報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「特急草津・四万3号」

2025-01-19 15:49:58 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月1日11時40分 天候:晴 東京都台東区上野 JR上野駅]

 いよいよ出発当日。
 予約していたタクシーに乗り込み、私とリサは梅雨晴れの中、出発地点である上野駅に向かった。
 まるで梅雨明けしたかのような暑さだが、タクシーの中は冷房がガンガンに入っている。

 運転手「着きました」
 愛原「はい、ありがとう」

 アプリで予約したので、料金も既にアプリから支払われることになる。
 なので、降りる時は何もせず、そのまま降りられるというわけだ。
 都会のタクシーは便利だ。
 私とリサは、夏の日差しが照り付ける中、タクシーを降りた。
 幸いタクシーが着いたのは、上野駅正面口のタクシー乗り場。
 屋根があるので、そこで日差しを避けながら駅の中に向かった。
 リサが着ているのは私服ではなく、東京中央学園の制服。
 私服にしなかったのは、白い仮面を着ける時に、私服よりは制服の方が『トイレの花子さん』に見えるからだ。
 元・日本アンブレラの社長だった五十嵐皓貴が、それでどんな反応をするのか不明だが、より具体性を示す為ということで……。
 本当東京中央学園の旧制服であるセーラー服の方がより具体性があるのだろうが、リサはさすがにそれは嫌がった。
 ので、現在のブレザー……夏服なので半袖のポロシャツを着ている。
 半袖のブラウスやワイシャツの他、盛夏服として半袖のポロシャツもある。
 リサはそれを着ていた。
 埼京線と同じ緑色のプリーツスカートと、山手線と同じ薄緑色のポロシャツと……。

 愛原「お昼時だから、駅弁でも買って電車に乗ろうか」
 リサ「おー、やった!……車内販売は無いの?」
 愛原「廃止されたんだな、これが」
 リサ「先生がナンパしそうだからその方がいいね」
 愛原「をい!……キップは1人ずつ持とう」
 リサ「先生の隣ね!」
 愛原「当たり前だよ」

 リサに乗車券と特急券を渡す。

 愛原「ここでは乗車券だけ改札機に入れて」
 リサ「分かった」

 そして、多くの利用者が行き交う中央改札口を通過し、改札内コンコースに入る。
 コンコース内には、駅弁の売店があった。

 愛原「何にする?」
 リサ「もちろん、肉!」
 愛原「……だろうな」

 リサには『牛すきと牛焼肉弁当』を買ってあげた。

 愛原「多分、向こうの夕飯もステーキとかだぞ?」
 リサ「いいね!」

 ペンションとは洋風の民宿だ。
 当然、食事も洋食がメインとなる。
 私は『幕之内弁当』にした。
 買った駅弁を手に、ホームに向かう。
 久しぶりに、上野駅の低いホームから電車に乗る。
 長距離列車が発着していたホームということもあり、今でも一部を除く特急列車は低いホームから発車する。
 ただ……。

[同日12時00分 天候:晴 JR上野駅『低いホーム』→高崎線3003M列車・5号車内]

〔本日も、JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。14番線に、停車中の列車は、12時10分発、特急“草津・四万”3号、長野原草津口行きです。停車駅は赤羽、浦和、大宮、熊谷、高崎、新前橋、渋川、中之条です。この列車は、全車指定席です。……〕

 私達は先頭車の5号車に乗り込んだ。
 低いホームの有効長は15両だが、私達が乗る列車の編成はその3分の1の長さしか無い。
 それが中央改札口寄りの、車止めギリギリの位置に止まっているものだから、ホームの真ん中から先が完全にガラ空きとなっている。
 だからホームの駅員も、

〔「12時10分発の特急“草津・四万”3号、長野原草津口行きは、短い5両編成です。ホーム後ろ寄りに停車しております。ご利用のお客様は、ホーム後ろ寄りにお越しください」〕

 なんて放送している。
 かつては7両編成で、同じ7両編成の特急“水上”号と併結し、14両編成という堂々たる編成が停車していたホームとは思えない。
 その“水上”号は廃止され、残った“草津”号もグリーン車無しの5両編成に短縮され、“草津・四万”という名前に変えられて現在に至る。
 けして、草津温泉が寂れたというわけではなく、鉄道よりもバスの方が安くて便利ということで、そちらに乗客を取られているというのが現況だ。
 実際、高速バスの方は盛況状態で、今日なんか満席である。
 こちらの電車の方は、半分くらいが埋まっていた。
 途中からも乗車してくる客はいるのだろうが……。

 

 私はメールで善場係長に定時の連絡をしたが、着信があったので、席を立った。
 リサは既に駅弁に箸を付けている。
 発車前に食べ終えてしまいそうな勢いだ。

 愛原「はい、もしもし?」

 私は一旦列車から降り、リサから見える位置で電話に出た。

 善場「愛原所長、お疲れ様です。今、上野駅ですね?」
 愛原「そうです。予定通りの電車で向かうところです」
 善場「承知しました。……これはBSAAからの情報なのですが、斉藤容疑者が新潟空港に到着した後、新潟駅に移動し、上越新幹線に乗ったという目撃情報があるそうです」
 愛原「! 意外ですね!?以外と普通に人目に付くルートで行ったんですね!?」
 善場「だからこそ、逆に捜査網を掻い潜れたのでしょう。もちろん、変装はしたようですけどね」
 愛原「新潟駅から新幹線ということは、上越新幹線ですね。それで東京に向かったのでしょうか?」
 善場「それが、また車内で変装したのか、特定できないんです。夜の上り列車といえば、車内は閑散としていると思います」
 愛原「それは確かに。でも、今の上越新幹線、E7系ですか。車内のあちこちにカメラが付いているはずですよ?それを確認してみるというのは?」
 善場「これからそれをする予定です。ただ、上越新幹線に乗ったということは、途中で愛原所長方のルートと一致する駅がありますよね?」
 愛原「……高崎ですね!私達も高崎駅で乗り換える予定です。と言いますのは、群馬原町駅は普通列車しか停車しない上に、渋川とか、中之条駅では接続が悪いので、普通列車の始発駅である高崎駅で乗り換えた方が楽だからです」
 善場「今のところ高崎駅周辺では目撃情報はありませんが、斉藤容疑者がペンション“いたち草”に潜伏している可能性もあります。その辺も視野に入れて調査をお願いします」
 愛原「分かりました。お任せください」

 私は電話を切って、車内に戻った。
 さすがに車内は冷房が効いて涼しかった。

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