[12月10日24:10.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル1Fロビー]
エレーナは夜勤でフロントに入っている。
といってもこんな小さなビジネスホテルで、月曜日の夜中だ。
こんな時間に客がやってくるとは思えない。
こういう時、エレーナは隠れてテトリスをやっていたりしていたのだが、最近では水晶球占いなんかも始めている。
魔法を使った占いで稼ぐのも魔道師のベタな法則である。
もっとも、エレーナはホテルで住み込みのバイトをしながら『魔女の宅急便』をして稼ぐ方を選んでいる。
と、そこへエントランスの自動ドアが開いた。
エレーナ:「いらっしゃ……」
鈴木:「やあ」
入ってきたのは鈴木だった。
エレーナに一目惚れしてから、ほぼ毎日会いに来ている。
しかも、時間を問わずだ。
鈴木:「こんな所に蕎麦屋が出来たのか」
エレーナ:「ソバ屋?!……あ、アタシに言ってるのかな???」
鈴木:「ざるそば1つもらえるかな?……ソバ抜きで」
エレーナ:「それもうザルじゃないのよ!ザルとツユだけだよ!なに?そこの大通りにできたソバ屋のこと?今アタシ仕事中だから、夜食なら1人で行って!……この時間ヒマだから、ソバ屋じゃなくて占いをすることにしたんだよ」
鈴木:「キミが何も売らないのなら、俺は何も買わないよ?」
エレーナ:「いや、その売る売らないじゃなくて!これ!水晶球占いのこと!手相も勉強してね、手相占いもやってるよ」
鈴木:「1回5000円……」
エレーナ:「相場通りでしょ」
鈴木:「キミと話をしたら、俺が5000円もらえるのか?」
エレーナ:「テレクラのサクラか!悩みが無いんだったら帰って!商売の邪魔だから!」
鈴木:「この世に悩みの無い人間など、いると思うか?」
エレーナ:「……占うの!?いや、占うんだったらいいんだけどさ」
鈴木:「1つ、占ってもらおうかな」
エレーナ:「はい、それならどうぞ。そこに座って」
鈴木:「その前に、1つ俺と勝負をしないか?」
エレーナ:「いや、しないよ。何で?」
鈴木:「次に入って来るお客が、男か女かを当てるんだ。キミが勝ったら、俺はあの時の事件の真相を話そう」
エレーナ:「……事件?」
鈴木:「だがもし、キミが負けたら、あの魔女は暗い地下牢に鎖で繋がれたままだ。どうだ?」
エレーナ:「やだもうなに!?あんた、何の事件に関わってんの?!誰だよ!?暗い地下牢に繋がれた魔女って!?うちの門流のヤツ!?」
鈴木:「やるのか?やらないのか?」
エレーナ:「やらないよ!嫌だよ!そんなカネにもならない事件、アタシ関わりたくないよ!アタシ、巻き込まれたくない!」
鈴木:「よし。いいだろう」
エレーナ:「何よ?いいだろうって……。占うのね?それじゃ、アンタ……鈴木……何だっけ?ホラ、下の名前教えて」
鈴木:「人に名前を聞く時は、まず自分から名乗る。違うかい?俺もキミの名字を聞いてないよ?」
エレーナ:「アンタのことだから、どうせ調べて知ってるんでしょ?……マーロン。エレーナ・M・マーロンだよ」
鈴木:「サド鈴木公爵です」
エレーナ:「ウソつけ!なにフザけてんの!?」
鈴木:「先にフザけたのはどっちだい?」
エレーナ:「いやアタシ、別にフザけてないし!エレーナ・M・マーロンで間違い無いから!」
鈴木:「真ん中の名前をイニシャルにするようなヤツに、自分の本名を名乗ると思うか?」
エレーナ:「……超メンドくせぇ。なに?今日のアンタ、超メンド臭いよ?もしかして酔っ払ってる?」
鈴木:「酒は飲めるだけ飲む。違うかい?」
エレーナ:「……うーん、そうだけど!自分で言うのも何だけど、その考えは危険だよ!?」
鈴木:「人はそれだけ悩みを抱えて生きているということだ。で?キミの名は?」
エレーナ:「有名なアニメのタイトル、パクってんじゃねーよ!……マモン。ミドルネームはキリスト教で強欲を司る悪魔マモンと契約しているから、その悪魔の名前を使う。だからアタシのフルネームはエレーナ・マモン・マーロン。日本人だと語呂の悪い名前だろ?だからアタシは、基本的にミドルネームは名乗らないんだ」
鈴木:「鈴木弘明です。……そして!?」
エレーナ:「他に誰がいるんだよ!?やめろよ!そんなゲストの紹介みたいなことすんの!……で、何を占うの?」
鈴木:「俺は何に悩んでると思う?」
エレーナ:「アンタは非モテのDTだから、やっぱ女性関係かな?」
鈴木:「女には……海を見せておけばいい」
エレーナ:「は?」
鈴木:「女には夜景を見せておけばいい。女にはスポーツカーに乗せておけばいい。女にはドリカムを聴かせておけばいい。ただそれだけだ」
エレーナ:「ものすっごい偏見だね!?いやマジ、すっごい偏見!」
鈴木:「キミもそうだろ?キミも所詮、女だ」
エレーナ:「いや女だけど!アタシは別にそんなの望んでないから!女が皆そうじゃないからね!?因みにアタシには札束と宝石の山見せてくれればいい!」
鈴木:「そうかい」
エレーナ:「女性関係じゃないのね?じゃあ、仕事関係かな?それは水晶球じゃなく、手相占いでやってあげるから。手を出して。……はいはい、はいっと」
しかし鈴木、クルッと手をひっくり返した。
エレーナ:「な、なに?何よ?」
鈴木:「掌返し!」
エレーナ:「やかましいわ!占うんだから、余計なことしない!」
エレーナは鈴木の掌をルーペで見た。
エレーナ:「あら?あんた、意外と良い相してるじゃない。近々、出世するっぽいよ?来年には役職に就けてもらえるんじゃない?」
鈴木:「仕事をしてないのにか?」
エレーナ:「してねーのかよ!じゃあ、何に悩んでるのよ!?」
鈴木:「お寺で静かに書籍を読んでいる青年部員を、無理やり街頭折伏に誘う婦人部のオバちゃんをどうしたらいいと思う?」
エレーナ:「知らねーよ!ほっとけよ!仏なだけに!勝手にやらせておけばいいだろ!」
鈴木:「何故、鉄ヲタが大好きな先頭車両を女性専用車にしやがるのか、見てくれ」
エレーナ:「出てないよ、アンタの手相に!出て無いです!……ったくもう!」
鈴木:「1つ聞くが……」
エレーナ:「なに?」
鈴木:「俺は何歳まで生きられる?」
エレーナ:「そうねぇ……。さっき手相見せてもらった限りでは、生命線結構長かったんで……まあ、100歳くらいまで生きられそうだけどね。もし気になるんだったら、追加料金で水晶球でも占うよ?」
鈴木:「フフフフフ……!ハハハハハハハ!」
エレーナ:「なに?何がおかしいの?」
鈴木:「残念ながらハズレだな」
エレーナ:「はぁ!?何でハズレって分かるわけ!?そんなの時間経過してみないと分かんないでしょ!?」
鈴木:「俺には分かる。何故なら、俺はこれから電車に飛び込み、このクソみたいな人生に幕を下ろす。日蓮大聖人も魔道師も、俺を救うことなどできない。じゃあな!アディオス・アミーゴ!」
鈴木はそう言って、ホテルから出て行った。
エレーナ:「いや、ちょっと待って待って!金づる……じゃなかった!何もそんな早まらなくてもいいでしょ!?……って、うおっ!?戻ってきた戻ってきた!……なになに?どうしたの!?」
鈴木:「終電が行った後でした」
エレーナ:「もう帰れよ!!」
エレーナは夜勤でフロントに入っている。
といってもこんな小さなビジネスホテルで、月曜日の夜中だ。
こんな時間に客がやってくるとは思えない。
こういう時、エレーナは隠れてテトリスをやっていたりしていたのだが、最近では水晶球占いなんかも始めている。
魔法を使った占いで稼ぐのも魔道師のベタな法則である。
もっとも、エレーナはホテルで住み込みのバイトをしながら『魔女の宅急便』をして稼ぐ方を選んでいる。
と、そこへエントランスの自動ドアが開いた。
エレーナ:「いらっしゃ……」
鈴木:「やあ」
入ってきたのは鈴木だった。
エレーナに一目惚れしてから、ほぼ毎日会いに来ている。
しかも、時間を問わずだ。
鈴木:「こんな所に蕎麦屋が出来たのか」
エレーナ:「ソバ屋?!……あ、アタシに言ってるのかな???」
鈴木:「ざるそば1つもらえるかな?……ソバ抜きで」
エレーナ:「それもうザルじゃないのよ!ザルとツユだけだよ!なに?そこの大通りにできたソバ屋のこと?今アタシ仕事中だから、夜食なら1人で行って!……この時間ヒマだから、ソバ屋じゃなくて占いをすることにしたんだよ」
鈴木:「キミが何も売らないのなら、俺は何も買わないよ?」
エレーナ:「いや、その売る売らないじゃなくて!これ!水晶球占いのこと!手相も勉強してね、手相占いもやってるよ」
鈴木:「1回5000円……」
エレーナ:「相場通りでしょ」
鈴木:「キミと話をしたら、俺が5000円もらえるのか?」
エレーナ:「テレクラのサクラか!悩みが無いんだったら帰って!商売の邪魔だから!」
鈴木:「この世に悩みの無い人間など、いると思うか?」
エレーナ:「……占うの!?いや、占うんだったらいいんだけどさ」
鈴木:「1つ、占ってもらおうかな」
エレーナ:「はい、それならどうぞ。そこに座って」
鈴木:「その前に、1つ俺と勝負をしないか?」
エレーナ:「いや、しないよ。何で?」
鈴木:「次に入って来るお客が、男か女かを当てるんだ。キミが勝ったら、俺はあの時の事件の真相を話そう」
エレーナ:「……事件?」
鈴木:「だがもし、キミが負けたら、あの魔女は暗い地下牢に鎖で繋がれたままだ。どうだ?」
エレーナ:「やだもうなに!?あんた、何の事件に関わってんの?!誰だよ!?暗い地下牢に繋がれた魔女って!?うちの門流のヤツ!?」
鈴木:「やるのか?やらないのか?」
エレーナ:「やらないよ!嫌だよ!そんなカネにもならない事件、アタシ関わりたくないよ!アタシ、巻き込まれたくない!」
鈴木:「よし。いいだろう」
エレーナ:「何よ?いいだろうって……。占うのね?それじゃ、アンタ……鈴木……何だっけ?ホラ、下の名前教えて」
鈴木:「人に名前を聞く時は、まず自分から名乗る。違うかい?俺もキミの名字を聞いてないよ?」
エレーナ:「アンタのことだから、どうせ調べて知ってるんでしょ?……マーロン。エレーナ・M・マーロンだよ」
鈴木:「サド鈴木公爵です」
エレーナ:「ウソつけ!なにフザけてんの!?」
鈴木:「先にフザけたのはどっちだい?」
エレーナ:「いやアタシ、別にフザけてないし!エレーナ・M・マーロンで間違い無いから!」
鈴木:「真ん中の名前をイニシャルにするようなヤツに、自分の本名を名乗ると思うか?」
エレーナ:「……超メンドくせぇ。なに?今日のアンタ、超メンド臭いよ?もしかして酔っ払ってる?」
鈴木:「酒は飲めるだけ飲む。違うかい?」
エレーナ:「……うーん、そうだけど!自分で言うのも何だけど、その考えは危険だよ!?」
鈴木:「人はそれだけ悩みを抱えて生きているということだ。で?キミの名は?」
エレーナ:「有名なアニメのタイトル、パクってんじゃねーよ!……マモン。ミドルネームはキリスト教で強欲を司る悪魔マモンと契約しているから、その悪魔の名前を使う。だからアタシのフルネームはエレーナ・マモン・マーロン。日本人だと語呂の悪い名前だろ?だからアタシは、基本的にミドルネームは名乗らないんだ」
鈴木:「鈴木弘明です。……そして!?」
エレーナ:「他に誰がいるんだよ!?やめろよ!そんなゲストの紹介みたいなことすんの!……で、何を占うの?」
鈴木:「俺は何に悩んでると思う?」
エレーナ:「アンタは非モテのDTだから、やっぱ女性関係かな?」
鈴木:「女には……海を見せておけばいい」
エレーナ:「は?」
鈴木:「女には夜景を見せておけばいい。女にはスポーツカーに乗せておけばいい。女にはドリカムを聴かせておけばいい。ただそれだけだ」
エレーナ:「ものすっごい偏見だね!?いやマジ、すっごい偏見!」
鈴木:「キミもそうだろ?キミも所詮、女だ」
エレーナ:「いや女だけど!アタシは別にそんなの望んでないから!女が皆そうじゃないからね!?因みにアタシには札束と宝石の山見せてくれればいい!」
鈴木:「そうかい」
エレーナ:「女性関係じゃないのね?じゃあ、仕事関係かな?それは水晶球じゃなく、手相占いでやってあげるから。手を出して。……はいはい、はいっと」
しかし鈴木、クルッと手をひっくり返した。
エレーナ:「な、なに?何よ?」
鈴木:「掌返し!」
エレーナ:「やかましいわ!占うんだから、余計なことしない!」
エレーナは鈴木の掌をルーペで見た。
エレーナ:「あら?あんた、意外と良い相してるじゃない。近々、出世するっぽいよ?来年には役職に就けてもらえるんじゃない?」
鈴木:「仕事をしてないのにか?」
エレーナ:「してねーのかよ!じゃあ、何に悩んでるのよ!?」
鈴木:「お寺で静かに書籍を読んでいる青年部員を、無理やり街頭折伏に誘う婦人部のオバちゃんをどうしたらいいと思う?」
エレーナ:「知らねーよ!ほっとけよ!仏なだけに!勝手にやらせておけばいいだろ!」
鈴木:「何故、鉄ヲタが大好きな先頭車両を女性専用車にしやがるのか、見てくれ」
エレーナ:「出てないよ、アンタの手相に!出て無いです!……ったくもう!」
鈴木:「1つ聞くが……」
エレーナ:「なに?」
鈴木:「俺は何歳まで生きられる?」
エレーナ:「そうねぇ……。さっき手相見せてもらった限りでは、生命線結構長かったんで……まあ、100歳くらいまで生きられそうだけどね。もし気になるんだったら、追加料金で水晶球でも占うよ?」
鈴木:「フフフフフ……!ハハハハハハハ!」
エレーナ:「なに?何がおかしいの?」
鈴木:「残念ながらハズレだな」
エレーナ:「はぁ!?何でハズレって分かるわけ!?そんなの時間経過してみないと分かんないでしょ!?」
鈴木:「俺には分かる。何故なら、俺はこれから電車に飛び込み、このクソみたいな人生に幕を下ろす。日蓮大聖人も魔道師も、俺を救うことなどできない。じゃあな!アディオス・アミーゴ!」
鈴木はそう言って、ホテルから出て行った。
エレーナ:「いや、ちょっと待って待って!金づる……じゃなかった!何もそんな早まらなくてもいいでしょ!?……って、うおっ!?戻ってきた戻ってきた!……なになに?どうしたの!?」
鈴木:「終電が行った後でした」
エレーナ:「もう帰れよ!!」