報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 最後の旅路

2021-07-23 16:28:31 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日22:32.天候:晴 東京都新宿区新宿 JR新宿駅→渋谷区千駄ヶ谷 バスタ新宿]

〔まもなく新宿、新宿。お出口は、右側です。山手線、中央快速線、中央・総武線、京王線、小田急線、地下鉄丸ノ内線、都営地下鉄新宿線と都営地下鉄大江戸線はお乗り換えです。今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 稲生達を乗せた埼京線電車は、池袋から南は山手線を追い抜いて走行した。
 山手線の隣を貨物線が通っており、そこを中距離電車や特急列車が走る時は『湘南新宿ライン』と称し、通勤電車が走る時は『埼京線』と称する。
 いずれにせよ、山手線の駅と違ってホームが無い為、その横を通過するのである。

 稲生:「最後の乗り換えだ……」

 電車は新宿駅手前のポイントをいくつか渡って、比較的東側のホームに入る。

〔しんじゅく~、新宿~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 通勤電車から中距離電車、特急列車まで様々な規格の列車が発着するせいか、新宿駅の一部のホームにはまだホームドアが無い。
 埼京線電車は、そんなホームドアの無いホームに到着する。
 電車から降りた乗客の殆どが、コンコースへ向かう。
 埼京線や湘南新宿ラインに乗り換えようとする客は、あまりいない。
 というのは、新宿駅だと別のホームに乗り換えさせられることがあり、それを防ぐには手前の池袋駅で乗り換えた方が楽だからである。
 池袋駅だとホームが決まっているので、階段の昇り降りをさせられることは無い。
 但し、一部の特急列車は除く。
 稲生達も階段を登って、コンコースに向かった。

 稲生:「何度か通ってる道だから、迷わずに行けるね」
 マリア:「このルートを使う発想、勇太だからだろうね。そういえば、夜行列車で帰ったこともあるけど、あれは?」
 稲生:「“ムーンライト信州”か。残念なことに、廃止になったよ」
 マリア:「そうか」

 新南口の方は新宿駅の中でも比較的人が少なく、構造もゴチャゴチャしているわけではないので、歩きやすい方である。
 トイレもそんなに混む方ではない。
 そんな新南改札口を出ると、すぐ目の前がバスタ新宿である。
 ここは2階。
 バスタ新宿の乗り場である4階へ直行するエスカレーターが目の前にある。
 早速、そのエスカレーターでバスタ新宿に向かう。

 マリア:「乗り場はどこだって?」
 稲生:「C7だって」
 マリア:「C7?」
 稲生:「まだ少し時間ある。飲み物でも買って行こう」

 今のバスタ新宿には自販機だけではなく、コンビニや土産物店も出店するようになった。
 自販機で飲み物を買い、空いているベンチに座る。
 乗り場を見ると、次々と夜行バスが発車して行くのが分かった。

 稲生:「あ、そうだ。キップを渡しておくよ」
 マリア:「ありがとう」

 コンビニで発券したので、コンビニのマークの入った紙製のチケットホルダーで、チケットもコンビニのマークが入っていた。

 マリア:「長距離バスのチケットがコンビニで発券できるのはいいね」
 稲生:「そうだね。便利なもんだよ。明日、到着したら先生がいなくなってることはある?」
 マリア:「私の予知では無いね。一応、私達の報告を聞く用意はあるみたいよ」
 稲生:「そうなんだ」
 マリア:「ま、慌てなくてもいいから」
 稲生:「ちょっとさ、あそこのコンビニに行って来る。マリアも来る?」
 マリア:「私はここで待ってる」
 稲生:「すぐ戻って来るから」

 マリアは稲生が何を買いに行ったか、だいたい予想できた。
 いや、予知と言った方がいいか。
 それは既に途中の店で入手済みのものである。
 つまり、買い足ししているわけである。

 稲生:「お待たせ」

 稲生はすぐに戻って来た。
 他の飲み物や軽食も一緒に買ってはいるが、メインで買った物が何なのかはすぐに分かった。

 マリア:「ゴム、3箱目じゃない?」
 稲生:「1箱じゃ足りなかったから……。早く、これを着けずにヤりたいよ」
 マリア:「結婚前に妊娠したら、大変なことになるからね」
 稲生:「そんなに厳しい掟なの?」
 マリア:「多分、生贄確保の為にそうしてるんじゃないかと思う。ベルフェゴールもそうだけど、悪魔って赤子の魂とか好むからね」

 ダンテ一門では『仲良き事は美しき哉』の綱領があり、その為に門内の恋愛・結婚は自由とされている。
 但し、『結婚は一人前になった者がするもの』という不文律があったり、『妊娠・出産は結婚後にすること』という明文化された掟がある。
 しかも、『結婚前に妊娠した場合、胎児は堕胎し、儀式の生贄に使用するものとする。出産についても同様とする』という罰則規定まで。
 この為、入門時に(輪姦被害による父親不明の)双子を妊娠していたマリアは堕胎し、彼女に目を付けていたベルフェゴールへの生贄とされている。

 稲生:「そうなんだ。僕の時はどうするんだろう?」
 マリア:「契約相手はアスモデウスでしょ?多分、赤子の魂じゃなく、『大量の精子』が生贄になるんじゃない?」
 稲生:「……マジ?」
 マリア:「ホントに怖いねぇ。勇太がそんな“色欲”の悪魔と契約して、本当に大丈夫なのか……」

 ベルフェゴールは“怠惰”を司る悪魔である。
 なのでマリアは、自分の身の回りの世話など全て人形にやらせているのだ。
 人形作りは労働ではなく、趣味である。

[同日23:00.天候:晴 バスタ新宿4F→アルピコ交通東京5551便車内]

 発車の5分前に、バスが入線してきた。
 係員がバスの荷物室のハッチを開けて、大きな荷物を持った客の荷物を入れている。
 運転手が乗客名簿と共に降りて来て、乗客の改札を始めた。

 運転手:「はい、稲生様、9のBです」
 稲生:「よろしくお願いします」
 運転手:「はい、スカーレット様、9のAです」
 マリア:「Thanks.」

 バスの車内は4列シートである。
 しかし、長距離仕様の為、シートピッチは広めに取られている。
 後ろの方の2人席が指定されていた。
 人形達の入ったバッグは、いつもの通り、荷棚に置く。

 稲生:「あとは白馬まで、一眠りといったところかな」
 マリア:「そうだな」

 マリアはローブを脱いで、ひざ掛けの代わりに使った。
 稲生は飲み物をドリンクホルダーに入れる。
 軽食は座席のテーブルを出して、そこに置いた。

 稲生:「腹が減っては熟睡できぬ、と言いますから……」
 マリア:「軽くつまむ程度ね」
 稲生:「先生に出発報告ってしなくていいのかな?」
 マリア:「それは家を出る時、私からしておいた。今したところで、師匠はもう寝てるよ」
 稲生:「まあ、それもそうか。家を出る時は起きてらしたんだね」
 マリア:「一応ね。『1人じゃ寂しいから、早く帰ってきとくれ~』なんて言ってたけど……」
 稲生:「ありゃ?何だ。だったら、新幹線か特急にしたのに……」
 マリア:「ただのネタだよ。明日か明後日には、その屋敷から仕事に出るってのに……」
 稲生:「う、うん。でも、明日は早く帰ってあげよう」
 マリア:「まあ、このルートじゃ、寄り道も何も無いけどね」

 バスは2~3分遅れで出発した。
 これが昼間の便なら、中央高速上に設置されたバス停からも乗客を拾うのだが、夜行便は翌朝までバス停には止まらない(途中休憩はある)。

 マリア:「とにかく、クエストクリアおめでとう。この言葉、明日、師匠からも言われると思うけど、私からも改めて言わせてもらう」
 稲生:「ありがとう」

 こうして、稲生勇太のクエストは無事に終了した。

 マリア:「ああ、そうそう。指輪、用意しておいてよ?」
 稲生:「分かってるって。それが最後のクエストだね?」
 マリア:「登用試験が実施できないんだったら、私が実施させてやるさ」

 それと同時にイリーナ達、大魔道師達の仕事というのも気になるが、それらの話はまたの機会に。
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 週末の魔道士達

2021-07-23 10:56:47 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[7月3日12:30.天候:雨 長野県北部山中 マリアの屋敷2F書斎]

 イリーナ:「あらあら、あのコ達ったら……。家の中に誰もいないからって、昼食もそこそこに始めちゃって……。若いっていいわねぇ……」

 机の上に置かれたイリーナの大きな水晶玉には、稲生とマリアが【イチャラブ】するところが映し出されていた。

 ポーリン:「こりゃっ!そこでのんびり見とる場合か!」

 今度は別の水晶玉に、イリーナの姉弟子のポーリンが映った。

 イリーナ:「あら、姉さん。お久しぶり」
 ポーリン:「誰が姉さんじゃ!」
 イリーナ:「何かあったの?」
 ポーリン:「『シルバーフォックス』から矢のような催促じゃ。分かっておるな?」
 イリーナ:「いくら仕事とはいえ、あんな強欲共のお世話なんて、ストレスたまるわねぇ……」
 ポーリン:「『金も時間も十分につぎ込んだ。Covid騒ぎを起こしたのは、何も世界的イベントとしてではないぞ』などと嘯いておる」
 イリーナ:「ただの強がりよ。そんなに慌てなくても大丈夫」
 ポーリン:「イルミナティカードの通りにするつもりか?」
 イリーナ:「『時計台』はまだ『崩壊』してないわ」
 ポーリン:「しかし、『崩壊』してからでは遅い」
 イリーナ:「“魔女の宅急便”でも、時計台は破損しても崩壊はしなかったわ。今回も破損程度で収めておきましょう」
 ポーリン:「しかし、そう上手く行くのか?」
 イリーナ:「だーいじょーぶだって。そこは私に任せて」
 ポーリン:「お前に任せた結果が、第2次世界大戦の惨劇だ。今度はアドルフを屠るだけでは済まなくなるかもしれんぞ?」
 イリーナ:「さすがに3度も同じ失敗はしないから。それより、今は可愛い『子供達』が仲良くするのを見るのが楽しみなの。1000年以上も生きて、涙も枯れ果てて、笑えなくなって……」
 ポーリン:「分かった分かった。先生には私から言っておく」
 イリーナ:「ありがとう」

[同日21:51.天候:晴 埼玉県蕨市 JR蕨駅→京浜東北線2167A電車10号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の1番線の電車は、21時51分発、各駅停車、磯子行きです。次は、西川口に止まります〕

 荷物を手に稲生家を後にした稲生とマリアは、夜の蕨駅にいた。

 マリア:「『ゆっくり』し過ぎて、マリアンナ人形に『糸を通す』時間が無くなっちゃったよ」
 稲生:「ゴメン……」
 マリア:「いいよ。屋敷に帰ってからにする」

〔まもなく1番線に、各駅停車、磯子行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、西川口に止まります〕

 稲生:「クエスト、これで達成できたかな?」
 マリア:「このまま無事に帰れれば大丈夫」
 稲生:「何だか不安な言い方をするね?」
 マリア:「別に今のところ、私の予知能力では、変な予知をすることはないから大丈夫だと思うけど」

 隣の南浦和駅から、そこ始発の電車が入線してくる。
 週末に東京方面に向かう電車の、それも夜間で、隣の駅始発ということもあってか、車内はガラガラだった。

〔わらび、蕨。ご乗車、ありがとうございます。次は、西川口に止まります〕

 2人は最後尾の車両に乗り込み、座席に座った。
 すぐに発車メロディが1コーラス鳴る。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 電車のドアとホームドアが閉まった。
 利用客も多く、その為、よく駆け込み乗車の多発する駅であるが、今回はそれは無かったもよう。
 電車はすぐに発車した。

〔次は、西川口です〕

 マリア:「まさか(コンドーム)一箱使い切るなんて……」
 稲生:「久しぶりだからつい……。でも、マリアもだよね?」
 マリア:「まあね……」
 稲生:「腰抜けてたもんね」
 マリア:「うん……」
 稲生:「今度はいつしようか?」
 マリア:「屋敷に帰ってからだね」
 稲生:「イリーナ先生、いるだろうなぁ……」
 マリア:「いや、師匠。明日か明後日から出かけるらしい」
 稲生:「そうなの」
 マリア:「久しぶりの大仕事だから、しばらく屋敷を開けることになるって」
 稲生:「それって……」
 マリア:「しばらく登用試験はお預けということに……」
 稲生:「うあー、そっかぁ!」
 マリア:「まあ、登用試験はそうでも、クエスト自体はこれから無事に帰れば自動的にクリアになるから、それはそれで……ね」

 このクエストは稲生がマスターに認定される登竜門の、最終関門の1つ手前の関門である。
 最終関門はその登用試験ということになるのだが、肝心の試験官達が多忙で実施できないようだ。

 稲生:「いつになったら、マリアと結婚できるんだろう……」
 マリア:「そのことなんだけど……」

[同日21:59.天候:晴 東京都北区赤羽 JR赤羽駅→埼京線2184K電車1号車内]

〔まもなく赤羽、赤羽。お出口は、右側です。埼京線、湘南新宿ラインと上野東京ラインはお乗り換えです〕

 電車は乗換駅である赤羽駅に到着した。

 稲生:「ここで乗り換えだよ」
 マリア:「うん……」

 マリアは立ち上がると、荷棚の荷物を下ろした。

〔あかばね、赤羽。ご乗車、ありがとうございます。次は、東十条に止まります〕

 マリア:「ちょっとさ、トイレ行ってきていい?」
 稲生:「いいよ。どうしたの?」

 マリアは家を出ると時、トイレを使用していた。
 それがまたトイレに行きたいとは……と、稲生は思ったのだ。

 マリア:「下着直してくる。ちょっと待ってて」
 稲生:「ああ、分かった」

 因みにその間、人形達の入ったバッグを稲生が預かることになる。
 今は賑やかな駅構内ということで、人形達もおとなしくしているが……。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の7番線の電車は、22時18分発、各駅停車、新宿行きです。次は、十条に止まります〕

 コンコースから埼京線ホームに上がって、先頭車の方に向かって歩く。
 バスタ新宿は新宿駅の南側にある為、1号車などの近くの車両に乗っておいた方が良いからだ。

〔まもなく7番線に、各駅停車、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。次は、十条に止まります〕

 稲生:「大丈夫だった?」
 マリア:「うん、何とか。ちょっと(下り物)シートが合わなくて。私はいいかな」
 稲生:「ふーん……?」

 京浜東北線とは色違いの電車がやってきた。
 埼京線にはまだホームドアが無いので、電車のドアはすぐに開く。

〔あかばね、赤羽。ご乗車、ありがとうございます。次は、十条に止まります〕

 先頭車は空いていた。
 京浜東北線のとは違い、モスグリーンのモケットが張られた座席に腰かける。

〔7番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 こちらもすぐに発車メロディが鳴った。
 ホームドアが無いので、電車のドアが閉まると、すぐに発車する。

〔この電車は埼京線、各駅停車、新宿行きです。次は十条、十条。お出口は、左側です。……〕

 稲生:「ねぇ、マリア」
 マリア:「なに?」
 稲生:「先生が出掛けるということは、その……屋敷には、僕達だけってこと?」
 マリア:「そうなるね。もっとも、師匠だけじゃなく、他の先生も忙しくなるらしいから、エレーナとかは遊びに来るかもしれないけど」
 稲生:「そっかぁ……」
 マリア:「弟子自体がもう弟子を取ってもいいような実力者なら、先生の助手が務まるから一緒に行くだろうけど、私達だとまだ足手まといだから」
 稲生:「そんなに難しい仕事なの?」
 マリア:「というより、師匠達が自分達でやって当然だと思ってるから。あとのことは魔法で何とでもできるし」
 稲生:「それっていいことなのか悪い事なのか……」
 マリア:「他の組はどうだか知らないけど、私達は師匠から頼まれたことだけやっていればいいから。そしてそれは、屋敷に帰ってみれば分かる」
 稲生:「なるほど。マリアは屋敷に帰ったら、何が待っていると思う?」
 マリア:「何も無いと思う。恐らく、『留守番よろしく』くらいのメッセージだろう」
 稲生:「他の組だと、何かしらの課題とかがあるだろうにねぇ……」
 マリア:「そういう人なの。うちの師匠は。まあ、そういうことだから、これの続きは帰ってから……ね」

 マリアは左手の親指と人差し指で輪っかを作り、右手の人差し指をその穴に何度も出し入れする仕草をした。

 稲生:「分かった!」
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