報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「仕事の終わり」

2021-06-15 20:03:00 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月5日20:30.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 夕食会が終わり、私達は帰路に就くことにした。

 斉藤秀樹:「これはタクシーチケットです。これを使ってください」
 愛原:「ありがとうございます」

 しかし、またもや2枚ある。
 恐らく、東京駅からも使ってくれという意味だろう。

 メイド(サファイヤ):「タクシーが来ました」
 秀樹:「絵恋、明日から学校頑張れよ?」
 絵恋:「分かってるよー」
 秀樹:「宿題は終わったのか?」
 絵恋:「リサさんと一緒に終わらせた。リサさん、頭いい」
 愛原:「IQは高いからな」

 それが生まれつきのものなのか、或いは日本アンブレラの人体実験により得られた物なのかは分からない。

 愛原:「それでは社長、今日はありがとうございました」
 秀樹:「引き続き、よろしくお願いしますよ」

 私は斉藤家をあとにすると、家の前に止まっていたタクシーに乗り込んだ。
 高橋には助手席に乗ってもらう。
 今度のタクシーは最近流行りのトールワゴン型ではなく、セダン型だった。
 リアシートの真ん中に座ったリサは、足を広げる形を取った。
 今のリサは私服で、下はデニムのショートパンツである。
 絵恋さんは御嬢様よろしく、スカイブルーのワンピースに麦わら帽を被っている。
 お抱え運転手の新庄さんが、新型コロナウィルス陽性による療養中でなかったら、その車で送ってもらえるところだが、治癒まで不在となる。
 もっとも、今時は会社役員の出退勤や送迎などは、車を会社で用意し、運転手をタクシー会社もしくは派遣会社から派遣してもらうというのが一般的だ(役員車が白ナンバーなのはこの為である)。
 この方が経費節減になり、また、事故などのトラブルの際の責任も会社や役員が負うことはないのだろう。
 斉藤社長の場合、新庄さんが仕事に復帰できるまでは、暫定的にタクシー会社のハイヤー部門と契約し、ハイヤーで送迎してもらうという形を取っている(この場合、車はタクシー会社の所有なので緑ナンバーである)。

 愛原:「大宮駅までお願いします」
 運転手:「かしこまりました」

 ハイヤー契約の関係からか、或いは元々贔屓にしていたタクシー会社だからハイヤー契約にしたのか不明だが、私達が今乗っているタクシーの会社と、斉藤社長が暫定的に利用しているハイヤーとは同じ会社らしい。
 タクシーが走り出す。

〔「今日は皆で温泉旅行だ!」「わーい!やったー!」〕

 このタクシー会社の助手席後ろには、モニタが設置されている。
 何やらCMが流れて来た。

 リサ:「! これ、サイトーのお父さんの会社!」
 絵恋:「そ、そうね……」

〔「自粛破りは行けませんよ。まずはステイホームですね」「あっ、近所のカッパ爺さん!」「怨嫉謗法はいけませんよ。まずはワクチンを打ちましょうね」「ボク達、まだ子供だからワクチン打てないよ~!」「敬老たる私はもう打ちました。なので私はサボリスキーに行きます!」「そんなぁ~!」「河童くん、こんにちはw」「怨嫉謗法はやめなさい!」「今は何月だと思っているのかね?それにワクチンを打てば絶対に感染しないというわけではない!こういう勘違い汚爺がウィルス感染を広げるのだ!」「訴えます!名誉棄損で訴えます!」「じゃあ、温泉には入れないの?」「諦めるのはまだ早い。ダイニチの『全国秘湯巡り』がある。これなら自粛中、自宅のお風呂があっと言う間に温泉に!登別でも草津でも湯布院でも、何でも思いのままだ!」「ダイニチの『全国秘湯巡り』かぁ……」「よし、それを買ってこよう!」「ステイホーム破りはいけませんよ!」「汚爺さんや……。日用品の買い物は自粛要請には当たらないと何度言ったら分かるのかね?しかもユタさんは壬申戸籍を持っているぞ?オマエの出自などモロバレだ」「訴えます!名誉棄損で訴えます!」〕

 リサ:「……何これ?」
 絵恋:「うーん……。ビミョー……ね」

 何か最後、ヤバいフレーズが流れたような……?

 愛原:「これ、テレビ放映はしていないよね?」
 絵恋:「ええ。テレビCMとラジオCM、それ以外のCMはそれぞれ別にしていると聞いたことがあります」

 大日本製薬に限らず、ラジオCMはテレビCMより聴覚的にインパクトのある内容にするのがセオリーだが、こういうタクシーのモニタとかはもっとマニアックな内容になるのだろうか。

[同日20:45.天候:晴 さいたま市大宮区 JR大宮駅西口]

 タクシーは大宮駅西口に到着した。
 ここで私は、斉藤社長からもらったタクシーチケットに料金を記入した。
 そこで気づいたのだが、社長からもらったチケット、それぞれ種類が違った。
 今使用している1枚は、そのタクシー会社と法人契約したもの。
 恐らく、会社に料金請求が行き、経費で落とすつもりだろう。
 もう1枚はクレジット会社が発行しているもの。
 これは斉藤社長が個人的に使用しているものではないか。
 なので、これを使用するのは……何だか忍びないな。

 愛原:「絵恋さん、キミもお父さんからチケットをもらったよね?」

 タクシーを降りてから私は絵恋さんに聞いてみた。

 絵恋:「あ、はい。これですけど?」

 見せてもらったそのチケットも、クレジット会社で発行されたものであった。

 愛原:「私ももらったんだ」
 絵恋:「そうですか。ということは、東京駅でお別れですね……」

 絵恋さんは寂しそうに言った。
 これは、住んでいる地区は同じでも、丁目が違うので、帰る方向は途中で別々になる。
 もう夜だし、明日から学校なので、すぐに帰る必要があるので遠回りはできない。

 愛原:「まあまあ。東京駅までは一緒だし、リサとはまた明日、学校で会えるじゃないか」
 リサ:「先生。それ違う」
 愛原:「ん?」

 リサは先にエスカレーターに乗った。
 そして、後ろに乗る絵恋さんに振り向いて言う。

 リサ:「登校の時に会える、だよ」
 愛原:「お、そうか。一緒に学校に行くもんな」
 絵恋:「リサさん……!萌えぇぇぇぇぇっ!!」
 高橋:「また悶絶しやがった……」

 高橋は呆れた。

 リサ:「普通の電車に乗るの?」
 愛原:「ああ、そうだ。宇都宮線か高崎線だな」
 絵恋:「あ、ちょっと待ってください」

 絵恋さんはそう言うと、キップ売り場に向かった。
 Suicaにチャージでもしているのだろうか?
 しばらくして戻ってきた絵恋さんは、手にグリーン券を4枚持っていた。

 リサ:「父からこれに乗るように言われたんです。お金はもらってます」
 愛原:「え、そうなの?」

 立場上は絵恋さんだけグリーン車なのだろう。
 だが、実情を考えるとそういうわけにはいかないので、結局私達も一緒にということだ。
 もっとも、新幹線の自由席よりも安いのだがな。

 愛原:「何だか、却って申し訳ないなぁ……」
 絵恋:「でも、リサさんの隣は私ですからね」
 愛原:「ああ、それはもちろん」

 但し、グリーン料金は斉藤社長からの奢りではあるが、運賃は自腹である。
 当たり前だ。
 改札口はそれぞれ自分達のSuicaやPasmoで通過する。
 紙のグリーン券だと、車内でグリーンアテンダントから検札があるので、それまではちゃんと持っていなくてはならない。

 愛原:「まだ少し時間がある。飲み物とか買っていこう」
 リサ:「夕食会でお酒出たのに、また飲むの?」
 愛原:「ま、まあ、缶ビール1缶だけ……な。ほら、リサや絵恋さんにも買ってあげるから」
 リサ:「おー!」
 愛原:「絵恋さんには、グリーン券の御礼として」
 絵恋:「ですから、私は父の言い付けに従っただけですので」
 愛原:「いいからいいから」

 私達はホームに向かう前に、コンコース内のNEWDAYSに入った。
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“私立探偵 愛原学” 「ボスの正体」

2021-06-15 16:10:18 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月5日15:45.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区上落合 斉藤家]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は斉藤社長に報告書を持って行った。

 斉藤絵恋:「よーこそ、よーこそ!リサさーん!……と、愛原先生」
 高橋:「俺には挨拶ナシかよ」
 愛原:「まあまあ。リサは絵恋さんと遊んでいるといい」
 リサ:「分かった」
 絵恋:「さあ、リサさん、行きましょ!私達の愛の巣へ
 高橋:「リサという蜘蛛の巣かもしれねーぞ!?」
 絵恋:「それでもいいわ!リサさん、私を絡め取って~
 高橋:「先生。あれは末期症状ですよ?さっさと射殺しちゃいましょう」
 愛原:「まあまあまあ」
 メイド(ダイヤモンド):「お待たせ致しました、愛原様。旦那様がお待ちでございます。ご案内させて頂きます」
 愛原:「ありがとう」
 高橋:「今日はパールはいねーのかよ?」
 ダイヤモンド:「パールは先に都内へ戻りました」
 愛原:「どうやら、行き違いだったようだな?」
 高橋:「まあ、しゃーないっス」

 高橋は肩を竦めた。

 ダイヤモンド:「こちらでございます」

 私達は1階奥の応接間に通された。

 斉藤秀樹:「やあ、愛原さん、いらっしゃい。今日はご苦労さまです」
 愛原:「恐れ入ります。報告書をお持ち致しました」

 私と高橋は中に入ると、斉藤社長の向かいに座った。

 秀樹:「娘も大喜びでした。愛原さんに依頼して良かったですよ」
 愛原:「お褒めに預かりまして」

 斉藤社長は私の報告書を見ながら、終始にこやかにしていた。

 秀樹:「おお、遊園地に行ってロープウェイにも乗りましたか。どちらも最近行ってないので、娘にとっても良い経験になったことでしょう」
 愛原:「光栄です」
 秀樹:「ただ、色々とハプニングに巻き込まれてしまったという話は伺いました。そのようなハプニングに対しても、娘を守って下さったようですな」
 愛原:「これも仕事ですから。それより……社長に質問させて頂きたいことがあるんです」
 秀樹:「どうぞ、何なりと。但し、回答可能なものとそうでないものとがありますが」
 愛原:「私達の最初の宿泊先、ホテル天長園を予約したのは……ただの偶然ではありませんね?」
 秀樹:「さすがは愛原さん。名推理です。実はリサさんや白井伝三郎が宗教法人天長会と何らかの関わりがあると知り、そのホテルを予約してみたのです。愛原さんなら、きっとそこから真相に繋がる何かを見つけて頂くことを期待しておりました」
 愛原:「ええ、おかげさまで。リサの過去について、だいぶ分かりましたよ。生き別れの妹さんとか、姪っ子さんとかいましたからね」

 リサがもし順当に歳を取っていたなら、私よりも一回りか二回り年上である。

 秀樹:「そうですか。……愛原さんのことですから、その報告書も作成済みではありませんかな?」
 愛原:「こちらに……」
 秀樹:「さすがですね。追加報酬は弾ませて頂きます」
 愛原:「ありがとうございます。……あの、失礼を承知でもう1つよろしいでしょうか?」
 秀樹:「どうぞ」
 愛原:「斉藤社長は……実は私よりも、もっと真相に近い所にいらっしゃるんじゃないでしょうか?」
 秀樹:「と、言いますと?」
 愛原:「ホテル天長園には、あまりにも真相に近い所がありました。それを見つけた斉藤社長は、実は私よりももっと詳しいのではないかと思いました」
 秀樹:「なるほど」
 愛原:「ホテル天長園は、本来は天長会信者の為の合宿施設兼福利厚生施設です。それを、天長会で大きな行事が無い時に限って、一般利用に開放しているだけに過ぎないようです。つまり、一般にはあまりPRされていないということです。それを社長が御存知なのは不思議です」
 秀樹:「私の所にも、色々な情報が集まるんですよ。こう見えても、大きな製薬会社の代表取締役ですから」
 愛原:「それでも宗教関係施設にもお詳しいのは何故ですか?」
 秀樹:「数千人もの社員を抱えていれば、その中に天長会信者の1人や2人いたりするものです。更には……。ちょっと失礼」
 愛原:「えっ?」

 突然、社長が退室した。

 高橋:「先生、社長が逃げましたよ?」
 愛原:「失礼なこと言うんじゃない!」

 その時、私のスマホの着信が入った。
 画面を見ると、ボスからであった。
 向こうからこちらには繋がるが、私からボスの番号に掛けようとすると繋がらない。

 愛原:「もしもし?」
 ボス:「私だ」
 愛原:「ボス。お世話になっております。申し訳ありませんが、今ちょっと取り込み中ですので……」
 ボス:「洗濯物かね?」
 愛原:「いえ、その取り込みじゃありません!今、斉藤社長の御宅にいまして……」
 ボス:「分かっている」
 愛原:「は?」

 すると、ドアが開いた。
 そこにはスマホを持って喋る斉藤社長の姿があった。

 秀樹:「何故なら、キミから『ボス』と呼ばれた男は私のことだからだ」
 愛原:「社長!?」

 すると社長は電話を切った。

 秀樹:「愛原さん、こういうことです」

 社長は混乱する私達をよそに、さっき座っていたソファに座り直した。

 愛原:「え?で、でも、声が少し違う……」
 秀樹:「こういうことかね?」

 社長、ものの見事に声色を変えて見せた。
 まるでアニメの声優だ。

 高橋:「凄ェ!銀河万丈みたいっスね!」

 この作品がアニメ化したら、ボスと斉藤社長のCVは銀河万丈氏に決まりだな。

 秀樹:「私の特技です。妻や娘にはバレてしまってますがね」
 高橋:「あのレズガキ、知ってたのかよ!」
 愛原:「プロの声優ばりに声色を別人のように変えられるとは、素晴らしい特技です」
 秀樹:「帰りが遅くなる時とか、会長とか他の役員の声色を使って妻に誤魔化していたら、いつのまにかこんなスキルが身についてしまいまして……」
 愛原:「それがしっかりできる人、なかなかいないと思いますよ?」
 高橋:「それでもしっかりバレたんスよね?」
 愛原:「え?じゃあ、社長は世界探偵協会に所属して……?」
 秀樹:「ええ、そうです。多くのバイオハザード事件に対応できる民間探偵をふるいにかける為、私はその協会の役員になりました」

 通りで社長、私の仕事内容を逐一知っていたわけだ。

 秀樹:「そしてその結果、愛原さんこそが相応しいと判断させて頂きました」
 愛原:「大変光栄ですが、よろしいのですか?カミングアウトして」
 秀樹:「……どうも、おかしいことが起こっておりまして……」
 愛原:「はい?」
 秀樹:「協会内部の中で、『ボス』を名乗って零細探偵に仕事を斡旋する役員は何人かいます。しかし、愛原さんに連絡している『ボス』は私だけのはずなんです」
 愛原:「はあ……」
 秀樹:「何故か分かりませんが、私以外に『ボス』を名乗り、愛原さんの事務所に連絡している者がいるようです」
 愛原:「ええっ!?」

 私が聞いている限り、『ボス』を名乗る者の声は1つだけだったはずだ。

 秀樹:「それが誰で、何の目的でそうしているのかは分かりません。今後、私は『ボス』を名乗るのをやめます。にも関わらず、『ボス』を名乗って掛けて来る者がいたら警戒してください」
 愛原:「わ、分かりました」
 高橋:「社長、ちょっといいっスか?」
 秀樹:「何かね?」
 高橋:「バイオハザード事件に対応できる探偵を探すのに、何でわざわざ『ボス』を名乗って回りくどい連絡なんてするんスか?社長の鶴の一声でいいじゃないスか?」
 秀樹:「探偵協会の役員というのはね、殆どボランティアなんだよ。もちろん、中には探偵業を営みながら役員をしている者はいる。そういう者は自分の仕事で稼いでいるだろうが、私のような外部役員というのは、殆ど報酬はもらっていないんだ」
 高橋:「はあ……だから何なんスか?」
 秀樹:「仮にも大企業の経営者が、大事な仕事の片手間にそんなボランティアに精を出すとは何事かと、噛み付く者も少なからずいるんだよ。それを防ぐ為に、活動中は匿名を使うことが多い。これがゴルフとか会食とかなら、取引先や政界と繋がりを確保するのも仕事のうちと反論できるが、探偵協会の『ボス』というのはね……。ちょっと役員会や株主総会では、言い訳にしかならないだろうね」
 愛原:「高橋。社長には社長の立場というのがあるんだ」
 高橋:「はあ……」
 秀樹:「まあ、結果的に愛原さん達を騙すことになってしまい、それは申し訳ありません」
 愛原:「いえ、とんでもないです」
 高橋:「“釣りバカ日誌”のスーさんが、大建設会社の社長でありながら、釣りに精を出すことを内緒にしているのと同じことっスか」
 愛原:「こら!」
 秀樹:「ははははは!確かに!それと似ているかもしれないね!だから鈴木社長は、釣りの間は『スー』さんで通しているわけだ!いや、さすがだ、高橋君!今ので『スー』さんの気持ちが分かったよ!」

 果たして私は、大企業家の気持ちを主観的に理解できる日は来るのだろうか。
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