報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京を過ごす」 

2016-04-15 19:05:17 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月27日11:00.天候:晴 東京都区内某所・日蓮正宗正証寺 稲生勇太&マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]

 春季総登山といっても、支部総登山ではないので、多くの信徒が大石寺に向かったわけではなかった。
 駐車場には大原タクシーが止まっていて、お寺の集会室に行くと大原班長がいた。
「やあ、帰ってきたんだね。お疲れさん」
「大原班長、あの時はありがとうございました」
「今度からは邪教徒達からの布施は受けないようにね」
「はい、気をつけます」
「あ、あのっ……!」
 マリアが前に出た。
「仲間の救助に協力してくれて、ありがとうございました」
「ああ!あの、聖ジャンジョン教会が連れて行った外人さんのお友達?無事で良かったね」
「はい。本当に、ありがとうございました」
 と、マリアは言ったが、
(あまり面識の無いヤツだったんだが、被害者は被害者だしな……)
 と、思った。
(多分、フレデリカに唆されて、ユウタの後ろを監視してただけだったんだろうな)
 とも。
「藤谷班長は?」
「あの人は御登山中だよ」
「そうでしたか。藤谷班長にもお礼を言っておきたかったんですが……」
「それなら、私から言っておくよ」
「すいません、ありがとうございます」
 稲生は最後に、本堂へ御題目を唱えに行こうと思ったが……。
「あ、稲生君」
 そこへ折伏推進委員会の委員長が話し掛けて来た。
「折伏、ご苦労さんね。じゃあ、これに書いてもらって。お嬢さん、日本語分かる?」
「はい?」
「は?」
 委員長が持って来たのは入信願書。
「いや、違いますよ、マリアさんは!」
(凄い宗教だな……。確かに、これなら魔女狩り集団も形無しかもしれん……)

[同日11:40.天候:晴 東京メトロ池袋駅・丸ノ内線車内 稲生&マリア]

〔「お待たせ致しました。11時40分発、新宿行き、まもなく発車致します」〕

 稲生達は池袋駅に移動し、そこから丸ノ内線に乗り込んだ。
 エレーナにも世話になったことだし、彼女にも礼を言いに行くことにしたのだった。
 慌てて正証寺から逃げ出した感はあるが。

 発車メロディが鳴り響き、ホームドアと電車のドアが自動で閉まる。
 丸ノ内線は全駅ホームドアが設置されてからワンマン化された。

〔東京メトロ丸ノ内線をご利用頂きまして、ありがとうございます。この電車は大手町、銀座、赤坂見附方面、新宿行きです。次は新大塚、新大塚です。……〕

 魔界高速電鉄(アルカディア・メトロ)1号線は丸ノ内線の池袋〜大手町間と、路線図がよく似ている。
 第3軌条方式である所もそっくりだ。
 稲生はスマホで、長野までの帰りの足を検索していた。
「ふーむ……。“ムーンライト信州”はしばらく運転しないか……。ならば……」
「いいルート、見つかりそう?」
「もうちょっと待っててください」
「こういう時、ユウタがいると頼もしいな」
「いえ、大したことないです」
「いやいや。今走ってるルートだって、私は全然分からない」
「マリアさんはイギリス人ですから、なかなか東京の地下鉄は分からないでしょう」
 日本人であっても、東京の地下鉄の複雑さは上級者向けである。
 差し当たり、地下鉄のキップをJRの券売機で買おうとするような人は乗るのをやめた方がいいだろう(作者、秋葉原駅で目撃済み)。
「僕が素でニューヨークの地下鉄に乗れと言われたら、間違い無くパニクります」
「私もムリだ」
 マリアは笑みを浮かべた。

[同日12:15.天候:晴 東京都江東区森下・ワンスターホテル 稲生&マリア]

 ドヤ街としても知られた森下地区。
 今となっては簡易宿所としてのドヤから、ビジネスホテルに昇格した店舗が多い。
 ワンスターホテルもその1つ。
 なので規模は小さく、料金も安い。
 その為か、バックパッカーなどの外国人利用者が多い。
 エレーナは、そんな世界各国を旅行するバックパッカー達から情報を仕入れているというわけだ。
 外国人バックパッカーのほぼ全員、日本語が喋れない。
 かといって、英語が通じるかと言えばそうとも限らない。
 そこでマルチリンガルのエレーナは、このホテルでも重用されていた。
 同じく住み込みでホテルを経営しているオーナー夫妻は普通の人間なのだが、魔道師と何かしら縁があるようだ。
 エレーナが住み込みで働いているのも、そのツテによるものである。
 “魔女の宅急便”の主人公は、ひょんなことからパン屋に住み込みで働くようになったが、過去にも今にも似たようなことをしている魔女はいるということだ。
「いらっしゃいませ」
 ホテルに入ると、中途半端な時間ということもあり、ロビーには誰もいなかった。
 フロントにはオーナーが1人いるだけである。
「こんにちは。僕達、ダンテ一門の魔道師の者ですが、エレーナと今会えますか?」
 すると60代のオーナーは申し訳無さそうな顔をした。
「ああ、エレーナですね。まだ、魔界から帰って来てないんですよ」
「あ、そうなんですか?」
「ええ。もし急用でしたら、ポーリン先生の方に……あ、いや、ちょっと待ってください」
 オーナーはフロントの上にある、防犯カメラの映像を切り替えた。
 そして、フロントからも見えるエレベーターを見る。
 ホテルは5階建てだが、エレベーターを見るとB1の表示がある。
 宿泊客は行けないようになっているようだが、エレベーターがそこまで降りて、また上がって来た。
「ただいまぁ……。あっ!」
「エレーナ!」
 魔界から帰って来たばかりで疲労の色を残したエレーナが稲生達を見て驚きを隠せなかった。

 ロビーで互いの状況を確認しあう。
「近く、一斉に処分が大師匠様から言い渡されると思うよ。多分、来月にならないうちにね」
「クリスティーナ達はどうなる?」
「私の見立てでは破門、除名処分だね」
「……だろうな」
「それって、どういうことなんでしょう?」
 稲生が疑問を投げかけた。
「ダンテ一門を抜けて、他門に行くということですか?」
「それは無いな」
「うん、無いね。いい、稲生氏?魔道師の寿命が物凄く長いことは知ってるでしょ?」
「ああ」
 人間を辞めて魔道師になると、肉体の成長・老化が極端に遅くなる。
 その理由については、明らかにされていない。
 肉体を交換することによって、例えばイリーナの場合、1000年以上も生きている。
 イリーナの場合は5回ほど肉体を交換しているので、1つの肉体が200年ほどの計算だ。
 あくまでもそれは平均であり、使用する肉体によってはもっと長く使用することができるという。
 普通の人間が100歳以上生きるだけでも凄いことなのに、魔道師になれば余裕でその2倍、無理しても3倍生きられるわけである。
 それが破門、除名になるということは……?
「いきなり肉体が朽ち落ちて死ぬってことだね。だから死刑と同じ」
「ええっ!?」
「あいつら、確か100年以上生きてるもんね」
「確かそうだな」
「稲生氏。日蓮正宗を破門、除名になってもいきなり死ぬことはないでしょう?だけどね、魔女の世界は違うからね?」
「……! (;゜Д゜)」
 稲生は口をあんぐり開けていた。
「ようこそ、魔道師の世界へ。稲生勇太」
 エレーナは魔女の目つき(瞳孔が開き、瞳の色が薄くなって、中央の黒い点が目立つ)になった。
「真面目に修行している分には、悪いようにされない。一緒に頑張ろう」
 マリアもまた同じような目つきになった。
「は、はい。よろしく……お願いします」
 そう言うしかない稲生だった。

 魔道師の修行をしていても、日蓮正宗の信仰は並行して行って良いようだが……。
 魔女狩り・魔女裁判の都合で反キリスト教は多いが、それとは無関係の仏教なら大目に見られているようである。
コメント (1)
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