報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「東京での一夜」

2022-01-26 19:58:24 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月7日17:30.天候:晴 東京都新宿区新宿 JR新宿駅]

 稲生勇太達を乗せた東武特急は、湘南新宿ラインという貨物線を走行していた。
 ところが、埼京線に乗り入れる池袋付近で、急に徐行し出した。
 どうやら、埼京線でもダイヤ乱れがある為、なかなか線路が空かないらしい。
 特急などの優等列車は優先ダイヤで運転されるはずだが、そもそも線路が空かないとどうしようも無い。
 ようやく池袋駅に到着した時、勇太はダイヤ通りに走行している山手線に乗り換えた方がいいのではと思ったほどだという。
 何とか池袋駅を発車した特急だったが、隣を走る山手線よりもノロノロ走行で南下する。
 で、時折止まる。
 そんなことを繰り返し、ようやく列車は新宿駅に接近した。

〔「長らくのご乗車、お疲れ様でした。まもなく終点、新宿、新宿です。6番線に入ります。お出口は、左側です。お降りの際、お忘れ物、落とし物の無いよう、お支度ください。本日、昨夜からの積雪並びに強風の影響により、JR各線遅れが出ております。この電車も前の電車が詰まっている関係系で、およそ11分の遅れで新宿駅に到着致します。お急ぎのところ、電車遅れまして、大変ご迷惑をお掛け致しました。……」〕

 恐らく、場内信号機は黄色2つの『警戒』だったのかもしれない。
 鉄道信号の意味は道路信号とは違う。
 『警戒』信号は、次の信号が赤の『停止』であることを意味し、車掌の言ったように、すぐ前に別の列車がいるという状態である。
 この場合、列車の速度を時速25キロ以下に落とさなくてはならない。
 速度制限には、これとは別に標識もあるのだが、例え標識の方が速い速度を表示していたとしても、遅い方に合わせなくてはならない。
 列車は長いホームにゆっくりと入り、その半ばほどに停車した。

〔「ご乗車ありがとうございました。新宿、新宿、終点です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。本日、列車遅れまして申し訳ございませんでした。6番線に到着の列車は折り返し、17時32分発の特急“スペーシアきぬがわ”7号、鬼怒川温泉行きとなります。……」〕

 勇太達が降りた時、既に折り返しの発車時刻が迫っていた。
 これから車内清掃等が行われるだろうが、明らかに時間が足りない。
 東武鉄道に帰る頃までには、定時ダイヤに戻れるだろうか。

 マリア:「ちょっと待って」

 マリアは列車から降りると、フロント部分に回り込んだ。

 マリア:「勇太、これの写真撮って。ルーシーに送ってあげるヤツ」
 勇太:「おっ、それはいいね」

 エレーナとはケンカし合う仲であるが、ルーシーとは普通に仲良しのマリア。
 同じイギリス人だからだろうか。

 勇太:「よし。これを後でメールで送ってあげよう」
 マリア:「どうして勇太が、ルーシーのメアド知ってるの?」
 勇太:「えっ?いや、ははは……。前に教えてもらったことがあって……」
 マリア:「ルーシーには私が送るから、今の写真転送して」
 勇太:「あ、はい」
 イリーナ:「2人とも、寒いから早いとこ行くよ」
 勇太:「は、はい!」
 マリア:「分かりましたよ」

[同日17:40.天候:晴 東京都渋谷区代々木 ホテルサンルートプラザ新宿]

 住所は代々木になっているが、アクセスは新宿駅からの方が便利だ。
 まあ、代々木駅からもアクセスできるのだろうが。
 確かに新宿駅の南口から、徒歩数分で辿り着くことができた。

 マリア:「Oh!凄いホテル!」

 佇まいはエアポートリムジンバスも発着する高級ホテルな感じだが、これでも国際的には下から2番目のエコノミークラスに相当する。

 勇太:「駅から近いホテルです」
 イリーナ:「うん。アクセスは最高だね」

 イリーナは目を細めたまま頷いた。
 紫色の布マスクをしているが、その下の口元も、一応口角は上がっているように見えた。

 勇太:「それじゃ僕、チェック・インしてきますので……」
 イリーナ:「はい、これ。アタシのカード」
 勇太:「ありがとうございます」

 勇太は両手でプラチナカードを受け取ると、その足でフロントへと向かった。

 マリア:「師匠が使われるには、少々カジュアルですかね?」
 イリーナ:「駅から徒歩圏内というのは大きなポイントだけどね。……む!?」

 その時、イリーナが細めていた目をカッと見開いた。
 その視線の先には、エステサロンの看板があった。

 イリーナ:「アロマボディトリートメント……リフレクソロジー……」
 マリア:「師匠!?」
 イリーナ:「完全予約制……23時まで営業……」
 マリア:「いやいやいや!昼間、温泉施設でマッサージ受けたでしょ!?」
 イリーナ:「あれはあくまでも、温泉施設に付帯したマッサージサービスコーナーでしょ?やはり、こういう専門店で受けると違うのよねぇ……」

 イリーナはスーッとフロントへ向かった。

 マリア:「師匠!落ち着いて!浮かんでますよ!」

 まるで宙を飛ぶように……って、本当に数cm浮いて移動するイリーナだった。

 マリア:(何であんな移動方法、簡単にできるのに、マッサージ受けたがるかねぇ!?)

 マリア、普通に走って追い掛ける。
 イリーナの体は耐用年数が迫ってきているからというのが表向きの理由だが、体に負担を掛けさせない魔法の使い方もあるというのに、それをしないのが不思議なのだ。

 フロントマン:「……それでは稲生様方、3名様で1泊のご利用でございますね?」
 勇太:「はい」
 フロントマン:「お部屋を2つ御用意させて頂きました。こちらがそのカードキーになりま……」
 イリーナ:「ちょいと失礼。あそこのエステサロンの予約をしたいんだけど、いいかしら?」
 勇太:「先生?!どうしました、急に!?」
 フロントマン:「スパの御利用でございますか?」
 イリーナ:「そう!夜、寝る前に受けさせてもらえるかしら?」
 フロントマン:「かしこまりました。コースと御時間は、如何なさいますか?」
 イリーナ:「そうねぇ……」
 マリア:「始まった……」
 勇太:「ああ、マリア。これ、カードキー。先生と御一緒の」
 マリア:「分かった」
 勇太:「部屋にもマッサージを頼めるらしいけど……」
 マリア:「師匠は、ああいうサロンがいいらしい」
 勇太:「そうなんだ」

 夕食後の時間に予約することができた。
 こうしてようやく、部屋に向かうことができた。

 イリーナ:「荷物を置いたら、ディナーにしましょう」
 勇太:「分かりました」

 ランク的にはミドルクラスに匹敵しそうな感じなのに、これでもエコノミー扱いとは……。

 マリア:「作者の金銭感覚が貧困層なんだと思う」
 勇太:「え、何がですか?」
 マリア:「何でもない」
コメント (1)
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“大魔道師の弟子” 「特急スペーシアきぬがわ6号」

2022-01-26 16:02:13 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月7日16:45.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅→宇都宮線1086M列車1号車内]

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の4番線の列車は、16時46分発、特急“スペーシアきぬがわ”6号、新宿行きです。次は、浦和に止まります。……〕

 改札口を通過してホームに降りると、さすがにもう外は暗くなっている。
 そして、暗いからか、昼間でも吹き荒んでいた寒風が余計に寒く感じた。

〔まもなく4番線に、特急“スペーシアきぬがわ”6号、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックまでお下がりください。この列車は、6両です。次は、浦和に止まります。……〕

 接近放送が鳴り響く。

 マリア:「わざわざ特急で?」
 勇太:「先生が御一緒だから……」

 その時、上り副線(欠番の5番線)に貨物列車がやってきた。
 宇都宮線ではなく、高崎線から来た列車だろう。
 台車に積載されているコンテナには、うず高く雪が積もっていた。
 未だに在来線には遅れや運休の発生している列車が存在する。
 この貨物列車も、どのくらいだか分からないが、遅延していると思われる。
 通過するのではなく、一旦停車するようだった。
 この貨物列車は恐らく、北浦和のトンネルから貨物線に入るものと思われる。
 しかし、そこまでは湘南新宿ラインを走行しなければならない。
 そしてその線路を、これから勇太達が乗る列車が走行する。
 それが出た後、その貨物列車が発車するのだろう。

 マリア:「別にいいんじゃない?師匠は昔、ああいう列車で旅をなさってたんだから。ですよね、師匠?」
 イリーナ:「そうね。あの列車が新宿駅を通るのであれば、あれに乗ってもいいわ」
 勇太:「御冗談でしょう!?今はセレブじゃないですか!それに多分あの列車、武蔵野線経由なんで、新宿通らないですよ」
 イリーナ:「それは残念だわ」
 勇太:「今はセレブなんだから、もっと高い列車に乗りましょうよ」
 イリーナ:「そうね。まだ、報酬もあるし……」

 イリーナの私物の中には、世界の富豪から報酬としてもらったプラチナカードが何枚もある。
 中にはブラックカードもあるだろうが、それはあえて使わないでいた。

〔「4番線、ご注意ください。特急“スペーシアきぬがわ”6号、新宿行きの到着です。全車両座席指定です。自由席はございませんので、ご注意ください」〕

 東武鉄道の車両がやってきた。
 新幹線的なスタイルなので、ダンテ一門の中では唯一(?)の鉄道娘であるルーシーは喜ぶだろう。
 しかし、コロナ禍なので、来日できずにいる。
 ドアが開いて、ここまでの客達がぞろぞろ降りて来る。
 この列車の始発駅付近も豪雪だっただろうが、運休にはならなかったようだ。
 今回の豪雪は南岸低気圧によるものなので、南関東ほど被害が大きく、北関東はそんなに豪雪というほどのものでは無かったからだろう。
 1番後ろの車両に乗り込んだ。

 勇太:「先生のお席はこちらです」
 イリーナ:「ありがとう」

 さすがに車内は暖房が効いて温かい。
 また、特急車両は窓が開かないので。
 イリーナの後ろに、勇太達が座る。
 荷物は荷棚に上げた。
 イリーナはローブを着たまま、フードだけ被って座席を倒したが、マリアと勇太はローブを脱いで荷棚に上げておいた。
 そうしているうちに、列車が走り出した。
 JR東日本車両とは違う、独特のインバータ音を響かせている。

〔♪♪♪♪。「大宮からご乗車のお客様、お待たせ致しました。ご乗車ありがとうございます。湘南新宿ライン回り、特急“スペーシアきぬがわ”6号、新宿行きです。これから先、浦和、池袋、終点新宿の順に止まります。途中、池袋には17時12分、終点新宿には17時19分の到着です。【中略】次は浦和、浦和です」〕

 マリア:「こっちだと、勇太の家の方かな?」
 勇太:「そうそう」

 3人は進行方向左側に座っている。
 大宮以南は赤羽まで、京浜東北線と並行する。
 上り列車だと、進行方向左側だ。
 荷棚に乗せたマリアのバッグからは、ミク人形とハク人形が出て来て寛いでいる。
 乗る前に、この列車には車内販売が無いことを既に伝えている。

 マリア:「今夜のホテルは?」
 勇太:「新宿駅南口から徒歩数分。これなら明日も大丈夫でしょう」
 マリア:「師匠は私が責任を持って起こすから、心配しないで」
 勇太:「ありがとう」

 壁に折り畳まれているテーブルを出して、その上に飲み物と菓子を置いた。
 これは駅のキヨスクで買ったものである。
 肘掛け下にもテーブルは収納されているが、東武100系車両だと、これ以外にも壁際にテーブルが収納されている。
 寒かったもので、温かい飲み物を買ったのだ。

 勇太:「先生と御一緒なら、先頭の個室席も予約できたのに残念」
 マリア:「オリエント急行でのトラウマが未だにあるらしい」

 魔女狩り隊に見つかり、さながらアメリカの西部劇みたいな感じになったという。
 列車内で銃撃戦、イリーナが火だるまになって列車から脱出、しかし燃えたのはローブだけで、その下は一切燃えていない。
 魔女狩りが横行する南北西欧(一部の国、地域を除く)や南北アメリカは要注意らしい(ロシアは大丈夫とのこと)。

 イリーナ:「その、先生に出資している大金持ちの人達も、そういう地域に住んでいて、しかも日曜日には教会に行ったりしているんでしょう?」
 マリア:「セレブの信仰心なんて微々たるものさ。教会に行くことも、パフォーマンスの1つに過ぎないだろう。勇太の宗派はどうなの?」
 勇太:(恐らく、アメリカンエキスプレスのプラチナカードを持っている人は……いないだろうな。ましてやそれを、報酬してポンと渡せる人は……)
 マリア:「いなさそうだな」

 マリアはニヤリと笑った。
 ブレザーの色と同じ、緑色の布マスクを着けているが、恐らく歯を見せるほどの笑みだっただろう。

 マリア:「その代わり、師匠のパトロン達も、教会と繋がっておくことで、もしも師匠が敵対した時に備えて保険を掛けているんだろう」

 もしもイリーナがパトロン達を裏切ることがあれば、パトロン達は魔女狩り隊をけしかけるわけである。
 プラチナカードを報酬として手渡しているのも、クレカなら、使用すれば居場所が分かるからである。
 恐らく、カードを渡したパトロンは今、イリーナがしっかり日本の関東にいることを把握していることだろう。
 支払い明細は、パトロンの所へ行くからだ。

 勇太:「何だか怖いねぇ……」
 マリア:「まあ、私達がセレブのパトロンを受けるのは、もっと先の話になる。何しろ私でさえ、まだ師匠からパトロンを紹介されていない」
 勇太:「なるほど……」

 時折イリーナが不在にすることがあるが、パトロンから直接仕事の依頼を受けに行っていることが分かっている。
 しかしその時、弟子達を同行させることはない。
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