報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 One Star Hotel

2021-06-30 20:18:20 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日17:45.天候:晴 東京都江東区森下 ワンスターホテル]

 運転手:「こちらでよろしいですか?」
 稲生:「はい、お願いします」

 東京駅からタクシーでワンスターホテルに向かった稲生とマリア。
 都内のタクシーは、殆どがクレカが使えるようになっている。

 稲生:「カードで払います」
 運転手:「はい、ありがとうございます。では、暗証番号をお願いします」

 稲生がイリーナのカードでタクシー料金を払っている間、マリアが先に降りる。

 マリア:「エレーナのヤツ、どういうつもりだ……」
 運転手:「ありがとうございました」
 稲生:「どうも」

 後から領収証と控えを手にした稲生が降りて来る。

 稲生:「じゃあ、行きましょうか」
 マリア:「うん」

 2人はホテルの中に入った。

 女将:「いらっしゃいませー。2名様ですね。どうぞ、こちらに」

 フロントにはビジネスホテルには似つかわしくない、着物を着た40代の女性がいた。
 旅館の女将としてなら、何の違和感も無いのだが。

 女将:「本日はどのような御予約でございましょう?」
 稲生:「あ、あの、今日から一泊で予約している稲生です。こちらが先日、エレーナが送ってくれた宿泊券で……」

 作者より年上ながら美人女将と言って差し支えない容姿の女将は、手に京扇子を持っている。
 稲生はそんな美人女将に緊張しながら、宿泊券を差し出した。
 もちろん、そんな稲生の心境をマリアはしっかり見抜いている。

 女将:「あーら!エレーナのお知り合いでしたか!」
 稲生:「そうなんです。あの……」
 女将:「私、このホテルのオーナーの妻です。オーナーは今、所用で出掛けておりまして……。それで私が今、代理を務めさせて頂いております」
 稲生:「そ、そうでしたか」
 女将:「本日は、どういったお部屋に致しましょう?」
 稲生:「シングル2部屋で予約していたと思いますが……」
 女将:「この券ですと、スタンダードシングル2部屋のみでございますのよ?今でしたら、一部屋につき、プラス550円ずつでデラックスシングルにグレードアップすることができます。如何でございましょう?」
 稲生:「あ、はい。それでお願いします」
 女将:「ありがとうございます」

 稲生が自分の財布の中から、マリアの分の追加料金も払っておいた。

 稲生:(さすがに追加料金分は、先生に請求が行かないようにしないと……)
 女将:「それでは、こちらがお部屋の鍵でございます」
 稲生:「ありがとうございます。因みにエレーナはいますか?」
 女将:「エレーナは今、『魔女の宅急便』の仕事をしておりますのよ。戻り次第、お伝えしましょうか?」
 稲生:「そうですね。そうして頂けますか」
 女将:「かしこまりました」
 稲生:「レストランは開いてますか?」
 女将:「はい。ただ、時短営業を行っておりまして、店内ご利用は20時までとなっております。お時間にご注意くださいね」
 稲生:「分かりました。朝食はどうですか?」
 女将:「朝食は通常通りでございます」
 稲生:「分かりました。それじゃマリア、先に荷物置いてこよう」
 マリア:「荷物があるのは勇太だけだろう?」
 稲生:「それもそうか。取りあえず、一旦部屋に行こう」
 マリア:「それはそうだ」

 稲生達はエレベーターに向かった。
 小さなホテルなので、エレベーターも6人乗りの小さな物が1基あるだけである。
 インジゲーターとボタンには地下1階もあるのだが、そこは表向きには機械室になっていて、その一画にはエレーナの部屋がある。
 エレベーターを呼んだ時、インジゲーターの表示は地下1階になっていた。
 尚、当然ながら地下は関係者以外立入禁止になっているので、客がボタンを押しても反応しないようになっている。

 稲生:「5階ですね」
 マリア:「うん」

 エレベーターのドアが閉まり、上に向かって動き出す。

 稲生:「オーナーの奥さん、初めて見たような気がする」
 マリア:「夫婦経営だとは聞いているから、いること自体はおかしくは無いけどね」
 稲生:「普段は事務とか掃除とか、そういう裏方の仕事をしているって聞いたからね」

 オーナーは不在ということだし、エレーナも魔女宅の仕事をしているとあらば、女将が接客をしなければならないということか。

 稲生:「それじゃ、荷物を置いたらすぐに行こう」
 マリア:「確かにお腹空いたね」

 エレベーターを降りて少し廊下を行った先の部屋が割り当てられていた。
 部屋は隣同士である。

 稲生:「それじゃまた」
 マリア:「行く時、また連絡して」
 稲生:「分かった」

 今度はカードキーではなく、普通の鍵である。
 オートロック式のドアを開けると、部屋の造りはオーソドックスだった。
 部屋の広さは、東横インと大して変わらない。
 ベッドの広さは東横インがシングルの部屋ながらダブルだったのに対し、こちらはセミダブルだった。

 稲生:「よしよし。それじゃ、行こうかな」

 稲生は室内の電話で、隣の部屋に掛けた。
 そしてマリアと合流すると、レストランに向かった。

[同日18:30.天候:晴 同場所 レストラン“マジックスター”]

 レストランはホテルに隣接したテナントである。
 ホテルとは建物が1階で繋がっていて、宿泊客はそこから出入りできる。
 名前の通り、ダンテ一門の魔道師が経営するレストランだった。
 表向きには創作料理店であるが、実際は魔法薬を使用した薬膳である。
 魔法薬にも使われるハーブなどの薬草をふんだんに使った料理が特徴だった。

 キャサリン:「ああ、女将さんね。最近、華道とか茶道を始めたみたいで、それで着物着て接客するようになったみたいよ」

 経営者でエレーナの先輩でもあるキャサリンが、ホテルの女将のことについて話した。
 店員は漆黒の髪に浅黒い肌をした、一見して中東系アラブ人女性のように見えるが、正体はキャサリンの使い魔であるカラスが擬人化したものである。

 稲生:「なるほど」

 尚、キャサリンにアメリカ人形メリーがマリアに見せた画像を見せたが、やっぱり2階建て木造校舎がどこの学校だかは分からないという。

 キャサリン:「私よりも、宅急便の仕事で全国を飛び回っているエレーナの方が詳しいんじゃない?」
 稲生:「やっぱりですか……」
 マリア:「ったく、あの野郎、どこをほっつき歩いてるんだか!」
 稲生:「あ、あの、読者の皆さん、マリアは日本語表記だと少し口が悪いですけど、英語では至って普通ですから」
 マリア:「誰に向かって言ってるの?」
 キャサリン:「普通、逆なんだけどね。英語の方が実際は口が悪いんだけど、日本語訳する時はあえてマイルドにするとか……。映画やゲームでは」
 稲生:「1927年頃、木造2階建て校舎の学校に寄贈されたジェシー人形か……」

 稲生の記憶に、何か靄が掛かっている感じがした。
 今のフレーズに何か聞き覚えがある。
 しかし、記憶がはっきりしない。

 稲生:「せめてエレーナが知っていてくれるといいんだけど……」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 新富士~東京

2021-06-30 14:55:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月22日16:00.天候:晴 静岡県富士市 JR新富士駅→東海道新幹線730A列車1号車内]

 稲生達を乗せた臨時特急バスは、おおよそ定刻通りに新富士駅富士山口に到着した。

 

 大石寺に向かう便のバス停に停車する。
 もう既に運賃は払っているので、降りる時はフリーである。
 中扉からバスを降りた。

 稲生:「ようやくスタート地点に戻ってきましたね」
 マリア:「スタート地点?まだ途中でしょ」
 稲生:「ハハ……。それもそうか」

 稲生は苦笑して駅構内に入った。

 稲生:「おっ、ちょうどいい列車があるじゃん」

 バスとの接続は良い。
 これは恐らく、ダイヤ改正が行わてからだろう。
 実は先発の第1便に接続していた列車、第2便に接続していた列車とあったのだが、新幹線のダイヤ改正後は、両便のバス共に“こだま”730号に接続するようになった。
 接続といっても、バスが遅延した場合は当然乗り遅れることになる。
 JR東日本で言えば“みどりの窓口”に当たる出札窓口を、JR東海では“JR全線きっぷうりば”と称する。
 東海道新幹線のみの駅で、尚且つ“こだま”しか停車しない小規模駅であるが、そのような窓口は存在し、駅員も常駐している。
 で、稲生は窓口は行かず、隣接された券売機でキップを購入した。
 こちらも当然、クレジットカードが使える。

 稲生:「はい、マリアのキップ」
 マリア:「ありがとう」

 乗車券と自由席特急券が1枚になったキップが2枚出て来たので、1枚をマリアに渡す稲生。
 その足で、改札口へ向かった。

〔ピン♪ポン♪パン♪ポーン♪ 新幹線をご利用頂きまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、16時13分発、“こだま”730号、東京行きが到着致します。黄色い点字ブロックの内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。電車は前から16号車、15号車、14号車の順に、1番後ろが1号車です。グリーン車は8号車から10号車。自由席は1号車から7号車までと、13号車から16号車です。……〕

 ホームを歩いていると、接近放送が流れて来た。
 まだ、発車の時刻までは時間があるのだが、通過線のあるこの駅では、必ずと言って良いほど通過待ちを行うからだろう。

 マリア:「勇太、ちょっと待って。飲み物、買って行く」
 稲生:「ああ、分かった」

 マリアがホームの自販機で飲み物を買っている間、列車が入線してきた。
 往路と同じくN700Aであったが、こちらはAdvanceではなかった。

〔新富士、新富士です。新富士、新富士です。ご乗車、ありがとうございました〕

 ドアが開くと、ここでも下車客はある。
 名古屋始発ということもあってか、車内は空いていた。
 最後尾の車両に乗り込んで、2人の魔道士も車中の人となる。

〔「16時13分発、“こだま”730号、東京行きです。通過列車の待ち合わせを行いますので、発車までしばらくお待ちください」〕

 早速、轟音を立てて通過線を列車が通過していった。
 風圧と震動で、こちらの列車も揺れる。
 空いている2人席に座ると、マリアはバッグを荷棚に置いた。
 今度はバッグの中から人形達が出て来ない。
 どうやら寝ているようだ。

 マリア:「師匠からの連絡。どうやら、メリーを助けたことでクエストはクリアと見做されたようだ」

 マリアは水晶玉を取り出して言った。

 稲生:「おおっ、良かった!……で、どうする?このまま帰る?当初のクエストはクリアしたわけだし……」
 マリア:「いや、メリーの言ったことが気になる。どうせ今日は東京で一泊するんだろう?師匠に追加のクエストを頼んでみるよ」
 稲生:「分かった」
 マリア:「クエストをこなしていけば、勇太もマスターに認定される。そしたら、ようやく私と……ね?」
 稲生:「そうだね。先生が許可してくれるといいけど……」
 マリア:「クリアのアテの無いクエストだと、さすがの師匠も『帰ってこい』って言うだろなぁ……」
 稲生:「クリアのアテは無い?」
 マリア:「メリーのあの言葉だけだとよく分からない。あとは、木造2階建ての校舎の画像だけど……あんなの、当時の日本には沢山あったんだろう?」
 稲生:「1920年代の学校は……確かに、都市部でも木造校舎だっただろうなぁ……」

 その時、稲生に1つのある学校が浮かんだが……。

 稲生:(まさか、な……)

 さすがに出来過ぎだと思い、頭では否定した。
 そして定刻になると、列車は走り出した。

[同日17:18.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 日本一過密路線の新幹線を進む各駅停車は、通過線のある所、必ず通過列車待ちを行なった。
 その為、本来なら1時間足らずで着ける所を、1時間5分掛けて進むのである。

〔♪♪(車内チャイム“AMBITIOUS JAPAN”イントロ)♪♪。まもなく終点、東京です。中央線、山手線、京浜東北線、東海道本線、上野東京ライン、横須賀線、総武快速線、東北、上越、山形、秋田、北陸新幹線と京葉線はお乗り換えです。お降りの時は、足元にご注意ください。今日も新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
〔「……17番線に到着致します。お出口は、左側です。お降りの際、電車とホームの間が広く空いている所がございます。お降りの際は、足元にご注意ください。……」〕

 稲生:「新幹線だとあっという間だな。高速バスだと、まだまだ東名高速の上なのに」
 マリア:「そりゃそうでしょ。富士山の写真もルーシーに送ってやろう」
 稲生:「来日できるといいねぇ……」
 マリア:「東京オリンピックの関係者に成り済まして来るんじゃない?」
 稲生:「エレーナじゃあるまいし……」
 マリア:「だから私やエレーナみたいに、永住権取って居れば良かったんだよ」
 稲生:「まあ、結果論だし」

 マリアは荷棚からバッグを下ろした。
 列車がホームに入る。

 マリア:「それで今日の泊まりはどこ?勇太の家?」
 稲生:「いや、違う。ワンスターホテルw」
 マリア:「What!?」

〔東京、東京。東京、東京。ご乗車、ありがとうございました〕
〔「17番線に到着の電車は、折り返し17時33分発、“ひかり”653号、新大阪行きとなります。……」〕

 列車を降りる稲生達。

 マリア:「何でワンスターホテル?」
 稲生:「出発前、エレーナからの手紙が来たって言ったでしょ?」
 マリア:「ああ。『不幸の手紙』か?焼却処分しろって言ったでしょうが!」
 稲生:「それが一応、中身を確認してみたら、ワンスターホテルの宿泊券が入ってたもんで……」
 マリア:「あの守銭奴魔女、商売根性出しやがって……!」
 稲生:「スタンダードシングルに追加料金でデラックスシングルに泊まれるみたいだから、それにした」
 マリア:「この宿泊券、絶対後で師匠の所に請求が行くパターンだからな?」
 稲生:「えっ、そうなの!?」
 マリア:「勇太もまだまだ甘いなー」
 稲生:「す、すいません。でももう予約しちゃったんで……」
 マリア:「しょうがないな」

 マリアは溜め息を吐いた。

 マリア:「さっさと行こう」
 稲生:「はい」

 2人は改札口に向かって歩いた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする