報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「元旦勤行の正証寺」

2022-01-04 21:55:42 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日01:15.天候:晴 東京都豊島区某所 日蓮正宗大化山正証寺]

 ※これはあくまでフィクションです。実際の日蓮正宗の化儀と多少異なる部分があるかもしれませんが、何卒【お察しください】。また、日蓮正宗正証寺は架空の末寺です。それぞれ各末寺ごとに特色があるのは、末寺所属の信徒さんなら御理解頂けるかと思います。

 藤谷春人:「はーい、元旦勤行に参加の方はこちらー!」

 ワイワイガヤガヤ、ワイワイガヤガヤ……。

 春人:「元旦勤行は2時半からでーす!1時半から唱題行がありまーす!」

 ワイワイガヤガヤ、ワイワイガヤガヤ……。

 春人:「えー、このように、我が正証寺は自行に熱心な信徒の多い末寺支部であります。このように、元旦勤行の参加率も高いわけですね。この勢いで……」

 春人、コホンと咳払いしてから、再び拡声器を使用する。

 春人:「えー、御受戒される方はこちらー」

 シーン……。

 春人:「化他はこのザマなんだよなぁ……」

 ガックリ肩を落とす春人。

 稲生勇太:「このネタ、毎年やってません?」
 春人:「おおっ、この声は稲生君!」
 勇太:「明けまして、おめでとうございます。藤谷班長」
 春人:「おめでとう、稲生君。そして、明けましておめっとさんです!マリアンナさん!」
 マリア:「お、オメデトウゴザイマス……」
 春人:「でかした、稲生君!マリアさん、早速この入信願書にサインを……」
 マリア:「Fire!」

 ボッ!(マリアの魔法で、入信願書が自然発火した)

 春人:「あぢっ!?あぢぢぢぢ!」
 マリア:「エイプリルフールには、あと3ヶ月早いですよ?藤谷さん」
 春人:「さ、さすが外人さんはツッコミがキツい。ははは、は……」
 勇太:「さすがに魔道士のマリアさんに、入信は無理ですよ」
 春人:「稲生君がいるじゃないか!」
 勇太:「僕は魔道士になる前に入信してたので」
 春人:「そうだった。よく魔道士と兼業できるな?」
 勇太:「仏教は魔女狩りの歴史が無いので、ダンテ一門では別に禁教になっていないんです。それに僕の場合、仏法で魔力が引き出されたようなものなので」
 春人:「顕正会の偽仏法だろ?」
 勇太:「『魔の通力』で、本当に魔力が引き出されたのは不幸中の幸いでした。あの時は威吹も喜んでくれてたんですけどね」
 春人:「おお、そうだ。威吹君は元気にしてるのか?」
 勇太:「魔界での戦争で、だいぶ激しくやられたみたいですが、全員無事の状態のまま、何とか停戦まで持ち堪えられたみたいです」
 春人:「終戦じゃなくて、停戦か……」
 勇太:「アルカディア王国とミッドガード共和国。南北朝鮮みたいに、ズルズルと引きずらなければいいんですが……」
 春人:「そういうのも含めて、御祈念したらどうだ?」
 勇太:「大聖人様の仏力、魔界まで届きますかね?」
 春人:「それは知らん。まあとにかく、威吹君が無事だっていうんなら良かった。またキツネうどんでも奢ってあげるって言っといて」
 勇太:「分かりました。それより、マリアさんが休む所は無いですか?」
 春人:「ああ。中に休憩所があるから、そこで休むといい。甘酒もあるよ」
 マリア:「Thank you.」
 勇太:「僕が案内してきますよ」
 春人:「おう。稲生君も甘酒もらいな」
 勇太:「はーい」

 甘酒は、三門を入ってすぐの所に建てられたテントの中で配られている。

 藤谷秋彦:「おっ、稲生君。いい所に来なすった。今、甘酒の第二弾を入れたところだよ」
 勇太:「もう第一弾目が売り切れたんですか」
 マリア:「ってか、有料ですか?」
 秋彦:「いや、無料だけどね」

 藤谷秋彦は藤谷春人の父親で、正証寺では登山部長を務めている。

 勇太:「マリアさん、無料なので好きなだけ飲んでください」
 秋彦:「はっはっは。本来なら信徒または御受戒者限定だよ」
 勇太:「そこを何とか、登山部長~」
 秋彦:「いいよいいよ。まだまだいっぱいあるから」

 と、その時だった。

 田部井:「何なんですか、あなた達は!?」
 聖ジャンジョン教会信者A:「ここに魔女が入ったという目撃情報が入ったのです!」
 信者B:「悪い事は言わないので、速やかなる引き渡しをお願いします!」
 春人:「知らねーよ!帰れ帰れ!」
 勇太:「げ……!なんでバレた……!?」

 マリアは慌てて魔道士のローブを頭から被り、テントの奥へ向かった。

 信者C:「敬虔な仏教徒の皆様が、異教の魔女を匿うのですか!?」
 春人:「だから何の事だっつってんだろ!帰れ帰れ!」
 田部井:「こんな感じの魔女が入ったのなら、すぐ分かるし」

 田部井信徒は手持ちのタブレットを取り出すと、ハロウィンで見かける魔女のコスプレ画像を見せた。
 あとは、ディズニーなどに出てくる魔女とか。

 勇太:(ローブを着ている時点では、あながちウソではないな……。というか、ローブでバレたのか???)

 因みに勇太はローブは着ていない。
 普通のコートとスーツである。
 と、そこへ……。

 信者A:「うわっ!?」
 信者B:「ぐわっ!」

 キリスト教魔女狩り隊のメンバーに、ピンポイントで催涙弾が直撃した。

 信者C:「上から!?」

 上にいたのは……。

 勇太:「エレーナ!?」

 ホウキに乗って上空を舞うエレーナだった。
 しかも、その後ろに乗っているのは……。

 エレーナ:「鈴木ィ!下に魔女狩りがいるんで、着陸できねーぜ?」
 鈴木:「任せろ!」

 鈴木、エアガンとしてのライフルに催涙弾を込めて、それで魔女狩り隊に狙撃していたのだった。

 春人:「あいつらのせいじゃないのか、逆に?」
 信者C:「退散だ、退散!ゲホッゲホッ!」
 信者A:「お、覚えてろ!神に仇なす者ども!」
 春人:「日蓮大聖人様は、おたくらの神さんと違って寛容であられるの!」
 エレーナ:「取りあえずここで降りてもらうぜ!タクシー代は3割増しでいいんだぜ!」
 鈴木:「ありがとうっ!」

 エレーナ、鈴木を降ろすと、全力で逃走!

 信者B:「ま、待て!魔女が逃げたぞーっ!」

 しかし、鈴木の放った催涙弾のせいで、まともにエレーナを追跡できる者は皆無に等しかったという。

 鈴木:「いやあ、間に合った間に合った!皆さん、明けましておめでとうございます!」
 春人:「唱題行に間に合わせる為、魔女のホウキで乗り付けるとは、やるなぁ!」
 鈴木:「え?唱題行?元旦勤行は2時半からじゃあ?」
 春人:「そうだが、まだ1時半くらいだぞ」
 鈴木:「あれ!?俺の時計、1時間狂ってる!?」
 秋彦:「こんな大事な時に、安物の時計使っちゃダメだよ?」
 鈴木:「おかしいなぁ……。オメガの時計なのに……」
 勇太:「全然安物じゃないし。……マリア、もう大丈夫だよ。魔女狩り隊は立ち去ったよ」
 春人:「ああ、マリアさんは休憩所に避難してもらっている」
 勇太:「鈴木君のせいで、変な奴らに目を付けられたじゃないか」
 秋彦:「まあまあ。法論でコテンパンにしてやるまでだよ」
 勇太:「なーんか、皆して生産性の無い化他してません?」
 春人:「はっはっは。何てこと言うんだい、稲生君?そんなこと言うと、キミの今月の誓願は10人に設定しちゃうよ?」
 勇太:「顕正会よりヒドい!」

 魔女も妖狐も獄卒も出入りしたことのある正証寺。
 元旦勤行が始まるまで、あと1時間。
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“大魔道師の弟子” 「元旦勤行へ」

2022-01-04 15:25:08 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月1日00:30.天候:晴 東京都北区赤羽 ホテルメッツ赤羽→JR赤羽駅]

 勇太:「起こさないように、そーっと……」

 勇太は自分の部屋を静かに出た。
 そして、なるべく音を立てずに、エレベーターホールへ向かう。
 下のボタンを押すと、ポーン♪というチャイムが鳴って、左側のエレベーターのランプが点いた。

 マリア:「勇太、どこ行くの?」

 全く何の気配も無かったのに、いつの間にか後ろからマリアに声を掛けられた。

 勇太:「うわっ、いつの間に!?」
 マリア:「それ、魔道士に聞く?」
 勇太:「い、いや、それにしても……」
 マリア:「お寺、行くんでしょ?私も行く」
 勇太:「いや、寒いし、いいよ。僕は信徒だから行くだけで……」
 マリア:「見習い弟子が単独で勝手に行動するのは禁止だってこと、知ってるでしょ?」
 勇太:「うーん……」
 マリア:「マスターの私が一緒に行けば問題ナシ。分かった?」
 勇太:「わ、分かったよ」

 ピンポーン♪

〔下に参ります〕

 誰もいないエレベーターに乗り込んだ。

〔ドアが閉まります〕

 マリアはいつものブレザーの上から、魔道士のローブを羽織っている。

 マリア:「それに、屋敷の周りと比べれば寒くない」
 勇太:「とはいうけどねぇ……」

 エレベーターで1階まで下り、そこからホテルの外に出た。
 いくら雪は無いとはいえ、寒風は結構吹いている。

 勇太:「早く駅へ行こう」

 駅前はそろそろ終電の時間であるが、今夜にあっては終夜運転が行われることもあってか、急いで駅まで行くという人はいない。
 むしろ、駅前でたむろしている人達の方が多い。

 勇太:「確かに終電の後にも、電車がある」

 自動改札機を通って、ホームへ向かう。
 この時マリアは、魔道士のローブのフードを被っていた。

 勇太:「藤谷班長や鈴木君も来るみたい。久しぶりに会うよ」
 マリア:「そしてそのまま『大石寺へ行こう!』なんてのはやめてくれよ?」
 勇太:「コロナ禍で、大石寺への御登山は人数制限がされているからね。さすがにそれは無いと思うよ」

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の7番線の電車は、0時45分発、各駅停車、池袋行きです。次は、十条に止まります〕

 先頭車が来る辺りで電車を待つ。
 さすがにマリアのスカートの下を見ると、黒いストッキングを穿いているのが分かった。
 夏は生足である。

 勇太:「大丈夫?寒くない?」
 マリア:「平気平気。この手袋も、魔界で手に入れたものだから」

 ブレザーの色と同じ、モスグリーンである。

 勇太:「なるほど」
 マリア:「でも手袋を取ると、冷たいよね」
 勇太:「ホントだ!」

 マリアの手は冷たかった。

 勇太:「じゃあ、手袋の上から手を握って温めよう」
 マリア:「そりゃあ助かる」

〔まもなく7番線に、当駅始発、各駅停車、池袋行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。次は、十条に止まります〕

 ホームに接近放送が流れる。
 赤羽駅には引き上げ線があるので、当駅止まりの電車は一旦そこに引き上げて、今度は上りホームに入線する。
 これは京浜東北線でも行われている。

〔「7番線、ご注意ください。0時45分発、各駅停車、池袋行きの到着です」〕

 引き上げ線から、電車がゆっくり入線してくる。
 乗り入れ先のりんかい線の車両ではなく、緑色の塗装が特徴のJRの車両だった。
 ドアが開くと、2人は早速乗り込んだ。
 同じく緑色の座席に腰かけると、そこから暖房の熱が伝わって来て、お尻の下から温かくなってくる。

〔この電車は埼京線、各駅停車、池袋行きです〕
〔This is the Saikyo line train for Ikebukuro.〕
〔「0時45分発、埼京線各駅停車、池袋行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 勇太:「先生は起きてないよね?」
 マリア:「師匠はグースカ寝てたよ。多分、明るくなっても起きない」
 勇太:「なるほど……」

[同日00:45.天候:晴 JR埼京線2474K電車10号車内]

 ホームからローテンポの発車メロディが流れて来る。

〔7番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車を、ご利用ください〕

 いつもなら終電で次の電車など無いのだが、今日にあってはこの後も電車が走っている。
 その為か、駆け込み乗車も無く、電車はドアを閉めるとすぐに発車した。
 一度来た道を戻るといった感じだ。

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、池袋行きです。次は十条、十条。お出口は、左側です〕
〔This is the Saikyo line train for Ikebukuro.The next station is Jyujyo.JA14.The doors on the left side will open.〕

 勇太:「藤谷班長、またもや整理役の任務やってるみたいだ」
 マリア:「ほお……」
 勇太:「他に人がいないってことだよ」
 マリア:「そりゃ大変だ。……私に依頼してくれれば、人形達に整理役やらせてもいいんだけどな」
 勇太:「まあ……こういうのは、信徒が任務に就くものだからね」

 勇太は苦笑いするしかなかった。
 さすがに人形は御受戒できないだろう。

[同日00:54.天候:晴 東京都豊島区南池袋 JR池袋駅]

 勇太:「夜中だからか、踏切の警報機の音が小さいんだな」

 赤羽~池袋間は、赤羽線と呼ばれる最も古い区間である。
 明治時代には、既に開通していた。
 埼京線の他の区間と比べても、どことなく私鉄感があるのはこの為である。
 踏切の数が多いのも特徴だ。

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく終点、池袋、池袋です。お降りの際、お忘れ物、落とし物をなさいませんよう、ご注意ください」〕

 終電なので、もう他に電車は走っていないのが通所であるが、今は山手線も終夜運転を行っているので、正にその電車を見ることができた。

〔いけぶくろ~、池袋~。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました。お忘れ物の無いよう、ご注意ください〕

 電車を降りると、寒風が襲って来た。

 勇太:「さあ、早いとこ正証寺へ行こう」

 勇太はマリアの手を取って電車を降りた。

 勇太:「今思い出したけど、また甘酒配ってるだろうから、それをもらうといいよ」
 マリア:「ああ、あの白い酒か。確かにあれは甘い」

 こうして寒風吹きすさぶ中、2人は池袋駅を東口に向かって歩いた。
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“大魔道師の弟子” 「魔道士達の年末」

2022-01-04 10:29:54 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[12月31日19:33.天候:晴 東京都北区赤羽 JR赤羽駅→ホテルメッツ赤羽]

 稲生達を乗せた電車が赤羽駅に到着する。
 赤羽駅では、一番西側のホームである。

〔あかばね~、赤羽~。ご乗車、ありがとうございます。次は、北赤羽に止まります〕

 イリーナ:「ここかい?」
 稲生:「そうです」

 最後尾に乗った理由は、何も埼京線は10号車が一番空いているからだけではない。
 赤羽駅では、そこがエレベーターの最寄りでもあるからだ。

〔下へ参ります〕

 電車を降りた勇太は、先導するようにエレベーターのボタンを押した。
 もちろん、これが1人やマリアとだけだったら、迷わず階段やエスカレーターを行っただろう。
 しかし、イリーナとも一緒であるのなら、エレベーターを使うのが吉だと思ったのである。
 このエレベーターで行けるのは、改札階まで。

 勇太:「ここでキップが回収されるわけです」
 マリア:「自動改札機、通ってないけど大丈夫?」
 勇太:「大丈夫、大丈夫」

 磁気テープの貼っていないキップでなければ、基本自動改札機は通れる。
 今の機械は、有人改札口で押された改札印を読み取ることができる?
 とにかく、何のエラーも無く、改札口を通過できた魔道士達。

 勇太:「ホテルはすぐそこです」
 イリーナ:「あらま、目の前。ニューヨーク中央駅から離れてるプラザホテルにも見習って欲しいわ」
 マリア:「いや、地下鉄で行けば目の前なんですけどね」
 勇太:「先生はアムトラックの駅から近い所がお望みってことだよ」
 マリア:「多分、アメリカ人はそういう考えはしないだろうなぁ……」

 ホテルメッツはJR東日本ホテルズが運営するホテルの1つで、メトロポリタンホテルズがシティホテルに分類されるならば、ホテルメッツはビジネスホテルに分類されるタイプである。
 だが、格安を謳うビジネスホテルチェーンとは違い、あまり割引は行わない。
 また、客室構造もプレミアムタイプであれば、シティホテルと大してレベルが変わらないという特徴もある。

 勇太:「一応、先生の御希望通り、『高級シティホテルではない』ホテルです」
 イリーナ:「なるほど」
 マリア:「少なくともエレーナのホテルよりは、高級感が何倍もある」
 勇太:「僕達だけだったら、エレーナのホテルでもいいけど、先生も御一緒じゃね……」

 ホテルの中に入る。
 フロントやロビーは3階にあるので、エレベーターで3階に上がった。

 稲生宗一郎:「おお、イリーナ先生。本日は遠路遥々お疲れ様でございます」
 イリーナ:「たまには外に出ませんと、体が鈍りますのでね。私の方こそ、息子さんの帰省にくっつく形で不躾です」
 宗一郎:「いえいえ、とんでもない。お疲れでございましょう。まずは、お部屋の方へ」
 イリーナ:「ありがとうございます」
 宗一郎:「勇太、フロントまで来てくれ」
 勇太:「ああ、分かった」

 勇太は父親の宗一郎と共に、フロントに向かった。
 そこでカードキーをもらう。

 フロントマン:「そちらのエレベーターでお上がりください」
 宗一郎:「ありがとう。それじゃ、行くぞ」

 チェックインをしてカードキー受け取り、エレベーターに乗り込んだ。

 勇太:「駅が見える方かな?」
 宗一郎:「そのはずだぞ」
 マリア:「師匠、アメニティはこんなもんでいいですか?」
 イリーナ:「無料だからって、随分持ってくるわね」
 マリア:「はあ……」

 そして、上階のフロアでエレベーターを降りる。

 宗一郎:「勇太はそっちの部屋だ。シングルな」
 勇太:「はいはい」
 宗一郎:「先生とマリアさんは、そちらのデラックスツインをどうぞ」
 マリア:「ありがとうございます」

 フロアは同じだが、部屋は隣同士というわけではなく、バラバラのようである。

 勇太:(僕の部屋は、スタンダードなんだろうか?それとも、デラックス?)

 ホテルメッツには初めて泊まるので(メトロポリタンは盛岡で1度だけある)、基準がよく分からないのだ。
 荷物を置いて、窓のカーテンを開けると……。

 勇太:「おおっ!トレインビュー!」

 眼下に駅のホームが見えるのだった。

 勇太:「デラックスかなぁ?もしかして……」

 バスルームに関しては、3点ユニットタイプであった。

 勇太:「おっと!こうしちゃいられない。先生がお腹を空かせているんだった」

 多分、メトロポリタンならルームサービスでもあるのだろうが、メッツには無いので、外食しなければならない。
 勇太は荷物を置くと、カードキーを持って部屋を出た。

 勇太:「マリアと先生の部屋はどんな感じ?」
 マリア:「広いよ。もちろん、スイートほどじゃないけどね。多分あの部屋が、このホテルで最も高級な部屋なんだろう」
 勇太:「先生は気に入ってくれたかな?」
 マリア:「『スイートには泊まれないが、ツインならOK』ということだった」
 勇太:「そうなんだ。バスタブは広そうだけどね」
 マリア:「ああ。バスルームがトイレと分かれてる所はいいね」
 勇太:「あっ、そっちは分かれてるんだ」
 マリア:「そうそう」
 勇太:「……で、先生は?」
 マリア:「トイレ。多分、そのまま出て来てくれると思うけどなぁ……」

 などと話していると、イリーナがトイレが出て来た。

 イリーナ:「お待たせしました」
 宗一郎:「それでは参りましょう」

[同日20:00.天候:晴 ホテルメッツ赤羽2F デニーズ]

 再びエレベーターに乗って2階で降りる。

 勇太:「え?外のレストランに行くんじゃないの?」
 宗一郎:「こんな寒い中、先生を連れ出す気か?」
 イリーナ:「ああ、そういったお気遣いなら無用ですわ。屋敷の周りの方がもっと寒いですから」
 マリア:「そうそう」
 イリーナ:「因みに故郷のサンクトペテルブルクは、もっと寒いです」
 マリア:「イングランドも似たようなものです」
 イリーナ&マリア:「東京は暖かいですね」
 宗一郎:「こ、これは失礼しました」

 因みにここでは、和膳を注文した勇太。
 屋敷では和食を口にする機会が殆ど無い為、帰省や旅行でそういうのを口にする機会があれば、そうすることにしている。
 あとは、アルコール。
 稲生家はビールを頼んでいたが、イリーナとマリアはワインを注文していた。

 勇太:「明日は正証寺の元旦勤行に行くよ」
 宗一郎:「言うと思ったよ」
 稲生佳子:「大晦日の終夜運転があるからね」
 勇太:「そうそう」

 もっとも、勇太は終夜運転の電車に乗る予定は無かった。
 元々の最終電車で参詣し、元旦勤行終了後は始発電車で戻るつもりでいた。

 勇太:「ホテルのチェックアウトは?」
 宗一郎:「ゆっくりしようと思う。10時ギリギリでいいかなと」
 勇太:「分かった」
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