報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「ケンショーの逆襲」

2016-04-19 21:11:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月27日17:57.天候:晴 JR大宮駅 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 稲生達を乗せた高崎線電車が、さいたま新都心駅を発車した。
 この駅は埼玉スーパーアリーナの最寄り駅で、顕正会を始めとして、エホバの証人などの新宗教団体が大会を開くこともある。
 その駅を出れば、大宮はもうすぐそこである。

〔まもなく大宮、大宮、お出口は左側です。新幹線、宇都宮線、埼京線、川越線、東武野田線とニューシャトルはお乗り換えです〕

 宇都宮線だと大宮駅9番線に入る関係で、ポイントを渡る際の減速と大きな揺れがある。
 それに対し、高崎線はそのまま真っ直ぐ入線する。
 これは8番線が本線で、9番線が副線だからなのだが、何故このような扱いになるのかというと、鉄道の歴史が大きく関係している。
 今でこそ大宮から南は宇都宮線(東北本線)だが、実は上野から北は高崎線の方が開通が早い。
 大宮駅に乗り入れたのも、高崎線が1番最初だった。
 その為、後から開通した宇都宮線は副線扱いとなり、大宮駅の前後でポイントを渡らされるという扱いを受けている。
 地下鉄も最初に開通した路線は比較的浅い所を走っているように、鉄道の世界では最初に開通した鉄道会社や路線がモノを言える世界なのである。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく大宮、大宮です。お客様に、お知らせ致します。川越線は指扇駅で発生しました車両点検により、15分ほどの遅れが発生しているとの情報が入っております。ご利用のお客様は、駅の案内にご注意ください」〕

「あの単線区間で15分も遅れたら大変だなぁ……」
 稲生は苦笑いしていた。
「そうなのか?」
「マリアさんは乗ったことが無いから分からないと思いますけどね。ま、別に僕達が乗るわけではないので……」
「いや、そうじゃなくて……」
 電車が大宮駅に到着する。
 埼玉でも1番大きなターミナル駅なので、ここで下車する乗客は多い。

〔「尚、川越線は指扇駅で発生しました車両点検により、遅れが発生しております。ご利用のお客様には大変申し訳ございませんが……」〕

 他の乗客が何やら電話している。
「あー、もしもし。俺だけど、何か川越線が15分遅れてるみたいだから、ちょっと遅れそうだわ」
 駅の放送や他の乗客の会話、稲生の反応を見たマリアは……。
(15分の遅れって……そんなに大騒ぎするほどのものなのか???)
 と、思った。
(師匠と昔乗った“ユーロスター”なんか、15分くらい遅れたくせに『ON TIME.』扱いになってたぞ?)
「川越線15分の遅れ。マジキチだし!」
「埼京線も影響受けて、5分以上遅れてるしー」
(5分遅れで!?)
「マリアさん、どうしました?」
 日本人乗客達の反応にマリアは、
「Why Japanese People!?」
 と、厚切りジェイソンの叫びを上げた。

 尚、英仏海峡トンネルを通る“ユーロスター”もそうだが、アメリカの全米旅客鉄道公社(通称、アムトラック)もまた15分前後のダイヤのズレ程度では『ON TIME.』なのだそうである。

[同日18:02.天候:晴 JR大宮駅東口→タクシー車内 稲生&マリア]

 改札口を出て駅東口のタクシー乗り場に移動する2人。
「いや、ゴメン。何か、取り乱して……」
「まあ、日本人は『電車は時間通りに走って当たり前』と思っているので……。僕達からしてみれば、ニューヨークの地下鉄の各駅停車が、回復運転の為にいきなり急行電車になることに『Why American People!?』と叫びたくなると思います」
「いや、多分それは私も叫ぶと思う」
 もちろん運転士が勝手に各駅停車を急行にするのではなく、一応ちゃんと指令センターからの指示で行うのだが……。
 イギリス人からしてみても、理解しがたい運行管理なのだそうだ。
「もっと正確に、『Why New Yorkers!?』と叫んであげよう」
「あ、なるほど」
 そんな話をしながら、2人は駅前からタクシーに乗り込んだ。
 大宮駅の東西タクシー乗り場にいるタクシーの9割は黒塗りである。
 稲生達が乗ったタクシーは、大宮でも希少価値となった白い帽子を被っている運転手が乗っていた。
「すいません、寿能町のレストラン◯◯までお願いします」
「はい」
 タクシーは駅前を出発した。
「ここから遠いのか?」
「いや、だいたい10分くらいで着けると思います」
 マリアの質問に稲生が答えた。
「行ったことがあるの?」
「ええ。父さんの知っている人がやっているお店で、たまにそこで外食するんですよ」
「ふーん……」
「顕正会本部が近くにあるので、僕が顕正会活動をしている時は一切連れて行ってくれませんでした」
「そうなのか」
「日蓮正宗の信仰をしている時でも、あんまり連れて行ってくれなかったなぁ……」
「それが今や……」
「一応、今は認めてくれたのかな」
「それだといいな」
「ええ……」

 タクシーはしばらく東の方向に走り、産業道路を左折した。
 名前は産業道路だが、片側1車線の県道である。
 進路を北に変えて、またしばらく進む。
「えーと……レストランは……。あー、確かあの辺だったかな。すいません、運転手さん、次の信号を右に曲がってください」
「…………」
 しかし、白い帽子を深く被り、眼鏡を掛けた運転手からは何の反応も無い。
「あ、あの、すいません。次の信号を……あっ!?」
 タクシーは稲生が指定した交差点を通過してしまった!
 交差点の先には、確かに目的地のレストランがあった。
 あそこで両親が先に待っているはずだ。
「ちょっと!行き過ぎましたよ!?早く戻って……」
「……行き先変更。行き先は地獄の1丁目でいいかぁ?あぁっ!?」
 運転手は深く被っていた白い帽子を浅く被り直した。
「わあっ!?お、お前はぁーっ!?」
「ケンショーブルー!?」
「テメーら!よくも先日は崇高で大感動の総幹部会を台無しにしてくれたな!あぁっ!?おかげでイエロー先生は、ぎっくり腰で日曜勤行に出られなくなっちまったんだぜっ、ああっ!?」
「やっぱりそうだったのか!」
「これからテメーらにはケンショー本部に行ってもらって、たっぷり落とし前つけてもらうからよー!覚悟しときなっ、ああっ!?」
「落とし前だって!?」
「ケンショー本部には、男子部がテメーらの歓迎の準備をして待ってるぜ、ああっ!?取りあえず、ユタには全治3ヶ月の罰を大聖人様に代わってお仕置きだぜっ、ああっ!?」
「な、何だってー!?」
「で、マリアには俺達の慰み者になってもらうぜ、ああっ!?たっぷりチ◯ポしゃぶらせた後、輪姦(マワ)しまくって妊娠させてやっからよー!じゃ、頼んます!」
「ふざけるな、キサマ!」
「マリアさんには絶対に触れさせない!」
 魔道師達、激しく抵抗する。
 が、ブルー、アクセルをガシガシ踏みまくり、蛇行運転のオンパレード。
「わあっ!?」
「ぎゃっ!」
 更には急ブレーキに急発進まで。
 リアシートで振り回される稲生達。
 当然、周囲の車からはクラクションの雨あられだが、ブルーは全く気にせず、再び対向車線に出る。
「わあっ!ぶつかるーっ!?」
 だが、ぶつかる直前にブルー、また元の車線に戻った。
 タクシーとぶつかりそうになった対向車は驚いて急ハンドルを切ったため、それはガードレールに激しく衝突した。
「ウヒョヒョヒョヒョヒョ!俺の運転テクとSEXテクは最高だぜぃ、ああっ!?」
 マリアは車酔いを起こして、抵抗できなくなった。
「マリアさん!?しっかりして!」
「き……気持ち悪い……」
「ウヒョヒョヒョヒョ!ユタよぉ!堕落した宗門なんかよりケンショーの方が正しいって分かったか、ああっ!?」
「何だと?」
「もし今ここでオメーがケンショーに戻るってんなら、落とし前はチャラにしといてやるぜ、ああっ!?そこのマリアも俺様の紹介で入信するってんなら、もう文句は無しだぜ、ああっ!?俺様の大慈大悲で、センセーには言っといてやるぜ、ああっ!?」
「ざっけんな!!」
 稲生、後ろからブルーを羽交い絞めにする。
「何しやがる、てめっ!?ああっ!?放しやがれ!!」
 羽交い絞めにされていても、手や足は動くはずなのだが、稲生の手から青白い光が出ていた。
「何てこった!ハンドルもブレーキも効かねぇ!おい!何しやがる、放せ!!」
 その時、マリアはついに嘔吐した。
 タクシーはまるで自動運転装置つきのように、ある場所へ直行した。

 その場所とは……。

[同日18:15.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区・盆栽町 ケンショーイエロー、ケンショーレッド、ケンショーブルー、稲生、マリア]

 大宮の高級住宅街にある豪邸。
「いつつつつ……。全く。とんだ災難じゃわい」
「ぇ父さん、ぇ寄る年波もあるってことだよね?」
「やかましい、レッド!先生と呼ばんかい!」
「ぇでも、ここは自分の家だしぃ……」
「文句言ったら、オマエもセピアと同じく地下室住まいじゃぞ!?」
「ぇええっ!?ぇそ、それだけはっ……!」
「分かったら、早いとこあの小僧共を捕まえるんじゃ!大事な総幹部会を台無しにしおって!」
「ぇそれならイエロー先生、ぇブルーが、ぇタクシーで捕まえたって、ぇ報告があったよ?」
「おおっ!さすがはブルーじゃ!久方ぶりに幹部に据えたかいがあったというものぢゃ!」
「ぇケンショー本部に、ぇまもなく到着するらしいってさ」
「着いたら、あの小僧共は本部の地下牢に監禁しておくのぢゃ。ワシ自ら、大聖人様に代わって罰を下してやろうぞ!」
「はい」
 すると、外から何かバキバキという音がした。
「ん?レッド、今何か音がしなかったか?」
「ぇ何か、ぇ壊れる音ですね」
「早いとこ調べろ!」
「はい」
 レッドが立ち上がって中庭に出るのと、生垣からタクシーが突っ込んでくるのは同時だった。
「わあーっ!?」
 タクシーは真っ直ぐ、イエローが療養している部屋に突っ込んでくる。
 レッドはイエローを見捨てて逃げた。
「こりゃっ!レッド!どこへ行く!?わ、ワシも連れて……わあああああっ!!」

 ガッシャーンと大きな音がした。
 タクシーは家のガラス戸を突き破り、イエローを轢き【以下略】。
 更に隣の部屋の壁に突っ込んで、やっと止まった。
 尚、隣の部屋に避難していたレッドも崩れた壁の下敷きになったという。
「り、料金は……現金のみたぜ……ああっ?じゃ、頼んます……」
「誰が払うか、ボケッ!!」
 稲生、完全にブチギレていた。

 この大騒ぎで、残念ながら食事会は中止になってしまったという。
 稲生にはケガが一切無かったのだが、マリアの体調が悪化してしまったのもあった。
コメント (7)
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