[6月26日11:10.天候:晴 東京都台東区某所 東京中央学園上野高校・教育資料館(旧校舎)1F]
稲生:「だ、誰だ!?」
稲生が振り向くと、そこにいたのは、稲生が2度と見たくないものだった。
呪いの人形:「…………」
稲生:「うわっ!?」
そこには無表情をしたマネキン人形がいた。
大きさは中学生くらい。
顔と髪があって、それだけが人間に近く、あとはマネキン人形そのものだった。
その人形は稲生を見据えると、ダッと廊下を一目散に逃げて行った。
稲生:「ま、待てっ!」
マリア:「どうした!?」
沼沢:「どうした!?」
マリアと沼沢には見えなかったのだろうか。
あの時と同じだ!
人形の姿は生贄のターゲットにされた者にしか見えないのだ。
???:「おっと!」
その時、稲生は廊下を歩いて来た人物とぶつかりそうになった。
稲生:「す、すいませ……!」
???:「いきなり飛び出ると危ないよ?」
稲生:「す、すいませんでした」
そこにいたのは50代後半くらいのガッチリとした体型の男だった。
髪はまだ黒いが、オールバックにしている。
沼沢:「こ、校長!?」
校長:「沼沢先生。何をしてらっしゃるんですか、ここで?」
沼沢:「あの……うちの卒業生が訪ねて来ましてね。教育資料館を見たいというので、見せてあげてるんですよ」
稲生:「ぼ、僕は第○×回卒業生で、沼沢先生のクラスにいた稲生勇太と申します」
校長:「ほうほう、そうですか。私は校長の新井と申します。せっかく来てくれて申し訳無いのだが、最近、うちの学校で事故が発生してしまいましてね。卒業生と言えど、みだりに校内に入ってもらっては困るのです」
稲生:「すいません。ちょっとこの人形を見たくて……」
校長:「見たいのはその人形だけですか?」
稲生:「ええ、そうですが……」
校長:「分かりました。せっかく来てくれたのだから、それだけは許可しましょう。気が済んだら、速やかに退校してください」
稲生:「わ、分かりました」
校長:「沼沢先生も、こういう状況であることを自覚しないとダメじゃないですか」
沼沢:「申し訳ありません」
校長:「それでは……」
校長はそう言うと、教室から出て行った。
稲生:「沼沢先生、すいませんでした」
沼沢:「いやいや、いいんだよ。それより、その人形には歴史的価値があるそうだが、それを知って来たのかい?」
稲生:「そうなんです。マリアさんは人形作りが趣味でして、アンティーク人形にも造詣が深いんですよ」
沼沢:「なるほど……」
マリアはここにいる人形と『会話』した。
マリア:「ミスター沼沢。この人形はあなたの仰る通り、歴史的価値の深いものです。もっとこの学校の生徒達に見てもらうべきです」
沼沢:「と、仰いますと?」
マリア:「できれば、向こうの新しい建物で展示してあげると良い。この人形がアメリカからやってきた意義を考えると、そうするべきです」
沼沢:「そ、そうですか。それでは、今度の職員会議で上げてみます」
マリア:「よろしくお願いします。とはいうものの、今はダメだ」
沼沢:「どういうことですか?」
マリア:「勇太」
稲生:「沼沢先生、先日、この学校の生徒が突然死した事件がありましたね?」
沼沢:「あれは事件じゃなくて事故だよ。警察の捜査の結果、事件性無しということになった」
稲生:「死因は何ですか?」
沼沢:「……心臓発作ということだ。金井はちょっと最近、具合が悪そうにしていたから……」
稲生:「沼沢先生の知っている生徒ですか?」
沼沢:「あっ……!」
稲生:「本当の死因について、御存知なんですね!?」
沼沢:「聞いてはいるが、部外者に喋ることではないから……」
稲生:「衰弱死じゃないですか?」
沼沢:「!」
稲生:「それも、昨年も同じ死因で突然死した生徒がいるんじゃないですか?」
沼沢:「な、何故それを!?」
稲生:「沼沢先生なら御存知のはずです。『人形の呪い』のことを!」
沼沢:「な、なな、何のことだ?!」
稲生:「僕が先生のクラスの教え子になった時、2年生でした。その時、先生は、『これでもう誰も死ななくて済む』と仰ってたじゃありませんか!」
沼沢:「カンベンしてくれ、稲生。教職員としての立場上、迂闊なことは話せんのだよ」
稲生:「分かった。分かりました」
稲生は踵を返すと、教室を出て行った。
マリア:「勇太、どこへ行く?!」
稲生:「校長室ですよ!『呪いの人形』はあそこにいるに決まってる!」
マリア:「待て、勇太!ここでの目的は果たした!あとはどうなろうが、私達は関与できない!」
沼沢:「その通りだ、稲生!頼むから、揉め事は起こさないでくれ!」
稲生:「先生は自分の教え子が悪魔の生贄にされて、悔しくないんですか!?」
沼沢:「……!」
稲生:「アスモデウス!」
アスモデウス:「ハーイ♪未来のマスター」
稲生:「この学校に巣くう悪魔がどこにいるか、教えろ。正式契約してやるから」
アスモデウス:「了!それじゃ、この契約書にパパッとサインしちゃって」
稲生:「ついでにその悪魔を倒して、人形を滅することも契約書に書き足しておくからな!」
マリア:「勇太、契約書よく読め!報酬の量がゼロ1個書き足されてるぞ!」
稲生:「ええっ!?」
アスモデウス:「ちぇっ、バレちった♪」
ベルフェゴール:「キミも下級悪魔みたいなことするねぇ……」
沼沢:「な、何だこいつらは!?いつの間に現れた!?」
稲生:「沼沢先生、この際だから白状しますけど、僕の今の仕事は魔道士なんです。こいつらはキリスト教に出て来る有名な悪魔、アスモデウスとベルフェゴールです。あの校長先生が契約している悪魔なんかより、ずっと上級で強い悪魔達です。『流血の惨を見る事、必至であります』が、『血で血を洗う』、『毒には毒を以て制す』ことも時には必要かと」
マリア:(勇太のヤツ、会話しながら呪文を唱えたナ……)
稲生:「それじゃ行くぞ!」
真昼間の校長室に大絶叫や断末魔が上がったことは言うまでも無い。
尚、『平成の悪魔人形事件』では、荒井校長は悪魔に肉体ごと魂を持って行かれて行方不明となった。
しかし、今回の『令和の悪魔人形事件』においては、新井校長は、悪魔が稲生達に退治されてしまった為、死なずに済んでいる。
但し、悪魔退治の際に発生した衝撃で、校長室の窓ガラスをブチ破って外に出たことで大怪我をしてしまい、救急車で病院に運ばれた。
魂が足りずに稼働できなかった『新井人形』にあっては、魔道士達が魔法で処分した。
稲生:「魂が12か。あと1個だったんだな……」
マリア:「それってつまり、勇太が卒業して、そんなに間もなくまた事件が発生したことになるよ?」
エルフェゴール:「いや、違う。ここ数年の間だ。あの中級悪魔は下級から昇級したことで、調子に乗って年に数個ずつの魂を集めたようだな」
アスモデウス:「ま、下級が中級になったところで、所詮ウチらの敵じゃないしぃ」
マリア:「人間が契約できる悪魔なんて、中・下級がいいところだろ。……ん?じゃあ、何でオマエはまだ人間だった頃の私と契約したんだ?」
ベルフェゴール:「そりゃ将来、立派な魔道士になって、ボクのステータスになれる人材だと思ったからだよ。ボク達、上級悪魔は目先の契約に捉われず、契約相手が本当にボク達に相応しい人物かどうかを見定めてから契約するかどうかを決めるのだよ」
アスモデウス:「『怠惰』の悪魔がヒマし過ぎてたもんで、たまたま散歩してたらアンタを見つけただけだよ」
マリア:「どっちもウソっぽいな」
稲生:「校長の記憶まで消してくれて、学校から僕達が校内にいた記録まで全部消してくれて、本当に助かったよ」
アスモデウス:「フフン♪そうでしょ?」
マリア:「ジェシー(教育資料館にいた『青い目の人形』の名前)から新たな情報は得られた。今度はもう少し難しそうだぞ」
稲生:「今度は何ですか?」
マリア:「『マリアンナを助けてほしい』だって」
稲生:「マリアさんを!?」
マリア:「私と同じ名前の人形が、またどこかの暗闇に閉じ込められているらしい。それをまた無事に探し出すことができたら、今度こそクエストクリアだ」
稲生:「100年近く前の人形ですけど、探せば案外まだあるものですなぁ……」
稲生とマリアは取りあえず、稲生の実家へと帰って行った。
稲生:「だ、誰だ!?」
稲生が振り向くと、そこにいたのは、稲生が2度と見たくないものだった。
呪いの人形:「…………」
稲生:「うわっ!?」
そこには無表情をしたマネキン人形がいた。
大きさは中学生くらい。
顔と髪があって、それだけが人間に近く、あとはマネキン人形そのものだった。
その人形は稲生を見据えると、ダッと廊下を一目散に逃げて行った。
稲生:「ま、待てっ!」
マリア:「どうした!?」
沼沢:「どうした!?」
マリアと沼沢には見えなかったのだろうか。
あの時と同じだ!
人形の姿は生贄のターゲットにされた者にしか見えないのだ。
???:「おっと!」
その時、稲生は廊下を歩いて来た人物とぶつかりそうになった。
稲生:「す、すいませ……!」
???:「いきなり飛び出ると危ないよ?」
稲生:「す、すいませんでした」
そこにいたのは50代後半くらいのガッチリとした体型の男だった。
髪はまだ黒いが、オールバックにしている。
沼沢:「こ、校長!?」
校長:「沼沢先生。何をしてらっしゃるんですか、ここで?」
沼沢:「あの……うちの卒業生が訪ねて来ましてね。教育資料館を見たいというので、見せてあげてるんですよ」
稲生:「ぼ、僕は第○×回卒業生で、沼沢先生のクラスにいた稲生勇太と申します」
校長:「ほうほう、そうですか。私は校長の新井と申します。せっかく来てくれて申し訳無いのだが、最近、うちの学校で事故が発生してしまいましてね。卒業生と言えど、みだりに校内に入ってもらっては困るのです」
稲生:「すいません。ちょっとこの人形を見たくて……」
校長:「見たいのはその人形だけですか?」
稲生:「ええ、そうですが……」
校長:「分かりました。せっかく来てくれたのだから、それだけは許可しましょう。気が済んだら、速やかに退校してください」
稲生:「わ、分かりました」
校長:「沼沢先生も、こういう状況であることを自覚しないとダメじゃないですか」
沼沢:「申し訳ありません」
校長:「それでは……」
校長はそう言うと、教室から出て行った。
稲生:「沼沢先生、すいませんでした」
沼沢:「いやいや、いいんだよ。それより、その人形には歴史的価値があるそうだが、それを知って来たのかい?」
稲生:「そうなんです。マリアさんは人形作りが趣味でして、アンティーク人形にも造詣が深いんですよ」
沼沢:「なるほど……」
マリアはここにいる人形と『会話』した。
マリア:「ミスター沼沢。この人形はあなたの仰る通り、歴史的価値の深いものです。もっとこの学校の生徒達に見てもらうべきです」
沼沢:「と、仰いますと?」
マリア:「できれば、向こうの新しい建物で展示してあげると良い。この人形がアメリカからやってきた意義を考えると、そうするべきです」
沼沢:「そ、そうですか。それでは、今度の職員会議で上げてみます」
マリア:「よろしくお願いします。とはいうものの、今はダメだ」
沼沢:「どういうことですか?」
マリア:「勇太」
稲生:「沼沢先生、先日、この学校の生徒が突然死した事件がありましたね?」
沼沢:「あれは事件じゃなくて事故だよ。警察の捜査の結果、事件性無しということになった」
稲生:「死因は何ですか?」
沼沢:「……心臓発作ということだ。金井はちょっと最近、具合が悪そうにしていたから……」
稲生:「沼沢先生の知っている生徒ですか?」
沼沢:「あっ……!」
稲生:「本当の死因について、御存知なんですね!?」
沼沢:「聞いてはいるが、部外者に喋ることではないから……」
稲生:「衰弱死じゃないですか?」
沼沢:「!」
稲生:「それも、昨年も同じ死因で突然死した生徒がいるんじゃないですか?」
沼沢:「な、何故それを!?」
稲生:「沼沢先生なら御存知のはずです。『人形の呪い』のことを!」
沼沢:「な、なな、何のことだ?!」
稲生:「僕が先生のクラスの教え子になった時、2年生でした。その時、先生は、『これでもう誰も死ななくて済む』と仰ってたじゃありませんか!」
沼沢:「カンベンしてくれ、稲生。教職員としての立場上、迂闊なことは話せんのだよ」
稲生:「分かった。分かりました」
稲生は踵を返すと、教室を出て行った。
マリア:「勇太、どこへ行く?!」
稲生:「校長室ですよ!『呪いの人形』はあそこにいるに決まってる!」
マリア:「待て、勇太!ここでの目的は果たした!あとはどうなろうが、私達は関与できない!」
沼沢:「その通りだ、稲生!頼むから、揉め事は起こさないでくれ!」
稲生:「先生は自分の教え子が悪魔の生贄にされて、悔しくないんですか!?」
沼沢:「……!」
稲生:「アスモデウス!」
アスモデウス:「ハーイ♪未来のマスター」
稲生:「この学校に巣くう悪魔がどこにいるか、教えろ。正式契約してやるから」
アスモデウス:「了!それじゃ、この契約書にパパッとサインしちゃって」
稲生:「ついでにその悪魔を倒して、人形を滅することも契約書に書き足しておくからな!」
マリア:「勇太、契約書よく読め!報酬の量がゼロ1個書き足されてるぞ!」
稲生:「ええっ!?」
アスモデウス:「ちぇっ、バレちった♪」
ベルフェゴール:「キミも下級悪魔みたいなことするねぇ……」
沼沢:「な、何だこいつらは!?いつの間に現れた!?」
稲生:「沼沢先生、この際だから白状しますけど、僕の今の仕事は魔道士なんです。こいつらはキリスト教に出て来る有名な悪魔、アスモデウスとベルフェゴールです。あの校長先生が契約している悪魔なんかより、ずっと上級で強い悪魔達です。『流血の惨を見る事、必至であります』が、『血で血を洗う』、『毒には毒を以て制す』ことも時には必要かと」
マリア:(勇太のヤツ、会話しながら呪文を唱えたナ……)
稲生:「それじゃ行くぞ!」
真昼間の校長室に大絶叫や断末魔が上がったことは言うまでも無い。
尚、『平成の悪魔人形事件』では、荒井校長は悪魔に肉体ごと魂を持って行かれて行方不明となった。
しかし、今回の『令和の悪魔人形事件』においては、新井校長は、悪魔が稲生達に退治されてしまった為、死なずに済んでいる。
但し、悪魔退治の際に発生した衝撃で、校長室の窓ガラスをブチ破って外に出たことで大怪我をしてしまい、救急車で病院に運ばれた。
魂が足りずに稼働できなかった『新井人形』にあっては、魔道士達が魔法で処分した。
稲生:「魂が12か。あと1個だったんだな……」
マリア:「それってつまり、勇太が卒業して、そんなに間もなくまた事件が発生したことになるよ?」
エルフェゴール:「いや、違う。ここ数年の間だ。あの中級悪魔は下級から昇級したことで、調子に乗って年に数個ずつの魂を集めたようだな」
アスモデウス:「ま、下級が中級になったところで、所詮ウチらの敵じゃないしぃ」
マリア:「人間が契約できる悪魔なんて、中・下級がいいところだろ。……ん?じゃあ、何でオマエはまだ人間だった頃の私と契約したんだ?」
ベルフェゴール:「そりゃ将来、立派な魔道士になって、ボクのステータスになれる人材だと思ったからだよ。ボク達、上級悪魔は目先の契約に捉われず、契約相手が本当にボク達に相応しい人物かどうかを見定めてから契約するかどうかを決めるのだよ」
アスモデウス:「『怠惰』の悪魔がヒマし過ぎてたもんで、たまたま散歩してたらアンタを見つけただけだよ」
マリア:「どっちもウソっぽいな」
稲生:「校長の記憶まで消してくれて、学校から僕達が校内にいた記録まで全部消してくれて、本当に助かったよ」
アスモデウス:「フフン♪そうでしょ?」
マリア:「ジェシー(教育資料館にいた『青い目の人形』の名前)から新たな情報は得られた。今度はもう少し難しそうだぞ」
稲生:「今度は何ですか?」
マリア:「『マリアンナを助けてほしい』だって」
稲生:「マリアさんを!?」
マリア:「私と同じ名前の人形が、またどこかの暗闇に閉じ込められているらしい。それをまた無事に探し出すことができたら、今度こそクエストクリアだ」
稲生:「100年近く前の人形ですけど、探せば案外まだあるものですなぁ……」
稲生とマリアは取りあえず、稲生の実家へと帰って行った。