[3月18日02:00.天候:晴 場所不明(何かの廃屋) マリアンナ・ベルフェ・スカーレット]
「う……」
マリアはふと目が覚めた。
「やっとお目覚めか?裏切り者」
頭上から冷たい声が落ちて来た。
マリアは手足が不自由であった。
理由は魔法を掛けられているからだと分かった。
見えない手枷・足枷をされているようなものである。
確か、一定の時間が経てば解ける魔法であったはずだ。
声がした方に目を向けると、そこには見たことのある魔女がいた。
「クリス……!キサマ、何を……!」
この前、札幌で会ったクリスティーナであった。
「裏切り者に制裁を加えに来たのさ」
「なに1人だけ幸せになろうとしてんの?」
「ダンテ一門は運命共同体ってこと忘れたか?」
“狼”に食われて魔女になった仲間達だった。
「ジルコニアにウェンディか……」
マリアは顔だけ上げて、仲間だった者達を見上げた。
クリスティーナはしゃがみ込んで、マリアの顔を覗き込んだ。
「マリアンナ、もう1度言う。あんたは“魔の者”とよく戦った。だけど、完全に撃退し切れていない。“魔の者”は狙った魔道師の心の隙を突いて来るのは明らかだよ。あんたは心の隙を突かれて、あの男に絆されてるだけなんだ」
「イリーナ先生はのほほんとしてるから、何も考えずに弟子入りさせた可能性もあるしね」
「マリアンナ、あの男だっていつ“狼”になるか分からない。私達はあなたの心配をしてるだけ。だから、あの男を追い出して。もし難しいなら、私達も手伝うから!」
「……それは大きな誤解だと言っただろう?ユウタがただの人間だったら、私もそうした。だけど、ユウタはただの人間じゃない。これから大魔道師を目指す資格のある人間……いや、見習魔道師だ。彼は純粋に私のことが好き。私もその気持ちを素直に受け止めてあげようとしただけ。それの何が問題だ?」
「……言葉では、打つ手無しか」
クリスティーナは肩を竦めた。
「じゃあ、しょうがないかな。ところで、ここどこか分かる?」
「? ……あっ!」
マリアにフラッシュバックが起きる。
それは彼女が人間時代、“狼”達に“食われた”場所。
貞操から女の尊厳から何まで奪われた場所である。
「変に忘れたから、“魔の者”に心の隙を突かれたのね。それなら、思い出させてあげる!」
クリティーナが魔法を杖を振り上げると、廃屋の外からわらわらと若い男の集団が入って来た。
「いつまでも人間時代の呪いに捕らわれて、前に進めない卑怯者共がっ!」
マリアはクリスティーナ達を睨みつけた。
「あぁっ!?」
「ナマ言ってんじゃねぇよ!」
ジルコニアが魔法の杖で、マリアの顔を殴り付けた。
マリアの鼻から血が流れ出る。
「何が、『私が1番ヒドくヤられた』だ!?『私の復讐は終わらない』だ!?言ってることとやってることが違うじゃねーか!」
ウェンディは直接、倒れているマリアの腹を蹴り上げる。
「2人とも、まずはその辺にしときな。特に、顔。顔をボコボコにしちゃったら、あいつらもヤりがいが無いでしょお?」
「はははっ!それもそうだな」
「おい、チ◯◯の勃ち具合はどうだ!?」
男達は既に下半身を露出させていた。
全員が、性欲マックスの体勢になっている。
「ヤっちまいな!何なら、妊娠させちゃってもいいからっ!」
「くそっ……!」
マリアに群がる男達。
「さっさと思い出せ!呪いで前に進めないとか、変な戯れ言はさっさと忘れてさ!アタシらは存在自体が悪なんだ!幸せになる必要は無い!それが魔女の掟だ!」
「それはどうかな?」
そこへ現れた1人の男。
クリティーナが召喚した強姦魔達ではないようだ。
そして、それは人間ではない。
その男からは、とても強力な妖力が溢れ出ているからだ。
人間からは妖力は出ない。
「は?」
「なに!?」
「いつの間に!?」
驚愕する魔女達。
魔力がブレたのか、強姦魔達はマリアのブラウスを半分まで引きちぎったり、ストッキングやショーツを引き裂いたところで手が止まった。
男は着物に袴姿だった。
そして、スラッと青白い光を放つ日本刀の形をした妖刀を抜いた。
「そこの魔女を置いて、全員立ち去れ。さもなければ……『流血の惨を見る事、必至で』ある」
「う……。お、おい!何してんだ!?あの男を殺っちまえ!でないと、マリアンナとはヤらせないよ!」
ジルコニアが強姦魔達に命令する。
強姦魔達はナイフを手に、妖刀を構えた妖怪の男に向かって行った。
が、次の瞬間、本当に『流血の惨を見る事』になった。
「な、何だ、オマエ!?」
「く、来るなっ……!」
ものの数秒で強姦魔達は全滅した。
「やはり、ただの物の怪だったか……。俺は通りすがりの妖狐だ。“ある者”に頼まれて、そこの魔女を頂戴しに参った」
妖狐と称する男は刀に付いた血糊を振り払いながら、倒れているマリアの所に近づいた。
「お、オマエは……?い、イブ……キ……?」
「ほお。感心に覚えていたか。まあいい。ほら、立て。ここで死にたいのか」
男は英語が分からなかったが、自分の名前を呼んだことは認識したようだ。
マリアは力を振り絞って、よろよろと立ち上がった。
右手は半分破られたブラウスを、剥ぎ取られたブレザーで覆い隠している。
「さすがは……ユタが惚れた女だ。根性はある。こっちに来い。話がある」
妖狐は日本語で廃屋の外を見ながら言った。
マリアは魔法を封じる魔法を掛けられており、妖狐の喋る日本語の全ては理解できなかったが、少なくとも外へ連れ出そうとしているのは分かった。
「で、オマエらは何なんだ?少なくとも、この魔女と同類ではあるようだが……」
「あぁっ!?フザけんじゃねーぞ!妖狐の分際で、なに勝手にしゃしゃり出て来てんだよ!?」
ウェンディが妖狐を睨みつけた。
「『“ある者”に頼まれて、その魔女を引き取りに来た』と、用件は申したはずだが?あいにくと、“ある者”が誰かは言えぬ。……まあ、人間の言葉で言うなら、『ググレカス』とでも言うのか。ククククッ!」
「おい!!」
クリスティーナは魔法の杖を妖狐に向けた。
「このままウチらの邪魔をしてタダで済むとでも思ってんのか!?女だからってナメてんじゃねーぞ!!」
「クリス!」
「オレの回収相手を傷つけた挙げ句、物騒なものを出すとはな……。一端に魔法とやらに造詣があるようだが、オレの正体を知っているのなら……分かってるよな?」
妖狐もまた妖術使いである。
妖狐は左手から、青白い玉を出した。
「! クリス、気をつけて!こいつ……!」
次の瞬間、廃屋内に響く大きな爆発音。
「まあ……。生きて回収できたのだから、依頼はこなしたことになるか。ハハハハハッ!」
一しきり笑う妖狐。
「ところで、お前と同類の魔女達に被害が出たが良いか?」
廃屋は崩壊し、燃え上がっていた。
「……オマエは……」
「ぬ?」
「イブキ……。ドウシテ……?ココハ……?」
マリアは覚えたての日本語、片言だがそれで妖狐・威吹に話し掛けた。
「いいから歩け。“ある者”が待っている」
(妖狐の威吹……?ということは、ここは魔界……?“ある者”って……?)
マリアは頭の中で、今起きている状況が全く理解できなかった。
そしてついに、
「おい!」
倒れて意識を失ってしまったのである。
「……違うだろ。こんなのは、オレの役目じゃない。本当に、不器用で不思議な男だな。ユタ……キミってヤツは……」
威吹は虚空を見上げた。
背後で燃え上がる廃墟。
その炎が、見上げる虚空を赤く照らしていた。
「う……」
マリアはふと目が覚めた。
「やっとお目覚めか?裏切り者」
頭上から冷たい声が落ちて来た。
マリアは手足が不自由であった。
理由は魔法を掛けられているからだと分かった。
見えない手枷・足枷をされているようなものである。
確か、一定の時間が経てば解ける魔法であったはずだ。
声がした方に目を向けると、そこには見たことのある魔女がいた。
「クリス……!キサマ、何を……!」
この前、札幌で会ったクリスティーナであった。
「裏切り者に制裁を加えに来たのさ」
「なに1人だけ幸せになろうとしてんの?」
「ダンテ一門は運命共同体ってこと忘れたか?」
“狼”に食われて魔女になった仲間達だった。
「ジルコニアにウェンディか……」
マリアは顔だけ上げて、仲間だった者達を見上げた。
クリスティーナはしゃがみ込んで、マリアの顔を覗き込んだ。
「マリアンナ、もう1度言う。あんたは“魔の者”とよく戦った。だけど、完全に撃退し切れていない。“魔の者”は狙った魔道師の心の隙を突いて来るのは明らかだよ。あんたは心の隙を突かれて、あの男に絆されてるだけなんだ」
「イリーナ先生はのほほんとしてるから、何も考えずに弟子入りさせた可能性もあるしね」
「マリアンナ、あの男だっていつ“狼”になるか分からない。私達はあなたの心配をしてるだけ。だから、あの男を追い出して。もし難しいなら、私達も手伝うから!」
「……それは大きな誤解だと言っただろう?ユウタがただの人間だったら、私もそうした。だけど、ユウタはただの人間じゃない。これから大魔道師を目指す資格のある人間……いや、見習魔道師だ。彼は純粋に私のことが好き。私もその気持ちを素直に受け止めてあげようとしただけ。それの何が問題だ?」
「……言葉では、打つ手無しか」
クリスティーナは肩を竦めた。
「じゃあ、しょうがないかな。ところで、ここどこか分かる?」
「? ……あっ!」
マリアにフラッシュバックが起きる。
それは彼女が人間時代、“狼”達に“食われた”場所。
貞操から女の尊厳から何まで奪われた場所である。
「変に忘れたから、“魔の者”に心の隙を突かれたのね。それなら、思い出させてあげる!」
クリティーナが魔法を杖を振り上げると、廃屋の外からわらわらと若い男の集団が入って来た。
「いつまでも人間時代の呪いに捕らわれて、前に進めない卑怯者共がっ!」
マリアはクリスティーナ達を睨みつけた。
「あぁっ!?」
「ナマ言ってんじゃねぇよ!」
ジルコニアが魔法の杖で、マリアの顔を殴り付けた。
マリアの鼻から血が流れ出る。
「何が、『私が1番ヒドくヤられた』だ!?『私の復讐は終わらない』だ!?言ってることとやってることが違うじゃねーか!」
ウェンディは直接、倒れているマリアの腹を蹴り上げる。
「2人とも、まずはその辺にしときな。特に、顔。顔をボコボコにしちゃったら、あいつらもヤりがいが無いでしょお?」
「はははっ!それもそうだな」
「おい、チ◯◯の勃ち具合はどうだ!?」
男達は既に下半身を露出させていた。
全員が、性欲マックスの体勢になっている。
「ヤっちまいな!何なら、妊娠させちゃってもいいからっ!」
「くそっ……!」
マリアに群がる男達。
「さっさと思い出せ!呪いで前に進めないとか、変な戯れ言はさっさと忘れてさ!アタシらは存在自体が悪なんだ!幸せになる必要は無い!それが魔女の掟だ!」
「それはどうかな?」
そこへ現れた1人の男。
クリティーナが召喚した強姦魔達ではないようだ。
そして、それは人間ではない。
その男からは、とても強力な妖力が溢れ出ているからだ。
人間からは妖力は出ない。
「は?」
「なに!?」
「いつの間に!?」
驚愕する魔女達。
魔力がブレたのか、強姦魔達はマリアのブラウスを半分まで引きちぎったり、ストッキングやショーツを引き裂いたところで手が止まった。
男は着物に袴姿だった。
そして、スラッと青白い光を放つ日本刀の形をした妖刀を抜いた。
「そこの魔女を置いて、全員立ち去れ。さもなければ……『流血の惨を見る事、必至で』ある」
「う……。お、おい!何してんだ!?あの男を殺っちまえ!でないと、マリアンナとはヤらせないよ!」
ジルコニアが強姦魔達に命令する。
強姦魔達はナイフを手に、妖刀を構えた妖怪の男に向かって行った。
が、次の瞬間、本当に『流血の惨を見る事』になった。
「な、何だ、オマエ!?」
「く、来るなっ……!」
ものの数秒で強姦魔達は全滅した。
「やはり、ただの物の怪だったか……。俺は通りすがりの妖狐だ。“ある者”に頼まれて、そこの魔女を頂戴しに参った」
妖狐と称する男は刀に付いた血糊を振り払いながら、倒れているマリアの所に近づいた。
「お、オマエは……?い、イブ……キ……?」
「ほお。感心に覚えていたか。まあいい。ほら、立て。ここで死にたいのか」
男は英語が分からなかったが、自分の名前を呼んだことは認識したようだ。
マリアは力を振り絞って、よろよろと立ち上がった。
右手は半分破られたブラウスを、剥ぎ取られたブレザーで覆い隠している。
「さすがは……ユタが惚れた女だ。根性はある。こっちに来い。話がある」
妖狐は日本語で廃屋の外を見ながら言った。
マリアは魔法を封じる魔法を掛けられており、妖狐の喋る日本語の全ては理解できなかったが、少なくとも外へ連れ出そうとしているのは分かった。
「で、オマエらは何なんだ?少なくとも、この魔女と同類ではあるようだが……」
「あぁっ!?フザけんじゃねーぞ!妖狐の分際で、なに勝手にしゃしゃり出て来てんだよ!?」
ウェンディが妖狐を睨みつけた。
「『“ある者”に頼まれて、その魔女を引き取りに来た』と、用件は申したはずだが?あいにくと、“ある者”が誰かは言えぬ。……まあ、人間の言葉で言うなら、『ググレカス』とでも言うのか。ククククッ!」
「おい!!」
クリスティーナは魔法の杖を妖狐に向けた。
「このままウチらの邪魔をしてタダで済むとでも思ってんのか!?女だからってナメてんじゃねーぞ!!」
「クリス!」
「オレの回収相手を傷つけた挙げ句、物騒なものを出すとはな……。一端に魔法とやらに造詣があるようだが、オレの正体を知っているのなら……分かってるよな?」
妖狐もまた妖術使いである。
妖狐は左手から、青白い玉を出した。
「! クリス、気をつけて!こいつ……!」
次の瞬間、廃屋内に響く大きな爆発音。
「まあ……。生きて回収できたのだから、依頼はこなしたことになるか。ハハハハハッ!」
一しきり笑う妖狐。
「ところで、お前と同類の魔女達に被害が出たが良いか?」
廃屋は崩壊し、燃え上がっていた。
「……オマエは……」
「ぬ?」
「イブキ……。ドウシテ……?ココハ……?」
マリアは覚えたての日本語、片言だがそれで妖狐・威吹に話し掛けた。
「いいから歩け。“ある者”が待っている」
(妖狐の威吹……?ということは、ここは魔界……?“ある者”って……?)
マリアは頭の中で、今起きている状況が全く理解できなかった。
そしてついに、
「おい!」
倒れて意識を失ってしまったのである。
「……違うだろ。こんなのは、オレの役目じゃない。本当に、不器用で不思議な男だな。ユタ……キミってヤツは……」
威吹は虚空を見上げた。
背後で燃え上がる廃墟。
その炎が、見上げる虚空を赤く照らしていた。