報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「青い目の人形」 東北新幹線“やまびこ”130号

2021-07-20 21:37:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[6月30日09:00.天候:晴 宮城県仙台市青葉区中央 JR仙台駅・新幹線乗り場→東北新幹線130B列車8号車内]

 ホテルをチェックアウトした稲生達は、仙台駅に向かった。

 稲生:「もうこの時間帯から暑いねぇ」
 マリア:「こういう時、ローブがあると涼しくていい」

 魔法のローブは、冬はもちろん防寒着になり、夏は夏で防暑着になるという優れ物である。
 但し、冷房が効いた室内には及ばないので、そういう所に行ったら脱ぐ。

 マリア:「御両親へお土産は買わないのか?」
 稲生:「もちろん買うよ。ラチ内にも土産物屋はあるから、そこでいいさ」
 マリア:「ラチ?」
 稲生:「ああ、ゴメン。改札のこと」

 カタカナで書くので、語源は英語かと思われるが違う。
 漢字で書けば『埒』。
 『埒』とは柵のこと。
 今でこそ有人改札口は金属製の箱型ブースであるが、かつては柵であった。
 今でも地方に行けば、かつては改札口だった鉄柵を見ることができる駅がある。
 その為、改札口から先の構内のことを『柵内』という場合もある(例、JR東海が発行する関係者用の改札内入構証を『柵内入構証』という)。
 柵の内側なわけだから、鉄道工場や車両基地等の鉄道敷地内を『柵内』ということもある。
 主に鉄道社員や鉄ヲタが使う用語である。

 稲生:「キップは1人ずつ持とう。マリアは窓側でいいね」
 マリア:「ありがとう」

 新幹線改札口へ行く。
 東京駅において、東海道新幹線の改札口は青色だが、JR東日本は新幹線も在来線も一貫して緑色である。

 稲生:「あそこにお土産物屋がある」
 マリア:「ホントだ。よし、探してみよう」
 稲生:「本当に先生のはいいのかい?」
 マリア:「師匠のは都内で探せばいい」
 稲生:「都内ね……」
 マリア:「どうせ新宿から出発するだろう?」
 稲生:「新宿から……」
 マリア:「!? あ、いや……大宮から新幹線というルートもあったよね。どうして、真っ先に新宿が浮かんだんだろう?」
 稲生:「マリアの予知だろう。分かった。じゃあ、屋敷への戻りは新宿経由にしよう。新宿というのは駅?バスタ?」
 マリア:「そこまでは分からない。そもそも、いつ戻れるのかも分からないし……」
 稲生:「あ、そうか。マリアンナ人形の服の出来次第か」
 マリア:「まあ、1日か2日もあればできると思うけど……」
 稲生:「人形の服とはいえ、それを1日や2日でできるマリアは凄いね」
 マリア:「ふふ……まあ、ライフワークだし」
 稲生:「どういう服を作るの?」
 マリア:「それはできてからのお楽しみ。……と、言いたいけど、だいたいの構想としては、まずは2着ほど考えてる。1着は、せっかく私と同じ名前で、しかも私にそっくりな姿をしているんだから、服も私みたいな服を着せてあげたいと思う」
 稲生:「なるほど」
 マリア:「あとはまあ、やっぱりメイド服かな。結局のところ、屋敷の維持に働いてもらうことになるから……」
 稲生:「ただショーケースに飾られているだけの状態と、マリアの下で働くのと、どっちがいいんだろうね」
 マリア:「人形遣いとして、後者であることを信じてるよ」
 稲生:「そうか」
 マリア:「それより早く、お土産を探そう」
 稲生:「そうだね。やっぱり、定番の“萩の月”かなぁ……」

 土産を購入した2人は、エスカレーターで4階に上がった。
 コンコース内はまだ冷房が入っていたが、いくら屋根があるとはいえ、吹き曝しのホームで冷房があるはずも無く、そこは暑かった。
 ホーム上に冷房の入る待合室はあるものの、コロナ対策と称して入口のドアを開放しているものだから、あまり涼しくはなかった。

〔12番線に停車中の電車は、9時25分発、“やまびこ”130号、東京行きです。この電車は、福島、郡山、宇都宮、大宮、上野、終点東京の順に止まります。グランクラスは10号車。グリーン車は9号車。自由席は……〕

 本来なら下り本線ホームになる部分に、折り返し上り列車が停車していた。
 下り本線でも折り返しの設備があるのだろう。
 発車する時は、逆走という形で運転取扱を行うようだ。
 新幹線指定席特急券と乗車券を手に、8号車に入る。

〔「ご案内致します。この電車は9時25分発、“やまびこ”130号、東京行きです。……」〕

 荷物は荷棚に置き、飲み物はテーブルの上に置く。
 バッグの中からはミク人形とハク人形が出て来て、早速売店で買ってもらったアイスクリームを食べ始めた。
 マリアもローブを脱いで、丸めて人形達の横に置く。
 ライトグリーンの半袖ブラウスに、モスグリーンのプリーツスカートという出で立ちはまるでJKのようである。
 体が小柄ということもあって、尚更そう見えるのだ。
 首に着けているのが魔法石の付いたペンダントではなく、リボンやネクタイだったら、尚更そのように見えただろう。
 因みにこの魔法石のことを、『マテリア』と呼ぶこともある。

[同日09:25.天候:晴 JR東北新幹線130B列車8号車内]

〔12番線から、“やまびこ”130号、東京行きが発車致します。次は、福島に止まります。黄色い点字ブロックまで、お下がりください〕

 ホームに発車メロディが鳴り響く。
 “青葉城恋唄”をオーケストラ風にアレンジしたものである。
 最後に客終合図の甲高いブザーを合図に、車両のドアが閉まる。
 仙台駅には、まだホームドアは無い。
 これはまだE2系やE5系など、規格の不揃いな列車が発着しているからである。
 車両の規格が揃っている東海道新幹線でさえ、全駅全ホームに設置されているわけではないので、【お察しください】(例、新富士駅や品川駅副線ホームなど)。
 それからインバータのモーター音を響かせて、列車が発車する。
 下り本線を一旦は逆走する形で出発する。
 列車本数の多い東海道新幹線では、このようなアクロバットな運用はしないが(ダイヤ乱れ時または名古屋発着の“こだま”を除く)、東北新幹線ではたまに見られる。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は、東北新幹線“やまびこ”号、東京行きです。次は、福島に止まります。……〕

 ホームを逆走で出発した列車は、途中にあるポイントを渡って、上り本線に移線した。
 その際、列車が少し大きく揺れる。

〔「……尚、この列車には車内販売はございません。予め、ご了承ください。……」〕

 稲生:「今や、“やまびこ”も車販が無くなったか……」
 マリア:「シンカンセンスゴイカタイアイス、人形達、楽しみにしてたのにね」
 稲生:「アイスクリームくらいだったら、何とか売店で調達できるけどね……」
 マリア:「この横を走っている路線では、車内販売は無いの?」

 マリアは進行方向左側を指さして言った。
 そこには東北本線が並走している。

 稲生:「東北本線には特急はもう無いから……。あ、常磐線の特急“ひたち”があるか。でも、“ひたち”だって、仙台~いわき間は車内販売は無いってよ」
 マリア:「そうなの」
 稲生:「いわきから南だね。カントクがコーヒーを買おうとして失敗したらしいよ」
 マリア:「新型車両の時はそもそも販売休止になってて買えず、旧型車両の時はあまりの揺れで零したって話か」

 雲羽:「悪かったな!」
 多摩:「651系が時速130キロで走行する茨城県内で買う方が悪い!」
コメント
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