報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔女達の怨嫉」

2016-04-02 20:50:05 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月16日10:00.天候:晴 長野県山中・マリアの屋敷 稲生勇太&エレーナ・マーロン]

「参ったなぁ……」
 稲生は自室で魔道書を開いていたが、全く手に付かなかった。
 今、マリアはこの屋敷にいない。
 実は今、魔女達の間でマリアに対する怨嫉が巻き起こっており、それの火消しに当たっているのだ。
 稲生も手伝おうとしたが、却って火に油を注ぐだけだということで、留守番していることになった。
 この屋敷、何気に訪問者はいる。
 いつもならイリーナがいる時はイリーナ、マリアがいる時はマリアが直接応対していたのだが、今は稲生が対応に当たることになる。
「また、誰か来るのか……」
 稲生の机の上にはノートPCと、水晶球が置かれている。
 ノートPCは、定額パケットのWi-Fiでネットに繋いでいた。
 水晶球の光り方で、これからの来訪者が分かる。
 パッとそこに映ったのは、ホウキに跨ったエレーナだった。
「エレーナね……」
 稲生は重い腰を上げると部屋を出て、エントランスホールに向かった。

 雰囲気的にはホラーなどに出てくる洋館なのだろう。
 最初は稲生も不気味で仕方が無かったが、今では住めば都になってしまった。
 どこでも人は住めるものであると、稲生はこの時思ったものだ。
 そもそも自分自身が人から恐れられる魔道師の仲間入りを果たしたものだから、それでホラーチックな洋館くらいでビビることも無くなったのだろう。
「お届けものでーっす!」
 エレーナは正面玄関の前に舞い降りた。
「お疲れさま。“魔女の宅急便”まだやってるんだ?ホテルの仕事はいいの?」
「大丈夫。むしろ今は、こっちの仕事の方が売り上げいいから」
「なるほど」
 稲生はポチッと自分のハンコを伝票に押した。
「マリアンナは?……まだ戻ってないか。世界中に散らばってる癖に、魔法で嫌がらせできるんだから、魔女って嫌ーな奴らだよね」
「自分も魔女だよね?……何か状況とか知ってる?」
「一応ね」
「教えてくれ。お茶とお菓子くらい出す!」
「じゃあいいよ」

 屋敷の中に入り、左手のダイニングに入る。
「ダニエラさん、エレーナにお茶とお菓子を出してあげてください」
「……かしこまりました」
 マリアが製作したメイド人形であるが、殆ど人間形態でいることが多い上に、更には稲生専属メイドのようになっているダニエラ。
「日本は気候の差が激しいね」
「四季があるって言ってよ。まあ、この前まで寒かったのに、今日は少し暖かいな」
 稲生はいつも自分が座っている椅子に座った。
 食堂内には、床置き式の大きな時計が時を刻んでいる。
 エレーナは稲生の向かいに座ると、被っていた帽子を取った。
 よく魔女が被っているとされるとんがり帽子ではなく、普通の黒いハットである。
 マリアのようなストレートのショートではなく、同じ金髪でも、ウェーブの掛かったセミロングの髪がテーブルの上のランプの光に反射する。

 ダニエラがクッキーと紅茶を持って来ると、エレーナはそれを口に運んだ。
 マリアとは出身国が隣のウクライナ出身である。
「で、マリアさんの身に何が起きてるんだ?」
「……事の発端は、マリアンナの再登用のパーティにまで遡るね。あ、これは私の個人的な見解だから。直接、“怨嫉者”達に聞いたわけじゃない」
「あのオータニの時?何で?」
「普通に考えれば恋愛感情抜きにしたって、同じ先生の弟子なんだから仲が良いのは当たり前。……なんだけど、そうとは捉えられないのが何人かいるわけね。そいつらは単に男嫌いなだけで、それがダンテ一門にいることが許せないって考えてる奴ら」
「ええっ!?門規にそんなのことは無かったはず……」
「だから表立って言えないのよ。本来、この魔法の世界は男女平等。共産主義みたいにね。それなのにダンテ一門は、他の門流と比べても男女比が偏り過ぎている。そこは他の門流からの批判も多く、大師匠様もなかなか難しい対応をさせられているというわけ」
「なるほど。イリーナ先生が『男手が入ってくれて、非常に助かったわ』なんて仰ってまして、弟子として力仕事でもするのかなと思っていたんですが、案外そうでもなくて、あれって思ってたんだけど……」
「脳筋体育会系の道場に弟子入りしたわけじゃないんだから。少しでも偏った男女比を何とかする為に、本来なら稲生氏は大歓迎されるべきなのよ」
「イリーナ先生やマリアさんは大歓迎してくれましたが……」
「本来は私も『入門おめでとう』くらい言うべきなんだけど、あの時はまだ敵対してたしね」
 エレーナの師匠であるポーリンはイリーナの姉弟子であるが、ツンデレな所があり、イリーナとケンカしたことがある。
 本当はケンカするほど仲が良かっただけだが、エレーナはケンカ相手のイリーナ組を敵と見なし、マリアや稲生に立ちはだかった。
 エレーナも他の魔女に違わぬ悪質な手口でマリアを追い詰め、魔界の新聞や週刊誌にマリアの残虐な過去をアップさせたこともある。
 今では和解しているものの、稲生はそこで魔女の怖さを知ったほどだ。
「僕は連れて行ってくれなかったんだ」
「まあ、そりゃそうだね。男嫌いの奴らに、男のあなたが行ったら、そりゃもう……。要はあのパーティ会場で、あなたとマリアンナが仲良くしているのを見た一部の奴らが、マリアンナやあなたに怨嫉するようになったってわけ」
「だから、どうして?男嫌いなのはしょうがないにしても、それと僕達の何の関係が?」
「マリアンナが人間時代、酷い性暴力を受けていたことは知ってるね?」
「ええ。あの体中の痣が痛々しいです。僕が旅行の際、必ず温泉に連れて行くのは、傷痕にいいからですよ」
「あ、そうなの?じゃ、今度は私も連れてってもらおうかな」
「エレーナも暴行を受けてたクチ?」
「いや、私の場合はむしろ魔女になってからだから」
「?」
「ほら、“魔の者”との戦いの一環で、アメリカン・マフィアと戦った話をしたでしょ?」
「ああ!マシンガンの直撃食らったってヤツ!」
「そう。人間だったら死んでたけどね。その時の傷痕がまだ残ってるのよ」
「ああ、それなら温泉で湯治がいいかもね。……で、また話が逸れたよ」
「おっ、ごめんごめん。私からあいつらに注意してもいいんだけど、私は性暴力を受けてないから、むしろ突っぱねられる恐れがあるんだよね。『マリアンナが1番酷い暴力を受けていたくせに、真っ先に立ち直りやがって!』という嫉妬から始まったっぽいね」
「な、何て心が狭いんだ!」
「あ、それは黙ってた方がいいよ。その言葉、最後まで言い切る前に、即死の魔法使われるかもしれないから」
「ええっ!?それ、ザキですか?」
「ヅァ・クィね。ピンポイントで1人だけを確実に殺す魔法で、その魔法を受けた者は全身の血液が一気に凝固して死ぬんだってさ」
「怖っ!その魔法使える魔女が?」
「いる。私は薬師だから、呪文の詠唱をして放つ魔法を使うタイプじゃないけどさ、知識としてはあるから」
「怨嫉者達の中にも?」
「いるいる。中には魔女になっても、わざと乱暴されそうになって、そこでその魔法を使うヤツもいる」
「あ、あのパーティーの中にそんな怖い人達がいたなんて……」
 稲生が見た限り、マリアと談笑していたのだが……。
 確かに普通の人間ではないから、目に光が無かったり、目が死んでいたりしていたが、そういうものだろうと思っていた。
「確かに僕が近づこうとすると、睨まれましたね」
「マリアンナが声を掛けたり、私が声を掛けたりしていたのはその為だよ。つまり、あなたに話し掛けて来た魔女達は、別に人間時代、女の尊厳を奪われるようなことが無かったコ達だけだったってことね」
「そうだったのか……。僕、そこまで読めなかった……」
「てか、マリアンナかイリーナ先生が事前に説明するべきだったと思うんだけど……。あれ?イリーナ先生は?」
「今、ベルギーに行ってますよ。ヨーロッパでも、イスラムのテロとかが発生してますからね、その警戒の為だそうです」
「ふーん……?何か予知でもされたかな?」
「多分」
「マリア自身が、けして門内の仲間を裏切ったり、出し抜いたりするつもりは無いと弁解して回ってるみたいだけど、女のケンカは怖いからね」
「ええ。実際見てました」
 あっけらかんと笑うエレーナだったが、稲生が見たのは、正にマリアとエレーナのケンカである。
 師匠同士がケンカすると、それが弟子にまで波及するという悪い例であった。
「僕が手伝えないのがもどかしいなぁ……」
「私だって何とかしてあげたいけど、“狼”に食われた“羊”達の内部事情だからね。そうでない私達が首をツッコむと、余計に禍根になる。ここは、マリアンナの帰りを待つしかないね」
「はあ……」
「まっ、また何か情報があったら教えてあげるよ」
「すいませんねー」
「まあ、本当は有料なんだけど、私にも負い目があるからなぁ……」

 エレーナは玄関から外に出ると、ホウキに跨った。
 そして、
「稲生氏みたいな魔道師がいるってことは、大きなプラスだと思うよ。あいつらも、早くそこに気づいてくれればいいのにね」
 と言って、飛び立った。
「でも、やっぱりもどかしいなぁ……」
 稲生はそう呟きながら、屋敷内に戻ったのだった。
コメント (4)
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