報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「天長園最後の夜」

2021-06-07 19:51:42 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月2日22:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園7F・721号室→1F大浴場]

 部屋に戻った時、既に室内には布団が敷かれていた。

 絵恋:「私、ちょっとトイレ」
 リサ:「行ってらっしゃい」

 窓側に置かれている椅子とテーブルに向かい合って、リサと絵恋さんは学校の宿題をやっていたようだ。
 私が戻って来ると同時に、絵恋さんがトイレに行ってしまう。

 リサ:「お帰り。遅かったね」
 愛原:「ああ。ちょっと女将さんと話し込んじゃって……」
 リサ:「そう。あの女将さんは……」

 リサが何か言おうとしたが、私はリサの頭をクシャクシャに撫で回した。

 愛原:「リサ!1人でよく頑張ったな!もう何も心配要らないぞ!」
 リサ:「先生!?」

 リサは驚いた顔をしていた。

 愛原:「人間だった頃は、本当に大変だったな!」
 リサ:「う、うん……」
 愛原:「早く人間に戻れるといいな!」
 リサ:「人間に戻ったら、私、先生と結婚……」
 高橋:「リサ!先生のお命は先生お1人だけのもんじゃねぇ!先生は殺させねーぜ!」
 リサ:「え?え?え?」
 愛原:「高橋!余計な事言うんじゃない!」
 リサ:「なに?何の事?私、先生を食い殺したりしないよ?そりゃあ、確かに食べたいけど……」
 愛原:「ま、まあまあ。いいからいいから。それより、もう一度温泉に入ってこようと思うんだが……」
 リサ:「あー……。私達、先生達が話している間に入って来ちゃった」
 愛原:「そうなのか。気づかなかったな」

 ここから大浴場に行くには、一旦1階に下りてロビーの横を通る必要がある。

 高橋:「先生!お供します!」
 愛原:「ああ、行こう」

 私と高橋は再び大浴場に向かった。
 男湯に入ろうとすると、女湯から誰かが出て来た。
 それは上野凛さんだった。
 アルバイトは終わったのだろう。
 仲居の着物からTシャツに短パン姿であった。

 上野凛:「あっ、どうも……こんばんは」
 愛原:「やあ、こんばんは。悪いね。お母さんを長話に付き合わせてしまって」
 凛:「いえ、別に構いません。母も、ずっと誰かに話したかったことだと思うので」

 見ると凛さんは僅かに前頭部から2か所、短い角が生えており、耳はリサほどではないが、先が尖っている。
 爪も若干長くて尖っていた。
 これが凛さんの第1形態なのだろう。
 BOWと人間のハーフだと、こういう形態になるのか。

 愛原:「キミも学校に行く時は、もう少し人間に化けるんだろ?」
 凛:「そうです。今は……他に人間のお客さんはいませんから」
 高橋:「それで、こっそり客用の風呂に入ってたわけか」
 凛:「……他に誰もいないので」
 愛原:「まあ、それならいいじゃない」
 凛:「あの……伯母さん……は、人間に戻るんですか?あの方法で」
 高橋:「冗談じゃねぇ!フザけるな!」
 愛原:「まあまあ、落ち着けって。さすがに、あの方法は俺も難しいと思ってるよ」
 凛:「そうですか……」
 愛原:「他に人間に戻れる方法をデイライトさんは考えているかもしれない。安全で誰も悲しまない方法があるなら、それが見つかるに越したことはない」
 凛:「はい。……あの、伯母さんをよろしくお願いします。絶対に1人で寂しかったはずなんです」
 愛原:「分かってるよ。俺に任せてくれ」
 高橋:「頼もしい御言葉です」
 愛原:「お前も『お兄ちゃん』と呼ばれるようになったじゃないか」
 高橋:「いや、俺は……何もしてないっすよ」
 凛:「こんなイケメンのお兄さんができて、伯母さんは幸せですね」
 愛原:「おっ、やっと笑ってくれた。イケメンっつったって、こいつ、バイセクシャルだで?」
 高橋:「いえ、俺は誇り高きゲイです!」
 愛原:「メイドさんと付き合ってて何言ってんだ、バカ!」
 凛:「メイドさんと付き合ってるんですか!?」
 高橋:「いや、向こうがだな……」
 愛原:「メイドさんの方から猛アタックされてんの。イケメンは辛いよな!?」
 高橋:「いや、そういうつもりじゃないっスよ!」
 凛:「はははは!」

 凛さんは笑い出した。
 笑うと少し尖った犬歯が覗いた。
 まあ、上手く角さえ隠せば、あとは生まれつきの身体的問題で通せるかな……?

 愛原:「ああいう思春期の年頃の女の子は、笑ってナンボだ。落ち込むと、何をするか分からんからな」
 高橋:「ふとした拍子に電車に飛び込んだりとかですか?」
 愛原:「まあ、それは最悪のパターンだな」

 男湯に入って、何度目かの湯治に入る。
 恒例の高橋による背中流しを経た後、大きな岩風呂に体を沈めた。

 高橋:「それにしても、ヤバい条件っスね」
 愛原:「何が?」
 高橋:「人間に戻る方法ですよ。そのリサ・トレヴァーの『1番大事な人間』を、わざと特異菌に感染させて石灰化させ、その中から出来上がった『核』を取り出し、液体化させて投与するって……。それってつまり、『1番大事な人間』を生け贄にするってことと同じっスよ」
 愛原:「そうだな。しかし、1つ気になることがある」
 高橋:「何スか?」
 愛原:「特異菌の事が世に出たのは2017年のことだ。アメリカのルイジアナ州にある農場で起きた事件が発端だな」
 高橋:「あー、そうっスね」
 愛原:「だけど、善場主任がリサ・トレヴァーから人間に戻ったのはいつだ?もうかれこれ10年以上は経ってるだろ?」
 高橋:「そうっスね!」
 愛原:「善場主任がさっきの話と同じ方法で人間に戻れたというのなら、日本側は既に特異菌の情報を知っていて、しかも現物まで手に入れていたことになるぞ?」
 高橋:「そ、そうですよね!?」
 愛原:「それともう1つ。ということは、だ。善場主任が人間に戻るに当たり、善場主任の為に人柱になった人間が1人いるってことだ。それは誰なんだろう?」
 高橋:「そ、そうですよね!?よし、あのポーカーフェイス姉ちゃんを動揺させてやるチャンスです!誰を人柱にしたのか、厳しく尋問……」
 愛原:「しなくていい。それより、『1番大事な人間』を人柱にしないといけないというのが気になるな。人間なら誰でもいいってわけじゃないってところがな」
 高橋:「まあ、そうですね」

 恐らく、リサにとって『1番大事な人間』は私ということになる。
 ということは、今リサを人間に戻す為には、私が人柱にならないといけないということだ。
 うーん……私もリサのことは好きだが、人柱になれる自信があるかというと、ちょっとなぁ……。
 善場主任達のことだ。
 もっといい方法を考えていることだろう。
 それがすぐに見つかるかどうかは別として。
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“私立探偵 愛原学” 「ホテル天長園」 7

2021-06-07 10:50:23 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[5月2日18:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園]

 夕食は同じ時間、同じ最上階のレストランで取った。
 刺身は天ぷらに、一人鍋のすき焼は今日は寄せ鍋になっていた。
 しかも、驚いたのは……。

 女将:「こちら、サービスになっておりますので」

 と、サイコロステーキが出て来たことだ。
 しかもよく見ると、リサの方が若干多い。
 女将さんの表情を見ると、何となく察することができた。
 やはり、リサ……本名『上野暢子』は、この上野母娘の血縁者なのだと。

 愛原:「女将さん、ちょっと後でお話しよろしいですか?」
 女将:「かしこまりました」
 リサ:「おー!ステーキ!」
 絵恋:「そういえば那須には那須和牛とか、ブランド牛もいるのよ」
 リサ:「なにっ!?」
 絵恋:「もっとも、ウィキペディアにも載っていないくらいマイナーなものだけど……」
 リサ:「食べてみたい!」
 女将:「目の前にあるサイコロステーキがそうですよ」
 リサ:「おー!」

 リサは早速、サイコロステーキに手を付けた。

[同日20:00.天候:晴 同ホテル1Fロビー]

 夕食が終わり、私達は1Fのロビーに移動した。
 但し、リサと絵恋さんは部屋に戻っている。

 愛原:「お忙しいところ、すいません。うちのリサのこと、分かったんですね?」
 女将:「はい。上野暢子は、行き別れた私の姉です」
 高橋:「歳が全然合わねーぞ!?」
 女将:「『最も危険な12人の巫女は、神に魅入られし巫女。永遠の時を生きる』と、言われてるくらいですから」
 愛原:「日本版リサ・トレヴァーの中でも、特にGウィルスの適合率の高い者は老化現象まで止めることができますからね。リサの場合も、極端に遅いんですよ。あれだけ食べているのに、体が大きくならない理由の1つです」

 善場主任やアメリカのシェリー・バーキン氏など、人間に戻れた(或いはBOW化を阻止できた)側でさえも、体が大きくないことは知られている。
 この理由については、未だ研究中だ。
 もっとも、体は小柄でも身体能力については人外規格である。

 愛原:「リサの本来の年齢は、もうアラフィフなんだよ。リサ・トレヴァーにさえならなければ」
 女将:「姉は私より5つ年上でした。私が……今年43ですので、姉は48歳になります」
 高橋:「リサのヤツ、もうそんなオバハンだったのか……」
 愛原:「その言葉、この女将さんに対しても失礼だからな?」
 女将:「構いませんよ」

 そして隣にいる凛さんが14~15歳だとして、女将さんは28歳か29歳の時に娘さんを産んだことになる。

 愛原:「! 純血のBOWは、ちゃんと体が成長するんですね!?」
 女将:「いえ、このコは純血じゃないですよ。私の夫は人間ですから、そういった意味ではハーフになります」

 でも女将さんによく似ていることから、凛さんは母親似なのだろう。
 しかし、BOWであっても、子供を作れるのが分かった。
 多くのBOWの場合、性欲よりも食欲の方が勝っているので、そういった話を聞かないだけか。
 そしてこの女将さんも食人に対する食欲は抑えられているので、子供を作る余裕もあったということか。
 あー……なるほど。
 食人に対する食欲が抑えられてるリサも、その欲望が性欲に向かうことがあるなぁ……。

 愛原:「私が分からないのは、どうしてお姉さんだけが児童養護施設に入っていたのかです」
 女将:「姉は行方不明だったんですよ」
 愛原:「えっ!?」
 女将:「御存知無いですか?昔、栃木県では連続幼女誘拐事件が発生していたというのを……」
 愛原:「ああ、はいはい!ありましたね!例えばパチ屋に両親と来ていた当時4歳の女の子が、未だに行方不明とか……」
 女将:「もちろん、全員がというわけではないでしょうが、その中にはアンブレラに浚われたコ達もいるんですよ。そして、その中には、もしかしたら愛原様方が今まで戦ったリサ・トレヴァーがいたかもしれません」
 愛原:「えっ、そうなの!?」
 女将:「そして、姉もその1人だったということになります」
 愛原:「でも、児童養護施設にいたんですよ?天長会の」
 女将:「アンブレラがどのように浚い、浚った後どうしたかは個人個人で違ったようです。姉の場合は、天長会に匿われたのでしょうね。宗教団体に対する捜査は、警察も慎重になりますから」
 愛原:「宗教団体かぁ……。女将さんがBOWになった経緯は?」
 女将:「姉を探す為です。私は独自で調査を行い、姉が天長会に保護されているという所まで突き止めたのですが、司祭様方と話をしているうちに、アンブレラを紹介されまして……」
 愛原:「ヒドいもんだな」

 女将さんの話だけでも、天長会と日本アンブレラが繋がっているのは分かった。
 恐らく姉の行方を知りたければ、アンブレラの研究所に行けとでも言われたのだろう。
 行ったら捕まって、BOWになる実験でも受けさせられたか。

 愛原:「女将さんもリサ・トレヴァーになる実験を受けたのですか?」
 女将:「はい。ただ、私は適合率が悪かったようです」
 愛原:「悪かったら化け物になるはずですよ?女将さんは、見事に人間の姿になれているようですが……?」
 女将:‘「白井が別の薬を投与したのです。『アンブレラの方針であるウィルスではない。悔しいが、今後はカビが研究の対象になる』と……」
 愛原:「特異菌だ!それ、いつの話ですか!?」
 女将:「かなり前ですよ。東日本大震災より前の話です」
 愛原:「えっ?」
 女将:「確かにこの姿を保つことはできましたが、中身は変わっておりません。娘もです」

 リサは天長会の経営する児童養護施設から日本アンブレラに引き渡された後、日本版リサ・トレヴァーとしての人生を歩むことになる。
 コールドスリープ中は一切の体の成長が止まる為、リサは子供のままで成長が止まった。

 愛原:「もう1つ聞きたいことがあります」
 女将:「何でしょうか?」
 愛原:「BOWの中には人間に戻れる者もいます。女将さんはどうして戻れないのでしょうか?その……特異菌のせいですか?」
 女将:「それは違います。むしろ、特異菌のおかげで人間に戻りやすくなったとも言われています」
 愛原:「それはどういうことですか?」

 女将さんは非常に話しにくそうだった。

 愛原:「凛さん、あなたは部屋に戻った方がいい。どうやら、ここからは更に難しくなりそうだ」

 私は凛さんを退出させると、改めて女将さんから話を聞いた。
 確かに、やり方は比較的簡単だが、心理的に難しいことが分かった。
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