[6月1日11時00分 天候:曇 東京都小笠原村父島北袋沢 小港海岸]
ブルーアンブレラ号は、しばらくの間、小笠原諸島の本島たる父島を遠巻きに見ていた。
どうやら、私が上陸するタイミングを狙っているらしい。
私は船尾甲板に出て、いつでも下船できるタイミングを待っていた。
船員の1人がモーター付きのゴムボートを下ろす。
私と言えば、殆ど手ぶらで荷物など無い。
療養中は入院患者が着るような寝巻を着ていたが、今は着慣れた私服を着ている。
さすがは小笠原。
6月ともなると、もう真夏の日差しだ。
半袖のワイシャツを着ているが、剥き出しの腕が日焼けしそうである。
船員「……了解。愛原さん、今です!今出ますので、乗り込んでください!」
愛原「は、はい!」
私はゴムボートに乗り移った。
病院船のスタッフ達には既に挨拶を済ませているが、改めて挨拶……という暇もなく、ゴムボートは全速力で船から離れ、父島へと向かった。
当たり前だが、ゴムボートを操船している船員も私も、ライフジャケットは着用している。
船員「着岸時に衝撃がありますので、掴まっててください!」
愛原「は、はい!」
海岸というから、どこかの岩壁にでも接岸するのかと思いきや、普通に砂浜だった。
気候的に絶好の海日和だが、砂浜にはあまり人がいない。
それを狙ったのだろうか。
砂が何だか湿っぽいのは、さっきまで実は雨が降っていたからだ。
船員曰く、突然の雨で海水浴客が引き上げたので、その瞬間を狙ったとのこと。
なるほど。
あまり上陸の瞬間は見られたくないということだな。
砂浜が近づいてくると、2人の人影があった。
何だかその2人、見覚えがあるような気がした。
そして、ザザザーッ!という大きな音がして、ゴムボートが砂浜に乗り上げた。
船員「着きました!気をつけて降りてください!」
愛原「何から何までお世話になりました」
私はライフジャケットを脱いで船員に渡すと、ゴムボートから降りた。
愛原公一「よお、学ー!元気になって何よりじゃわい!」
愛原学「伯父さん!」
人影の1人は公一伯父さんだった。
もう1人も見覚えがあるが、ゴムボートを再び海に送り返す手伝いをしている。
公一伯父さんは麦わら帽子にアロハシャツ、白いハーフパンツにビーチサンダルと、この島ならではのラフな格好をしていた。
しかも、サングラスまでしていて、実に怪しい老人だ。
公一「ケガの具合はどうじゃ?」
学「お陰様で、ほぼほぼ回復したよ。頭に手術の痕が少し残ってるくらい」
公一「そうかそうか。これでもう、変な夢や頭痛、フラッシュバックに悩まされることは無かろうて」
公一伯父さんはそう言うと、カラカラと笑った。
学「俺なんかの為に、色々と動いてくれたようですね。一先ずは礼を言っておきましょう」
公一「何の何の。可愛い甥っ子の為じゃ。それに、夢の世界から帰還できたのは、そもそもお前の強さじゃぞ?」
学「そ、そうかな……」
リサに電撃食らったり、幼少時代のリサにそっくりな幽霊の少女にフルボッコにされた記憶くらいしか残っていないのだが。
学「それで、俺はこれからどうすればいいの?しばらくはこの島に潜伏しろって?」
公一「いや、その逆じゃ。今日中にこの島を出てもらう」
ようやくゴムボートが砂浜から離れ、沖合に停泊中の船の方に戻って行く。
高野芽衣子「お待たせしました!」
学「やっぱり高野君だったか……」
高野君は白のTシャツにデニムのショートパンツを穿いていた。
サングラスを掛けていて、頭には帽子を被せている。
やはり下はサンダル履きだった。
島民というよりは、少し長めに滞在している観光客って感じかな。
だが、天候が回復したことで、再び海水浴に戻ってきた観光客を見るに、似たような恰好をしているので、上手く溶け込んでいるといった感じか。
高野君はともかく、伯父さんは別の意味で目立っているような気がしないでもないが。
公一「島を出るまで、ワシらと行動を共にしてもらう。まずはここから移動ぢゃ」
愛原「はーい」
私達は海水浴場から離れた。
学「それにしても暑いね」
高野「今日の最高気温、30度くらいですからね。菊川とは10度ぐらい差が付いてますよ」
学「菊川は20度くらいしか無いの?」
公一「今日の都心は梅雨前線により土砂降りで、梅雨寒の日じゃ。ここもさっきは、サーッと強めの通り雨が降ったところじゃぞい」
学「それは知ってる」
だからこそ一瞬、海水浴客が避難したことで、上陸するタイミングが掴めのだろう。
しばらく歩いて木々の間を通り抜けると、開けた場所に出た。
そこはロータリーみたいな感じになっていて、その中央にバス停のポールが立っていた。
公一「ここから村の中心部までバスが出ている。それでまずは、そこに向かおう」
学「わ、分かった」
公一「バスの中で話すから、しばらく待ってくれ」
学「分かったよ」
高野「博士、荷物のこととかはいいんじゃないですか?」
公一「む、それもそうだな」
学「荷物?」
高野「先生、藤野にいる時に荷物を持ち込んでましたよね?着替えとか入れていた……」
学「ああ、そうだ。さすがにそれはムリだっただろう?」
高野「いえ、持ち出せましたよ」
学「持ち出せたの!?そ、それはどこに!?」
高野「船の乗り場です。今日は東京・竹芝桟橋へ向かう船が出航する日なんですけど、そこの待合所で荷物の預かりサービスをしてくれているので、これから引き取りに行きます」
学「そうだったのか」
公一「じゃが、その前に腹ごしらえといかんかね?せっかく小笠原に来たのじゃから、その名物を食べてから帰るのも一興じゃて」
学「そ、そうか。それもそうだね」
そういえば今朝、病院食同様の少ない朝食だったこともあり、まだお昼前であるにも関わらず、私は空腹を感じるようになった。
ブルーアンブレラ号は、しばらくの間、小笠原諸島の本島たる父島を遠巻きに見ていた。
どうやら、私が上陸するタイミングを狙っているらしい。
私は船尾甲板に出て、いつでも下船できるタイミングを待っていた。
船員の1人がモーター付きのゴムボートを下ろす。
私と言えば、殆ど手ぶらで荷物など無い。
療養中は入院患者が着るような寝巻を着ていたが、今は着慣れた私服を着ている。
さすがは小笠原。
6月ともなると、もう真夏の日差しだ。
半袖のワイシャツを着ているが、剥き出しの腕が日焼けしそうである。
船員「……了解。愛原さん、今です!今出ますので、乗り込んでください!」
愛原「は、はい!」
私はゴムボートに乗り移った。
病院船のスタッフ達には既に挨拶を済ませているが、改めて挨拶……という暇もなく、ゴムボートは全速力で船から離れ、父島へと向かった。
当たり前だが、ゴムボートを操船している船員も私も、ライフジャケットは着用している。
船員「着岸時に衝撃がありますので、掴まっててください!」
愛原「は、はい!」
海岸というから、どこかの岩壁にでも接岸するのかと思いきや、普通に砂浜だった。
気候的に絶好の海日和だが、砂浜にはあまり人がいない。
それを狙ったのだろうか。
砂が何だか湿っぽいのは、さっきまで実は雨が降っていたからだ。
船員曰く、突然の雨で海水浴客が引き上げたので、その瞬間を狙ったとのこと。
なるほど。
あまり上陸の瞬間は見られたくないということだな。
砂浜が近づいてくると、2人の人影があった。
何だかその2人、見覚えがあるような気がした。
そして、ザザザーッ!という大きな音がして、ゴムボートが砂浜に乗り上げた。
船員「着きました!気をつけて降りてください!」
愛原「何から何までお世話になりました」
私はライフジャケットを脱いで船員に渡すと、ゴムボートから降りた。
愛原公一「よお、学ー!元気になって何よりじゃわい!」
愛原学「伯父さん!」
人影の1人は公一伯父さんだった。
もう1人も見覚えがあるが、ゴムボートを再び海に送り返す手伝いをしている。
公一伯父さんは麦わら帽子にアロハシャツ、白いハーフパンツにビーチサンダルと、この島ならではのラフな格好をしていた。
しかも、サングラスまでしていて、実に怪しい老人だ。
公一「ケガの具合はどうじゃ?」
学「お陰様で、ほぼほぼ回復したよ。頭に手術の痕が少し残ってるくらい」
公一「そうかそうか。これでもう、変な夢や頭痛、フラッシュバックに悩まされることは無かろうて」
公一伯父さんはそう言うと、カラカラと笑った。
学「俺なんかの為に、色々と動いてくれたようですね。一先ずは礼を言っておきましょう」
公一「何の何の。可愛い甥っ子の為じゃ。それに、夢の世界から帰還できたのは、そもそもお前の強さじゃぞ?」
学「そ、そうかな……」
リサに電撃食らったり、幼少時代のリサにそっくりな幽霊の少女にフルボッコにされた記憶くらいしか残っていないのだが。
学「それで、俺はこれからどうすればいいの?しばらくはこの島に潜伏しろって?」
公一「いや、その逆じゃ。今日中にこの島を出てもらう」
ようやくゴムボートが砂浜から離れ、沖合に停泊中の船の方に戻って行く。
高野芽衣子「お待たせしました!」
学「やっぱり高野君だったか……」
高野君は白のTシャツにデニムのショートパンツを穿いていた。
サングラスを掛けていて、頭には帽子を被せている。
やはり下はサンダル履きだった。
島民というよりは、少し長めに滞在している観光客って感じかな。
だが、天候が回復したことで、再び海水浴に戻ってきた観光客を見るに、似たような恰好をしているので、上手く溶け込んでいるといった感じか。
高野君はともかく、伯父さんは別の意味で目立っているような気がしないでもないが。
公一「島を出るまで、ワシらと行動を共にしてもらう。まずはここから移動ぢゃ」
愛原「はーい」
私達は海水浴場から離れた。
学「それにしても暑いね」
高野「今日の最高気温、30度くらいですからね。菊川とは10度ぐらい差が付いてますよ」
学「菊川は20度くらいしか無いの?」
公一「今日の都心は梅雨前線により土砂降りで、梅雨寒の日じゃ。ここもさっきは、サーッと強めの通り雨が降ったところじゃぞい」
学「それは知ってる」
だからこそ一瞬、海水浴客が避難したことで、上陸するタイミングが掴めのだろう。
しばらく歩いて木々の間を通り抜けると、開けた場所に出た。
そこはロータリーみたいな感じになっていて、その中央にバス停のポールが立っていた。
公一「ここから村の中心部までバスが出ている。それでまずは、そこに向かおう」
学「わ、分かった」
公一「バスの中で話すから、しばらく待ってくれ」
学「分かったよ」
高野「博士、荷物のこととかはいいんじゃないですか?」
公一「む、それもそうだな」
学「荷物?」
高野「先生、藤野にいる時に荷物を持ち込んでましたよね?着替えとか入れていた……」
学「ああ、そうだ。さすがにそれはムリだっただろう?」
高野「いえ、持ち出せましたよ」
学「持ち出せたの!?そ、それはどこに!?」
高野「船の乗り場です。今日は東京・竹芝桟橋へ向かう船が出航する日なんですけど、そこの待合所で荷物の預かりサービスをしてくれているので、これから引き取りに行きます」
学「そうだったのか」
公一「じゃが、その前に腹ごしらえといかんかね?せっかく小笠原に来たのじゃから、その名物を食べてから帰るのも一興じゃて」
学「そ、そうか。それもそうだね」
そういえば今朝、病院食同様の少ない朝食だったこともあり、まだお昼前であるにも関わらず、私は空腹を感じるようになった。
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