報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「ホテル天長園」 3

2021-06-02 20:53:26 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日18:00.天候:雨 栃木県那須塩原市 ホテル天長園8Fレストラン]

 夕食の時間になり、最上階のレストランに行くと、既にそれは用意されていた。
 斉藤社長の名前で予約されているからか、『斉藤様』という札が掲げられている。

 リサ:「おお~!御馳走!」

 テーブルの上には刺身の他、“ベタな旅館食事の法則”通り、一人鍋もあった。
 固形燃料に火を点けて、それで一人鍋をグツグツ煮込むあれである。
 その鍋は具材からして、すき焼のようだった。
 肉も見た目には霜降りの薄切り牛肉である。

 愛原:「やると思ったけど、リサそのまま食べるな!」
 リサ:「おっと!」
 絵恋:「生のまま食べちゃ、お腹壊すよ?」
 リサ:「いや、それなら大丈夫」
 愛原:「うん、そこは心配していない」
 絵恋:「ええっ!?」
 愛原:「暴走の恐れがあるので、生肉食は禁止されてるんだ」
 絵恋:「そうだったんですか。でも、うちで食べたステーキ、血のしたたるレアでしたけど、それは大丈夫だったはずじゃ?」
 愛原:「レアでもちゃんと火は通ってるだろ?レア以上の焼き加減じゃないとダメだ」
 絵恋:「そ、そうなんですか。じゃあ、ブルーやブルーレアはダメってことですね」
 愛原:「そういうこと」

 そこへ女将さんがやってきた。

 女将:「お待たせ致しました。只今、火をお点けします」
 高橋:「あ、何だ。点けてくれんのか」

 高橋は危うく、自分のオイルライターを点けるところだった。
 女将さんがチャッカマンで、固形燃料に火を点けてくれる。
 それからおひつを持って来て、御飯をよそってくれた。

 女将:「お飲み物は何になさいますか?」
 愛原:「私はビールだな、やっぱり」
 高橋:「定番ですね。俺もビールで」
 リサ:「私もビール」
 絵恋:「私も!」
 愛原:「おい!」
 高橋:「こら!5年早ぇ!」
 女将:「ではまず、瓶ビール2本お持ちしますね」
 愛原:「ウーロン茶辺りにしておいたらどうだ?」
 リサ:「はぁーい」
 絵恋:「リサさんがウーロン茶なら、私もそれで……」

 飲み物が決まると、別のスタッフが持って来た。
 それは女将さんと同様、着物を着ていたのだが、年齢が明らかに若い。
 リサ達と同じか、少し年下なくらい。

 少女:「お飲み物でございます。瓶ビール2本とウーロン茶2瓶です」

 ウーロン茶も瓶で来た。
 尚、グラスは最初からテーブルの上にあった。
 因みに、最初から栓が開けられた状態で持ってくる。
 これには深い理由があるのだ。
 飲食店でも、瓶ビールを頼むと栓が開けられた状態で持って来られるだろう?
 あれと同じ。
 何も、客に開ける手間を省いてあげる為のサービスではない。
 正解は、【Webで確認!】。

 愛原:「ありがとう」

 私は彼女から瓶を受け取った時に気づいた。
 彼女の爪がやや長く尖っているのを見てからだ。
 それはリサの爪と同じ。
 どんなに人間に化けても、どこかしらでボロが出てしまう。
 爪は朝切っても、どうしても夕方には長く尖った状態で伸びてしまう。

 愛原:「もしかしてキミが、夕方出勤してきたというアルバイトかい?」
 少女:「はい、そうですけど……」
 愛原:「もしかしてキミ、セーラー服を着て白い仮面を着けてなかったかい?」
 少女:「はい、着けてました」

 少女はそれが何かといった感じで答えた。

 リサ:「私も持ってるの。あなたと同じ仮面」
 少女:「そう……なんですか。天長会の『巫女』ですか?『何番』目の?」
 リサ:「私、『2番』」
 少女:「『2番』!?」
 愛原:「リサ。リサ・トレヴァーの番号とは違うんだよ」
 少女:「凄いですねぇ!『最も危険な巫女たち』のお1人ですか!?」
 リサ:「んん?」
 絵恋:「ちょっと!リサさんに気安く近づかないで!だいたい、何よ!?リサさんと同じ髪形して!何様のつもり!?」
 高橋:「おい、うるせーぞ!レズクレーマー」
 絵恋:「誰がレズクレーマーよ!?」
 高橋&リサ:「オマエだよ」
 絵恋:「ええっ?!」
 女将:「凛ちゃん、やめなさい。お客様に失礼でしょう」
 少女改め凛:「あっ、ママ。ごめんなさい」
 愛原:「ママ?」
 女将:「お恥ずかしい話でございます。これ、私の娘でございまして……」
 愛原:「そうなの!?」
 リサ:「!」

 亜種とはいえ、日本版リサ・トレヴァーが子供を産んでいる!?
 あ、いや、人間だった頃に産んだのかもしれない。

 愛原:「それは……人間だった頃?それとも……」
 女将:「ご想像にお任せします。凛、御挨拶なさい」
 凛:「上野凛と申します。このホテルでアルバイトしています。地元の中学校に通う3年生です。よろしくお願いします」

 やはりリサ達より1つ年下のようだ。

 愛原:「ん?上野凛……」
 高橋:「何スか、先生?」
 愛原:「どこかで会ったかい?」
 凛:「いいえ……?多分、初めてだと思います」
 愛原:「そうか……」

 何人ものリサ・トレヴァーと戦ったから、そう思うのかな。
 少なくとも、ここにいるリサ・トレヴァー達は私達に敵対することは無さそうだが……。

 愛原:「キミは……人を食べたことがあるかい?」
 凛:「無いです。……正直、食べたくなる時はありますけど」
 愛原:「やっぱりか。そうなった時、どう対処している?」
 凛:「お店の売れ残りで、廃棄処分直前の肉をもらって思いっ切りガブリ付きます」
 リサ:「おおっ!いいアイディア!私もやりたい!」
 愛原:「リサ!」
 凛:「私は……元人間ではないので」
 愛原:「えっ?」
 女将:「娘は……私が今の状態になってから生んだ娘です。でも、この呪われた血は、娘に引き継がれてしまいました……」
 愛原:「そうなのか!……はっ!」

 その時、私はリサが獲物を狙うかのような目で私を見ているのに気づいた。
 『人間に戻らなくても、先生の子供産めるんじゃん!結婚できるんじゃん!だったら今しよ!?』と言いたげな顔だ。

 凛:「生まれながらの化け物は生肉にガブリ付きでもしないと抑えられませんが、元人間の『2番』様はそこまでしなくても大丈夫なのでは?」
 女将:「凛ちゃん」
 愛原:「大丈夫だよ。姿形は人間のままだ。あとは心だ。いかに心を人間の状態に持って行くかだ。彼女も人間の心を取り戻す為に、日夜努力をしているんだよ」
 凛:「そう、ですか……」
 愛原:「だから生肉食は禁止されてんの!分かった!?」
 リサ:「えーっ!一度でいいからやりたーい!」
 愛原:「暴走したらBSAAが素っ飛んで来るぞ!」

 そこで私、ふと気づく。

 愛原:「そういえばBSAAは、あなた達のことを御存知なんですか?」
 女将:「そのはずですよ。だいぶ前、事情聴取に来られましたから」

 BSAA公認なのか!

 女将:「以前にも、『紹介したい者がいる。バスで来るから、待っててくれ』と言われたのですが、何でも、『バスが事故に遭ったので、中止になった』と伺いました」
 愛原:「このコロナ禍、貸切バスで利用しに来る団体客の予約が入ってたんだ?」
 女将:「いえ。お客様は3名様だと伺いました」
 愛原:「ぶっ!3人なのに、貸切バスで来る予定だったの!?贅沢な人達だなぁ!……ん?」

 そこで更に私はもっと気づいた。

 愛原:「もしかしてそのバス……東北自動車道のどこかで事故に遭ったって話?」
 女将:「そうですね。何でも、パーキングエリアで休憩中に、バスが爆発事故を起こしたとのことです」
 愛原:「……そのパーキングエリア、矢板北だったりする?」
 女将:「そこまでは分かりませんが、確か、矢板近辺だと伺いました」
 愛原:「それ、俺達だ!なに、ここで繋がってたの!?」
 高橋:「え?じゃああれ、ヴェルトロじゃなくて、BSAAっスか!?どうして!?」
 愛原:「いや、知らんよ!」

 一体何が起きてるんだ!?
 私達の与り知らぬ所で、何かが動いてるぞ!?どういうことだ?!
 
コメント (1)
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“私立探偵 愛原学” 「ホテル天長園」 2

2021-06-02 16:28:09 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月1日16:30.天候:雨 栃木県那須塩原市某所 ホテル天長園1F東側通路→大浴場]

 私達は浴衣に着替えると、大浴場に向かった。
 1階のロビーまで一旦下りると、またリサが反応した。

 リサ:「私と似た臭い……」
 愛原:「スタッフの人達だろう?」

 1階の奥に向かうと、途中に従業員用のドアがある。
 そこにセーラー服を着て、白い仮面を着けた少女が入って行った。

 リサ:「えっ!?」
 愛原:「い、今の……!?」
 高橋:「リサ・トレヴァーっすよね!?日本版の」

 私はそのドアを開けようとした。
 だが、鍵が掛かっており、開けることはできない。

 愛原:「一体このホテルは何なんだ?」

 本当にゆっくりできるのだろうか。

 愛原:「なあ、高橋……」

 脱衣場の造りや、大浴場の造りも変わった所は無かった。
 大抵の温泉地にあるホテルならではの造りだった。
 私が違和感に思ったことがある。

 愛原:「いくら何でも、ガラガラ過ぎないか?」

 そうなのだ。
 確かに今はコロナ禍である。
 如何に観光地が書き入れ時とはいえ、客足が伸び悩んで疲弊している所は多々あると聞く。
 それにしても、それにしてもだ。
 あまりにも、他の客が居なさ過ぎないか?
 先ほどのロビーにせよ、この大浴場にせよ、他の宿泊客と1度も会っていないのだ。

 高橋:「そうっスね。貸切状態っスね」

 高橋は特に気にしていないようだ。

 高橋:「先生!またいつものよろしいっスか!?」
 愛原:「分かったよ」

 こういう所に来ると、高橋はいつも私の背中を流したがる。
 家でもやりたいようだが、それは断っていた。
 家風呂くらい、1人でゆっくり入りたいものだ。

 愛原:「さすがに露天風呂は無理か……」

 私は雨足の強い外を見て呟いた。

 高橋:「後で俺が外の様子を見てきますよ」
 愛原:「そうか?」

 高橋に背中を流してもらい、後の部分は自分で洗った。
 それから大きな岩風呂に入って一息つく。

 高橋:「じゃあちょっと俺、露天風呂の方、見てきます。先生はゆっくり入っててください」
 愛原:「ああ。すまない」

 高橋は露天風呂に出るドアの方に向かった。
 そして……。

 愛原:「どうだった?」

 戻ってきた高橋に状況を聞いてみた。

 高橋:「何か微妙っスね。屋根の付いてる部分はあるんスけど、それ以外は風呂に入りながら天然のシャワーを浴びるって感じっス」
 愛原:「やっぱりか。しょうがない。露天風呂は今日のところは諦めよう」
 高橋:「残念っスね。それと、1つ気になったことがあるんスけど……」
 愛原:「何だ?」
 高橋:「外から、何か鐘の音が聞こえてくるんスよ」
 愛原:「鐘の音?お寺のか?」
 高橋:「まあ、そうッスね。ほら、坊さんがお経唱える時に、カーンって叩くヤツがあるじゃないッスか」
 愛原:「鈴(りん)だな」
 高橋;「あんな感じの音っス」
 愛原:「近くにお寺でもあるんだろう。で、この時間は夕方の勤行をやるから、それで鈴を叩いているのかもしれない」
 高橋:「それと、何か太鼓の音も聞こえてきて……」
 愛原:「宗派によっては、お経の時に太鼓を叩く所もあるんだ。それだろう」
 高橋:「そういうもんスか」
 愛原:「だと思うよ」

 この時、私は特に気にはしていなかった。

[同日17:30.天候:雨 同ホテル1F・ロビー]

 大浴場から出ると、私はフロントに向かった。

 フロント係:「え?他のお客様でございますか?」
 愛原:「そう。いくらコロナ禍とはいえ、随分と寂しいなぁと思って」
 フロント係:「確かに本日のお客様は、斉藤様方だけでございます」
 愛原:「やっぱり!まさかと思うけど、いつもこんな感じじゃないよね?」
 フロント係:「いえ、もちろん普段は多くのお客様にご利用頂いております。本日はたまたまでございます」
 愛原:「そうか……。あとそれと、外から鈴の音と太鼓の音が聞こえてきたんだ。この近くに、お寺があるの?」
 フロント係:「それは天長会の『お祈り』の時間ですね。このホテルの敷地内に、『聖堂』がございますので……」
 愛原:「あ、そうか。ここは天長会の直営だもんね」
 フロント係:「さようでございます」
 愛原:「あと、もう1つ聞きたいのは……実はさっき、従業員入口のドアから入って行くセーラー服に白い仮面を着けた女の子を見かけたんだ。あれは誰だろう?」
 フロント係:「ああ、あれはうちのスタッフです。ここでアルバイトをしているのです。出勤前に、『聖堂』で『お祈り』に参加するところだったようですね」
 愛原:「白い仮面というのは?」
 フロント係:「天長会では、『巫女』は白い仮面を着けて『お祈り』に参加するのです。それですね」
 愛原:「日本版リサ・トレヴァーが同じ仮面を着けるのと、何か関係はある?」
 フロント係:「申し訳ございませんが、そこまでは私は存じかねます」

 あるんだろうな、きっと。
 そして、東京中央学園上野高校旧校舎に括り付けられている“トイレの花子さん”が白い仮面を着けている理由も、きっと……。

 愛原:「最後に1つだけ。天長会では、人は自殺をしたらどうなると教えてますか?」
 フロント係:「神が定めた寿命を勝手に終わらせたことは大罪であり、その罰として、自殺をしたその場に暫く縛られることになります。その期間は、神しか知りません」

 もしかして……あの花子さんって、天長会の信者で、しかも『巫女』だったんじゃないか。

 愛原:「その……罰を受けた死んだ人が、神様に赦されるには、周りの生き残った人間としてはどうすればいいのだろう?」
 フロント係:「神の啓示を待つのみ。あとは、ひたすらお祈り申し上げるのみですね。もしくは、自殺に追いやったとされる側が明らかに悪い場合、神からの罰を受ける場合があります。その罰が終わった後、赦されるとも言われています」
 愛原:「それは……神様の罰で死ぬってこと?」
 フロント係:「罪の内容次第です」

 日本アンブレラの次は、宗教団体か。

 フロント係:「よろしければ、向こうに天長会について紹介しているコーナーがございます。お夕食の後、御覧になってみてはいかがでございましょうか」
 愛原:「なるほど。それでは、後で見せてもらおうかな」

 私はフロントをあとにして、ロビーに戻った。
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