[7月3日22:32.天候:晴 東京都新宿区新宿 JR新宿駅→渋谷区千駄ヶ谷 バスタ新宿]
〔まもなく新宿、新宿。お出口は、右側です。山手線、中央快速線、中央・総武線、京王線、小田急線、地下鉄丸ノ内線、都営地下鉄新宿線と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
稲生達を乗せた埼京線電車は、池袋から南は山手線を追い抜いて走行した。
山手線の隣を貨物線が通っており、そこを中距離電車や特急列車が走る時は『湘南新宿ライン』と称し、通勤電車が走る時は『埼京線』と称する。
いずれにせよ、山手線の駅と違ってホームが無い為、その横を通過するのである。
稲生:「最後の乗り換えだ……」
電車は新宿駅手前のポイントをいくつか渡って、比較的東側のホームに入る。
〔しんじゅく~、新宿~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
通勤電車から中距離電車、特急列車まで様々な規格の列車が発着するせいか、新宿駅の一部のホームにはまだホームドアが無い。
埼京線電車は、そんなホームドアの無いホームに到着する。
電車から降りた乗客の殆どが、コンコースへ向かう。
埼京線や湘南新宿ラインに乗り換えようとする客は、あまりいない。
というのは、新宿駅だと別のホームに乗り換えさせられることがあり、それを防ぐには手前の池袋駅で乗り換えた方が楽だからである。
池袋駅だとホームが決まっているので、階段の昇り降りをさせられることは無い。
但し、一部の特急列車は除く。
稲生達も階段を登って、コンコースに向かった。
稲生:「何度か通ってる道だから、迷わずに行けるね」
マリア:「このルートを使う発想、勇太だからだろうね。そういえば、夜行列車で帰ったこともあるけど、あれは?」
稲生:「“ムーンライト信州”か。残念なことに、廃止になったよ」
マリア:「そうか」
新南口の方は新宿駅の中でも比較的人が少なく、構造もゴチャゴチャしているわけではないので、歩きやすい方である。
トイレもそんなに混む方ではない。
そんな新南改札口を出ると、すぐ目の前がバスタ新宿である。
ここは2階。
バスタ新宿の乗り場である4階へ直行するエスカレーターが目の前にある。
早速、そのエスカレーターでバスタ新宿に向かう。
マリア:「乗り場はどこだって?」
稲生:「C7だって」
マリア:「C7?」
稲生:「まだ少し時間ある。飲み物でも買って行こう」
今のバスタ新宿には自販機だけではなく、コンビニや土産物店も出店するようになった。
自販機で飲み物を買い、空いているベンチに座る。
乗り場を見ると、次々と夜行バスが発車して行くのが分かった。
稲生:「あ、そうだ。キップを渡しておくよ」
マリア:「ありがとう」
コンビニで発券したので、コンビニのマークの入った紙製のチケットホルダーで、チケットもコンビニのマークが入っていた。
マリア:「長距離バスのチケットがコンビニで発券できるのはいいね」
稲生:「そうだね。便利なもんだよ。明日、到着したら先生がいなくなってることはある?」
マリア:「私の予知では無いね。一応、私達の報告を聞く用意はあるみたいよ」
稲生:「そうなんだ」
マリア:「ま、慌てなくてもいいから」
稲生:「ちょっとさ、あそこのコンビニに行って来る。マリアも来る?」
マリア:「私はここで待ってる」
稲生:「すぐ戻って来るから」
マリアは稲生が何を買いに行ったか、だいたい予想できた。
いや、予知と言った方がいいか。
それは既に途中の店で入手済みのものである。
つまり、買い足ししているわけである。
稲生:「お待たせ」
稲生はすぐに戻って来た。
他の飲み物や軽食も一緒に買ってはいるが、メインで買った物が何なのかはすぐに分かった。
マリア:「ゴム、3箱目じゃない?」
稲生:「1箱じゃ足りなかったから……。早く、これを着けずにヤりたいよ」
マリア:「結婚前に妊娠したら、大変なことになるからね」
稲生:「そんなに厳しい掟なの?」
マリア:「多分、生贄確保の為にそうしてるんじゃないかと思う。ベルフェゴールもそうだけど、悪魔って赤子の魂とか好むからね」
ダンテ一門では『仲良き事は美しき哉』の綱領があり、その為に門内の恋愛・結婚は自由とされている。
但し、『結婚は一人前になった者がするもの』という不文律があったり、『妊娠・出産は結婚後にすること』という明文化された掟がある。
しかも、『結婚前に妊娠した場合、胎児は堕胎し、儀式の生贄に使用するものとする。出産についても同様とする』という罰則規定まで。
この為、入門時に(輪姦被害による父親不明の)双子を妊娠していたマリアは堕胎し、彼女に目を付けていたベルフェゴールへの生贄とされている。
稲生:「そうなんだ。僕の時はどうするんだろう?」
マリア:「契約相手はアスモデウスでしょ?多分、赤子の魂じゃなく、『大量の精子』が生贄になるんじゃない?」
稲生:「……マジ?」
マリア:「ホントに怖いねぇ。勇太がそんな“色欲”の悪魔と契約して、本当に大丈夫なのか……」
ベルフェゴールは“怠惰”を司る悪魔である。
なのでマリアは、自分の身の回りの世話など全て人形にやらせているのだ。
人形作りは労働ではなく、趣味である。
[同日23:00.天候:晴 バスタ新宿4F→アルピコ交通東京5551便車内]
発車の5分前に、バスが入線してきた。
係員がバスの荷物室のハッチを開けて、大きな荷物を持った客の荷物を入れている。
運転手が乗客名簿と共に降りて来て、乗客の改札を始めた。
運転手:「はい、稲生様、9のBです」
稲生:「よろしくお願いします」
運転手:「はい、スカーレット様、9のAです」
マリア:「Thanks.」
バスの車内は4列シートである。
しかし、長距離仕様の為、シートピッチは広めに取られている。
後ろの方の2人席が指定されていた。
人形達の入ったバッグは、いつもの通り、荷棚に置く。
稲生:「あとは白馬まで、一眠りといったところかな」
マリア:「そうだな」
マリアはローブを脱いで、ひざ掛けの代わりに使った。
稲生は飲み物をドリンクホルダーに入れる。
軽食は座席のテーブルを出して、そこに置いた。
稲生:「腹が減っては熟睡できぬ、と言いますから……」
マリア:「軽くつまむ程度ね」
稲生:「先生に出発報告ってしなくていいのかな?」
マリア:「それは家を出る時、私からしておいた。今したところで、師匠はもう寝てるよ」
稲生:「まあ、それもそうか。家を出る時は起きてらしたんだね」
マリア:「一応ね。『1人じゃ寂しいから、早く帰ってきとくれ~』なんて言ってたけど……」
稲生:「ありゃ?何だ。だったら、新幹線か特急にしたのに……」
マリア:「ただのネタだよ。明日か明後日には、その屋敷から仕事に出るってのに……」
稲生:「う、うん。でも、明日は早く帰ってあげよう」
マリア:「まあ、このルートじゃ、寄り道も何も無いけどね」
バスは2~3分遅れで出発した。
これが昼間の便なら、中央高速上に設置されたバス停からも乗客を拾うのだが、夜行便は翌朝までバス停には止まらない(途中休憩はある)。
マリア:「とにかく、クエストクリアおめでとう。この言葉、明日、師匠からも言われると思うけど、私からも改めて言わせてもらう」
稲生:「ありがとう」
こうして、稲生勇太のクエストは無事に終了した。
マリア:「ああ、そうそう。指輪、用意しておいてよ?」
稲生:「分かってるって。それが最後のクエストだね?」
マリア:「登用試験が実施できないんだったら、私が実施させてやるさ」
それと同時にイリーナ達、大魔道師達の仕事というのも気になるが、それらの話はまたの機会に。
〔まもなく新宿、新宿。お出口は、右側です。山手線、中央快速線、中央・総武線、京王線、小田急線、地下鉄丸ノ内線、都営地下鉄新宿線と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
稲生達を乗せた埼京線電車は、池袋から南は山手線を追い抜いて走行した。
山手線の隣を貨物線が通っており、そこを中距離電車や特急列車が走る時は『湘南新宿ライン』と称し、通勤電車が走る時は『埼京線』と称する。
いずれにせよ、山手線の駅と違ってホームが無い為、その横を通過するのである。
稲生:「最後の乗り換えだ……」
電車は新宿駅手前のポイントをいくつか渡って、比較的東側のホームに入る。
〔しんじゅく~、新宿~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕
通勤電車から中距離電車、特急列車まで様々な規格の列車が発着するせいか、新宿駅の一部のホームにはまだホームドアが無い。
埼京線電車は、そんなホームドアの無いホームに到着する。
電車から降りた乗客の殆どが、コンコースへ向かう。
埼京線や湘南新宿ラインに乗り換えようとする客は、あまりいない。
というのは、新宿駅だと別のホームに乗り換えさせられることがあり、それを防ぐには手前の池袋駅で乗り換えた方が楽だからである。
池袋駅だとホームが決まっているので、階段の昇り降りをさせられることは無い。
但し、一部の特急列車は除く。
稲生達も階段を登って、コンコースに向かった。
稲生:「何度か通ってる道だから、迷わずに行けるね」
マリア:「このルートを使う発想、勇太だからだろうね。そういえば、夜行列車で帰ったこともあるけど、あれは?」
稲生:「“ムーンライト信州”か。残念なことに、廃止になったよ」
マリア:「そうか」
新南口の方は新宿駅の中でも比較的人が少なく、構造もゴチャゴチャしているわけではないので、歩きやすい方である。
トイレもそんなに混む方ではない。
そんな新南改札口を出ると、すぐ目の前がバスタ新宿である。
ここは2階。
バスタ新宿の乗り場である4階へ直行するエスカレーターが目の前にある。
早速、そのエスカレーターでバスタ新宿に向かう。
マリア:「乗り場はどこだって?」
稲生:「C7だって」
マリア:「C7?」
稲生:「まだ少し時間ある。飲み物でも買って行こう」
今のバスタ新宿には自販機だけではなく、コンビニや土産物店も出店するようになった。
自販機で飲み物を買い、空いているベンチに座る。
乗り場を見ると、次々と夜行バスが発車して行くのが分かった。
稲生:「あ、そうだ。キップを渡しておくよ」
マリア:「ありがとう」
コンビニで発券したので、コンビニのマークの入った紙製のチケットホルダーで、チケットもコンビニのマークが入っていた。
マリア:「長距離バスのチケットがコンビニで発券できるのはいいね」
稲生:「そうだね。便利なもんだよ。明日、到着したら先生がいなくなってることはある?」
マリア:「私の予知では無いね。一応、私達の報告を聞く用意はあるみたいよ」
稲生:「そうなんだ」
マリア:「ま、慌てなくてもいいから」
稲生:「ちょっとさ、あそこのコンビニに行って来る。マリアも来る?」
マリア:「私はここで待ってる」
稲生:「すぐ戻って来るから」
マリアは稲生が何を買いに行ったか、だいたい予想できた。
いや、予知と言った方がいいか。
それは既に途中の店で入手済みのものである。
つまり、買い足ししているわけである。
稲生:「お待たせ」
稲生はすぐに戻って来た。
他の飲み物や軽食も一緒に買ってはいるが、メインで買った物が何なのかはすぐに分かった。
マリア:「ゴム、3箱目じゃない?」
稲生:「1箱じゃ足りなかったから……。早く、これを着けずにヤりたいよ」
マリア:「結婚前に妊娠したら、大変なことになるからね」
稲生:「そんなに厳しい掟なの?」
マリア:「多分、生贄確保の為にそうしてるんじゃないかと思う。ベルフェゴールもそうだけど、悪魔って赤子の魂とか好むからね」
ダンテ一門では『仲良き事は美しき哉』の綱領があり、その為に門内の恋愛・結婚は自由とされている。
但し、『結婚は一人前になった者がするもの』という不文律があったり、『妊娠・出産は結婚後にすること』という明文化された掟がある。
しかも、『結婚前に妊娠した場合、胎児は堕胎し、儀式の生贄に使用するものとする。出産についても同様とする』という罰則規定まで。
この為、入門時に(輪姦被害による父親不明の)双子を妊娠していたマリアは堕胎し、彼女に目を付けていたベルフェゴールへの生贄とされている。
稲生:「そうなんだ。僕の時はどうするんだろう?」
マリア:「契約相手はアスモデウスでしょ?多分、赤子の魂じゃなく、『大量の精子』が生贄になるんじゃない?」
稲生:「……マジ?」
マリア:「ホントに怖いねぇ。勇太がそんな“色欲”の悪魔と契約して、本当に大丈夫なのか……」
ベルフェゴールは“怠惰”を司る悪魔である。
なのでマリアは、自分の身の回りの世話など全て人形にやらせているのだ。
人形作りは労働ではなく、趣味である。
[同日23:00.天候:晴 バスタ新宿4F→アルピコ交通東京5551便車内]
発車の5分前に、バスが入線してきた。
係員がバスの荷物室のハッチを開けて、大きな荷物を持った客の荷物を入れている。
運転手が乗客名簿と共に降りて来て、乗客の改札を始めた。
運転手:「はい、稲生様、9のBです」
稲生:「よろしくお願いします」
運転手:「はい、スカーレット様、9のAです」
マリア:「Thanks.」
バスの車内は4列シートである。
しかし、長距離仕様の為、シートピッチは広めに取られている。
後ろの方の2人席が指定されていた。
人形達の入ったバッグは、いつもの通り、荷棚に置く。
稲生:「あとは白馬まで、一眠りといったところかな」
マリア:「そうだな」
マリアはローブを脱いで、ひざ掛けの代わりに使った。
稲生は飲み物をドリンクホルダーに入れる。
軽食は座席のテーブルを出して、そこに置いた。
稲生:「腹が減っては熟睡できぬ、と言いますから……」
マリア:「軽くつまむ程度ね」
稲生:「先生に出発報告ってしなくていいのかな?」
マリア:「それは家を出る時、私からしておいた。今したところで、師匠はもう寝てるよ」
稲生:「まあ、それもそうか。家を出る時は起きてらしたんだね」
マリア:「一応ね。『1人じゃ寂しいから、早く帰ってきとくれ~』なんて言ってたけど……」
稲生:「ありゃ?何だ。だったら、新幹線か特急にしたのに……」
マリア:「ただのネタだよ。明日か明後日には、その屋敷から仕事に出るってのに……」
稲生:「う、うん。でも、明日は早く帰ってあげよう」
マリア:「まあ、このルートじゃ、寄り道も何も無いけどね」
バスは2~3分遅れで出発した。
これが昼間の便なら、中央高速上に設置されたバス停からも乗客を拾うのだが、夜行便は翌朝までバス停には止まらない(途中休憩はある)。
マリア:「とにかく、クエストクリアおめでとう。この言葉、明日、師匠からも言われると思うけど、私からも改めて言わせてもらう」
稲生:「ありがとう」
こうして、稲生勇太のクエストは無事に終了した。
マリア:「ああ、そうそう。指輪、用意しておいてよ?」
稲生:「分かってるって。それが最後のクエストだね?」
マリア:「登用試験が実施できないんだったら、私が実施させてやるさ」
それと同時にイリーナ達、大魔道師達の仕事というのも気になるが、それらの話はまたの機会に。