[12月24日16:00.天候:晴 長野県北部山中 マリアの屋敷]
稲生:「お疲れさまです。こちらで受付お願い致します」
今回もまたエントランスホールで受付係をやる稲生。
この屋敷が年に1度だけ賑わう日がある。
それがこのクリスマス・イブとクリスマスである。
24日の夜にパーティーが始まり、25日の朝方まで行う。
もっとも、通しで参加するメンバーは限られているが。
魔道師がクリスマスパーティーなどと、とても信じられぬと思うだろう。
もちろん、別にイエス・キリストの生誕を祝うつもりは毛頭無い。
イエスの名を使って、『魔女狩り』を行う一部悪質教団から逃れる為であるのだ。
最近の悪質教団はイスラム過激派並みに武装しており、それで魔道師の体をバラバラにしたり、蜂の巣にしたりして、『現代における火あぶり』とするそうである。
それを取り締まる異端審問官や救世軍も存在するが、かのようなカルト教団は世界各地に散在している為、とても手が回るものではない。
そもそも、中世ヨーロッパではそんな異端審問官もまた魔女狩りを行う側……ゲフンゲフン。
イスラム教も似たようなことをするので、比較的魔女狩り上等教団が少なく、且つムスリムの数も少ない日本国内は安全地帯とされた。
しかも都合の良いことに、大きな屋敷をイリーナ組は抱えている。
少なくともクリスチャン達がイキるクリスマス期間中、一時避難所としての機能を発揮するというわけだ。
エレーナ:「ちわーっ!」
リリアンヌ:「フヒヒ……。こんばんは……」
稲生:「おっ、エレーナとリリィ。ここに名前を書いて」
エレーナ:「了解。ポーリン先生は後から来られる」
稲生:「分かったよ」
エレーナはここぞとばかりに日本語で自分の名前を書いた。
他の魔道師達の殆どが英語やロシア語で書いているにも関わらずだ。
稲生:「『私だけ素で日本語喋れます』アピールしてるねぇ……」
因みにリリアンヌはアルファベットで書いた。
フランス人なのでフランス語で書いたのかもしれないが、そもそも名前が固有名詞で、しかもロシアのキリル文字とは違い、英語もフランス語も基本的にアルファベットは同じである為、稲生にはどちらで書いたのかは分からなかった。
エレーナ:「そもそも参加するメンバーも決まってるからね。キャシーも日本語喋るし、日本語も書けるけど、ここには来れない」
稲生:「そうだね。それはどうして?」
エレーナ:「レストランでクリスマスパーティーの予約が入るから」
稲生:「ああ!」
エレーナの先輩であるキャサリンは、エレーナのホテルに隣接しているレストランを切り盛りしている。
表向きは創作料理であるが、魔法使いならではの材料を使ったりしている。
魔法薬の余りなどを使用しているのだが、口コミでは『洋風薬膳』とか『薬膳洋食』とか呼ばれて、それなりに有名である。
稲生:「大丈夫かな?魔女狩り集団に見つからないかな?」
エレーナ:「さしものバカ共も、まさかレストランでクリスマスパーティーの主催をしているとは思っていないから、見事に誤魔化せているみたいだよ?」
稲生:「なるほどね」
ウラジオストクに住んでいるナディアは稲生の従兄の稲生悟郎と結婚している。
そこも安全なのか不明だが、こちらのパーティーに参加することはない。
エレーナ:「稲生氏も見習とはいえ、もう魔道師なんだから気をつけろよ」
稲生:「いざとなったら、正証寺か大石寺に逃げ込むよ。てか、法華講員の僕はそんなクリスチャン達を破折する側なんだけど……」
エレーナ:「あ、その手があったか。さすがに寺の中までは入って行けないもんねぇ……」
稲生:「ぶっちゃけ、この屋敷より安全かもよ?」
エレーナ:「言えてる。じゃ、今度は正証寺を避難先にさせてもらおうかな?」
稲生:「ちょうど良かった。正証寺の誓願、残り2名なんだって。エレーナとリリィの2名が御受誡で、これで誓願達成だ」
エレーナ:「勝手に入信さすな!」
リリアンヌ:「フヒッ!?」
稲生:「ダメだよ。タダで避難させないよー?」
エレーナ:「タダより高いモノは無いって本当だな。行こ行こ。触らぬ仏に祟りなしだ」
リリアンヌ:「はい」
稲生:「触らぬ神、だろ?全く……」
アンナ:「それじゃ、この雪山で起きた男女の凄惨な事件の話をしてあげましょうか……」
稲生:「うわっ、アンナ?!」
呪いの魔女、アンナがやってきた。
マリアは呪術がイリーナより禁止されているが、色々な魔法に挑戦しているアナスタシア組のアンナは呪術の研究に勤しんでいる。
稲生を気に入って以来、マリアが油断ならぬ相手に認定するほどになった。
ストレートの黒髪ロングが特徴である。
瞳の色も茶色と、どこか日本人的な感じがしないでもないが、やはり目鼻立ちははっきりしており、ヨーロッパ人であることを物語っている。
人種差別には色々なものがあるが、白人同士でも差別があり、赤毛が下に見られるという。
日本人から見れば、それなら金髪碧眼が最上とされるのだろうと思いきや、ここ最近のトレンドは黒髪黒目らしい。
アナスタシアもまた黒髪のショートボブである。
但し、こちらは緑眼であるが。
アンナ:「私も参加させてもらうね?」
稲生:「どうぞどうぞ。こちらに名前を……」
アンナの呪術は、呪いを直接掛けるタイプである。
呪いを掛けたい相手に男女間で起きた凄惨な事件の話をする。
聞き手は単なる又聞きで、話の内容を追体験するだけのはずなのだが、段々と話が侵食してくるのである。
そして、男だったら話の主人公の男が死ぬシーンに差し掛かると、それと同じ死に方を聞き手もしてしまうというものだ。
稲生:「あ……」
大食堂の方からピアノの音が聞こえて来た。
恐らくメイド人形のクラリス辺りが弾いているのだろう。
曲名はショパン作『幻想即興曲』。
アンナ:「アリッサー!」
マリア:「誰がアリッサだ、この野郎!」
アンナ:「ハンマー男に狙われた魔女見習いの話をしてあげましょうか?」
マリア:「勇太から既に結末は聞いている!」
稲生:「舞台はイギリスで、主人公はイギリス人。しかも金髪ショートボブで、カチューシャ付き。確かに、マリアさんと似てますよ」
マリア:「てか、リアルなアリッサは?まだ来てないのか?」
アンナ:「アナスタシア組の中で、私が1番乗り」
アンナは稲生にウインクした。
稲生:「ど、どうも……」
マリア:「どうもじゃない!」
稲生:「アリッサさんはまだ来てないねぇ……。あれ?アリッサさんって、前、殺されなかったっけ?」
マリア:「ああ、それとは別のアリッサね。うちの門内、名前被りが多いから」
稲生:「そうなんですか」
マリア:「マリアという名前だけであと2人来るから」
稲生:「マジですか!」
マリア:「今日だけは私を『マリアンナ』と呼んだ方がいいかもね」
尚、稲生は日本人的な感覚でマリアンナを『マリア』と呼んでいるが、英語圏的にはハズレ。
実はマリアは『マリアンナ』の短縮形ではない。
全く別の呼び方である。
だから稲生の呼び方は、本来他人を呼ぶ呼び方なのである。
それが何故、こういう呼び方で浸透したのかは【字数制限によりカット致します】。
稲生:「お疲れさまです。こちらで受付お願い致します」
今回もまたエントランスホールで受付係をやる稲生。
この屋敷が年に1度だけ賑わう日がある。
それがこのクリスマス・イブとクリスマスである。
24日の夜にパーティーが始まり、25日の朝方まで行う。
もっとも、通しで参加するメンバーは限られているが。
魔道師がクリスマスパーティーなどと、とても信じられぬと思うだろう。
もちろん、別にイエス・キリストの生誕を祝うつもりは毛頭無い。
イエスの名を使って、『魔女狩り』を行う一部悪質教団から逃れる為であるのだ。
最近の悪質教団はイスラム過激派並みに武装しており、それで魔道師の体をバラバラにしたり、蜂の巣にしたりして、『現代における火あぶり』とするそうである。
それを取り締まる異端審問官や救世軍も存在するが、かのようなカルト教団は世界各地に散在している為、とても手が回るものではない。
そもそも、中世ヨーロッパではそんな異端審問官もまた魔女狩りを行う側……ゲフンゲフン。
イスラム教も似たようなことをするので、比較的魔女狩り上等教団が少なく、且つムスリムの数も少ない日本国内は安全地帯とされた。
しかも都合の良いことに、大きな屋敷をイリーナ組は抱えている。
少なくともクリスチャン達がイキるクリスマス期間中、一時避難所としての機能を発揮するというわけだ。
エレーナ:「ちわーっ!」
リリアンヌ:「フヒヒ……。こんばんは……」
稲生:「おっ、エレーナとリリィ。ここに名前を書いて」
エレーナ:「了解。ポーリン先生は後から来られる」
稲生:「分かったよ」
エレーナはここぞとばかりに日本語で自分の名前を書いた。
他の魔道師達の殆どが英語やロシア語で書いているにも関わらずだ。
稲生:「『私だけ素で日本語喋れます』アピールしてるねぇ……」
因みにリリアンヌはアルファベットで書いた。
フランス人なのでフランス語で書いたのかもしれないが、そもそも名前が固有名詞で、しかもロシアのキリル文字とは違い、英語もフランス語も基本的にアルファベットは同じである為、稲生にはどちらで書いたのかは分からなかった。
エレーナ:「そもそも参加するメンバーも決まってるからね。キャシーも日本語喋るし、日本語も書けるけど、ここには来れない」
稲生:「そうだね。それはどうして?」
エレーナ:「レストランでクリスマスパーティーの予約が入るから」
稲生:「ああ!」
エレーナの先輩であるキャサリンは、エレーナのホテルに隣接しているレストランを切り盛りしている。
表向きは創作料理であるが、魔法使いならではの材料を使ったりしている。
魔法薬の余りなどを使用しているのだが、口コミでは『洋風薬膳』とか『薬膳洋食』とか呼ばれて、それなりに有名である。
稲生:「大丈夫かな?魔女狩り集団に見つからないかな?」
エレーナ:「さしものバカ共も、まさかレストランでクリスマスパーティーの主催をしているとは思っていないから、見事に誤魔化せているみたいだよ?」
稲生:「なるほどね」
ウラジオストクに住んでいるナディアは稲生の従兄の稲生悟郎と結婚している。
そこも安全なのか不明だが、こちらのパーティーに参加することはない。
エレーナ:「稲生氏も見習とはいえ、もう魔道師なんだから気をつけろよ」
稲生:「いざとなったら、正証寺か大石寺に逃げ込むよ。てか、法華講員の僕はそんなクリスチャン達を破折する側なんだけど……」
エレーナ:「あ、その手があったか。さすがに寺の中までは入って行けないもんねぇ……」
稲生:「ぶっちゃけ、この屋敷より安全かもよ?」
エレーナ:「言えてる。じゃ、今度は正証寺を避難先にさせてもらおうかな?」
稲生:「ちょうど良かった。正証寺の誓願、残り2名なんだって。エレーナとリリィの2名が御受誡で、これで誓願達成だ」
エレーナ:「勝手に入信さすな!」
リリアンヌ:「フヒッ!?」
稲生:「ダメだよ。タダで避難させないよー?」
エレーナ:「タダより高いモノは無いって本当だな。行こ行こ。触らぬ仏に祟りなしだ」
リリアンヌ:「はい」
稲生:「触らぬ神、だろ?全く……」
アンナ:「それじゃ、この雪山で起きた男女の凄惨な事件の話をしてあげましょうか……」
稲生:「うわっ、アンナ?!」
呪いの魔女、アンナがやってきた。
マリアは呪術がイリーナより禁止されているが、色々な魔法に挑戦しているアナスタシア組のアンナは呪術の研究に勤しんでいる。
稲生を気に入って以来、マリアが油断ならぬ相手に認定するほどになった。
ストレートの黒髪ロングが特徴である。
瞳の色も茶色と、どこか日本人的な感じがしないでもないが、やはり目鼻立ちははっきりしており、ヨーロッパ人であることを物語っている。
人種差別には色々なものがあるが、白人同士でも差別があり、赤毛が下に見られるという。
日本人から見れば、それなら金髪碧眼が最上とされるのだろうと思いきや、ここ最近のトレンドは黒髪黒目らしい。
アナスタシアもまた黒髪のショートボブである。
但し、こちらは緑眼であるが。
アンナ:「私も参加させてもらうね?」
稲生:「どうぞどうぞ。こちらに名前を……」
アンナの呪術は、呪いを直接掛けるタイプである。
呪いを掛けたい相手に男女間で起きた凄惨な事件の話をする。
聞き手は単なる又聞きで、話の内容を追体験するだけのはずなのだが、段々と話が侵食してくるのである。
そして、男だったら話の主人公の男が死ぬシーンに差し掛かると、それと同じ死に方を聞き手もしてしまうというものだ。
稲生:「あ……」
大食堂の方からピアノの音が聞こえて来た。
恐らくメイド人形のクラリス辺りが弾いているのだろう。
曲名はショパン作『幻想即興曲』。
アンナ:「アリッサー!」
マリア:「誰がアリッサだ、この野郎!」
アンナ:「ハンマー男に狙われた魔女見習いの話をしてあげましょうか?」
マリア:「勇太から既に結末は聞いている!」
稲生:「舞台はイギリスで、主人公はイギリス人。しかも金髪ショートボブで、カチューシャ付き。確かに、マリアさんと似てますよ」
マリア:「てか、リアルなアリッサは?まだ来てないのか?」
アンナ:「アナスタシア組の中で、私が1番乗り」
アンナは稲生にウインクした。
稲生:「ど、どうも……」
マリア:「どうもじゃない!」
稲生:「アリッサさんはまだ来てないねぇ……。あれ?アリッサさんって、前、殺されなかったっけ?」
マリア:「ああ、それとは別のアリッサね。うちの門内、名前被りが多いから」
稲生:「そうなんですか」
マリア:「マリアという名前だけであと2人来るから」
稲生:「マジですか!」
マリア:「今日だけは私を『マリアンナ』と呼んだ方がいいかもね」
尚、稲生は日本人的な感覚でマリアンナを『マリア』と呼んでいるが、英語圏的にはハズレ。
実はマリアは『マリアンナ』の短縮形ではない。
全く別の呼び方である。
だから稲生の呼び方は、本来他人を呼ぶ呼び方なのである。
それが何故、こういう呼び方で浸透したのかは【字数制限によりカット致します】。