報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「戦いの後で」 2

2018-07-09 19:22:10 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月6日11:00.天候:晴 東京都江東区豊洲 敷島エージェンシー]

 社長室のテレビで囲み取材を受ける勝又都議の様子を観る敷島。

〔「勝又議員、ついに“クール・トウキョウ・プロジェクト”の始動が議会で承認されましたね?」「はい。2020年東京オリンピックとのタイアップも兼ねたこの企画、第一歩が踏み出せました」……〕

 敷島:「はは、勝っちゃんも有名人だな」
 エミリー:「あいつが効果をアップさせたのではないでしょうか?」

 エミリーはテレビ画面を指さした。
 勝又の後ろには、白いスーツを着たレイチェルが立っている。

 敷島:「レイチェルがお前達と同型機ってことは、秘書の仕事もできるんじゃないかって思ったんだ。で、ちょうど私設秘書を探していた勝っちゃんに勧めてみたら、見事に当たったな」

 敷島はズズズとコーヒーを啜った。

〔「後ろの秘書さんは、ロイドですか?」「いやあ、お分かりですか。クール・トウキョウ準備委員会の代表として、私自身がロイドを使う必要があると思いまして……」「これが議会で承認された大きな理由であるという話もありますが、それについては?」「それはあるかもしれません。とにかく、責任者自身がそうであるという態度を見せることに意義があったようです」〕

 敷島:「ちゃんと仕事してるじゃないか。勝っちゃん、良かったなァ」
 エミリー:「妹を褒めてくださり、ありがとうございます」
 敷島:「背後から近づいて暗殺していたわけだから、勝っちゃんの命をそうやって狙って来る輩に対しても万全だな」
 エミリー:「そうですね」

〔「次です。先週、日本各地で発生した爆弾テロの首謀者とされるデイジーについて、警察では……」〕

 敷島:「……デイジーの持ち主から一時預かって不正改造をした後、返却して持ち主を殺させたところまでは分かってるんだがなぁ……」

〔「東京では“クール・トウキョウ”の目玉となっているアンドロイド、特にボーカロイドやマルチタイプが注目されている中、人間に危害を加える個体も発生しているということで、対策が急がれています」〕

 敷島:「不正改造しやがる人間が悪いんだがな。映画なんかじゃ、そういう黒幕は大抵アメリカにいる場合が多いんだけど、デイジーの不正改造をしやがったヤツもアメリカ人っぽいぞ」
 エミリー:「社長の計画、進みそうですね」
 敷島:「何が?」
 エミリー:「社長御自らアメリカに乗り込み、その黒幕を退治することです」
 敷島:「バカ言え。そういうのはシュワちゃんやブルース・ウィリス辺りに任せるよ」

 大型バスで特攻する姿は、どう見てもハリウッドの映画スターにしか見えなかったエミリーだった。

 エミリー:「私には社長がハリアーやアパッチで、暴走したロイドに攻撃する姿が思い浮かびますが?」
 敷島:「こら。俺には操縦免許なんて無いぞ。……でもまあ、アメリカのデイライト社におバカな科学者がいたとしたら、一発殴りに行ってもいいかな」
 エミリー:「さすがです」
 敷島:「『営業が売りにくいモン造るな!』ってね」
 エミリー:「……観点が違います」
 敷島:「その点、平賀先生達は売り込みやすいものを造ってくれるから楽だ」

 営業畑一筋(自称)の敷島である。

 敷島:「午後は早速、売り込みに行くぞ」
 エミリー:「はい」
 敷島:「勝っちゃんの“クール・トウキョウ”が都議会で承認されたってことで、この勢いで霞ヶ関まで売りに行くぞ」

 未だに霞ヶ関へのマルチタイプの売り込みを続けていた敷島だった。

 敷島:「諦めないのが営業魂ってもんだからな」
 エミリー:「さすがです」

[同日17:05.天候:晴 豊洲アルカディアビル1Fメインホール]

 メインホールの片隅に置かれているグランドピアノ。
 このビルに入居している、とある楽器メーカーが宣伝用に置いたものだが、それをエミリーが弾くことがある。
 元々は自動演奏機能付きで17時になると勝手に流れていたのだが、それをエミリーがたまに弾くようになった(もちろん許可済み)。
 自動演奏機能が付いているのに、あえてロボット(ロイド)が弾いているということで注目を浴びたこともあった。
 今では、ビルの入居者は殆ど慣れてしまっている。

 ホール内に流れているのは“幻想即興曲”。

 鏡音リン:「あっ、社長!やっぱりここにいた!」

 エレベーターから降りてきたリンが、ホール内のベンチに茫然自失とした感じで座っている敷島に駆け寄った。

 敷島:「『アリッサー!』『ヒャッハー!“魔のモノ”の為に、お前の心臓は頂くぜー!』か……」
 リン:「社長、古いよ。それ、“クロックタワー3”でしょ?」
 敷島:「リンか……」
 リン:「お役所に売り込みに行ったけど、悉く断れたって話なら、もう何度もあったでしょ?」
 敷島:「“クール・トウキョウ”は推進されたはずなんだけどなぁ……」

 所詮は地方自治体の議会で可決されただけの話。
 国の機関としては、やはり国会を通らなければ棒にも箸にも掛からないらしい。

 リン:「リンの仲間は売らないの?リンも増産されたら面白いなぁ!」
 敷島:「ボーカロイドは、あくまでもエンターテイメント用だから。ミクみたいに、実は兵器用でしたなんて売り込んだりしようものなら……」

 エミリーのピアノ演奏が終わる。

 リン:「シンディの時は、横でフルート吹いてたね」
 エミリー:「シンディは管楽器が得意だからな。ピアノには自動演奏させて、自分は横でフルート吹いてたのだろう?」
 リン:「あれも面白かったよね。何せ、ピアノさんがシンディに合わせて鍵盤動かしてたんだから」

 リンはピアノの方を向いてニッと笑った。

 エミリー:「社長、気を取り直して帰りましょう。明日は科学館で七夕イベントがあります」
 敷島:「そうだったな。リンとレンがイベントに出るんだったな。明日はよろしく頼むぞ?」
 リン:「はーい!」(^O^)/

 ロイド達の活躍はまだまだ続く。
 敷島の営業は、前途多難なれど。
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“戦う社長の物語” 「戦いの後で」

2018-07-09 10:22:11 | アンドロイドマスターシリーズ
[7月2日10:00.天候:晴 埼玉県さいたま市西区 DCJロボット未来科学館・研究室エリア]

 修理の終わったシンディが再起動される。

 シンディ:「おはようございます……あれ?」

 シンディは起き上がって、強化ガラスの窓の向こうを見てみた。
 だが、そこには誰もいなかった。

 シンディ:「?」

 しかし、そこへアリスからの通信が入る。

 アリス:「シンディ、おはよう。天才の私が修理したんだから、調子は万全のはずよ」
 シンディ:「あ、はい。そうですね」
 アリス:「悪いけど、そのまま展示室エリアまで来てくれる?」
 シンディ:「かしこまりました」

 シンディは首を傾げながらも、オーナーの命令に従う。
 無機質かつメタリックな壁や天井が特徴の研究室エリアの廊下。
 そこを進むと、いきなり背後から誰かに羽交い絞めにされた。

 シンディ:「なっ……!?誰だ!?」
 レイチェル:「お久しぶりですわ、お姉様?」
 シンディ:「こ、これは……この声と……識別信号は……れ、レイチェル!?……どうして……!?」
 レイチェル:「地獄の底から這い上がって来ましたの。よろしく、お姉様」
 アリス:「はい、終了」

 すると、廊下の途中の自動ドアが開いて、そこからアリスと部下の研究員達がぞろぞろとやってきた。

 アリス:「レイチェル、もういいわよ」
 レイチェル:「はい」
 シンディ:「ま、マスター!?これは一体どういうことですか!?」
 アリス:「今のレイチェルのセリフ、あなたも言ったことがあるそうじゃない?」

 確かにシンディは後期型として起動後、平賀にそんなことを言った。
 それは前期型のメモリーとデータを引き継いでいるからこそのセリフであった。

 レイチェル:「私の場合はお姉様の受け売りです。アリス博士に、そのように命令されたもので」
 シンディ:「やっぱり、レイチェルなの」
 レイチェル:「私はお姉様と違って、以前のヴァージョンのデータを殆ど引き継いでおりません。でも、私も予備ボディから起動されました」
 アリス:「あなたのメモリーの欠片と、それまでに確保したKR団の情報から洗い出したデータを基に、じー様の隠れ家を見つけたってわけ。アメリカのルイジアナ州にもあったのね」
 シンディ:「ああ、そういえばそこに1年ほどいたかもしれません」

 ロイドたるシンディの記憶が曖昧だったのは、前期型のシンディがそれほどまでにウィルスに汚染されていた為、データがメチャクチャになっていたからである。
 ウィリアム・フォレスト博士は晩年、ウィルスの開発に傾倒していたからである。
 身近にいたシンディを実験台にしたらしい。

 アリス:「そこをアメリカのDCSS(※)が探索したら、保管されていたレイチェルの予備機を発見したってわけよ」

 ※デイライトコーポレーションセキュリティサービス(デイライト興業警備保障)の略称。デイライトグループ直営の警備会社だが、日本と違って警察並みの捜査権を持つ(企業警察)。
 その為、日本では営業できず、日本法人においては日本国内の警備会社と契約している。

 レイチェル:「私のレプリカが、とんだ御迷惑をお掛けしてごめんなさい。お詫びは何でもします」
 シンディ:「……お言葉に甘えたいところだけど、後が怖いからやめとくわ」
 研究員A:「主任、今のやり取りは?」
 アリス:「どうやらお互い前期型の時に、何かあったようね。レプリカもそうだっだけど、やっぱり本物は違うわね。しっかりシンディの背後も取ってる」
 シンディ:「レイチェルはそうやって、敵組織の要人を何人も暗殺して来ましたからねぇ……」
 レイチェル:「お姉様の100メートルから先の要人狙撃も、百発百中だったそうじゃないですか」
 シンディ:「あんた、ほんとはデータ引き継いでんじゃないの?」
 アリス:「うん。あなた達の仲は良好ね。あとは、エミリーの背後を取らせて……と」
 研究員B:「その実験なら、既に終了しているはずですが……」
 アリス:「タカオの妨害が入ったから、もう1度やり直しよ。シンディも再起動させたし、タカオはシンディに押さえてもらうわ」
 シンディ:「お任せください」

[同日10:30.天候:晴 同場所]

 科学館に続く道を進む敷島のハイヤー。
 音が静かなのはハイブリットだからだろう。
 最近は高級車にも、ハイブリットが導入されている。

 敷島:「うっ……!」
 エミリー:「どうなさいました?」
 敷島:「いや、何か背筋が寒くなったような……?」
 エミリー:「すいません、冷房を弱めてください」
 運転手:「かしこまりました」
 敷島:「いや、多分クーラーの効き過ぎとかじゃないと思うぞ」

 敷島達を乗せたハイヤーが科学館に到着する。
 一般来館者(見学者)用ではなく、通用口の方である。
 ここは爆弾テロがあったこともあり、今現在は急ピッチで復旧工事が進められていた。
 なので、仮設の出入口から中に入ることになる。

 エミリー:「おはようございます。敷島エージェンシーの敷島……」

 エミリーが警備室の受付に行くと、後ろからレイチェルが抱きついた。

 エミリー:「何をしている……!?」

 エミリーが顔を右後ろに振り向かせながら詰問した。

 レイチェル:「ごめんなさい……。アリス博士がそうしろと……」
 敷島:「何やってんだ、あいつ?……てか、本当にエミリーも後ろを取られるんだな」
 エミリー:「そこはレイチェルには勝てません」
 アリス:「はい、実験終了」
 敷島:「何やってんだ、お前?」
 アリス:「もちろん、実験よ」
 敷島:「通用口でやるな、通用口で!」

[同日11:00.天候:晴 同場所・応接室]

 西山:「こんなこともあろうかと、保険に入っておいて良かったですよ。もっとも、掛け金はバカになりませんがね」
 敷島:「でしょうなぁ……」

 敷島は西山館長と向かい合って話をしていた。

 西山:「それで敷島社長にお願いというのはですね、レイチェルの引き取り先を探して頂けないかな……というものでして」
 敷島:「ええっ、私にですか?」
 西山:「はい。いえ、もちろん、それはとても厚かましいお願いであることは重々承知しております」
 敷島:「アメリカで発見されたわけですから、アメリカのデイライト……は嫌がったんでしたね」
 西山:「マルチタイプに限らず、ジャニスとルディで相当懲りたらしく、アメリカではもうアンドロイドの製作そのものをやめようという話が出ているくらいです」
 敷島:「もしそうなったら、それを理由に日本法人は独立へ更に一歩進めるわけですな?」
 西山:「あ、いえ、ちょっとそれは……」
 敷島:「はははは!いや、こりゃどうも失礼しました。実は私に1つ当てがあるんですよ」
 西山:「本当ですか?」
 敷島:「ええ。後で確認しておきますよ。もしかしたら、今日中にお返事ができるかもしれません」

 敷島は大きく頷いた。
コメント (1)
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