[6月20日11:00.天候:晴 長野県北安曇郡白馬村郊外山中 マリアの屋敷]
稲生:「えーと……これがイリーナ先生宛ての手紙の……山!」
明らかに国際郵便が多い。
英語はもちろんのこと、ロシア語が1番多い。
中にはアラビア語や中国語で書かれた手紙もあった。
いくら自動通訳魔法具があるからといって、もう少し言語を統一できないものか……。
いや、それより……。
稲生:「手紙は人形達が持って行ってくれるからいいようなものの、仕分けがなぁ……。ミッキーマウスみたいに、魔法で丸投げできる技術なんてまだ持ち合わせてないし……」
師匠が留守の間に水汲みを任された弟子役のミッキーマウス。
魔法でホウキを擬人化し、丸投げしたはいいものの……【お察しください】。
稲生:「あとはマリアさんの分か……」
マリアは表向きには西洋人形師という顔があるので、マリアに対して人形の製作依頼が来ることがある。
その他にも、ビスクドールの鑑定依頼とか。
それ以外にも、人形メーカーから共同制作の依頼が来ることもある。
稲生:「マリアさーん」
イリーナへの手紙は台車で運ぶほどの量だが、マリアの場合はまだ手で持てるほどの量である。
稲生宛ての手紙は【お察しください】。
マリア:「ん?」
マリアは自分の部屋で新しい人形作りをしていた。
1日のうち、午前と午後を魔法の修行と人形作りに分けている。
今日は午前中を人形作りにしているようだ。
稲生:「マリアさん宛ての手紙です」
マリア:「ありがとう。師匠よりは少ないけど、だいぶ増えたなー」
稲生:「マリアさんの人形、とても高品質ですから」
マリア:「魔法は上達しないで、こっちの方が上手くなっちゃった」
稲生:「魔法だって、僕より強いですよ」
マリア:「そうかな?多分、ガチで戦えば、勇太の方が勝つと思う」
稲生:「どうですかねぇ……。現に、未だに僕はマスター認定されませんよ?まだ見習いのままです」
マリア:「おかしいね。私がLow Masterのままなのはしょうがないとして」
マリアは一体の人形を完成させた。
マリア:「よし、できた。あとは命を吹き込むだけ」
稲生:「それ、売り物じゃないですよね?」
かつてマリアは、商品として売る人形に誤って『魔法の操り糸』を通してしまい、売却先を大変な恐怖に陥れたことがある。
そりゃそうだろう。
高品質とはいえ、ただの西洋人形として購入したはずなのに、夜中になったら勝手に動くのだから。
この屋敷では夜だろうが昼だろうが勝手に動くので、既に日常の光景である。
師匠のイリーナは世界各国の政治家の政治生命や、大企業家の経済の先行きを占うことで報酬を得ているが、マリアの場合は人形を作って売るくらいである。
マリア:「うん、大丈夫。うちで使う用だ」
稲生:「それならいいんですが」
マリア:「ちょっと休憩しよう。というか、私も自分の手紙くらい自分で仕分けないとな」
稲生:「僕も手伝いますよ。ルーシーからの手紙もありますよ?」
マリア:「ああ。後で確認する」
稲生:「ジェニファーという方は?」
マリア:「私の人形作りの方の師匠。これも後で確認する」
稲生:「エレーナからの手紙は?」
マリア:「焼却処分で」
稲生:「えっ?」
マリア:「どうせロクな内容じゃない。『人形の売り上げ金、半分くれ』とか書いてあると思う」
稲生:「エレーナらしいと言えばらしいけど……」
マリア:「ん?これは勇太宛ての手紙だよ」
稲生:「あれ?混じってました?」
マリア:「ほら、これ。藤谷さんからの手紙」
稲生:「あー、そういえば、『見てもらいたいものがある。写真を送るからマリアさんに見てもらってくれ』ってメールがありましたね」
マリア:「私に?」
稲生は手紙の封を切った。
稲生:「実は正証寺の御信徒さんで、富士宮市に住んでる人がいるんですよ。その人の実家は農家で、蔵も持っているくらいなんです」
マリア:「Kura?」
稲生:「Japanese traditional warehouse.」
マリア:「???」
稲生:「こういうのこういうの」
稲生はマリアの机の上にある水晶玉に手を置いた。
そして、その水晶玉が部屋の白い壁に映像を投影する。
マリア:「Ah...忍者が刀でエントランスのドアをぶち破って侵入する建物か」
稲生:「何かのゲームのデモ画面ですか!?」
マリア:「で、そのKuraがどうしたの?」
稲生:「ああいう田舎の農家の蔵って、何十年……下手したら100年以上もそこに保管されているお宝が眠っていたりするんです。で、その家、蔵の中を整理していたら、随分と古い人形が出て来たので鑑定して欲しいそうです。これがその人形です」
稲生はマリアに写真を見せた。
箱には入れられていたらしいが、埃被っており、着ている服も洋服であったが、随分とボロボロになっていた。
マリア:「うっ……!!」
マリアが写真越しに鑑定しようとした。
が、突然マリアは激しい頭痛と目まいに見舞われた。
稲生:「マリアさん!?」
マリア:「うっ……くっ……!」
稲生:「大丈夫ですか!?」
マリア:「だ、大丈夫……!凄い魔力だ……!」
稲生:「ええっ!?邪悪な呪いが施された、呪いの人形ですか!?」
マリア:「いや、邪悪というか……。まあ、何だろう……。『哀しさ』とか『悔しさ』とか『寂しさ』とかの感情に近い。でも、それらも負の感情ではあるから、それが『憤怒』や『憎悪』にでも変わったら、大変なことになる」
稲生:「で、では!?」
マリア:「直接その人形に会ってこよう。どの道、そのKuraのオーナーや管理者では手に負えないだろう」
稲生:「分かりました。すぐ、藤谷班長に連絡を取ります」
マリア:「そうしてくれ」
稲生:「この写真だけで、何か分かったことはありますか?」
マリア:「いや、分からない。ただ……」
稲生:「ただ?」
マリア:「一瞬、アメリカのパスポートが見えたから、その人形はアメリカで作られたか、或いは元のオーナーがアメリカ人だったのかもしれない」
稲生:「それは大きなヒントですね!」
昼食の時、稲生とマリアは師匠のイリーナに事情を話した。
写真を見せた時、いつもは目を細めているイリーナが一瞬目を大きく開けたが、すぐにまた閉眼した。
イリーナ:「いいよ。行っといで」
そして、2人の旅立ちを許可したのである。
稲生:「えーと……これがイリーナ先生宛ての手紙の……山!」
明らかに国際郵便が多い。
英語はもちろんのこと、ロシア語が1番多い。
中にはアラビア語や中国語で書かれた手紙もあった。
いくら自動通訳魔法具があるからといって、もう少し言語を統一できないものか……。
いや、それより……。
稲生:「手紙は人形達が持って行ってくれるからいいようなものの、仕分けがなぁ……。ミッキーマウスみたいに、魔法で丸投げできる技術なんてまだ持ち合わせてないし……」
師匠が留守の間に水汲みを任された弟子役のミッキーマウス。
魔法でホウキを擬人化し、丸投げしたはいいものの……【お察しください】。
稲生:「あとはマリアさんの分か……」
マリアは表向きには西洋人形師という顔があるので、マリアに対して人形の製作依頼が来ることがある。
その他にも、ビスクドールの鑑定依頼とか。
それ以外にも、人形メーカーから共同制作の依頼が来ることもある。
稲生:「マリアさーん」
イリーナへの手紙は台車で運ぶほどの量だが、マリアの場合はまだ手で持てるほどの量である。
稲生宛ての手紙は【お察しください】。
マリア:「ん?」
マリアは自分の部屋で新しい人形作りをしていた。
1日のうち、午前と午後を魔法の修行と人形作りに分けている。
今日は午前中を人形作りにしているようだ。
稲生:「マリアさん宛ての手紙です」
マリア:「ありがとう。師匠よりは少ないけど、だいぶ増えたなー」
稲生:「マリアさんの人形、とても高品質ですから」
マリア:「魔法は上達しないで、こっちの方が上手くなっちゃった」
稲生:「魔法だって、僕より強いですよ」
マリア:「そうかな?多分、ガチで戦えば、勇太の方が勝つと思う」
稲生:「どうですかねぇ……。現に、未だに僕はマスター認定されませんよ?まだ見習いのままです」
マリア:「おかしいね。私がLow Masterのままなのはしょうがないとして」
マリアは一体の人形を完成させた。
マリア:「よし、できた。あとは命を吹き込むだけ」
稲生:「それ、売り物じゃないですよね?」
かつてマリアは、商品として売る人形に誤って『魔法の操り糸』を通してしまい、売却先を大変な恐怖に陥れたことがある。
そりゃそうだろう。
高品質とはいえ、ただの西洋人形として購入したはずなのに、夜中になったら勝手に動くのだから。
この屋敷では夜だろうが昼だろうが勝手に動くので、既に日常の光景である。
師匠のイリーナは世界各国の政治家の政治生命や、大企業家の経済の先行きを占うことで報酬を得ているが、マリアの場合は人形を作って売るくらいである。
マリア:「うん、大丈夫。うちで使う用だ」
稲生:「それならいいんですが」
マリア:「ちょっと休憩しよう。というか、私も自分の手紙くらい自分で仕分けないとな」
稲生:「僕も手伝いますよ。ルーシーからの手紙もありますよ?」
マリア:「ああ。後で確認する」
稲生:「ジェニファーという方は?」
マリア:「私の人形作りの方の師匠。これも後で確認する」
稲生:「エレーナからの手紙は?」
マリア:「焼却処分で」
稲生:「えっ?」
マリア:「どうせロクな内容じゃない。『人形の売り上げ金、半分くれ』とか書いてあると思う」
稲生:「エレーナらしいと言えばらしいけど……」
マリア:「ん?これは勇太宛ての手紙だよ」
稲生:「あれ?混じってました?」
マリア:「ほら、これ。藤谷さんからの手紙」
稲生:「あー、そういえば、『見てもらいたいものがある。写真を送るからマリアさんに見てもらってくれ』ってメールがありましたね」
マリア:「私に?」
稲生は手紙の封を切った。
稲生:「実は正証寺の御信徒さんで、富士宮市に住んでる人がいるんですよ。その人の実家は農家で、蔵も持っているくらいなんです」
マリア:「Kura?」
稲生:「Japanese traditional warehouse.」
マリア:「???」
稲生:「こういうのこういうの」
稲生はマリアの机の上にある水晶玉に手を置いた。
そして、その水晶玉が部屋の白い壁に映像を投影する。
マリア:「Ah...忍者が刀でエントランスのドアをぶち破って侵入する建物か」
稲生:「何かのゲームのデモ画面ですか!?」
マリア:「で、そのKuraがどうしたの?」
稲生:「ああいう田舎の農家の蔵って、何十年……下手したら100年以上もそこに保管されているお宝が眠っていたりするんです。で、その家、蔵の中を整理していたら、随分と古い人形が出て来たので鑑定して欲しいそうです。これがその人形です」
稲生はマリアに写真を見せた。
箱には入れられていたらしいが、埃被っており、着ている服も洋服であったが、随分とボロボロになっていた。
マリア:「うっ……!!」
マリアが写真越しに鑑定しようとした。
が、突然マリアは激しい頭痛と目まいに見舞われた。
稲生:「マリアさん!?」
マリア:「うっ……くっ……!」
稲生:「大丈夫ですか!?」
マリア:「だ、大丈夫……!凄い魔力だ……!」
稲生:「ええっ!?邪悪な呪いが施された、呪いの人形ですか!?」
マリア:「いや、邪悪というか……。まあ、何だろう……。『哀しさ』とか『悔しさ』とか『寂しさ』とかの感情に近い。でも、それらも負の感情ではあるから、それが『憤怒』や『憎悪』にでも変わったら、大変なことになる」
稲生:「で、では!?」
マリア:「直接その人形に会ってこよう。どの道、そのKuraのオーナーや管理者では手に負えないだろう」
稲生:「分かりました。すぐ、藤谷班長に連絡を取ります」
マリア:「そうしてくれ」
稲生:「この写真だけで、何か分かったことはありますか?」
マリア:「いや、分からない。ただ……」
稲生:「ただ?」
マリア:「一瞬、アメリカのパスポートが見えたから、その人形はアメリカで作られたか、或いは元のオーナーがアメリカ人だったのかもしれない」
稲生:「それは大きなヒントですね!」
昼食の時、稲生とマリアは師匠のイリーナに事情を話した。
写真を見せた時、いつもは目を細めているイリーナが一瞬目を大きく開けたが、すぐにまた閉眼した。
イリーナ:「いいよ。行っといで」
そして、2人の旅立ちを許可したのである。