[5月2日22:00.天候:晴 栃木県那須塩原市 ホテル天長園7F・721号室→1F大浴場]
部屋に戻った時、既に室内には布団が敷かれていた。
絵恋:「私、ちょっとトイレ」
リサ:「行ってらっしゃい」
窓側に置かれている椅子とテーブルに向かい合って、リサと絵恋さんは学校の宿題をやっていたようだ。
私が戻って来ると同時に、絵恋さんがトイレに行ってしまう。
リサ:「お帰り。遅かったね」
愛原:「ああ。ちょっと女将さんと話し込んじゃって……」
リサ:「そう。あの女将さんは……」
リサが何か言おうとしたが、私はリサの頭をクシャクシャに撫で回した。
愛原:「リサ!1人でよく頑張ったな!もう何も心配要らないぞ!」
リサ:「先生!?」
リサは驚いた顔をしていた。
愛原:「人間だった頃は、本当に大変だったな!」
リサ:「う、うん……」
愛原:「早く人間に戻れるといいな!」
リサ:「人間に戻ったら、私、先生と結婚……」
高橋:「リサ!先生のお命は先生お1人だけのもんじゃねぇ!先生は殺させねーぜ!」
リサ:「え?え?え?」
愛原:「高橋!余計な事言うんじゃない!」
リサ:「なに?何の事?私、先生を食い殺したりしないよ?そりゃあ、確かに食べたいけど……」
愛原:「ま、まあまあ。いいからいいから。それより、もう一度温泉に入ってこようと思うんだが……」
リサ:「あー……。私達、先生達が話している間に入って来ちゃった」
愛原:「そうなのか。気づかなかったな」
ここから大浴場に行くには、一旦1階に下りてロビーの横を通る必要がある。
高橋:「先生!お供します!」
愛原:「ああ、行こう」
私と高橋は再び大浴場に向かった。
男湯に入ろうとすると、女湯から誰かが出て来た。
それは上野凛さんだった。
アルバイトは終わったのだろう。
仲居の着物からTシャツに短パン姿であった。
上野凛:「あっ、どうも……こんばんは」
愛原:「やあ、こんばんは。悪いね。お母さんを長話に付き合わせてしまって」
凛:「いえ、別に構いません。母も、ずっと誰かに話したかったことだと思うので」
見ると凛さんは僅かに前頭部から2か所、短い角が生えており、耳はリサほどではないが、先が尖っている。
爪も若干長くて尖っていた。
これが凛さんの第1形態なのだろう。
BOWと人間のハーフだと、こういう形態になるのか。
愛原:「キミも学校に行く時は、もう少し人間に化けるんだろ?」
凛:「そうです。今は……他に人間のお客さんはいませんから」
高橋:「それで、こっそり客用の風呂に入ってたわけか」
凛:「……他に誰もいないので」
愛原:「まあ、それならいいじゃない」
凛:「あの……伯母さん……は、人間に戻るんですか?あの方法で」
高橋:「冗談じゃねぇ!フザけるな!」
愛原:「まあまあ、落ち着けって。さすがに、あの方法は俺も難しいと思ってるよ」
凛:「そうですか……」
愛原:「他に人間に戻れる方法をデイライトさんは考えているかもしれない。安全で誰も悲しまない方法があるなら、それが見つかるに越したことはない」
凛:「はい。……あの、伯母さんをよろしくお願いします。絶対に1人で寂しかったはずなんです」
愛原:「分かってるよ。俺に任せてくれ」
高橋:「頼もしい御言葉です」
愛原:「お前も『お兄ちゃん』と呼ばれるようになったじゃないか」
高橋:「いや、俺は……何もしてないっすよ」
凛:「こんなイケメンのお兄さんができて、伯母さんは幸せですね」
愛原:「おっ、やっと笑ってくれた。イケメンっつったって、こいつ、バイセクシャルだで?」
高橋:「いえ、俺は誇り高きゲイです!」
愛原:「メイドさんと付き合ってて何言ってんだ、バカ!」
凛:「メイドさんと付き合ってるんですか!?」
高橋:「いや、向こうがだな……」
愛原:「メイドさんの方から猛アタックされてんの。イケメンは辛いよな!?」
高橋:「いや、そういうつもりじゃないっスよ!」
凛:「はははは!」
凛さんは笑い出した。
笑うと少し尖った犬歯が覗いた。
まあ、上手く角さえ隠せば、あとは生まれつきの身体的問題で通せるかな……?
愛原:「ああいう思春期の年頃の女の子は、笑ってナンボだ。落ち込むと、何をするか分からんからな」
高橋:「ふとした拍子に電車に飛び込んだりとかですか?」
愛原:「まあ、それは最悪のパターンだな」
男湯に入って、何度目かの湯治に入る。
恒例の高橋による背中流しを経た後、大きな岩風呂に体を沈めた。
高橋:「それにしても、ヤバい条件っスね」
愛原:「何が?」
高橋:「人間に戻る方法ですよ。そのリサ・トレヴァーの『1番大事な人間』を、わざと特異菌に感染させて石灰化させ、その中から出来上がった『核』を取り出し、液体化させて投与するって……。それってつまり、『1番大事な人間』を生け贄にするってことと同じっスよ」
愛原:「そうだな。しかし、1つ気になることがある」
高橋:「何スか?」
愛原:「特異菌の事が世に出たのは2017年のことだ。アメリカのルイジアナ州にある農場で起きた事件が発端だな」
高橋:「あー、そうっスね」
愛原:「だけど、善場主任がリサ・トレヴァーから人間に戻ったのはいつだ?もうかれこれ10年以上は経ってるだろ?」
高橋:「そうっスね!」
愛原:「善場主任がさっきの話と同じ方法で人間に戻れたというのなら、日本側は既に特異菌の情報を知っていて、しかも現物まで手に入れていたことになるぞ?」
高橋:「そ、そうですよね!?」
愛原:「それともう1つ。ということは、だ。善場主任が人間に戻るに当たり、善場主任の為に人柱になった人間が1人いるってことだ。それは誰なんだろう?」
高橋:「そ、そうですよね!?よし、あのポーカーフェイス姉ちゃんを動揺させてやるチャンスです!誰を人柱にしたのか、厳しく尋問……」
愛原:「しなくていい。それより、『1番大事な人間』を人柱にしないといけないというのが気になるな。人間なら誰でもいいってわけじゃないってところがな」
高橋:「まあ、そうですね」
恐らく、リサにとって『1番大事な人間』は私ということになる。
ということは、今リサを人間に戻す為には、私が人柱にならないといけないということだ。
うーん……私もリサのことは好きだが、人柱になれる自信があるかというと、ちょっとなぁ……。
善場主任達のことだ。
もっといい方法を考えていることだろう。
それがすぐに見つかるかどうかは別として。
部屋に戻った時、既に室内には布団が敷かれていた。
絵恋:「私、ちょっとトイレ」
リサ:「行ってらっしゃい」
窓側に置かれている椅子とテーブルに向かい合って、リサと絵恋さんは学校の宿題をやっていたようだ。
私が戻って来ると同時に、絵恋さんがトイレに行ってしまう。
リサ:「お帰り。遅かったね」
愛原:「ああ。ちょっと女将さんと話し込んじゃって……」
リサ:「そう。あの女将さんは……」
リサが何か言おうとしたが、私はリサの頭をクシャクシャに撫で回した。
愛原:「リサ!1人でよく頑張ったな!もう何も心配要らないぞ!」
リサ:「先生!?」
リサは驚いた顔をしていた。
愛原:「人間だった頃は、本当に大変だったな!」
リサ:「う、うん……」
愛原:「早く人間に戻れるといいな!」
リサ:「人間に戻ったら、私、先生と結婚……」
高橋:「リサ!先生のお命は先生お1人だけのもんじゃねぇ!先生は殺させねーぜ!」
リサ:「え?え?え?」
愛原:「高橋!余計な事言うんじゃない!」
リサ:「なに?何の事?私、先生を食い殺したりしないよ?そりゃあ、確かに食べたいけど……」
愛原:「ま、まあまあ。いいからいいから。それより、もう一度温泉に入ってこようと思うんだが……」
リサ:「あー……。私達、先生達が話している間に入って来ちゃった」
愛原:「そうなのか。気づかなかったな」
ここから大浴場に行くには、一旦1階に下りてロビーの横を通る必要がある。
高橋:「先生!お供します!」
愛原:「ああ、行こう」
私と高橋は再び大浴場に向かった。
男湯に入ろうとすると、女湯から誰かが出て来た。
それは上野凛さんだった。
アルバイトは終わったのだろう。
仲居の着物からTシャツに短パン姿であった。
上野凛:「あっ、どうも……こんばんは」
愛原:「やあ、こんばんは。悪いね。お母さんを長話に付き合わせてしまって」
凛:「いえ、別に構いません。母も、ずっと誰かに話したかったことだと思うので」
見ると凛さんは僅かに前頭部から2か所、短い角が生えており、耳はリサほどではないが、先が尖っている。
爪も若干長くて尖っていた。
これが凛さんの第1形態なのだろう。
BOWと人間のハーフだと、こういう形態になるのか。
愛原:「キミも学校に行く時は、もう少し人間に化けるんだろ?」
凛:「そうです。今は……他に人間のお客さんはいませんから」
高橋:「それで、こっそり客用の風呂に入ってたわけか」
凛:「……他に誰もいないので」
愛原:「まあ、それならいいじゃない」
凛:「あの……伯母さん……は、人間に戻るんですか?あの方法で」
高橋:「冗談じゃねぇ!フザけるな!」
愛原:「まあまあ、落ち着けって。さすがに、あの方法は俺も難しいと思ってるよ」
凛:「そうですか……」
愛原:「他に人間に戻れる方法をデイライトさんは考えているかもしれない。安全で誰も悲しまない方法があるなら、それが見つかるに越したことはない」
凛:「はい。……あの、伯母さんをよろしくお願いします。絶対に1人で寂しかったはずなんです」
愛原:「分かってるよ。俺に任せてくれ」
高橋:「頼もしい御言葉です」
愛原:「お前も『お兄ちゃん』と呼ばれるようになったじゃないか」
高橋:「いや、俺は……何もしてないっすよ」
凛:「こんなイケメンのお兄さんができて、伯母さんは幸せですね」
愛原:「おっ、やっと笑ってくれた。イケメンっつったって、こいつ、バイセクシャルだで?」
高橋:「いえ、俺は誇り高きゲイです!」
愛原:「メイドさんと付き合ってて何言ってんだ、バカ!」
凛:「メイドさんと付き合ってるんですか!?」
高橋:「いや、向こうがだな……」
愛原:「メイドさんの方から猛アタックされてんの。イケメンは辛いよな!?」
高橋:「いや、そういうつもりじゃないっスよ!」
凛:「はははは!」
凛さんは笑い出した。
笑うと少し尖った犬歯が覗いた。
まあ、上手く角さえ隠せば、あとは生まれつきの身体的問題で通せるかな……?
愛原:「ああいう思春期の年頃の女の子は、笑ってナンボだ。落ち込むと、何をするか分からんからな」
高橋:「ふとした拍子に電車に飛び込んだりとかですか?」
愛原:「まあ、それは最悪のパターンだな」
男湯に入って、何度目かの湯治に入る。
恒例の高橋による背中流しを経た後、大きな岩風呂に体を沈めた。
高橋:「それにしても、ヤバい条件っスね」
愛原:「何が?」
高橋:「人間に戻る方法ですよ。そのリサ・トレヴァーの『1番大事な人間』を、わざと特異菌に感染させて石灰化させ、その中から出来上がった『核』を取り出し、液体化させて投与するって……。それってつまり、『1番大事な人間』を生け贄にするってことと同じっスよ」
愛原:「そうだな。しかし、1つ気になることがある」
高橋:「何スか?」
愛原:「特異菌の事が世に出たのは2017年のことだ。アメリカのルイジアナ州にある農場で起きた事件が発端だな」
高橋:「あー、そうっスね」
愛原:「だけど、善場主任がリサ・トレヴァーから人間に戻ったのはいつだ?もうかれこれ10年以上は経ってるだろ?」
高橋:「そうっスね!」
愛原:「善場主任がさっきの話と同じ方法で人間に戻れたというのなら、日本側は既に特異菌の情報を知っていて、しかも現物まで手に入れていたことになるぞ?」
高橋:「そ、そうですよね!?」
愛原:「それともう1つ。ということは、だ。善場主任が人間に戻るに当たり、善場主任の為に人柱になった人間が1人いるってことだ。それは誰なんだろう?」
高橋:「そ、そうですよね!?よし、あのポーカーフェイス姉ちゃんを動揺させてやるチャンスです!誰を人柱にしたのか、厳しく尋問……」
愛原:「しなくていい。それより、『1番大事な人間』を人柱にしないといけないというのが気になるな。人間なら誰でもいいってわけじゃないってところがな」
高橋:「まあ、そうですね」
恐らく、リサにとって『1番大事な人間』は私ということになる。
ということは、今リサを人間に戻す為には、私が人柱にならないといけないということだ。
うーん……私もリサのことは好きだが、人柱になれる自信があるかというと、ちょっとなぁ……。
善場主任達のことだ。
もっといい方法を考えていることだろう。
それがすぐに見つかるかどうかは別として。