報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「上野凛の上京」

2022-01-29 22:04:08 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[1月21日17:00.天候:晴 東京都千代田区丸の内 JR東京駅]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 今日は栃木から上京してくる、上野凛さんを迎えに来た。
 彼女は明日、東京中央学園上野高校の推薦入試を受けることになっている。
 今夜はうちに泊まることになっていた。
 車で東京駅に向かい、八重洲地下駐車場に駐車する。
 そこから徒歩で、駅を目指した。

 愛原:「いいか、リサ?凛さんは謝ったんだし、そもそも責任は無い。俺も凛さんに責任をどうこうするつもりはない。分かってるな?」
 リサ:「分かってるよ」

 今月上旬、那須塩原のホテルで女将に襲われた私。
 女将は凛さんの母親だ。
 当然リサは烈火の如く怒り狂ったが、凛さんが母親の味方をした為に、怒りの矛先が凛さんにも向けられた。
 私は何度もリサに言い聞かせたのだが、今でも心の中は煮え切らないらしい。

 愛原:「ほら、入場券。これでホームまで迎えに行くぞ」
 リサ:「分かった」
 高橋:「VIP待遇っスね?」
 愛原:「ンなわけない。『監視』業務の委託だぞ?もはや上野凛さんも、政府関係から監視の対象とされている。リサは今のところ正真正銘の『鬼』だが、凛さんは半分人間なのに、リサと同じ扱いにされそうになっている。そっちの方がむしろ可愛そうってもんだよ」
 高橋:「それもそうっスね」

 実際、住まいから那須塩原駅までは、地元警察が護送するという徹底ぶりだ。
 もちろん、普通のパトカーではなく、覆面パトカーだろうがな。
 国家機関の命令とあらば、地元警察などすぐに動くというわけだ。
 まずは在来線の改札口を通過し、そこから今度は新幹線の改札口を通過する。

 愛原:「えーと……凛さんが乗って来るのは“なすの”278号か」

 学校が終わってから来る形になるので、この時間となった。

 愛原:「21番線だな」

 夕方ラッシュで、乗客がごった返すコンコースを通ってエスカレーターに乗った。
 在来線コンコースほどではないが、新幹線通勤客が目立っている。
 ましてや、今日は金曜日だ。

 愛原:「そうか……」
 高橋:「どうしたんスか?」
 愛原:「いや、東京中央学園は土曜日に入試をやるんだなって……」
 高橋:「あっ、そういや、入試って平日にやるイメージっスね」

 私立だから、その辺の日程は自由に設定できるのだろう。
 それとも、一般入試が平日で、推薦入試が土曜日とか?

 リサ:「うちは基本、中高一貫校だから、そもそも高校から入る人って少ないから」
 愛原:「あっ、なるほどな」

 完全中高一貫校ではない。
 中等部卒業後、別の高校に入る生徒もいるし、凛さんみたいに高校から入る生徒もいる。
 もちろん、大部分がリサみたいに中等部から高等部へエスカレーターの生徒であるが。

〔「今度の21番線の電車は、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きです。上り電車折り返しの為、電車到着後、車内整備・清掃を行います。電車が到着しても、すぐにはご乗車できませんので、予めご了承ください。準備が終了しましたら、放送にてご案内致します」〕

 凛さんは、先頭車に乗っているという。
 これもまた、既に監視対象となっていることが分かる。
 同行者がいない時点で、まだ完全な監視対象ではないのだろうが、高校からそうなるのだろう。

〔21番線に、当駅止まりの電車が到着致します。……〕

 愛原:「おっ、来たな」

 接近放送がホームに鳴り響く。

 愛原:「さすが日本の鉄道は定時性世界一だ」
 高橋:「お言葉ですが先生、宇都宮線が人身事故で止まってます」

 ズコッ!

 愛原:「し、新幹線の話をしてるんだよ!私は!」
 リサ:「先生、東海道新幹線は雪の影響で、名古屋~新大阪間、徐行運転で遅れてるって」

 ズコーッ!

 愛原:「冬は除く!冬は!」

〔「21番線、ご注意ください。“なすの”278号が到着致します。折り返し、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きとなります」〕

 真っ白のヘッドライトを灯しながら、列車がゆっくりと近づいて来た。
 そして、所定の停止位置にピタリと止まる。

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京、終点です。車内にお忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。21番線に到着の電車は、折り返し、17時28分発、“やまびこ”151号、仙台行きとなります。……」〕

 ここまでの乗客が、ぞろぞろと降りて来る。
 そして、その中に……。

 愛原:「凛さん!」
 上野凛:「あっ、愛原先生……」

 上野凛さんがいた。
 制服のセーラー服の上から、ライトブラウンのダッフルコートを着ている。
 やはりリサと同じく、暑さ・寒さに強いのか、マフラーなどは着けていなかった。
 因みにリサも、今は私服だ。
 学校から帰って来て、それから私服に着替えている。

 愛原:「お疲れさん」
 凛:「今日は、よろしくお願いします」
 愛原:「ああ。肩の力を抜いて」
 リサ:「…………」

 リサは無表情だったが、やはり何らかのオーラは放っていた。

 凛:「先輩、今日はよろしくお願いします」
 リサ:「……分かった」

 私があれだけ言い聞かせたのだ。
 この場で、リサが手を挙げられるはずがなかった。

 愛原:「よし。すぐ、家に向かおう。……おっと!その前に、夕食だったな。ファミレスでいいかな?」
 凛:「私は何でも……」
 愛原:「じゃあ、車の方まで行こうか。俺達についてきて」
 凛:「はい。よろしくお願いします」

 私達は急いで新幹線ホームをあとにした。

[同日17:30.天候:晴 東京都中央区八重洲 東京駅八重洲パーキング西駐車場]

 東京駅の地下駐車場に移動する。
 八重洲地下街に付随している大規模な地下駐車場だ。
 たまに地上からの徒歩連絡に迷い、日本橋口まで来てしまう者がいるが、【お察しください】。
 地下駐車場なのだから、地下に下りるという発想が無くなってしまったら終わりだと思う(実際いるんですよ、こういう人達)。

 凛:「……何か出そうで怖いですね」
 リサ:「なー?そこからリッカーが出て来そうで怖いよなー(棒)」
 愛原:「お前らが言うな」
 高橋:「上に同じ!」

 止めていた車に到着する。

 愛原:「荷物、後ろ乗せるか?」
 凛:「あ、はい。すいません」

 凛さんは普通の通学鞄の他、ボストンバッグを持っていた。
 多分、部活動で使っているヤツだろう。
 着替えとかは、その中に入れているのだと思われる。
 車はレンタカーでリース契約している、商用車。
 たまにタクシーでも使われている、5ナンバータイプのワゴンである。
 商用車タイプの方が、隠密行動の時に目立たなくて良いのだ。
 商用車なら、どこにいたって不自然ではないからである。
 いざという時には、出入りの業者のフリをすることだってできるし。

 愛原:「じゃあ、後ろに乗って」

 BOW2人(1人は半分人間)をリアシートに乗せ、運転は高橋に任せ、私は助手席に乗った。

 愛原:「菊川で飯にしよう」
 高橋:「分かりました」

 高橋は車を出した。
 後ろの2人、打ち解けてほしいものだが……。
 女将さんの件が無ければ、そうなっていたことを思うと、そこは悔やまれる。
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“大魔道師の弟子” 「8時ちょうどの“あずさ”5号」

2022-01-29 16:50:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月8日07:50~08:00.天候:晴 東京都新宿区新宿 JR新宿駅→中央本線5M列車8・9号車]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の10番線の列車は、8時ちょうど発、特急“あずさ”5号、南小谷行きです。……〕
〔「本日に限りまして、8時ちょうどの“あずさ”5号は10番線から発車致します。……」〕

 中央本線特急ホームに行くと、10番線に今度乗る列車が入線していた。
 全車両指定席なので、慌てて席を確保する必要は無い。

 勇太:「先生のお席はこちらです」
 イリーナ:「ありがとう。私も食べたら寝てるから、あとは適当に寛いでて」
 勇太:「分かりました」

 イリーナをグリーン車に案内したところで、勇太とマリアは隣の普通車へと向かう。

〔この列車は、特急“あずさ”5号、南小谷行きです。停車駅は立川、八王子、甲府、小淵沢、茅野、上諏訪、岡谷、塩尻、松本、豊科、穂高、信濃大町、白馬、終点南小谷の順です。……〕

 男声の自動放送が流れる中、8号車の席に着いた。

 勇太:「ここだね」

 荷物を荷棚に上げる。
 進行方向右側の席が確保されていた。
 窓側にマリアが座り、勇太が通路側に座る。
 三連休初日ということもあり、車内は行楽客が多くを占めていた。
 また、下り列車で唯一大糸線に乗り入れるということもあり、スキー客が目立つ。
 その為か、

〔「……他のお客様の通行の妨げになりますので、スキー板やスノーボード等は通路に置かないよう、お願い致します」〕

 なんて、放送も流れている。
 グリーン車は空いていたが、普通車はそこそこ埋まっていた。
 座席に座り、テーブルを出してそこに駅弁と飲み物を置く。

 マリア:「師匠がああ言ったんだから、列車は無事に着くんだろう」
 勇太:「さすが先生、さらっと予知しちゃうよね」
 マリア:「全く……」

 駅弁に箸を付けていると、ホームから発車メロディが聞こえて来た。
 リズム感の良い発車メロディ、10番線の曲名は“See you again”という。
 何気なく流れている発車メロディだが、一部を除いて曲名が付けられている。
 特急が発車する為か、何コーラスか流れる。
 録り鉄嬉し泣きである。

〔「10番線から8時ちょうど発、特急“あずさ”5号、南小谷行きが発車します。次は、立川に止まります。見送りのお客様、黄色い点字ブロックまでお下がりください」〕
〔10番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の列車を、ご利用ください〕
〔「10番線、ドアが閉まります!」〕

 どうやら駆け込み乗車など無く、すんなり閉扉できたようだ。
 最新型のインバータ制御が搭載された車両であるが、勇太達の乗っている車両は“サハ”(付随車)である為、モーターの音は聞こえず、静かに走り出すといった印象である。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この列車は、特急“あずさ”5号、南小谷行きです。前3両、1号車から3号車は、途中の松本止まりです。停車駅は【中略】。次は、立川です〕

 平日であれば、朝ラッシュの満員電車と次々とすれ違うのだろうが、土曜日である為か、すれ違う通勤電車の車内には余裕があるようだ。

 マリア:「うん、チキン美味しい」
 勇太:「それは良かった。僕も、これが最後の和食かな」
 マリア:「そうだな。今日のランチから、再び日本食が食べれなくなる」
 勇太:「それは残念」

〔「……信濃大町には11時15分、白馬には11時41分、終点南小谷には11時56分の到着です。……」〕

 マリア:「ダニエラが、たまにライスボール(おにぎり)とか、作ってくれるみたいだけど?」
 勇太:「夜食でね。あとは、インスタントの味噌汁入れてくれる」
 マリア:「良かったじゃない」
 勇太:「うん、まあね。明日から、また修行開始かな?日曜日だけど……」

 因みに日本の祝日は、イリーナ組には無関係である。
 但し、ロシアやイギリスの祝日は関係させることがある。

 マリア:「今まで休暇を取っていたからって?あり得るね。私達は、別に安息日なんて関係無いし」
 勇太:「そっかぁ……」
 マリア:「まあ、私が今から予言しちゃうけど、表向きには修行はするけど、『自習』にするパティーンかな?」

 マリアはニッと笑った。
 弁当を食べているのて、マスクは取っている。

 勇太:「なるほど。きっとそうだね」

[同日11:41.天候:雪 長野県北安曇郡白馬村 JR白馬駅]

 雪が車窓から明確に見えるようになったのは、長野県に入ってから。
 それから終点に向かう度に、雪深くなっていった。
 乗客が減り始めたのは、大糸線に入ってから。
 特に有名なスキー場がある穂高駅での下車客は多かった。

 勇太:「そろそろ先生を起こしに行こう」
 マリア:「いや、いい。私が行こう。勇太だと遠慮して、強くは起こせないだろうし」
 勇太:「ええっ?」

 マリアはブレザーの上から魔道士のローブを羽織った。

 マリア:「荷物だけよろしく」
 勇太:「う、うん。それはもちろん」

〔♪♪♪♪。まもなく、白馬です。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。白馬の次は、終点、南小谷です〕
〔「白馬駅1番線の到着、お出口は左側です。お降りの際、ホーム大変滑りやすくなっております。お足元には十分ご注意ください」〕

 勇太は荷物を手に取ると、マリアの後を追ってグリーン車に向かった。

 イリーナ:「マリアは厳しいねぇ……」
 マリア:「日本は世界一時間に厳しい国ですから」

 デッキに着くと同時に、客室からイリーナとマリアがやってきた。

 マリア:「師匠を起こして来たぞ」
 勇太:「お、お疲れ様です……」

 列車はグングン速度を落として行き、本線ホームの1番線に到着した。
 改札口にも接しており、階段の昇り降りは無い。
 優等列車なので、基本的には本線ホームに止まれるよう、配慮されている。

〔「ご乗車ありがとうございました。白馬~、白馬です。お忘れ物、落とし物の無いよう、ご注意ください。1番線に到着の列車は、11時42分発、特急“あずさ”5号、南小谷行きです。次は、終点南小谷です。……」〕

 ここもスキー場が有名だからか、スキー客が大量に下車した。
 駅は自動改札にはなっていない為、駅員が出て来て手作業でキップを受け取っている。

 駅員:「はい、ありがとうございました」

 改札口の駅員にキップを渡し、待合室に入ると、何故かある意味、実家よりも安心感を感じてしまう勇太だった。

 勇太:「着いたー!」
 イリーナ:「アタシの予言通りだったでしょ?迎えの車が来ているはずだから、寒いし、早いとこ車に乗ろうかね」
 勇太:「そうしましょう。確かに、明らかに東京や埼玉より寒いです」

 駅の待合室には、ダルマストーブが赤々と燃えている。
 しかし、駅の外は雪景色であった。
 ロータリーには、スキー客や温泉客を迎えるバスや送迎車が止まっている。
 スキー客はここからバスやタクシーに乗って、スキー場に向かうわけである。
 宿泊するスキー客は、宿泊施設に荷物を置いてからスキーに向かうパターンもある為、宿泊施設のサービスで送迎が行われることもある。
 勇太達が向かうのは、一般車乗降場。
 そこには往路と同じ、黒塗りベンツGクラスが止まっていて、運転手が待っていた。
 ハッチを開けてもらって荷物を積み、その間にイリーナはたまたま起きた地吹雪に巻き込まれるようにして消え、次の瞬間には運転席の後ろに座っていた。

 イリーナ:「それじゃ、行きましょう。着いたら、すぐにランチにしましょう。ちょうど今から帰れば、その時間帯だしね」
 勇太:「そうですね」
 マリア:「大丈夫です。留守番の人形達が、用意して待っていますので」

 車に乗り込むと、重厚な車は除雪のされているロータリーを出発した。
 こうして、勇太の帰省旅行は無事終了したのである。
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