報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 稲生家で過ごす 1

2021-07-05 20:12:50 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月26日19:30.天候:曇 埼玉県川口市 稲生家]

 イオンモールからタクシーで帰って来た稲生家の面々。

 稲生宗一郎:「勇太、荷物降ろすの手伝え」
 稲生勇太:「はいはい」

 タクシーのハッチから荷物を降ろす。

 マリア:「勇太、何だか申し訳ない」
 勇太:「いいんですよ!」

 マリアがそう言うのには訳があった。
 稲生家の旧宅には来客用の折り畳みベッドとエアベッドがあったのだが、爆発解体時に壊れてしまった。
 新築時にはそれはまだ購入されておらず、マリアが泊まりに来た時にはフローリングの床に布団を敷いて寝る形となっていた。
 そこで宗一郎が、イオンモールのニトリで購入したというわけである。
 折り畳みベッドでも良かったのだが、それだとさすがに持ち帰れない為、エアベッドにした。

 マリア:「あなた達も手伝って」
 ミカエラ:「かしこまりました」
 クラリス:「御意」

 人形形態だったミクとハクが人間形態になると、タクシーに積んでいた他の荷物を持ち出し始めた。

 宗一郎:「マリアさんの魔法、便利だねぇ」
 勇太:「う、うん。(もはや魔道士の存在と魔法に驚かない両親)」

 これは早くから、威吹の妖術を見て来たことによる。
 妖術が魔法に換わっただけだ。
 威吹は妖術を惜しげも無く使っていた為(稲生家の人々に対するマウント取りもあったそうだ)、稲生家の人々は早くから妖術には慣れてしまっていた。
 なのでマリアが魔道士で魔法を使うことについても、もはや突っ込むことは無かった。

 佳子:「さあ、中へどうぞ」

 先に降りていた母親の佳子が玄関のドアを開錠していた。
 マリアが恐縮しているのは、他にもある。
 死んだはずのマリアの母親が悪い魔道士として現れ、魔法で稲生家を全壊させたからである。
 毒親もいいところである。
 最後にはダンテに捕まり、今は魔界で仕置きを受けているはずだ。

 勇太:「じゃあ、3階に運ぶよ」
 マリア:「分かった」

 ホームエレベーターに乗り込む。
 エレベーターの広さはトイレくらい。
 定員は3名である。

〔上へ参ります〕

 3階はたまに帰って来る勇太の部屋と、事実上のマリアの部屋である洋室の客間が1つある。

 マリア:「うちの屋敷にも、エレベーター設置したいな」
 勇太:「そういえば、地下1階、地上3階建てなのにエレベーターが無いね」

 厨房用のエレベーターはある。
 学校の給食室によくある、あのエレベーターだ。
 但し、食事は基本的に1Fの大食堂で取るので、あまり使われていない。

〔3階です〕

 エレベーターを降りて、客室の方に向かう。

 勇太:「ここでいいかな?」

 エアベッドを取り出して、床に置く。
 そして、コンセントを繋いで早速膨らませた。

 マリア:「そうそう。前使ってたのも、こんな感じだったな」
 勇太:「そうだね。シングルだと狭くない?」
 マリア:「いや、大丈夫。これくらいがちょうどいい」
 勇太:「それならいいけど……」
 ミカエラ:「マスター、お布団をお借りして参りました」
 クラリス:「早速メイキング致します」
 マリア:「ありがとう。勇太、後でシャワー使わせてね」
 勇太:「分かったよ」

 3階にあるのは他にシャワールームとトイレ。

 勇太:「じゃあ、ごゆっくり」
 マリア:「ありがとう」

 勇太が再び1階に下り、リビングに行くと、宗一郎がどこかへ電話していた。

 宗一郎:「……そうですか。夜分に申し訳ありませんでした」

 電話を切るのを見計らって話し掛ける。

 勇太:「父さん、どうしたの?」
 宗一郎:「早速、親戚に電話して聞いているんじゃないか」
 勇太:「えっ、もう!?」
 宗一郎:「まだそんなに夜遅い時間帯じゃないし、いいかなと思ってな」
 勇太:「それで、どうだったの?」
 宗一郎:「1軒目の安城の家はダメだった。そもそも、仙台とは縁もゆかりも無い」
 勇太:「あらま」
 宗一郎:「次は日高市だ」
 勇太:「北海道じゃないヨ」
 佳子:「勇太、カメラ目線でメタ発言はやめなさい。というか、最初から宮城の家に電話したら?」
 勇太:「悟朗さんの実家?」
 佳子:「そこは蔵が無かったでしょ?お祖父さんのお兄さんの家よ。勇太も小さい時に、行ったことがあるでしょ?」
 勇太:「あー、何かあったような無かったような……。東北本線で田んぼだらけの所を走って、小さな駅で降りた記憶が……」
 佳子:「そこよ、そこ」
 勇太:「あの頃の719系は、もう無いんだろうな」

 大体が701系かE721系に置き換わっている。

 佳子:「何の話をしてるのよ……」

 で、どうなったかというと……。

 宗一郎:「宮城の家が可能性大だぞ」
 勇太:「ほんと!?」
 宗一郎:「お祖父さんのお兄さんの奥さんは、その近所に住む幼馴染だったそうだが、学生時代、つまり女学校時代は仙台の中央学園に通っていたらしい。で、戦時中はその女学校の寮で暮らしていたそうだ」
 勇太:「ということは!?」
 宗一郎:「終戦後、奥さんは女学校が廃校になってしまった為、卒業できずに地元に帰り、そこでお祖父さんのお兄さんと結婚したそうなんだな」
 勇太:「編入しなかったんだね」
 宗一郎:「戦後の混乱期だったから、皆が皆、他の女学校に編入したわけではないだろう。地元が仙台で、しかも裕福な家庭の娘さんだけだっただろうな」
 勇太:「で、人形は?」
 宗一郎:「人形のことは何も聞いていないそうだ。あ、もうそのお兄さんも奥さんも他界されてるんだけどな。話を聞いたのは、息子さんだ。つまり、私の従兄だよ。まあ、私よりもずっと年上の従兄だけどな」
 勇太:「だろうね。じゃあ、まだ難しいか……」
 宗一郎:「ただ戦時中、一時期、地元に疎開していたらしく、その時、何回かお兄さんの家に行っていたそうなんだ。だから、もしかしたらその時……っていう可能性は考えられる」
 勇太:「それかもしれない!……何とか、蔵を探すことはできないかな?」
 宗一郎:「蔵の鍵が無くて、開けられないそうなんだ」
 勇太:「それなら大丈夫。マリアの魔法で開けられるから」
 宗一郎:「便利だなぁ、魔道士って……」
 勇太:「だから、何とか僕達が蔵を探させてもらえるようにできないかな?」
 宗一郎:「分かった。話してみる。こんな話をしていたら、もう時間切れだ。明日、また話してやるよ」
 勇太:「ありがとう!」
 佳子:「その『青い目の人形』って、それぞれ名前が付いてるんでしょう?宮城の家の人形は何て言うのかしら?」
 勇太:「……マリアンナ、だってさ」
 佳子:「ええっ!?それって……」
 勇太:「そう。マリアさんの名前だよ。偶然、マリアさんと同じ名前の人形が未だに蔵に閉じ込められてるんだ。だからこそ、マリアさんは何としてでも助け出したいと思ってるんじゃないかな?」
 宗一郎:「そういうことか。分かった。そういうことなら明日、また電話してあげよう。農家だから、逆に連絡は朝早い方がいいかもしれんな」
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“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 束の間の休息 2

2021-07-05 16:34:02 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月26日18:00.天候:曇 埼玉県川口市前川 イオンモール川口前川1F・バケット]

 買い物も終わり、稲生家は同じモール内にあるレストランで夕食を食べて行くことにした。

 稲生宗一郎:「遠慮しないで、好きなもの頼んでくれよ」
 稲生勇太:「ワイン頼んでるけど、車は?」
 宗一郎:「今日はバスで来た。帰りは荷物が多いから、タクシーな?」
 稲生佳子:「お父さん、今日はマリアさんが来るだろうからって、車にしなかったのよ」
 勇太:「酒飲むつもりか……」
 宗一郎:「マリアさん、ワインもどうぞ」
 マリア:「ありがとうございまス」

 マリアは勇太の両親の前では、極力魔法で通訳するのではなく、自力で学んだ日本語を使うようにしている。
 エレーナ曰く、『マリアンナが日本語を自分で喋るとキャラが変わるぜ』とのこと。
 注文し終わった後で、パンを取りに行く。

 勇太:「これとこれとこれと……」
 宗一郎:「勇太、食べ過ぎるなよ?」
 勇太:「大丈夫。お昼、殆ど食べてないから」
 宗一郎:「なに、そうなのか?だったら、尚更セーブしないと。一食抜いた分を次の一食分でドカ食いすると、余計太ると言われている」
 勇太:「ここ、魔界じゃないからセーブできないよ」
 宗一郎:「『ボス戦前のセーブ』という意味の『セーブ』じゃないよ!」
 マリア:「一瞬頷き掛けたけど、魔界でもセーブはできないからな?」

 勇太へのツッコミの部分は英語で言ったマリア。
 それから運ばれて来た飲み物で乾杯する。
 尚、勇太だけビールである。

 勇太:「酒に弱いので、アルコール度数1ケタ以下じゃないとダメなんですぅ~」orz
 マリア:「心配するな。私もワインとウイスキー以外はダメだ。悪酔いする。因みにウォッカはもっとダメだ」

 稲生家がまださいたま市にあった頃、悪酔いしたマリアの魔力が暴走したことがある。
 運が良いことに、その暴走した魔力は全て結果オーライになった(例として、クシャミをしたと同時に近くにいた車のタイヤを全部パンクさせたが、ブレーキとアクセルを踏み間違えてコンビニに突っ込もうとしたプリウスだった為、それを阻止できた)。

 勇太:「あ、そうだ、父さん。ちょっと聞きたいことが……」
 宗一郎:「何だ?」
 勇太:「うちの親戚の中で、蔵を持っている家ってあるかな?」
 宗一郎:「あるよ」
 勇太:「ほんと!?」

 勇太とマリアは顔を見合わせた。
 実はマリアが東京中央学園にあった『青い目の人形』ジェシーは、静岡の時と同様、まだ暗闇に閉じ込められている仲間がいると言った。
 幸いにしてジェシーは、その仲間の人形が寄贈された学校を知っていた。
 それは宮城中央学園。
 静岡中央学園と同じく、東京中央学園の姉妹校の1つである。
 ジェシーによれば、その仲間も戦災を免れる為に田舎に疎開したとのことだ。
 静岡市と同様、仙台市も大東亜戦争中は米軍機の攻撃に晒されていたからである。

 勇太:「どこ!?」
 宗一郎:「えーと……埼玉県の日高市、それから秋田県の男鹿市、それから愛知県の安城市……」
 勇太:「ちょちょちょ、待って!そんなにあるの!?」
 宗一郎:「うちの家系、稲荷大明神の御利益で豪農や豪商になれたからね」

 なので勇太が妖狐・威吹と出会った時、家に連れて帰ると、この両親は『ついに稲荷大明神のお使いに目を留められた』と大いに喜んだのである。
 威吹自身、野狐(稲荷大明神とは無関係の妖怪としての狐)であったのだが。
 更には宗一郎がこの時はただの中間管理職だったのが、役員に抜擢されたことで、尚更御利益を疑わなかった。

 勇太:「なるべく仙台に近い所がいいな。多分、そんなに遠くまで疎開したとは思えないんだな……」
 宗一郎:「何の話だ?」

 勇太は仕方なく、『青い目の人形』の話をした。

 勇太:「……というわけで、今は宮城中央学園に寄贈されて、どこかに疎開したままになっている人形を探してるんだ」
 宗一郎:「見つけてどうするつもりだ?」
 勇太:「もちろん、元の学校に戻すよ。静岡の時もそうだった」
 宗一郎:「いや、静岡はそれでいいだろうが、仙台は無理だと思うぞ?」
 勇太:「どうして?」
 宗一郎:「宮城中央学園は、とっくの昔に廃校になってるだろうが」
 勇太:「えっ?ああーっ!」

 戦後に廃校になってしまった。
 廃校の理由は明らかになっていないが、召集された男性教師の殆どが戦死してしまったり、女性教師もまた空襲の被害で死亡した為だと言われる。
 残った生徒達は、周辺の中学校や高校に編入したとのこと。
 校舎もまた仙台空襲の時に焼失し、復旧されることはなかったという。
 そこは同じく空襲に遭いながら、戦後復旧した静岡とは明暗を分けている。

 宗一郎:「だから人形を見つけたところで、戻す場所が無いんだよ」
 マリア:「でしたラ、私ガ引き取りマス」
 宗一郎:「マリアさん」
 勇太:「でも、本当に仙台にあるんだろうか?」
 宗一郎:「それは分からないよ。調べてみないと」
 勇太:「父さん」
 宗一郎:「要はあれだろ?『戦時中、宮城中央学園から、アメリカからの親善人形を疎開させた人がいたかどうか?』を尋ねる。そしていたとなったら、『それはどこに隠したか?蔵に隠したのなら、蔵を探させて欲しい』ということだろ?」
 勇太:「そう!それ!それだよ!」
 佳子:「でも、それは難しいんじゃない?」
 勇太:「どうして?」
 佳子:「戦時中、アメリカは敵国だったわけでしょ?イギリスもだけど……。そこから送られた人形は、『敵性人形』だとして大部分が処分されたという話じゃない」
 勇太:「そこを疎開させた人がいるんだよ」
 佳子:「いたとしても、それは『非国民』のやることだから、黙ってるんじゃないかしら?静岡の時はどうだったの?」
 勇太:「あっ……!」

 静岡の時も、疎開させた当時の女学生は周囲に黙っていたらしい。
 だから偶然蔵から見つかった時、誰もその事を知らなかったから、マリアに鑑定の依頼が来たのだった。
 ましてや学校が戦後も残っていても、本人は無断持ち出しがバレるのを恐れて蔵から出せなかったほどである。
 仙台の場合はもう学校が無くなってしまったので、尚更蔵から出す必要が無くなってしまったのではないか。

 勇太「ぅあちゃー……」
 宗一郎:「まあ、そうは言っても、実は偶然誰かが知っていたかもしれない。とにかく、聞くだけは聞いてみることにするよ」
 勇太:「よろしくお願いしますぅ……」
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