報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「戦闘終了」

2016-04-12 22:32:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月18日16:00.天候:曇 魔界アルカディアシティ郊外山中 稲生勇太]

 錯乱するクリスティーナ。 
 だが、稲生に興味が無くなったというわけではなかった。
「!!!」
 イッた目をしながら稲生を突き飛ばし、倒れたところを馬乗りになった。
「死ね死ね死ね死ね死ね死ねーっ!!」
 そして、稲生の顔面を殴り付けてくる。
 魔法は使ってこなかった。
 魔法を使用するには、精神力を必要とする。
 こんな錯乱状態では、魔法が使えなくて当然だった。
「く、クリス……やめ……!」
 クリスティーナ、今度はポケットの中から短剣を取り出す。
 魔法使いは、何らかの理由で魔法が全て使えなくなるという緊急事態に備え、簡単な刃物の1つや2つを護身用に持つことがある。
 魔道師の中には、護身術のつもりで始めた剣術の方が魔法より身についてしまい、いわゆる魔法剣士となった者もいるという。
 だがクリスティーナの短剣はただの護身用であり、それほどまでに技術が身に付いているとは思えなかった。
 それでも、
「こ、殺ス!」
 さすがにそれを刺されたら【お察しください】。
 クリスティーナはイッた目、笑いを浮かべながら短剣を振り上げた。
「くっ……!南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経……」
 稲生は咄嗟に御題目を唱えた。
 すると、バンッと小屋のドアがこじ開けられた。
「ユタぁっ!無事かーっ!」
 そこへ飛び込んで来たのは、妖狐の威吹!
「何やってんだ、キサマ!!」
 威吹が飛び込んで来たことで、クリスティーナはナイフを稲生に振り下ろすのをやめたが、しかし威吹には容赦なく顔面を殴り付けられた。
 その衝撃で、クリスティーナが稲生から離れる。
 離れただけではなく、壁に叩き付けられ……って、どんだけ強く殴ったんだ?完全に意識を失った。
「ユタ、大丈夫か!?しっかりしろ!」
「い、威吹?」
 威吹は稲生の手を掴んで、引き起こした。
「あーあ……。こんなに殴られて……!外にいる魔女に薬をもらおう」
 威吹は着物の懐から手ぬぐいを出して、稲生の鼻を拭った。
 鼻血が出ていたからだ。
「僕は大丈夫だけど、どうして威吹がここへ?」
「外にいる魔女が手紙で知らせてくれたんだ。もっとも、最初はてんで違う情報だったけどね」
「一応、表向きにはこいつらの味方になってないといけなかったからね。わざと妖狐に嘘の情報教えて、攪乱させたってことにしておいた。でもよく本当の情報分かったね?」
 エレーナが入って来て、そう言った。
 稲生にポーリン特製の魔法の傷薬を渡す。
 威吹は得意げに、手紙を広げた。
「手紙が炙り出しになっていたからな!こういう細工は、妖狐ならお手のものだ」
 要は炙り出しすることで、本当の情報が浮かび上がって来る仕掛けになっていたのだった。
「た、確かに……」
 稲生は苦笑いした。
「で、こいつらどうするんだ?ユタが頼めば、首くらい刎ねておいてやるが……」
 威吹は左腰に差している妖刀の柄を掴んだ。
「……裁きに掛けよう。ダンテ一門の裁きに」
「それもそれで厳しいだろうけどね」
 エレーナは肩を竦めた。
「多分、私も何らかの処分はあるだろうね」
「エレーナが?」
「ま、後で稲生氏達の所にもそういうお知らせが届くだろうから、それを見てみて」
「あ、ああ……」

 そんなことを話していると、また1人現れた。
 それはアナスタシアだった。
「あ、アナスタシア先生!?」
 稲生は飛び上がらんばかりに驚いた。
 さすがに大魔道師クラスが相手では、エレーナも稲生も太刀打ちできまい。
「敵か!?」
 稲生は妖刀を抜いた。
「……別に私は稲生君達を捕まえに来たわけではないわ」
「嘘をつくな。お前は胡散臭い!」
 威吹はアナスタシアを睨みつけた。
「妖怪達から見て……胡散臭くない魔道師がいるかしら?」
「ユタは違う!」
「それはあなたと稲生君が長い付き合いだからでしょう?いいから、刀を収めなさい。私はあの厄介者の回収に来たのよ」
「クリスティーナ達はアナスタシア組ではなかったと思いますが……」
 と、稲生。
「もちろん、そうね。私は師匠クラスとして、彼女らを裁きに掛ける為に連れて行くだけよ」
「そうでしたか」
「アナスタシア先生!」
 エレーナは1歩前に出た。
「なに?」
「稲生氏に何か言う事があるでしょう!?」
「……そうだったわね。うちのエイミーを助けてくれて、ありがとうね」
「い、いえ……」
「それと、あなたのような逸材をイリーナの所で腐らせるのはやっぱり惜しい。気が向いたら、いつでも私の所に来なさい。自分の才能を開花させる為なら、師弟相対など却って足枷だと思う」
 すると稲生は、微笑を浮かべた。
「腐らせてるんじゃありません。発酵させてるんですよ。イリーナ先生は、そういうお方です」
「ユタは黙っていても、どんどん強くなる。仏の信仰をしているだけなのにな。さすが前世は大僧正だっただけのことはある」
 イリーナの見立てで、稲生は天海僧正の生まれ変わりではないかとされている。
「発酵されるのが嫌になったら、私の所に来なさい」
「分かりました」
「ついでに、人間界へ送ってあげるわ。マリアンナ共々ね」
「本当ですか?じゃあ、お願いします」
 マリアはまだ意識を失っていたが、稲生が抱き起こした。
 そして、いわゆる“お姫様だっこ”のような状態になる。
「威吹も、ありがとう」
「いやいや。ユタには大恩がある。これくらい序の口さ」
「……パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!時間よ、空間よ。この者達にその扉を開けよ。時空の道を指し示せ。……ところで、どこへ行く?」
「は!?いや、日本に決まってますよ!日本のと……」
 しかし、稲生が言い切る前に稲生とマリアは光に包まれて消えてしまった。
「あ、あの、アナスタシア先生!?その魔法は先に行き先を言ってから、呪文を唱えるのでは!?」
 エレーナにはまだ使えない高度な魔法であったが、一応は齧ってはいたらしい。
「日本のどこかに辿り着けばいいのよ」
 どうもアナスタシアは、自分自身にも処分が下される恐れが多大だということで、気が落ち着いていなかったらしい。
 見た目はいかにもクールに振る舞っているのだが……。
「ちゃんとユタ達は人間界に送れたんだろうな!?」
「それは大丈夫。さ、あなたも手伝って」
「は!?」
「あの3人を運ぶのを手伝うのよ!エレーナ、ボサッとしない!」
「は、はい!(てか、私、アナスタシア組じゃないし!)」

 アナスタシアは元凶となった3人を早いとこ裁きに掛けさせることで、自らに下される恐れのある処分をなるたけ曖昧にしようしていたようである。
コメント
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