報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「探偵のクリスマス・イブ」 2

2018-12-27 19:28:25 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日17:27.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 JR北与野駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はリサの友人の斉藤絵恋さんから、クリスマスパーティーにお呼ばれした。
 今は電車で現地に向かっているところである。

 高橋:「先生。もうそろそろですよ」
 愛原:「お……そうか」

 電車内では何もすることが無いので、ついボーッとしてしまった。
 電車がホームに滑り込む。

〔きたよの、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 ここで電車を降りた。
 で、ホームを吹き荒ぶ風に襲われる。

 愛原:「埼玉は寒いなぁ……」
 高橋:「先生。俺が温めてあげますよ」

 高橋がサラッと気持ちの悪いことを言って来たが、リサが私の手を握ってきた。

 リサ:「センセー、温かい?」

 BOWたるリサの体温は高く、まるでカイロを握っているかのようだ。

 愛原:「おおっ、温かい。温かいぞ、リサ」
 リサ:「ヘヘヘ……」
 高橋:「クソガキが……!」

 因みに当たり前のことだが、今のリサは完全に人間形態をしている。

 愛原:「それにしても、ウィルスの不活性化くらい俺にも分かるのに、善場さんも気を使ってくれるな」
 高橋:「先生をナメてるんですよ。ここは1つ、俺が……」
 愛原:「余計なことはするなよ?善場さんは国家権力の代行者だから、国家を敵に回すぞ?」
 高橋:「ちっ、サツの犬か……」
 愛原:「国家公務員だから、地方公務員の警察より怖いんだって」

 階段を下りて改札口を出る。
 各駅停車しか止まらない小さな駅の割に賑わっているのは、近くにさいたまスーパーアリーナがあるからだろう。
 何かクリスマスイベントが行われていても不思議ではない。
 しかし、私達の行き先はそれとは反対方向である。

 高橋:「先生、こっちですよ」
 愛原:「ああ」

 高橋はスマホを見ていた。
 ここから先はスマホの地図を頼りに行くしか無い。
 何故ならリサはこの前、車で行ったからだ。
 電車で行くのは初めてになる。
 ま、近くまで行けば分かるだろうが。

 愛原:「迷子にならないよう頼むよ?何しろ、東京より寒いからな」
 高橋:「任せてください」

 高橋はダウンジャケット、私はダウンコートを羽織っている。
 私は一応スーツを着て来たのだが、高橋は相変わらずラフな格好だ。
 誰かに“相棒”の右京さんと亀山みたいだと言われたことがある。
 私達は私立探偵であって、警察関係者ではないのだが。

 愛原:「リサは寒くないのか?」
 リサ:「ううん。全然。大丈夫」
 愛原:「そうか」

 リサも一応、ジャンパーを羽織ってはいるが、下半身はデニムのショートパンツに黒いソックスをはいているだけだ。
 つまり、ほとんど生足だということ。
 体温が高い為に、寒さを感じにくいのかもしれない。
 BOWの中には倒されると発火して消えてしまう者がいるが、総じて通常時の体温が高い者が多いという。
 倒されるということは、致命傷を食らうということだから、それで何か身体に体内のウィルスが作用して発火するのだろうな。
 すまないが、この辺は私にも分からない。
 善場氏に聞けば研究所に問い合わせてくれるのだろうが、何かまた分かりやすく説明する為に、誤解を受ける表現をされそうだ。
 ただ、その法則からすれば、リサももし倒されるようなことがあるとすれば、そういう死に様となる可能性は高いということだ。

 リサ:「もう少しくっつく?この方が温かいよ?」
 愛原:「そ、そうだな。ありがたいけど、怖いお兄さんが睨んでるから、このくらいでいいよ」
 高橋:「……!!」

 着く前にバッドエンドを迎えてしまう。

[同日17:45.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 さいたま市でも屈指の高級住宅街に、斉藤絵恋さんの実家はあった。

 リサ:「あっ、このお家だよ!」
 愛原:「ほお、凄いな。3階建てか」

 茶色のレンガの外壁が特徴だった。

 愛原:「高橋、ピンポンやってくれ」
 高橋:「ハイ」

 高橋は背負っていたリュックの中に手を入れると、中からラケットと……。

 愛原:「誰が卓球やれっつったよ!?」
 高橋:「えっ?ですが……」
 愛原:「そのピンポンじゃねーよ!」
 リサ:「お兄ちゃん、大ボケ」
 高橋:「あぁっ!?」

 リサが代わりにインターホンを押した。

 リサ:「愛原リサでーす!」

 インターホンのスピーカー越しにリサが言った。
 すると、中からバタバタという音が聞こえたかと思うと、ズデーンという何か転ぶ音が聞こえた。

 愛原:「んんっ!?」
 高橋:「これ、NGですか?」

 雲羽:『続けて!』(←カンペ)

 で、やっと玄関のドアが開く。

 メイド:「愛原様ですね?お待ちしておりました」
 愛原:「ど、どうも、こんばんは。あ、あの……さっき何か、大きな音が聞こえて来たんですけど、大丈夫ですか?」
 高橋:「事件でしたら、先生が解決しますよ?」
 メイド:「申し訳ございません。御嬢様が喜びのあまり、急いで玄関に向かわれたのですが、途中、滑って転んでしまわれまして……」
 斉藤絵恋:「ちょっと!廊下のワックス掛け過ぎよ!どうなってるのよ!?」
 執事:「申し訳ございません、御嬢様。どうか、御機嫌を……」

 ちょっとドジっ子な御嬢様なのかな???

 リサ:「サイトー、大丈夫?」
 絵恋:「な、なんのそのこれしき……ハハハ……!」

 ワックスでピカピカに磨かれた廊下と同様、ピカピカのおでこに絆創膏を絵恋さんは貼っていた。

 斉藤秀樹:「やあ、どうも。東京からわざわざ御苦労様です」
 愛原:「お招き頂いて、ありがとうございます。あ、こちらつまらないものですが……」

 私は手土産を渡した。

 秀樹:「銀座の風月堂ですか。あそこのお菓子は美味しいですよ。さすが愛原さん、目の付け所が違いますねぇ」
 愛原:「私のクライアントの国家公務員さん達も御用達にしているものらしいんですよ。すいません、この程度のセンスしか思いつかなくて……」
 秀樹:「いえいえ、とんでもない。ありがたく頂戴します。ささ、どうぞ。外は寒かったでしょう。もう間もなくパーティーの準備ができますから、どうぞあちらでお待ちください」

 私達は応接間へ案内された。

 秀樹:「あの球技大会以降、何か動きはありましたか?」
 愛原:「特に無いですね。多分、クライアントさん達で動いてはいるんでしょうけど。調査終了後については関知しないのが、探偵というものでして」
 秀樹:「それもそうですね」
 愛原:「それよりも大丈夫ですか?何か、御嬢さんが派手に転んだみたいですけど……」
 秀樹:「ああ、大丈夫です。娘のおでこは頑丈ですから」
 愛原:「はあ……」
コメント (2)
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“私立探偵 愛原学” 「探偵のクリスマス・イブ」

2018-12-27 11:10:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[12月24日16:21.天候:晴 東京都墨田区菊川 都営地下鉄菊川駅]

〔まもなく1番線に、京王線直通、快速、橋本行きが10両編成で到着します。黄色い線の内側で、お待ちください。……〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日はクリスマス・イブだが、外は風が強い。
 そこから逃げるように地下鉄の駅に入ったわけだが、やっぱりここも電車が接近すると風が強い。

〔「1番線、ご注意ください。新宿、笹塚方面、快速、橋本行きが参ります。都営新宿線内並びに笹塚までは各駅に停車致します」〕

 強風を伴って京王電鉄の車両がやってきた。

〔1番線は京王線直通、快速、橋本行きです〕

 菊川駅には最近ホームドアが付いた。
 その分、ドアの開閉にブランクが発生するので、ホームドア無しの時と比べるとややまだるっこしさを感じる。
 まあ、そのうち慣れるだろうが。

〔きくかわ〜、菊川〜〕

 私は高橋とリサを伴って電車に乗り込んだ。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 京王電車ならではの甲高いドアチャイムが鳴って、ドアが閉まった。
 外からはホームドアの甲高いドアチャイムが聞こえて来る。
 そのドアが閉まってから発車する為、やっぱりまだるっこしい。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Morishita.Please change here for the Oedo line.〕
〔“大魔道師の弟子”でお馴染みのワンスターホテルへおいでの方は、次でお降りください〕

 ところで、どうして私達がこの電車に乗っているのかというと、斉藤さんの実家でクリスマスパーティーがあり、私達がお呼ばれしたからである。

 リサ:「サイトー、家で待ってるって」
 愛原:「そうか。俺達も急がなきゃな」
 高橋:「18時からでしょう?このルートで行っても、超余裕ですって」
 愛原:「それもそうだな」

 因みに私達のルートは新宿回り。
 知っている人は遠回りのように思うかもしれないが致し方無い。

 愛原:「外はクソが付くほど寒い」
 高橋:「先生に風邪を引かれたら、俺は責任を取って腹を掻っ捌かなければなりません」
 愛原:「せんでいい!……歳のせいか、ここ最近、風邪を引きやすくなってねぇ……」

 新宿回りなら、岩本町回りと違って駅の外に出なくていいから、寒風に吹き晒されることもないというわけだ。

 高橋:「先生、まだそういう御歳でも……」
 愛原:「ボスからもそう言われて笑われたよ。『キミ、そういうセリフはせめて40歳を過ぎてから言うもんだよ』ってさ」
 高橋:「なるほど……」
 愛原:「ま、とにかくこの仕事は体と頭が資本だ。両方やられる風邪には十分注意しないとな」
 高橋:「メモっておきます!」

 高橋はノートを取り出すと、揺れる電車の中だというのに器用にメモを取り出した。
 てか、わざわざメモするまでもないだろう。
 因みにインフルエンザの予防接種は既に終えている。
 リサに関しては……全身ウィルスなのでその心配は無い。
 いや、ほんとマジで。
 前、善場さんに確認したら、『研究施設での実験結果を取り寄せてみましたが、リサ・トレヴァーにインフルエンザウィルスを投与してみたところ、インフルエンザウィルスの方が死滅したそうです』とのこと。
 リサが持っているウィルスは強過ぎて、感染させた人間を化け物に変えさせるほどであるが、上手いこと調整すれば、どんなウィルスでも死滅させる魔法の特効薬なんかできるかもしれないな。
 もしかしたら、リサの機嫌を取っているのも、それが目的だったりして。
 暴走させて射殺処分なんかしたら、今までの研究がパーになるからな。

 愛原:「クリスマスパーティーは初めてか?」
 リサ:「うん」

 研究所にはリサと似た年恰好の娘、似たような境遇の娘が複数いたようだが、とてもクリスマスパーティーをやるような華やいだ雰囲気ではなかったようだ。

[同日16時21分 天候:晴 新宿駅]

〔「まもなく新宿、新宿です。お出口は、右側です。この電車は京王線に入ります、橋本行きです。笹塚まで各駅に停車した後、快速運転となります。京王線内をご利用のお客様、停車駅にご注意ください。本日も都営地下鉄新宿線をご利用頂きまして、ありがとうございました」〕

 愛原:「どーれ、着いたか……」

 途中で席が空いたので、私はローズピンクのシートに腰掛けていた。

〔「ご乗車ありがとうございました。新宿、新宿です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕

 下車客も多い代わりに、乗車客も車内には多い。
 多分、京王本線の客は京王新宿駅から乗るだろうから、京王新線内の乗客か、京王相模原線に向かう乗客達だな。

 愛原:「さあ、高橋。出番だぞー?ちゃんとJR埼京線のホームまで連れて行けよー?」
 高橋:「わっかりました!この俺にお任せ!」

 チョロ男乙www
 あとはこの『歩くナビタイム』に任せれば良い。
 それにしても、改札口を出ると京王線のエリアなのか、そこ関係の店を通ることになる。
 時期が時期だけに仕方が無いのだが、あちこちでクリスマスセールが実施されている。

 愛原:「今年も女っ気の無いクリスマスか……」
 リサ:「私がいるじゃない」(←中学1年生)
 高橋:「先生!クリスマスは所詮性夜ですよ!?そういう考えはやめてください!」

 リサの言葉を上書きするように、高橋がズイッと私の前に出て言った。

 愛原:「いやいや、軽い呟きに重いツッコミするなよ〜」
 高橋:「この21世紀は、『男っ気』がトレンドです。俺は先生の為に脱ぎます」
 愛原:「脱がんでいい!」

 せめて、『一肌』という単語が入っていればまた違ったのだが……。

[同日16:52.天候:晴 JR新宿駅・埼京線ホーム→埼京線1659K電車10号車]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。3番線に停車中の電車は、16時52分発、各駅停車、大宮行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 私の希望通り、高橋は迷わずに埼京線ホームに着くことができた。
 1号車から混んでくるこの電車、1番後ろの10号車はガラガラという寸法である。
 モスグリーンの座席に腰掛けると、すぐに発車の時刻になった。
 ホームからはポップアップな発車メロディが聞こえて来る。

〔3番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 あとはこのまま北与野駅まで乗っていれば良い。
 こちらはちゃんとドアが閉まったのだが、前の車両の方で誰かがドアに挟まれたのか、すぐには発車しなかった。
 駆け込み乗車はやめましょう。
 というわけで、電車がやっと発車する。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、大宮行きです。次は、池袋です。……〕

 ところでリサはバッグを持っていて、その中にはプレゼント交換用のプレゼントが入っている。
 一体何が入っているのか気になったのだが、さすがの私にも教えてくれなかった。
 うむ、この辺は女の子らしい。
 もっとも、私は私で手ぶらで行くのも何だから、手土産は持参であるのだが。
 相手は富豪だから、あまり変な物は持って行けないんだよなぁ……。

 高橋:「先生、外はもう真っ暗ですね」
 愛原:「冬至が過ぎたばっかりだからな、もう16時で暗くなるよ」

 昔、仕事で冬の北海道と沖縄に行ったことがある。
 まだ高橋が弟子入りする前の話だ。
 16時で仕事先の北海道は真っ暗なのに、沖縄は17時になってもまだ明るかったのだ。
 私にとっては、日本は国土の広い国だよ。
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