」
「首を長くしてますか?」
アルエットは自分の首を持ち上げた。
「いやいや、本当に長くなってないから」
敷島が苦笑いしながら否定すると、
「???」
アルエットには、まだ分からないようだ。
「おう、シンディ。姉さんと妹が見舞いに来たぞ」
敷島が研究室に入ると、上半身だけは取りあえず元に戻っているが、下半身はまだ骨組み剥き出しのシンディが迎えた。
「本当に社長、不死身だねー。アンドロイドマスター、だね」
シンディは笑みを浮かべた。
「アンドロイドマスター?面白いこと言うな」
「マルチタイプもメイドロイドもボーカロイドも全部使いこなしてる人間、社長だけだよ」
「そうか?」
「シンディ。お花」
エミリーがやってきて、シンディに花束を渡した。
「あら、キレイ」
「無事で・良かった」
「ええ。レイチェルは気の毒だったけど……」
「仕方が・ない。ドクター達夫を・殺して・しまった。その罪は・許されない」
「あ、あの……」
シンディは何か言い掛けた。
「えっと、ね……」
「いいよ、シンディ。俺から言おう。シンディの情報だと、達夫博士に銃弾を撃ち込んだのは本当だが、頭を撃ち抜いて殺したのはレイチェルじゃないんだ」
「え……?」
エミリーが不思議そうな顔をした。
「誰がやったと思う?」
「誰・ですか?」
「本当に分からないか。ヒントは光線銃を使うロイドって誰だ?」
「アルエット!?」
「バカか。だったらとっくにKR団の側について……あぎゃっ!?」
突然、敷島の体に電流が流れる。
シンディが左手で敷島を掴んで、電流を流したのだ。
シンディは眉を潜めて、
「姉さんに『バカ』って言わないでくれる?」
と、抗議した。
「お、おい、アリス。こいつ、ユーザーの俺に電流流しやがったぞ?どうしてくれる?」
「オーナーのアタシが許す。アンタが悪い」
「マジかよ……。と、とにかく、達夫博士を殺したのはもう1人のレーザービーム使い、キール・ブルーだよ。お前が惚れたオトコな?」
「シンディ!」
エミリーはキッとシンディを睨みつけた。
「本当だって!レイチェルのデータから抜き取ったヤツだから、モノホンだよ!嘘だと思ったら、そのデータ、姉さんにも送信しようか?」
「キールが・人殺しを……」
肩を落とすエミリー。
「鷲田警視でも追ってるらしいんだ。あとの捜査は警察に任せている状態だから、まずは警察隊がキールと見(まみ)えることになるだろう。その時、どうなるかだな」
「お姉ちゃん……」
アルエットが今度はエミリーを抱き寄せる。
(なるべくキールとエミリーは会わせない方がいいわね)
と、アリスは思った。
その後で、
「タカオ。お腹空いたから、早く帰ってディナーにしよう」
「……お前、空気読めよな」
敷島は溜め息をついた。
「平賀先生はホテルに戻ったのか?」
「ええ」
「じゃあ、平賀先生を誘って何か食いに行こう。エミリー達はここにいていい」
「分かりました」
「明日また来るからね」
「はい」