[3月18日15:00.天候:曇 アルカディアシティ郊外 稲生勇太]
{「稲生勇太。“悪運”を魔法にする男。あなたの“悪運”の数々、とても良く知ってるわ。私は、クリスティーナ。マリアンナからは聞いてない?……まあ、いいわ。あなたが魔界に来たことは知っている。今から1人で、こちらまで来て。場所は【以下略】。早いお越しをオススメするわ。マリアンナを助けたかったらね」}
稲生がクリスティーナから上記の電話を受けたのは、魔界共和党内。
それから稲生はアルカディア・メトロ中央線(センターライン、C系統)に乗り込んで、最寄りの駅までやってきた。
そこから駅前に止まっていた辻馬車(馬車タクシー。アルカディアシティには自動車が無い為)に乗り込んで、クリスティーナの指定する場所へ向かった。
その途中で、また電話が入る。
{「コロス。稲生勇太。1時間以内ニ、オマエ来ナイ。マリアンナ、死ヌ。オマエが来ナイナラ、マリアンナを殺ス。選ベ。卑怯者」}
クリスティーナの声だったが、魔法を使っていないらしく、片言の日本語が聞こえて来た。
「お客さん、申し訳無いけど、この先は道が悪くて進めないんだよ」
御者が話し掛けて来た。
「ああ、いいですよ。ここで」
「ここから先は、ならず者モンスターとエンカウントするから気をつけて」
「分かりました」
稲生は普段は着ない魔道師のローブを着込み、魔法の杖を持った。
杖といっても、魔法少女がよく持つような長さである(魔法少女のようにかわいい装飾がしてあるわけではない)。
伸縮性のあるもので、短く縮ませればポケットに入る長さである。
最長伸ばしても、警察官の警棒と同じくらいの長さといったところか。
「……よし。行こう」
[同日同時刻 天候:晴 東京都区内某所・(株)藤谷組本社 藤谷春人]
「稲生君が魔界に行った?忙しいコだな。せっかく、邪教徒達を捕まえる準備をしてたってのによー」
藤谷は自分の役員室で電話していた。
「ああ。今、ニュースで見てる。おかげさまで、首都高が通行止めで大変だぜ。全く。公園のゴミ拾いしてる暇があったら、お前達を掃除した方がいいんじゃねーかってな。あはははははは!」
よく新興宗教団体は奉仕活動と称して、公園のゴミ拾いをしているという話を聞いた藤谷はイヤミを言った。
「俺もマリアンナさんを知ってるからだいたい知っているが、魔女さん達は人間時代に精神がボロボロにされた経験があるからよ、その影響で魔女になっても変なメンタルになってたりするんだ。気をつけた方がいい。……ああ、そうだ。稲生君が魔界から戻ってきたら、俺達の方でもフォローするよ。……ああ。それじゃ」
藤谷は自分のスマホを切った。
「さて、どうなることやら……。てか、イリーナ先生はどこ行ったんだ?」
[同日15:30.天候:曇 アルカディアシティ郊外山中 クリスティーナ、ジルコニア、ウェンディ、マリアンナ]
「あと、30分か。長いな。もうここで時間切れにしておけば良かったよ」
「クリス!こっちは準備OKだよ!」
「ご苦労様」
クリスティーナはうつ伏せで倒れているマリアの髪を掴んで、引き上げた。
「起きろ。ほら、外を見てみな」
クリスティーナから殴る蹴るの暴行を受けたマリアは、顔にも痣ができていた。
「……?」
小屋の外は平場になっていて、そこに干し草が積み上がっていた。
その上には、まるで絞首台のようなものがあった。
「あそこにアンタを縛り付けて、あとはそこに火を放つだけさ。どうだ?キリスト教会じゃなく、同じ魔女に火あぶりにされる気分は?あぁ?」
「……お前らと同じ?笑い話か。私はもうお前らとは違う。人間時代の“呪い”に縛られたままのお前らとはな!」
「まだ言うか、コイツ!」
「ん?……ちょっと、クリス」
「なに、ジル!?」
「今、空を誰か飛んでたような気がするんだけど……?」
「あぁ!?……誰もいないじゃんよ!?」
「あ、あれ……?ウェンディも見たよね?」
「私は何も」
「ジル、余計なこと言ってんじゃねーよ!もうすぐ、男狂いのマリアンナと女たらしの稲生を火あぶりにできるんだからな!!」
上空を飛んでいたのはエレーナ。
「稲生氏は……あの辺か。ヤバいな。モンスターのエンカウント率が高い。時間切れになったら……しょうがない。私が行くか」
ダンテ一門の魔女達が全員、マリアの敵になったわけでも、クリスティーナ達の味方になったわけでもない。
エレーナのように、特段人間時代に性暴力を受けたことの無い魔女にとっては、勝手に騒動を引き起こした性暴力被害者達の方がむしろ迷惑だと思っていた。
「クロ。あなたもこれをばら撒いて」
エレーナはホウキの先端に乗っている、使い魔の黒猫に言った。
「マジでやるんニャ?」
「当たり前でしょお?」
エレーナは被っている帽子を取ると、その中から手榴弾を何発か取り出した。
「クリスティーナ達が動き出したら、こっちで勝手に空爆するから」
すると、エンカウント率がいきなり下がったのか、稲生のペースが早くなった。
「稲生氏が時間内に到着か」
「どうするんニャ?」
「いざとなったら、マリアンナか稲生氏のどちらかを連れて離脱するってのも手か?……いや、それはちょっと中途半端だな。どうしようか……」
稲生が小屋を訪れる。
「マリアさんを返してもらう」
「そう?じゃ、私達と戦って分捕りなさい」
クリスティーナは腕組みをして、ニヤリと笑った。
「マリアさんはどこだ?」
「安心して」
クリスティーナは顎を小屋の外にクイッとやった。
「!」
稲生がその方に顔を向けると、干し草の山の上に設置された木製の台の上にマリアンナが縛り付けられていた。
「分かる?これからあいつを処刑するの。火あぶりの刑よ」
「お前達はクリスチャンか?」
「むしろその逆。もしマリアンナを助けたかったら、あなたがあそこに行きなさい」
「えっ?」
「元はと言えば、あなたが入門するからこんなことになったのよ?その責任を取ってもらう。マリアンナのことは……もういいでしょう。あなたが代わりに火あぶりにされなさい。そしたら、マリアンナは助けてあげる」
「どうしてこんなことを?どうして僕のせい?僕がマリアさんのことを好きになってしまったから?」
「あなたがマリアンナのことが目的で入門してきたことは知ってる。でも、それはハッキリ言ってそれは修行の妨げになる。いくらダンテ一門の掟には反していなくても、私達にとっては迷惑極まりないことよ」
「僕が入門したところで、マリアさんの魔力は落ちていない。むしろ、その逆だ。確かに1人前になったばかりということもあってか、まだ他の1人前の人達より弱い面もあるけれど、もうマリアさんは自分1人で戦えるようになった。それまでは人形に戦わせていたのに……。僕のおかげだと言ってくれた。僕のせいでマリアさんが弱くなったのなら、しょうがない。その責任は取るよ。だけど……」
「黙れ!!」
「!?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!お前のせいだ!全部お前のせいだ!!私の苦しみを味わえ!!」
クリティーナの脳裏に、人間時代の記憶が蘇った。
いわゆる、デートレイプを受けた時のものである。
「何が好きになっただ!ヤりたいだけなんだろ、本当は!?」
「な、何を言って……!」
「やっぱマリアンナから先に殺す!火を放って!!」
クリスティーナは外にいるジルコニアとウェンディに言った。
だが、その直後に2人は倒れた。
「なに!?」
エレーナは上空で、粉薬を撒いていた。
「爆弾作戦は延期。別の薬をばら撒くよー」
エレーナは自分が吸い込まないようにマスクをしている。
粉薬は吸い込んだだけで、意識を失わせる睡眠薬であった。
エレーナの師匠は魔法の薬を製造する薬師。
当然その弟子である彼女自身もまた魔法の薬を作ることに長けていた。
「ついでにマリアンナも眠ってしまったニャ」
「稲生氏の活躍ぶりを見て、更に惚れ込んで欲しかったけどねー。ま、稲生氏が助けに来たことは分かったみたいだから大丈夫でしょ」
「エレーナの大バカ野郎!裏切りやがったな!?」
クリスティーナは空を見上げて、エレーナが何かしたのだと分かった。
「もうこんなことはやめるんだ。キミ達を妬ませたことは謝る。だけど、もちろんキミ達に見せつける為ではないことは理解して欲しい。僕はただ本当にマリアさんのことが好きなんだ」
「うるさい!何で!?何であの根暗で無愛想のマリアンナが先に幸せになっちゃうの!?どうして私は幸せになれないの!?」
錯乱するクリスティーナ。
それでも戦いは一応、回避できたか?
だが、そうは問屋が卸さなかった。
{「稲生勇太。“悪運”を魔法にする男。あなたの“悪運”の数々、とても良く知ってるわ。私は、クリスティーナ。マリアンナからは聞いてない?……まあ、いいわ。あなたが魔界に来たことは知っている。今から1人で、こちらまで来て。場所は【以下略】。早いお越しをオススメするわ。マリアンナを助けたかったらね」}
稲生がクリスティーナから上記の電話を受けたのは、魔界共和党内。
それから稲生はアルカディア・メトロ中央線(センターライン、C系統)に乗り込んで、最寄りの駅までやってきた。
そこから駅前に止まっていた辻馬車(馬車タクシー。アルカディアシティには自動車が無い為)に乗り込んで、クリスティーナの指定する場所へ向かった。
その途中で、また電話が入る。
{「コロス。稲生勇太。1時間以内ニ、オマエ来ナイ。マリアンナ、死ヌ。オマエが来ナイナラ、マリアンナを殺ス。選ベ。卑怯者」}
クリスティーナの声だったが、魔法を使っていないらしく、片言の日本語が聞こえて来た。
「お客さん、申し訳無いけど、この先は道が悪くて進めないんだよ」
御者が話し掛けて来た。
「ああ、いいですよ。ここで」
「ここから先は、ならず者モンスターとエンカウントするから気をつけて」
「分かりました」
稲生は普段は着ない魔道師のローブを着込み、魔法の杖を持った。
杖といっても、魔法少女がよく持つような長さである(魔法少女のようにかわいい装飾がしてあるわけではない)。
伸縮性のあるもので、短く縮ませればポケットに入る長さである。
最長伸ばしても、警察官の警棒と同じくらいの長さといったところか。
「……よし。行こう」
[同日同時刻 天候:晴 東京都区内某所・(株)藤谷組本社 藤谷春人]
「稲生君が魔界に行った?忙しいコだな。せっかく、邪教徒達を捕まえる準備をしてたってのによー」
藤谷は自分の役員室で電話していた。
「ああ。今、ニュースで見てる。おかげさまで、首都高が通行止めで大変だぜ。全く。公園のゴミ拾いしてる暇があったら、お前達を掃除した方がいいんじゃねーかってな。あはははははは!」
よく新興宗教団体は奉仕活動と称して、公園のゴミ拾いをしているという話を聞いた藤谷はイヤミを言った。
「俺もマリアンナさんを知ってるからだいたい知っているが、魔女さん達は人間時代に精神がボロボロにされた経験があるからよ、その影響で魔女になっても変なメンタルになってたりするんだ。気をつけた方がいい。……ああ、そうだ。稲生君が魔界から戻ってきたら、俺達の方でもフォローするよ。……ああ。それじゃ」
藤谷は自分のスマホを切った。
「さて、どうなることやら……。てか、イリーナ先生はどこ行ったんだ?」
[同日15:30.天候:曇 アルカディアシティ郊外山中 クリスティーナ、ジルコニア、ウェンディ、マリアンナ]
「あと、30分か。長いな。もうここで時間切れにしておけば良かったよ」
「クリス!こっちは準備OKだよ!」
「ご苦労様」
クリスティーナはうつ伏せで倒れているマリアの髪を掴んで、引き上げた。
「起きろ。ほら、外を見てみな」
クリスティーナから殴る蹴るの暴行を受けたマリアは、顔にも痣ができていた。
「……?」
小屋の外は平場になっていて、そこに干し草が積み上がっていた。
その上には、まるで絞首台のようなものがあった。
「あそこにアンタを縛り付けて、あとはそこに火を放つだけさ。どうだ?キリスト教会じゃなく、同じ魔女に火あぶりにされる気分は?あぁ?」
「……お前らと同じ?笑い話か。私はもうお前らとは違う。人間時代の“呪い”に縛られたままのお前らとはな!」
「まだ言うか、コイツ!」
「ん?……ちょっと、クリス」
「なに、ジル!?」
「今、空を誰か飛んでたような気がするんだけど……?」
「あぁ!?……誰もいないじゃんよ!?」
「あ、あれ……?ウェンディも見たよね?」
「私は何も」
「ジル、余計なこと言ってんじゃねーよ!もうすぐ、男狂いのマリアンナと女たらしの稲生を火あぶりにできるんだからな!!」
上空を飛んでいたのはエレーナ。
「稲生氏は……あの辺か。ヤバいな。モンスターのエンカウント率が高い。時間切れになったら……しょうがない。私が行くか」
ダンテ一門の魔女達が全員、マリアの敵になったわけでも、クリスティーナ達の味方になったわけでもない。
エレーナのように、特段人間時代に性暴力を受けたことの無い魔女にとっては、勝手に騒動を引き起こした性暴力被害者達の方がむしろ迷惑だと思っていた。
「クロ。あなたもこれをばら撒いて」
エレーナはホウキの先端に乗っている、使い魔の黒猫に言った。
「マジでやるんニャ?」
「当たり前でしょお?」
エレーナは被っている帽子を取ると、その中から手榴弾を何発か取り出した。
「クリスティーナ達が動き出したら、こっちで勝手に空爆するから」
すると、エンカウント率がいきなり下がったのか、稲生のペースが早くなった。
「稲生氏が時間内に到着か」
「どうするんニャ?」
「いざとなったら、マリアンナか稲生氏のどちらかを連れて離脱するってのも手か?……いや、それはちょっと中途半端だな。どうしようか……」
稲生が小屋を訪れる。
「マリアさんを返してもらう」
「そう?じゃ、私達と戦って分捕りなさい」
クリスティーナは腕組みをして、ニヤリと笑った。
「マリアさんはどこだ?」
「安心して」
クリスティーナは顎を小屋の外にクイッとやった。
「!」
稲生がその方に顔を向けると、干し草の山の上に設置された木製の台の上にマリアンナが縛り付けられていた。
「分かる?これからあいつを処刑するの。火あぶりの刑よ」
「お前達はクリスチャンか?」
「むしろその逆。もしマリアンナを助けたかったら、あなたがあそこに行きなさい」
「えっ?」
「元はと言えば、あなたが入門するからこんなことになったのよ?その責任を取ってもらう。マリアンナのことは……もういいでしょう。あなたが代わりに火あぶりにされなさい。そしたら、マリアンナは助けてあげる」
「どうしてこんなことを?どうして僕のせい?僕がマリアさんのことを好きになってしまったから?」
「あなたがマリアンナのことが目的で入門してきたことは知ってる。でも、それはハッキリ言ってそれは修行の妨げになる。いくらダンテ一門の掟には反していなくても、私達にとっては迷惑極まりないことよ」
「僕が入門したところで、マリアさんの魔力は落ちていない。むしろ、その逆だ。確かに1人前になったばかりということもあってか、まだ他の1人前の人達より弱い面もあるけれど、もうマリアさんは自分1人で戦えるようになった。それまでは人形に戦わせていたのに……。僕のおかげだと言ってくれた。僕のせいでマリアさんが弱くなったのなら、しょうがない。その責任は取るよ。だけど……」
「黙れ!!」
「!?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!お前のせいだ!全部お前のせいだ!!私の苦しみを味わえ!!」
クリティーナの脳裏に、人間時代の記憶が蘇った。
いわゆる、デートレイプを受けた時のものである。
「何が好きになっただ!ヤりたいだけなんだろ、本当は!?」
「な、何を言って……!」
「やっぱマリアンナから先に殺す!火を放って!!」
クリスティーナは外にいるジルコニアとウェンディに言った。
だが、その直後に2人は倒れた。
「なに!?」
エレーナは上空で、粉薬を撒いていた。
「爆弾作戦は延期。別の薬をばら撒くよー」
エレーナは自分が吸い込まないようにマスクをしている。
粉薬は吸い込んだだけで、意識を失わせる睡眠薬であった。
エレーナの師匠は魔法の薬を製造する薬師。
当然その弟子である彼女自身もまた魔法の薬を作ることに長けていた。
「ついでにマリアンナも眠ってしまったニャ」
「稲生氏の活躍ぶりを見て、更に惚れ込んで欲しかったけどねー。ま、稲生氏が助けに来たことは分かったみたいだから大丈夫でしょ」
「エレーナの大バカ野郎!裏切りやがったな!?」
クリスティーナは空を見上げて、エレーナが何かしたのだと分かった。
「もうこんなことはやめるんだ。キミ達を妬ませたことは謝る。だけど、もちろんキミ達に見せつける為ではないことは理解して欲しい。僕はただ本当にマリアさんのことが好きなんだ」
「うるさい!何で!?何であの根暗で無愛想のマリアンナが先に幸せになっちゃうの!?どうして私は幸せになれないの!?」
錯乱するクリスティーナ。
それでも戦いは一応、回避できたか?
だが、そうは問屋が卸さなかった。