報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「探偵のクリスマス・イブ」

2018-12-28 19:40:05 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日20:00.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は埼玉県さいたま市にある斉藤社長の御宅で行われるクリスマスパーティーにお呼ばれした。
 それも無事に終了し、私達はそろそろお暇することにした。

 斉藤秀樹:「うちの運転手に大宮駅まで送らせますので、どうぞ乗ってください」
 愛原:「どうもすいません」

 家の中からガレージに出れるのだが、玄関に靴があるので、外から回ることにした。

 秀樹:「今夜もまた冷えますなぁ」
 愛原:「全くです」

 車は光岡自動車のガリュー。
 主に絵恋さんが乗る車らしい。
 フォルムはまるでロールスロイスのようだが、ベースは日産・ティアナで、ロールスロイスよりも手頃な値段で購入できる。

 
(そもそも光岡自動車自体、なかなか見かけない。作者の祖父は死後、これの霊柩車に遺体として乗車した)

 絵恋:「風邪引いたりしないでね。今度は私が遊びに行くから」
 リサ:「分かった。待ってる」
 秀樹:「愛原さんも風邪など引かれませんよう……」
 愛原:「ありがとうございます」
 秀樹:「あ、こちら、もしよろしければつまらないものですが、お返しです」

 私は斉藤社長から紙袋を受け取った。

 愛原:「これは……」
 秀樹:「私共で製造している入浴剤と風邪薬です」
 愛原:「あ、これはどうもわざわざ……」

 製薬会社ならではの餞別だな。
 私はありがたく受け取ることにした。
 風邪薬を寄越してくる辺り、何ともまあ……。
 私が車に乗り込むと、後でリサも乗った。

 リサ:「また明日、連絡する」
 絵恋:「はーい、待ってまーす」

 リサが車の窓を開け、ギュッと絵恋の手を握ると、

 絵恋:「萌ぇぇぇぇっ!」

 悶絶した。

 秀樹:「それでは良い御年を」
 愛原:「良いお年を」

 車が斉藤家を発車する。

 愛原:「本当に絵恋さん、リサがお気に入りだなー?」
 リサ:「うん。私もサイトー大好き。友達」
 新庄運転手:「御嬢様も初めて御親友ができて、大変お喜びでございます。どうかこれからも末永くお付き合いのほど、私からもお願い申し上げます」
 リサ:「うん」

[同日20:15.天候:晴 JR大宮駅西口→京浜東北線ホーム]

 車で15分ほどで大宮駅に到着する。
 本当はもう少し早く着けるそうなのだが、意外なほどに道路が混雑していた。
 これはさいたまスーパーアリーナのイベントによる影響と、3連休最終日による行楽客によるものらしい。

 新庄:「お疲れさまでした」
 愛原:「ありがとうございます」
 新庄:「今回はお迎えに行けなくて申し訳ありませんでした」
 愛原:「いえ、いいですよ」

 元より電車で行くつもりだったし。

 新庄:「もしまた御来訪の際は、お電話頂けばお迎えに上がります」
 愛原:「ありがとうございます」

 多分私は無いな。
 恐らくリサなら、遊びに行く関係でまたこの車に乗る機会があるかもしれない。
 もっとも、その場合は漏れなく絵恋さんの同乗付きか。
 私達は大宮駅西口の乗降場で車を降りると、すぐに駅構内に入った。

 愛原:「やっぱり寒いねぇ……」
 リサ:「はいっ!」

 私が手を擦ると、リサが手を握って来た。
 BOWならではの高い体温のおかげで、握られた手だけは温まる。

 愛原:「ははは、ありがとう。せっかく餞別にもらった風邪薬だけど、本来はこういうものの世話になりたくはないものだね」
 高橋:「先生、よく見ると包装紙の下にうっすらと『試供品』の文字が見えますよ?」
 愛原:「マジか!」

 もちろん、医薬品たる風邪薬の方ではない。
 医薬品を試供品で渡すと、さすがに薬事法違反だろう。
 医薬部外品の入浴剤の方だ。

 高橋:「きっと営業マンのカレンダー配りのついでに渡していたヤツの余りですよ。全く!」
 愛原:「まあまあ。タダでもらったものなんだから。中身は市販品と一緒だよ」

 それでも箱に入っているものなんだからな。
 場合によっては営業先に、この箱ごと渡していたのかもしれないな。
 いや、もしかしたらスーパーの歳末福引の景品の余りとか???
 まあいいや。
 入浴剤も風邪薬も、箱買いすればそれなりにいい値段がするからな。
 ありがたくお持ち帰りさせて頂くとしよう。

 私達はエスカレーターで2階に上がると、改札口からコンコース内に入った。
 新幹線乗り場は賑わっていたが、私達が向かうのは今度は埼京線ではない。

 高橋:「今度は岩本町回りですか?」
 愛原:「ああ。せっかく体の温まる物をもらったんだからな、アキバから岩本町までの移動も怖くないよ」
 高橋:「大丈夫です。ヲタク狩りでもオヤジ狩りでも援交狩りでも、この俺がボコしてやりますよ」
 愛原:「寒さのことを言ってるんだよ。昭和通りはそこまで危険地帯なのかい?」

 京浜東北線ホームは他のホームと比べて比較的空いていた。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。2番線に停車中の電車は、20時29分発、各駅停車、磯子行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 高橋:「1番前っスか?後ろっスか?」
 愛原:「いやいや。少し後ろの方に行って……」

 途中の車両で、優先席ではない連結器横の3人席がある。
 そこが丸々空いている所を狙うと……。

 愛原:「ほれ、ちょうど3人」
 高橋:「おお〜、さすが先生」
 愛原:「始発駅ならではだな。都営新宿線だと、なかなかこうは行かないよ」

 高橋の話だと、夕方以降は新宿駅始発の本八幡行きが無いらしい。
 橋本だの笹塚だのから来る電車ばかりだ。
 だったらもう岩本町駅から乗った方が良い。
 さすがにもう寒さに慣れた気になっているからな。

〔この電車は京浜東北線、各駅停車、磯子行きです〕
〔This is the Keihin-Tohoku line train for Isogo.〕

 愛原:「あ、リサ。さすがにここは暖房が入ってるから、もう手繋ぎはいいよ」

 冬の電車はお尻の下からジンジン温まるのが良い。

 リサ:「やー」

 リサはそう言って、今度は腕に手を絡めてきた。

 高橋:「おい、クソガキ。テメこのやろ、本来は俺のポジだぞ?あぁ?」
 愛原:「何でオマエのポジなんだよ?」
 高橋:「弟子として師匠のお体を温めるのもまた務めかと……」
 愛原:「無いわ!“大魔道師の弟子”ですら、そんなの無いわ!」

 今年は昨年末からの記憶喪失に悩まされ、高橋のゲイぶりに悩まされる年であったようだ。
 リサがロリ心をくすぐる……もとい、愛嬌を向けてくれることが幸いだったくらいかな。
コメント (11)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“私立探偵 愛原学” 「探偵のクリスマス・イブ」 3

2018-12-28 10:19:55 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日18:15.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサの同級生の斉藤絵恋さんが、実家でクリスマスパーティーをやるというのでお呼ばれした。
 もっとも、私を招待したのは絵恋さんの父親で製薬会社経営の斉藤秀樹社長であるようだ。

 斉藤絵恋:「これ、リサさんに……」

 クリスマスパーティーと言えばプレゼント交換。
 絵恋さんもまたリサにプレゼントを用意していたようだ。

 リサ:「ありがとう。これは私から」
 絵恋:「も、萌えぇぇぇっ!!」

 リビングとダイニングは繋がっている。
 リビングでプレゼント交換の様子を私達は微笑ましく見ていた。

 斉藤秀樹:「ささ、愛原さん。もう一杯どうぞ」
 愛原:「あ、こりゃどうも」
 秀樹:「あのコの面倒見は、上手く行ってらっしゃるようですな」
 愛原:「ええ。……え?」
 秀樹:「業界では裏話として有名ですよ。アメリカのは暴走して結局は施設ごと処分されたわけですが、こちらのはあのようにほぼ完璧であると」
 愛原:「社長……!」
 秀樹:「もちろん国家機密であることは承知しています。だからこそ、ここだけの話です。日本は非核三原則があるせいで、核兵器を持つことはできない。しかもウィルスなどの生物兵器もまた御法度である。しかし同じ生物兵器でも、それがウィルスではなく、本当の生物であればどうでしょう?……という考え方なのだろうと思いますね」
 愛原:「そんな映画みたいな話……」
 秀樹:「実際にあったのが、あの霧生市じゃありませんか」
 愛原:「まあ、そうですね……」
 秀樹:「あの町は福島の原発事故と同様、立入禁止区域に指定されていますが、愛原さんなら特別に立ち入りが許可されるかもしれませんよ?」
 高橋:「なにしれっと先生を危険地域に行かそうとしてるんだ、アンタは!」

 ビールのグラスを持った高橋が斉藤社長を睨みつけた。

 秀樹:「あ、いや、これは失礼。そんなつもりじゃないんだ」
 愛原:「まあ、私も今更行こうと思いませんがね」

 あれから2年くらいは経ったのかな?
 アメリカのラクーンシティやトールオークス市と違って、核爆弾で強制滅菌ということは無かった。
 そこが核保有国と非核保有国との違いだろう。
 今でも町は廃墟として残っているわけだが、福島と違うのは、区域を警備しているのが自衛隊であるということ。
 民間の警備会社にやらせている福島の原発事故とはワケが違うことを暗示している。
 2年経った今でも、生き残ったゾンビが徘徊しているかもしれないということだ。
 聞く所によると、今でもたまに発砲音が聞こえるのだとか。
 あそこは熊が出るほどの山奥の町であったが、熊の方がゾンビに食われる始末だ。

 秀樹:「愛原さんなら、またバイオハザード地帯でも生き残れそうですけどね」
 愛原:「いやー、もうお腹一杯ですよ。顕正号の時ですらいっぱいいっぱいで、記憶障害になってしまったくらいですから。所詮は私も一般人なんです。国連軍BSAAの猛者達のようには行きませんよ」

 正確に言えば国連軍ではないのだが、世間的には国連軍の一部門と説明されることがある。
 国連直轄組織であることに変わりは無い。

 高橋:「先生、この鶏肉美味いっスよ」
 愛原:「本当に七面鳥の丸焼きですね。私は初めてですよ」
 秀樹:「ハハハ、どうぞどうぞ。遠慮なさらず、召し上がってください。……絵恋、そっちにいないでお前も食べなさい!」
 絵恋:「はーい」

 絵恋さんとリサが来ると、彼女らも切り分けられた七面鳥を取った。

 絵恋:「お父さん、ケーキは!?」
 秀樹:「待ちなさい。ケーキは甘い物だから、デザートとして食べる。……とはいえ、そろそろ頃合いかな」
 愛原:「ですね」

 出前で取った寿司もあり、私は中トロを取りながら頷いた。

 秀樹:「そろそろケーキを持ってきてくれ」
 メイド:「はい、かしこまりました」

 それにしても、ふと思ったことなんだが……。
 斉藤家のクリスマスバーティーにしては、少し寂しいような気がした。
 何しろ、斉藤家は秀樹社長と絵恋さんしかいない。

 愛原:「あの、失礼ですが……」
 秀樹:「何でしょうか?」
 愛原:「できればリサの保護者として、奥様にも御挨拶したいのですが……」
 秀樹:「ああ。家内は仕事先の忘年会で、今日は遅くなります。向こうも向こうで、クリスマスパーティーという名の忘年会があるようでして」
 愛原:「そうなんですか」
 秀樹:「大丈夫です。今日は娘たっての希望で行われた臨時のクリスマスパーティーです。我が家のメインパーティーは明日ですよ」

 あ、なんだ。
 それは良かった。
 よくセレブの家にありがちな、両親は多忙でいつも家におらず、クリスマスも本当の意味でクリぼっちという話ではなかったか。

 秀樹:「愛原さん達はもう忘年会は済ませたのですか?」
 愛原:「逆に私達は明日やろうかと。うちの事務所の人間で」
 秀樹:「ああ、なるほど」

 高野君も誘って忘年会だな。
 取りあえず、店は予約しておいた。
 高橋君と高野君はウワバミだから、当然ながらアルコール飲み放題にしておかないとな。

 メイド:「お待たせ致しました」

 メイドさんがケーキを持って来る。
 ケーキ屋で買えそうな、普通のショートケーキのホールだ。
 恐らく明日は、もっと豪華なものが出て来るのだろうな。

 絵恋:「リサさん、リサさん!リサさん、ローソク消して」
 リサ:「いいの?」
 絵恋:「うんうん。私は明日もあるから」
 リサ:「なるほど」

 メイドさんがローソクに火を灯す。
 別に誕生日祝いではないので部屋の明かりを暗くする必要は無いのだが、何故かそういう演出がされた。

 愛原:「!」

 マズイな。
 暗闇の中でリサの目が赤くボウッと光っている。
 だがリサは、すぐにケーキの前に立ってローソクの明かりで誤魔化した。

 リサ:「フッ!」

 で、一息でローソクを消した。

 絵恋:「メリークリスマース!」

 粗方ご馳走を食べた後で、その掛け声は何か違和感がするのだが、何も水を差す必要もあるまい。

 高橋:「粗方ご馳走片付けた後で、その掛け声は違和感マックスだぜ?……ぎゃん!」
 愛原:「お前、ちょっと黙ってろ!」

 私の気遣いを高橋が台無しにしやがったので、丸めた新聞紙で後ろから引っ叩いてやった。

 秀樹:「どうです、愛原さん?ホールケーキはお久しぶりなのでは?」
 愛原:「そうですねぇ。なかなか1人でケーキは食べる機会が無いですからね。せいぜい、コンビニで1人分のヤツを買うくらいでしょうか」
 高橋:「俺は少年院以来……」
 愛原:「しゃらぁーっ!」

 スパーン!

 高橋:「ぶっ!」

 今こいつ、何か言ったよな。
 少年院でホールケーキが出るだと?
 全くもう!本当に日本は『加害者の人権が第一』だな!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする