報恩坊の怪しい偽作家!

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“私立探偵 愛原学” 「斉藤社長からの依頼」

2021-03-21 11:38:06 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月12日15:35.天候:曇 東京都港区新橋 NPO法人デイライト東京事務所→都営バス新橋停留所]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 NPO法人デイライト東京事務所で書類手続きと、善場主任との打ち合わせが終わり、私と高橋は事務所を出た。
 さっきまで降っていた雨だが、ようやく上がったようだ。
 まだ空はどんよりと雲っていたが。

 リサ:「お疲れさま、先生」
 愛原:「ああ、待たせたな。じゃあ帰ろう」
 高橋:「どこ行ってたんだ、お前ら?」
 リサ:「色々。この辺、色んなお店がある」
 斉藤:「1時間だけじゃ回り切れないですわ」
 高橋:「よし。じゃあ、俺達は先に帰るから、お前らは後で来い」
 リサ:「いや、私も帰るって」
 斉藤:「リサさんが言うならぁ、私も帰るぅ!」
 愛原:「別の意味で面白いコントをしてくれるなぁ……」

 菊川方面へ行く都営バスは、ただ単に『新橋』というバス停から出る。
 『新橋駅前』ではないのは、他の新橋駅前バス停と違って、新橋駅から少し離れているからだろう。
 しかし、新橋地区にはある。
 他のバス会社なら、それでも強引に『新橋駅前』にするか、『新橋駅入口』とかいう名前になりそうだ。
 本数は東20系統と違ってとても多く、私達が乗ろうとする便は、前の便が出てから4分後に発車するという高頻度ぶりだ。
 雨が降っていたら、もっと混んでいたかもしれない。
 バスがやってきて、私達は前から乗り込んだ。
 私と居候を始めたばかりの頃は、リサは電車やバスの乗り方を知らず、私が教えたものだ。
 今は随分と慣れた様子である。
 バスに乗り込むと、1番後ろの座席に座った。

 リサ:「あ……」

 そこでリサが思い出したかのように言った。

 リサ:「先生。今日ね、栗原……先輩も来ることになってたんだけど、『体調不良』で来れないって」
 愛原:「そうなのか。それはしょうがないな」

 栗原さんも来るつもりだったのかい。

 リサ:「そろそろ『来そう』だなぁと思っている時に天気が悪くなると、それがきっかけで『来る』こともあるからね」
 愛原:「そういうものか」

 私は頷いた。
 そんなことを話しているうちに、バスにエンジンが掛かる。
 この時点で座席の半分以上が埋まっていた。
 さすが都営バスはドル箱路線を多く抱えている。
 さぞかし一般路線バスとしては日本一の輸送量かと思いきや、都営バスは2位に甘んじているのだという。
 では1位はどこかというと、神奈川県の神奈川中央交通(略称、神奈中)とのこと。

〔発車致します。お掴まりください〕

 乗車口の前扉が閉まって、バスが走り出した。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは銀座四丁目、勝どき橋南詰、豊洲駅前経由、とうきょうスカイツリー駅前行きでございます。次は銀座西六丁目、銀座西六丁目でございます。日蓮正宗妙縁寺へおいでの方は、本所吾妻橋がご便利です。次は、銀座西六丁目でございます〕

 斉藤:「あ、そうだ。私も事務所に行っていいですか?」
 高橋:「おい。子供の遊ぶ所じゃねーぞ」
 愛原:「まあまあ。どうかしたのかい?」
 斉藤:「お父さんが先生に送った依頼書がどんなものか見てみたいんです。フザけたものでしたら、私から言っておきますから」
 愛原:「フザけたというか……。まあ、面白い依頼書をいつも送ってくれるよね。それでいて報酬は高いんだから、俺としては文句は言えないな」
 斉藤:「でも、モノには限度ってものがありますから」

 私の中では斉藤社長の依頼内容は限度内だし、そもそも娘のお守りを依頼してくる時点で、探偵業とはおよそかけ離れた限度外だと思う。
 要は斉藤さんは、何か口実を作って、少しでも長くリサと一緒にいたいのだ。
 私はそう思い、了承した。
 斉藤さんは嬉しそうにしていたが、高橋が不満顔であった。

[同日16:45.天候:曇 墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 事務所に到着すると、まずはファックスとメールを確認した。
 斉藤社長の依頼書はファックスで送られており、やはり内容は娘である斉藤絵恋さんをリサの卒業旅行に同行させて欲しいというものだった。
 その代わり、宿泊先のホテルまたは旅館の優待券を融通するとのことだった。
 全く、予想通りの展開であった。
 まずは私は依頼を受ける旨の返事をする為、ボスの所に電話した。

 ボス:「退院おめでとう。私も嬉しいよ」
 愛原:「ありがとうございます。ボス」
 高橋:「ていうか今頃ボスが登場しても、今の読者は忘れてるんじゃねーか?」
 ボス:「聞こえてるぞ、高橋君。今度の仕事は、高橋君抜きで頑張ってくれ」
 高橋:「いや、冗談っスよ、ボス!ガヂバナじゃないッス!」
 ボス:「まあいいだろう。斉藤社長には私から言っておく。候補地を後でメールするから、粗方の目星を付けておいてくれ」
 愛原:「分かりました」
 ボス:「尚、このテープは自動的に消滅する」
 愛原:「は?」
 ボス:「スマン。1度言ってみたかったのだ」
 愛原:「そんな昔のスパイ映画みたいなこと、今では全然無理ですよ」
 ボス:「そうだな。今時、カセットテープなんて有り得ん。夢の無い話だ」
 愛原:「そうですね。……それじゃ」

 私は電話を切った。

 愛原:「特にフザけた内容じゃなかったな、斉藤さん」
 斉藤:「そのようですね」
 愛原:「むしろ今回はボスの方がお茶目だった」
 高橋:「読者に忘れられないように、わざとボケてるんスかね」
 愛原:「まあ、カンベンしてやってくれ」
 高橋:「はあ……」
 斉藤:「じゃあ、私はこれで。パールが心配しているといけないので」
 愛原:「ああ。気を付けて帰れな」
 斉藤:「じゃあね、リサさん」
 リサ:「ああ。また」
 高橋:「やれやれ。やっと帰ったか」
 愛原:「それより、候補地ってどこなんだろうな?」
 高橋:「意表をついて、地球の裏側とかかもしれないっスよ?」
 愛原:「ブラジルとかか?それは遠いな。うん、遠すぎるよ。確か飛行機でも丸一日掛かるような距離だぞ」

 国内だと思う。
 ただ、中には離島とかも入っているだろうな。
 まあ、私は温泉に入れればそれで良いのだが。

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