報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「帰りの旅立ち」

2022-01-28 21:05:28 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月8日07:00.天候:晴 東京都渋谷区代々木 ホテルサンルートプラザ新宿(マリアとイリーナの部屋)]

 師匠より先に起床するのが弟子の使命。
 先に起きたマリアは身支度を整えて、それからイリーナを起こすことにした。
 同じ部屋で弟子がバタバタやっていても、イリーナは起きなかった。

 マリア:「師匠、時間ですよ。起きてください。師匠」

 マリアはイリーナを揺り動かした。

 イリーナ:「ううん……あと5分……」
 マリア:(またか)

 マリアは自分の水晶玉を取り出した。

 マリア:「……どうか、よろしくお願いします」

 そして、水晶玉に映る人物に一言何かを告げる。
 それから、室内のテレビを点けた。
 何も映らないチャンネルであったが……。

 ダンテ:「やあ、おはよう。イリーナ」
 イリーナ:「ダンテ先生?!」

 自分の師匠の声がして、イリーナは飛び起きる。
 そして、青ざめた顔で声のした方を見ると、テレビ画面にダンテが映っていた。
 姿は七変化できるダンテだが、今はデフォルトの初老の紳士の姿をしている。
 髪は白い短髪。
 しかし肌は中東系のような浅黒さである。

 ダンテ:「キミの寝坊癖は見習いの頃からだったが、弟子に迷惑を掛けてはイカンな。特に、キミ達が潜伏している国、日本は世界一時間に厳しい国。その為、“魔の者”は日本には行けないが、だからといってルーズに過ごして良いわけではない。分かるね?」
 イリーナ:「も、申し訳ございません!」

 イリーナは飛び起きて、カーペットの床に片膝をつき、頭を垂れた。

 マリア:(日本は世界一時間に厳しい国だから、“魔の者”は入って来れない?どういうことだ?)

 同じく片膝をついているマリアは、大師匠の言葉に首を傾げた。

 ダンテ:「そういうわけだ。今後も精進して行くように」
 マリア:「Yes,sir.(御意)」
 イリーナ:「仰せのままに……」

 テレビ画面が消えた。

 イリーナ:「あ~、ビックリしたー!ちょっと、マリア!これは一体、どういうこと!?」
 マリア:「わ、私もビックリしましたよ!さっき朝の身支度をしていたら、水晶玉に着信があって、出てみたら大師匠様だったんです。すぐに師匠を起こそうしたんですが、『起床時刻は何時だ?』と聞かれましたので、『今日は7時です』とお答えしたら、さっきのようにやれとの御命令で……」
 イリーナ:「全く。ダンテ先生もお茶目さんねぇ……。時折ああして、抜き打ちで様子を見に来るのよ。心臓に悪いわ」

 イリーナはブツクサ文句を言いながら、再びベッドに入ろうとした。

 マリア:「ちょっと、師匠……」

 マリアがツッコミを入れようとした時だった。

 ダンテ:「いいから早く起きなさい、キミ」

 と、またテレビ画面にダンテが現れる。

 イリーナ:「はいーっ!」

 飛び起きようとしたら、ベッドから落ちたイリーナだった。

[同日07:30.天候:晴 同ホテル→JR新宿駅]

 マリア:「……ということがあったんだ」
 勇太:「そうだったんですか。それは大変でしたねぇ」
 イリーナ:「朝から心臓に悪いわ。あれなら、まだ魔女狩りが襲撃してくる方がマシよ」
 勇太:「は、はあ……」

 エレベーターに乗って1階まで下りる。
 そして、フロントに行ってチェックアウトの手続きをした。

 勇太:「昔はレストランの飲食代も、エステの料金も、全部フロントで払えたんですよね?」
 イリーナ:「そうね。今でも、まだそういう所はあるでしょう」

 ここではレストランでもエステサロンでも、料金はその都度請求された。
 なので、フロントでは特に追加料金を請求されることはなかった。

 イリーナ:「マッサージ自体は、部屋でも頼めたのね」
 勇太:「そのようですね。でも、サロンの方が良かったのでは?」
 イリーナ:「そうね。アタシも気分転換できたし、あなた達も楽しめたでしょう?」
 勇太:「は、はは……。おかげさまで……」
 マリア:(ちっ、やっぱバレてるか……)
 イリーナ:「避妊具は使い切ったの?」
 勇太:「は、はは……。おかげさまで……」
 マリア:「勇太!」

 往路の道を引き返すようにして、新宿駅の南口に入る。
 ここは、よくテレビ中継なんかが行われる場所だ。
 特に、台風や大雪などの時、首都圏の鉄道情報などを伝える時にロケされることが多い。
 これの他だと、新橋駅前SL広場が有名だろう。

 勇太:「キップは1人ずつ持ちましょう」
 イリーナ:「おっ、ありがとう」

 改札口の前で、勇太は帰りの列車のキップをマリアとイリーナに渡した。
 イリーナはグリーン車だ。

 マリア:「勇太、レストランで朝食が取れなかったから、ここで買って行くんでしょう?」
 勇太:「そうそう。駅弁買って行きましょう」
 マリア:「あ、勇太。駅弁の前に、ちょっと買って行きたいものがある」

 マリアはコンコース内のNEWDAYSを指さした。

 勇太:「そうか。実は、僕も……」
 イリーナ:「あいよ。私ゃ、店の外で待ってるよ」

 イリーナはすぐにピンと来た。

 イリーナ:(マリア、そろそろ生理用品が切れそうだからね。ここで買い足して行くか。で、勇太君はコンドームでも買い足して行くのかな?)

 これから乗る電車は、白馬駅まで乗り換え無し。
 そして、駅前にはもう車の迎えが来ているから、あとは屋敷まで直行。
 調達したいものがあれば、この新宿駅構内で完結さなければならない。
 平日なら通勤客でごった返している駅構内だが、今日は土曜日ということもあって、人の多さは相変わらずだが、平日ほどではなかった。
 客層も通勤客は半減し、行楽客が倍増している。

 勇太:「お待たせしました」
 マリア:「お待たせしました」
 イリーナ:「いいよ。それじゃ、次こそは駅弁かね?」
 勇太:「はい。向こうで売ってますので」

 買った物は、早々に自分達の手荷物の中に入れている。
 それから同じコンコース内にある駅弁屋“頂”に向かった。
 ここはNEWDAYS以上に賑わっている。
 勇太達と同じく、これから長距離旅行をする客達だろう。
 この時間だと、中央本線の特急“あずさ”と成田空港行きの特急“成田エクスプレス”が出ている。
 もっとも、“成田エクスプレス”はコロナ禍で閑古鳥だろう。
 感染者数が減った時には、少し盛り返した所もあるが、それはあくまでも国内旅行だ。
 羽田空港は一瞬また賑わいを取り戻したとしても、成田空港はそうもいかないだろう。

 勇太:「何にしますか?」
 イリーナ:「いいよ。勇太君達の好きなの選んで」

 和風テイストの駅弁売り場。

 マリア:「こういうのも、ルーシーは喜ぶ」

 と、マリアは勇太に外観の写真を撮らせた。

 勇太:「早く日本に来られるようになるといいねぇ」
 イリーナ:「何がいい?」
 勇太:「朝から肉は重いかな……」
 マリア:「じゃあ、魚にするか」
 勇太:「やっぱり“深川めし”かなぁ……。僕はどっちかっていうと、JR東海版の方が好きなんだけど……」

 同じ“深川めし”でも、JR東日本版とJR東海版で違うのだ。

 マリア:「私はチキン弁当でいいや」
 勇太:「ほおほお。先生は?」
 イリーナ:「この、カニとイクラにしてくれるかい?」
 勇太:「分かりました」

 勇太が代表してレジで会計しに行った。

 勇太:「それじゃ、行きましょう」

 もちろん、ついでに飲み物も買うのは忘れない。
 この駅弁屋の横に、特急ホームの9番線と10番線がある。
 駅弁を手に、エスカレーターに乗ってホームに降りる魔道士達だった。
コメント (1)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

“大魔道師の弟子” 「東京での一夜」 2

2022-01-28 15:01:36 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[1月7日19:30.天候:晴 東京都渋谷区代々木 ホテルサンルートプラザ新宿1Fレストラン]

 サンルートホテルチェーンの中では、高級の部類に属するホテル。
 しかし、世界の富豪から報酬を得ているイリーナにとっては、そこでの料金もはした金なのだろう。
 ホテルのレストランで夕食を取った時、コース料理を注文した。

 イリーナ:「こういうのを食べてると、そろそろ屋敷に帰るんだって思うよね」
 勇太:「そうですね。明日の朝です」
 マリア:「朝早いから朝食は無しか」
 勇太:「うん。朝食が7時からで、乗る電車が8時じゃね……。日本人だけなら早食いして、何とかなるところだけど……」
 マリア:「時間的余裕は無さそうだ。私にはこの他に、師匠を起こすという任務もある」
 イリーナ:「うんうん、頑張ってね」
 マリア:「師匠が自主的に起きて下されば、私のこのミッションはキャンセルされます」
 イリーナ:「5分の延長くらい、いいじゃない」
 マリア:「それを1時間以上も繰り返すから、タチが悪いと言っているのです」
 イリーナ:「気をつけまーす……」
 勇太:「まあまあ、マリア。先生は、これからエステを受けに行かれるから……」
 マリア:「そうだったな」

 最後にデザートや食後のコーヒーを飲んで、それからレストランを出た。

 イリーナ:「一旦、部屋に戻りましょうか。入浴してから行きたいわ」
 勇太:「そうしましょう」

[同日20:30.天候:晴 同ホテル客室(イリーナとマリアの部屋)]

 ソファ付きのツインに入っているマリアとイリーナ。
 イリーナはバスルームに入り、マリアはソファに寝転がってテレビを観ていた。
 衛星放送でアメリカの番組を観ている。
 そこで、面白いものを見つけたからだ。

 イリーナ:「ふぅ~、サッパリしたぁ~。あとはマリア、自由に使っていいわよ」
 マリア:「…………」
 イリーナ:「なぁに?それとも、勇太君の部屋のバスルームでも使う?w」
 マリア:「…………」
 イリーナ:「どうしたの?何かリアクションしてよ」
 マリア:「これ……」
 イリーナ:「ん?」

 マリアがテレビ画面を指さすと、それはアメリカの公開生放送のスタジオだった。
 スーツ姿の司会者がいて、ゲストは……魔道士のローブを着ていた。
 見た目はイリーナと同じ年恰好の女性。
 マリアやエレーナよりも白に近い金髪をしていた。

 マリア:「どうやら超能力を披露するようです」
 イリーナ:「超能力……」

〔「それでは、初めて頂きましょう!まずは、あの壁に掛けられている絵画をこのテーブルの上まで飛ばして頂きます!それでは、どうぞ!」〕

 司会者の言葉は英語です。
 読者の皆様の為、自動的に翻訳しております。
 けして、作者の英語力がゼロだからではありません。

 イリーナ:「多分、上手く行く」
 マリア:「そうですか」

 スタジオの魔道士……というかエスパーと思わしき女性は、右手を差し出すと、絵画に向かって指さした。
 因みに絵画はごく普通の静物画で、花瓶に生けられた赤い薔薇が描かれているだけである。
 大きさはA1ほど。
 すると、絵画が壁から外れてスーッと浮かび、そして女性がクイクイと呼び寄せるような仕草をすると、絵画はそれに従うようにして飛んできた。
 そして、テーブルの上を指さすと、絵画はテーブルの上に降り立った。

〔「Amazing!今の御覧頂けたでしょうか!?もちろん、このようにタネも仕掛けもございません!今度は、ここにございますマネキン人形を歩かせて頂きましょう!この通り、タネも仕掛けも無いですよ!」〕

 イリーナ:「……あー、思い出した。エバート組のクリスだわ。クリスティーナ・エバート」
 マリア:「同門の人でしたか!」
 イリーナ:「アタシと同じ、クロックワーカー(時を紡ぐ者)だわ。……うん、確かアメリカで仕事してるって言ってたわ。前に会ったのは……第2次世界大戦後……だったかな?いや、冷戦終結前に会ってたかも……」
 マリア:「『戦争の 火種で稼ぐ ダンテ流 ロシアと中国 利権が沢山』って、前に勇太がそんな『魔道士短歌』を詠んでましたが……」
 イリーナ:「おー!勇太君も段々うちの法門が分かって来たみたいね!もっとも、そこまで知っちゃったら、もう辞めれないわよ」
 マリア:「確かに……。それにしても、あんなに目立つことしちゃっていいんですか?」
 イリーナ:「魔法をどのように売るかは、魔道士それぞれだからね。アタシは占いで稼いでいるし、クリスみたいに、ああやってエンターテイメントで稼ぐ人もいるってことよ」
 マリア:「でも何だか、演出が嘘くさいですねぇ?」
 イリーナ:「エンターテイメントなんだから、それでいいのよ。もし何かあっても、『実は演出でちたw てへてへw』で逃げれるし」
 マリア:「何だか、魔法を安っぽく売られてるみたいで……」
 イリーナ:「だから、ボッタクリ商売するか、薄利多売するかは、人それぞれだから」

 イリーナは絶対前者であろう。

 イリーナ:「ああ見えても、階級はアタシと同じ、グランドマスター(大魔道師)だからね」
 マリア:「でしょうね!今何か、『これから時間移動します』なんて言ってますけど、本当にそれができるの、クロックワーカーで尚且つグランドマスターだけですからね!」
 イリーナ:「……おっと!こんなことしてる場合じゃないわ。そろそろ予約の時間。アタシはエステに行ってくるからね。まあ、22時過ぎまでは掛かるでしょうね」
 マリア:「はい、行ってらっしゃい」

 マリアは着替えが終わったイリーナを見送った。
 そして、水晶玉を使って、イリーナの後ろを追う。
 イリーナがエレベーターに乗ったのを確認してから、水晶玉の映像を切った。
 今度は、室内の電話機に手を伸ばす。
 それで、勇太の部屋に内線を掛けた。

 マリア:「……あ、もしもし?勇太?師匠、エステに行ったよ。……うん。戻るの、22時過ぎだって。だからさ……うん。勇太の部屋、行ってもいい?……うん。今から行くね」

 電話を切ると、マリアはいそいそと勇太の部屋に行く準備を開始した。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする