報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「魔女達との戦い」

2016-04-11 22:01:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日15:00.天候:曇 アルカディアシティ郊外 稲生勇太]

{「稲生勇太。“悪運”を魔法にする男。あなたの“悪運”の数々、とても良く知ってるわ。私は、クリスティーナ。マリアンナからは聞いてない?……まあ、いいわ。あなたが魔界に来たことは知っている。今から1人で、こちらまで来て。場所は【以下略】。早いお越しをオススメするわ。マリアンナを助けたかったらね」}

 稲生がクリスティーナから上記の電話を受けたのは、魔界共和党内。
 それから稲生はアルカディア・メトロ中央線(センターライン、C系統)に乗り込んで、最寄りの駅までやってきた。
 そこから駅前に止まっていた辻馬車(馬車タクシー。アルカディアシティには自動車が無い為)に乗り込んで、クリスティーナの指定する場所へ向かった。
 その途中で、また電話が入る。

{「コロス。稲生勇太。1時間以内ニ、オマエ来ナイ。マリアンナ、死ヌ。オマエが来ナイナラ、マリアンナを殺ス。選ベ。卑怯者」}

 クリスティーナの声だったが、魔法を使っていないらしく、片言の日本語が聞こえて来た。
「お客さん、申し訳無いけど、この先は道が悪くて進めないんだよ」
 御者が話し掛けて来た。
「ああ、いいですよ。ここで」
「ここから先は、ならず者モンスターとエンカウントするから気をつけて」
「分かりました」
 稲生は普段は着ない魔道師のローブを着込み、魔法の杖を持った。
 杖といっても、魔法少女がよく持つような長さである(魔法少女のようにかわいい装飾がしてあるわけではない)。
 伸縮性のあるもので、短く縮ませればポケットに入る長さである。
 最長伸ばしても、警察官の警棒と同じくらいの長さといったところか。
「……よし。行こう」

[同日同時刻 天候:晴 東京都区内某所・(株)藤谷組本社 藤谷春人]

「稲生君が魔界に行った?忙しいコだな。せっかく、邪教徒達を捕まえる準備をしてたってのによー」
 藤谷は自分の役員室で電話していた。
「ああ。今、ニュースで見てる。おかげさまで、首都高が通行止めで大変だぜ。全く。公園のゴミ拾いしてる暇があったら、お前達を掃除した方がいいんじゃねーかってな。あはははははは!」
 よく新興宗教団体は奉仕活動と称して、公園のゴミ拾いをしているという話を聞いた藤谷はイヤミを言った。
「俺もマリアンナさんを知ってるからだいたい知っているが、魔女さん達は人間時代に精神がボロボロにされた経験があるからよ、その影響で魔女になっても変なメンタルになってたりするんだ。気をつけた方がいい。……ああ、そうだ。稲生君が魔界から戻ってきたら、俺達の方でもフォローするよ。……ああ。それじゃ」
 藤谷は自分のスマホを切った。
「さて、どうなることやら……。てか、イリーナ先生はどこ行ったんだ?」

[同日15:30.天候:曇 アルカディアシティ郊外山中 クリスティーナ、ジルコニア、ウェンディ、マリアンナ]

「あと、30分か。長いな。もうここで時間切れにしておけば良かったよ」
「クリス!こっちは準備OKだよ!」
「ご苦労様」
 クリスティーナはうつ伏せで倒れているマリアの髪を掴んで、引き上げた。
「起きろ。ほら、外を見てみな」
 クリスティーナから殴る蹴るの暴行を受けたマリアは、顔にも痣ができていた。
「……?」
 小屋の外は平場になっていて、そこに干し草が積み上がっていた。
 その上には、まるで絞首台のようなものがあった。
「あそこにアンタを縛り付けて、あとはそこに火を放つだけさ。どうだ?キリスト教会じゃなく、同じ魔女に火あぶりにされる気分は?あぁ?」
「……お前らと同じ?笑い話か。私はもうお前らとは違う。人間時代の“呪い”に縛られたままのお前らとはな!」
「まだ言うか、コイツ!」
「ん?……ちょっと、クリス」
「なに、ジル!?」
「今、空を誰か飛んでたような気がするんだけど……?」
「あぁ!?……誰もいないじゃんよ!?」
「あ、あれ……?ウェンディも見たよね?」
「私は何も」
「ジル、余計なこと言ってんじゃねーよ!もうすぐ、男狂いのマリアンナと女たらしの稲生を火あぶりにできるんだからな!!」

 上空を飛んでいたのはエレーナ。
「稲生氏は……あの辺か。ヤバいな。モンスターのエンカウント率が高い。時間切れになったら……しょうがない。私が行くか」
 ダンテ一門の魔女達が全員、マリアの敵になったわけでも、クリスティーナ達の味方になったわけでもない。
 エレーナのように、特段人間時代に性暴力を受けたことの無い魔女にとっては、勝手に騒動を引き起こした性暴力被害者達の方がむしろ迷惑だと思っていた。
「クロ。あなたもこれをばら撒いて」
 エレーナはホウキの先端に乗っている、使い魔の黒猫に言った。
「マジでやるんニャ?」
「当たり前でしょお?」
 エレーナは被っている帽子を取ると、その中から手榴弾を何発か取り出した。
「クリスティーナ達が動き出したら、こっちで勝手に空爆するから」
 すると、エンカウント率がいきなり下がったのか、稲生のペースが早くなった。
「稲生氏が時間内に到着か」
「どうするんニャ?」
「いざとなったら、マリアンナか稲生氏のどちらかを連れて離脱するってのも手か?……いや、それはちょっと中途半端だな。どうしようか……」

 稲生が小屋を訪れる。
「マリアさんを返してもらう」
「そう?じゃ、私達と戦って分捕りなさい」
 クリスティーナは腕組みをして、ニヤリと笑った。
「マリアさんはどこだ?」
「安心して」
 クリスティーナは顎を小屋の外にクイッとやった。
「!」
 稲生がその方に顔を向けると、干し草の山の上に設置された木製の台の上にマリアンナが縛り付けられていた。
「分かる?これからあいつを処刑するの。火あぶりの刑よ」
「お前達はクリスチャンか?」
「むしろその逆。もしマリアンナを助けたかったら、あなたがあそこに行きなさい」
「えっ?」
「元はと言えば、あなたが入門するからこんなことになったのよ?その責任を取ってもらう。マリアンナのことは……もういいでしょう。あなたが代わりに火あぶりにされなさい。そしたら、マリアンナは助けてあげる」
「どうしてこんなことを?どうして僕のせい?僕がマリアさんのことを好きになってしまったから?」
「あなたがマリアンナのことが目的で入門してきたことは知ってる。でも、それはハッキリ言ってそれは修行の妨げになる。いくらダンテ一門の掟には反していなくても、私達にとっては迷惑極まりないことよ」
「僕が入門したところで、マリアさんの魔力は落ちていない。むしろ、その逆だ。確かに1人前になったばかりということもあってか、まだ他の1人前の人達より弱い面もあるけれど、もうマリアさんは自分1人で戦えるようになった。それまでは人形に戦わせていたのに……。僕のおかげだと言ってくれた。僕のせいでマリアさんが弱くなったのなら、しょうがない。その責任は取るよ。だけど……」
「黙れ!!」
「!?」
「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ!!お前のせいだ!全部お前のせいだ!!私の苦しみを味わえ!!」
 クリティーナの脳裏に、人間時代の記憶が蘇った。
 いわゆる、デートレイプを受けた時のものである。
「何が好きになっただ!ヤりたいだけなんだろ、本当は!?」
「な、何を言って……!」
「やっぱマリアンナから先に殺す!火を放って!!」
 クリスティーナは外にいるジルコニアとウェンディに言った。
 だが、その直後に2人は倒れた。
「なに!?」

 エレーナは上空で、粉薬を撒いていた。
「爆弾作戦は延期。別の薬をばら撒くよー」
 エレーナは自分が吸い込まないようにマスクをしている。
 粉薬は吸い込んだだけで、意識を失わせる睡眠薬であった。
 エレーナの師匠は魔法の薬を製造する薬師。
 当然その弟子である彼女自身もまた魔法の薬を作ることに長けていた。
「ついでにマリアンナも眠ってしまったニャ」
「稲生氏の活躍ぶりを見て、更に惚れ込んで欲しかったけどねー。ま、稲生氏が助けに来たことは分かったみたいだから大丈夫でしょ」

「エレーナの大バカ野郎!裏切りやがったな!?」
 クリスティーナは空を見上げて、エレーナが何かしたのだと分かった。
「もうこんなことはやめるんだ。キミ達を妬ませたことは謝る。だけど、もちろんキミ達に見せつける為ではないことは理解して欲しい。僕はただ本当にマリアさんのことが好きなんだ」
「うるさい!何で!?何であの根暗で無愛想のマリアンナが先に幸せになっちゃうの!?どうして私は幸せになれないの!?」
 錯乱するクリスティーナ。
 それでも戦いは一応、回避できたか?

 だが、そうは問屋が卸さなかった。
コメント (3)
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“大魔道師の弟子” 「稲生勇太、魔界へ行く」

2016-04-11 15:55:51 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日13:33.天候:曇 東京都江東区・地下鉄森下駅 稲生勇太]

〔2番線の電車は、急行、本八幡行きです。森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです〕

 急行電車から飛び降りる稲生。

〔2番線、ドアが閉まります〕

 急いで階段を駆け上り、改札口を通り抜ける。
 首都高で魔女のエイミーを助け出した稲生。
 エレーナの情報で、魔界で他の魔女達に捕まったマリアを助けに行く所である。
 マリアが魔界のどこにいるのかまでは分からない。
 だが、とにかく行かなければならない。
 幸い、エレーナが住み込みで働いているホテルから魔界に行けるようである。
 エレーナが後から来てくれるそうなので、それを待つという手もあるが……。

[同日14:00.天候:曇 魔界アルカディア王国・王都アルカディアシティ郊外 マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 アルカディアシティは周囲を山々に囲まれた盆地であり、北西部にはスーパーグレート火山(日本名、魔界富士)がある。
 天然の要塞であるが、前魔王バァルはこれで満足せず、王都を更に取り囲むように城壁を築き上げた。
 その城壁の殆どは取り壊され、城壁のあった所を今は魔界高速電鉄(アルカディア・メトロ)の環状線(ループライン、L系統)が走っている。
 環状線の外側は“郊外”とされ、サウスエンド地区(日本名、南端村)のような独自の町や村が形成されていることが多い(それでも行政上はアルカディアシティの一部)。
 また、メトロ地下鉄線の一部もその郊外まで伸びている。
 しかし今、マリアがいる場所はそんな町や村ではない。
 本当に山あいの小屋だ。
「う……」
 そこでマリアが目を覚ました。
「よお、やっとお目覚めか?」
「クリス……!やっぱり生きていたのか……」
 目の前にいたのは、クリスティーナとジルコニア、それにウェンディであった。
 だが、完全に回復の魔法が効かなかったか、頭に包帯を巻いていたり、右手に包帯を巻いていたりする。
「ああ。オマエを殺す為だったら、何度も地獄から這い上がってやるよ」
「でさぁ、決めたわけよ。どうやって殺そうかって。やっぱ魔女は火あぶりがお似合いだろうと思ってね。それも、あんたを先に殺すのはやめた」
「なにっ?」
 ウェンディは水晶球を出した。
 そこに映るのは、亜空間を通過して魔界にやってくる稲生の姿だった。
「元はと言えばこいつのせいであることを考えると、先にこいつから始末した方がいいって思ったわけ。アンタを想ってやってきた男が、目の前で黒コゲになるところを見せてあげる」
「ユウタを先に始末するだと?」
「そう」
「はは……」
 マリアは笑みがこぼれた。
「ははははは……ハハハハハハハハハッ!」
「な、何だ、コイツ!?」
「ユウタを殺すってこと!?」
「そうだと言ってるだろ!何がおかしい!?」
「ふふ……ハハハハハハ!……あんた達なんかにユウタを殺せると思ってるの?」
「稲生勇太は入門してまだ1年も経ってないヒヨっコだろ?」
「魔力を何度もチェックしてみたけど、全然低い!」
「アナスタシア組のアナスタシア先生は、育成すればと仰ってるけど、育成すればの話でしょう?だったら、今の私達には勝てないってことよ!」
「確かにそうだな。でも何故か、あんた達に私は殺せても、ユウタは殺せない。そんな気がしてしょうがない」
「ジル!マリアンナを先に火あぶりにしちゃいましょう!」
 するとマリアは更に歪んだ笑顔を見せた。
 目つきも、クリスティーナ達と同じような魔女の目つき(瞳孔が開き、瞳の色が薄まって中央に黒い点が入る)になる。
「勝手にしな。だけど、恐らく……あんた達も同じく地獄に行くことになる」
「は?」
「ユウタは間違い無く私を助けに来るだろう。しかし、既に私が火あぶりになったところを見たらどうなるか……」
「ハハハハハハっ!そりゃま、悔しくて大泣きするか!?」
「泣きながらウチら突っかかっては来るだろうね!」
「てか、オマエが火あぶりにされるのが怖いだけだろ!?」
「ふふっ……!じゃあ、嘘だと思うならやってみろ?」
 マリアは魔女の目つきのまま、3人の魔女を見据えた。
「オマエ、自分の立場分かってんのか!?」
 クリスティーナはマリアを殴り付けた。
「何だその目は!?あぁっ!?」
 更に足蹴にしたりとボコボコにしようとする。
「ちょ、ちょっとクリス……!」
 ジルコニアがクリスティーナを抑える。
「……ジル、早いとこあの男に連絡して」
「え、ええ」

[同日同時刻 天候:曇 アルカディアシティ1番街・魔界共和党本部 稲生勇太&横田高明]

「ここに魔女さん達ですかぁ?クフフフフフ……。来ましたよ」
「やっぱり!?」
「でも、あなたがお探しのマリアンナ・スカーレットさんは来られませんでしたね。クフフフフフフフフ」
「そ、そうですか。あれ?」
「私の分析によりますと、デビル・ピーターズバーグ地区にて、魔女さん達が集まって何やら行っていたもようです」
「デビル・ピーターズバーグ!?」
「ええ。私の大好きなJKソープ“おしゃぶり亭”がある、とても良いかがわしいお店のある、ええ、それはもう良い所……」
「ところで、ここに来たという魔女さん達は何を話して帰りましたか!?」
「帰った?私はここに来たとは言いましたが、帰ったとは言っていませんよ?」
「ええっ!?」
「魔界共和党本部は、政府の重要施設です。稲生君のように正面エントランスから入って来られた正規のお客様はともかく、不法侵入してきた魔女さん達をそのまま帰すわけにはいかないでしょう。クフフフフフフ……。どうしてもというのなら、ご案内しますがね」
「何か嫌な予感がするんですが?」
「大丈夫です。保釈金として、ブラジャーとショーツを私に下されば、理事権限ですぐに釈放すると申しているたけですよ。クフフフフフフ……」
「やっぱり……」
 ガクッとなる稲生。
「あ、あの、後でイリーナ先生のガーターベルトを含んだ下着一式で全員釈放して頂くってのは無理ですか?」
「何ですと?」
 横田の眼鏡がキラッと光る。
「こちらが拘束している魔女は3名。それをたかだかイリーナ先生お1人の下着に換えろとは……」
「厚かましいお願いだとは思いますが……どうか、この通り!」
 稲生はテーブルに手をついて、横田に深く頭を下げた。
「そこまで仰るのなら検討しましょう。とはいえ、やはりイリーナ先生お1人だけの下着では釣り合いません」
「ううっ……!」
「マリアンナさんの下着も入れて下されば、それで手を打ちましょう。クフフフフフフフ……」
「……何……だと?」
 稲生、俯いたままテーブルについた手に力を込めた。
 荘厳な木製のテーブルがそれでバキィッと真っ二つに折れる。
「!!!」
 横田の眼鏡がズリ下がった。
「よく……聞こえなかったので、もう1回仰ってもらってもいいですかぁ……?」
 稲生、横田を見据える。
 その目は“魔女”と同じ目付きであった。
「え、ええと……!そっ、そうですね!検討させて頂きましょう」
 横田理事、この時、失禁寸前であったという。
「よろしくお願いします。それと……」
「な、何ですか?」
「イリーナ先生から小耳に挟んだんですが、横田理事の場合、捕えた侵入者が女性で生理中の場合、拷問の一環としてナプキンやタンポンを取り上げるというのは本当ですか?」
「めめめ、滅相もない!そそ、そのような事実は一切ございません!」
「なら、いいんですが……後で確認させてもらいます」
 稲生は席を立った。
 手にスマホを持っている。
 どこからか、着信があったようだ。
 稲生が退室するのを確認した横田は、慌てて内線電話を取り、監禁室の看守にこう連絡した。
「わ、私だ!私の分析によれば、稲生勇太はダンテ一門の中で、かなり危険な人物と見受けられる。彼が魔界から出て行くまで、拘束中の魔女達への『拷問』は禁止する。……そうだ!1人、生理中のがいただろう?取り上げたナプキンとタンポン、それと生理ショーツを返してやってくれ。急ぎだ!私の分析によれば、ばれたら私が殺される!!」
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“大魔道師の弟子” 「魔女の為に鐘は鳴る」

2016-04-11 10:16:37 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日12:30.天候:晴 東京都区部某所 聖ジャンジョン教会の魔女狩り部隊、稲生勇太、大原班長(正証寺支部東京地区)]

 片側2車線の道路を抜きつ抜かれつの2台の車。
 1台は教会の名前が書かれたワゴン車で、もう1台は大原班長のタクシーである。
「すいませーん!お金返しますんで、止まってくださーい!」
「稲生君、危ないから窓から体出さないで!」
 その様子を見た魔女狩り部隊、
「あの男は、さっきの……!」
「隊長、カネ返すとか言ってますよ?」
「邪魔しに来たってことなのかなぁ……?」
「おい、太郎!ブッちぎれ!」
「ええっ!?でも先輩、ここは制限速度50キロ……」
「オラッ!」
 助手席の男、ワインを太郎にグビグビ飲ませる。
「全力全開!しっかり掴まってろよ、先輩達!」
 酔ってハイになった太郎、アクセルを踏み込む。

「ああっ!大原班長!?」
「逃げの一手か。こりゃ捕まえて、法論でコテンパンにしてやらないといかんなー」
 大原タクシーも加速する。
 だがその時、対向車線を1台の大型ダンプカーが通り過ぎて行くのを稲生は見逃さなかった。
「あのダンプカー……そうか!この辺は……!」
 稲生は自分のスマホを取り出すと、それで藤谷に掛けた。
「藤谷班長!あの、お願いが……!」

 ショーツだけでなく、上半身の服もビリビリに破られた魔女。
 名前をエイミーという。
 意識は戻っているが、両手足を縛られている上、アイマスクとギャグボールを噛まされているので、抵抗できずにいる。
 そして何より、何も見えないが、少なくともまた人間時代と同様、嬲り者にされているという恐怖でそもそも体を動かすことができなかった。
「火あぶりにする時は、まっぱにしちゃうんスよね?」
「そうだな。センセイの許可が降りれば、1度は俺達の慰み者になるだろう。あのジャンヌ・ダルクのように」
(た、助けて……みんな……アナスタシア先生……)
 人間時代は誰も助けてくれなかった。
 そして魔女となった今も、同じ目に遭おうとしている。
 今回も、誰も助けてくれないのか。
 ブラジャーも引きちぎられた時、運転席から太郎の声が聞こえた。
「アニキ!何かまたさっきのタクシーが来ましたぜ!?」
「ったく!しつこい連中だ!おい、高速に逃げ込め!」
「あいよ!」

 首都高速に入ったワゴン車と大原タクシー。
「くそっ!せっかく藤谷班長に協力をお願いしたのに!」
 悔しがる稲生。
 実は藤谷組が手掛けるビル建設工事現場が近くにあり、その関係で工事現場付近の道路が車線規制されていたのだった。
 要はそこに追い込んで、ワゴン車を足止めしようという作戦だったのだが。
 左車線を走るワゴン車の右に出る。
 ワゴン車は追い抜こうと加速するが、大原タクシーもそれに合わせて加速する。
「しょうがない!我々で何とかするしかないよ!きっと大聖人様も、邪教徒どもの悪事を決して見逃されるはずがない」
「は、はい!」
 で、その現証はすぐに現れた。
 とある首都高の出入口。
 首都高の出入口はマニアックである。
 右車線から離合したり、左車線で合流するにしても、加速帯が20メートルも無いような所だったり……。
 正にそういう所から、1台の大型トレーラーが入って来た。
 進路を阻まれたワゴン車、無理に追い越しを掛けようとする。
「おい、何やってんだ!?」
 大原タクシーと接触しそうになったので、しょうがなく大原はブレーキを踏み込む。
 矢のように走り去ろうとするワゴン車だが、ついに罰が下ったようだ。
 それが稲生達側からの仏罰なのか、キリスト側からの神罰なのかは不明だが。
 首都高名物は、マニアックな出入口だけではない。
 急カーブもその1つである。
 ワゴン車はカーブを曲がり切れず、コンクリートの壁にぶつかった後、更に分離帯にもぶつかり、また反対側の壁にぶつかってやっと止まった。
「止まったぞ!」
 タクシーはその先にある非常停車帯に止まり、稲生はそこからワゴン車の方に駆け寄った。
「キリスト教の皆さん、お金返しますから!」
「稲生君w」
 大原班長は非常停車帯にある非常電話で、事故発生の通報をしていた。
 取りあえず、相手は邪教徒とはいえ、負傷者の救護に当たらなければならないのに、先に金を返そうとする稲生の天然ぶりに大原は苦笑いした。
「うう……」
 あんな大事故でも、聖ジャンジョン教会の面々は生きていた。
 まあ、全員ケガしていたが。
「マリア様!愛してるぜ!ベイベー!……ヒック!」
 太郎は酒瓶片手にハイになっていた。
 頭から血を流しているにも関わらず。
「ふ、ふざけるな!マリアさんは僕が先に告白して……!」
「稲生君、違う違う!」
 太郎は聖母マリアのことを言っていたと思うが、稲生はマリアンナの方を思い浮かべて一瞬激怒した。
 通報を終えた大原が、急いで稲生を宥めすかす。
 で、
「あんた、隊長の金田じゃないか!2度とキリストの信仰はしないって、前、言ってたよな!?」
「そ、それどころじゃないだろ……!早く助けろ!」
「いや、それどころである。じゃ、藤谷班からの宿題の続き。『イエス・キリストが実在したという証拠を挙げなさい』」
「ええっ、そこから!?」
 稲生は歪んだワゴン車のドアをこじ開けながら、大原の質問にびっくりした。
 タクシーのトランクからバールを持って来て、それでスライドドアをこじ開けた。
「では次の質問。『聖母マリアの処女懐胎を科学的に説明しなさい』」
「いやいや、ムリムリ」
 稲生は首を横に振りながら、やっとスライドドアを開けた。
「大丈夫ですかぁ!?」
「答えられないのか、金田ァ!じゃ、今お前らがやっていることについて。『魔女狩り・魔女裁判の正しさを証明しなさい。旧約または新約聖書のどこにそれが書かれているのか、文証をもって説明しなさい』」
「魔女さん、大丈夫ですか!?」
「んー!んー!」
 稲生はエイミーを抱えて、車から出そうとした。
 だが、男に触られたくないのか、エイミーは激しく抵抗する。
「落ち着いて!僕はイリーナ組の稲生勇太です!まだ見習ですけど!あなたはどう思ってるか分かりませんけど、僕は味方ですから!」
 そう言いながら稲生はエイミーを車から降ろした。
「全ての質問に反論不能か。じゃ、藤谷班長と約束した通り、『法論に負けた暁には、教会活動の全てを中止し、聖ジャンジョン教会はその宗教法人格を返納する』を直ちに実行しなさい」
「もう勘弁してくだひゃい!ママーっ!」
 泣き出す金田隊長だった。
「何か、“慧妙”のアポ無し折伏隊より凄い戦いだな……」
 稲生はエイミーの体を拘束している全ての戒めを解いてあげた。
「稲生氏!ここにいたのか!」
 と、そこへエレーナがホウキに跨ってやってきた。
「エレーナ!?」
「エイミー、大丈夫!?」
「エレーナ!」
 エイミーはエレーナに抱きついて、わんわん泣いた。
「エイミーを助けてくれたんだね。ありがとう」
「エレーナの知り合いかい?」
「まあね。組違いだけど、同じ日に入門したから……。それより、大変なことになったんだ!」
「何だい!?」
「魔界でマリアンナが捕まった!」
「ええーっ!?」
「奴ら、マジでマリアンナを殺すつもりだ!急いで魔界に行って!」
「どうやって行けって!?僕はまだそんな魔法使えないぞ!?」
「私のホテルのボイラー室に、魔界への扉がある。そこから魔界に行ける!」
「わ、分かった!」
「私も後から行く。エイミーをこのままここに置いとくわけにはいかないからね」
 エレーナは後ろにエイミーを乗せた。
「エイミーを助けてくれたことは、後でアナスタシア先生にも言っておくから」
「? ああ」

 この時、稲生はどうしてエレーナがそんなことを言ったのか分からなかった。
 マリアを捕獲したのはアナスタシアであり、エレーナはそんなアナスタシアを牽制するつもりであったのだろう。
 エレーナはポーリン組であるが、ポーリンもまたアナスタシアを良く思っていないと弟子達の間で言われている。
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