報恩坊の怪しい偽作家!

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“大魔道師の弟子” 「飴玉婆さんを追え」 4

2019-04-03 18:59:30 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[3月14日17:30.天候:曇 東京都台東区上野 東京中央学園上野高校]

 パーカーのフードを被ってサングラスを掛けた、稲生よりは年上の男が満面の笑みを浮かべて稲生を物陰に誘う。

 稲生:「一体、何なんです?」

 稲生は物陰に入った。

 男:「キミ、飴玉婆さんの知り合いなんだろ?俺は佐久間昇。飴玉婆さんの下で働いてるんだ」
 稲生:「佐久間……?」

 稲生はその名前に聞き覚えがあるような気がした。
 だが、思い出すことはできなかった。

 佐久間:「ちょうど良かった。飴玉婆さんが探してたんだ。ついて来てくれ」
 稲生:「飴玉婆さんが僕達を探してる?」

 稲生は首を傾げた。
 自分達が飴玉婆さんを探している側のはずなのだが……。

 稲生:「ちょっと待った。裏門にマリ……僕の先輩がいるんだ。呼んで来るから、ちょっと待っててくれないか?」
 佐久間:「裏門に行くなら、学校の中を通って行った方が早いんじゃないか?」
 稲生:「それもそうだな。でも、正門は閉まってるよ?」
 佐久間:「ヘーキヘーキ」

 佐久間は引き戸式の門扉を掴むと、そのままガラガラと開けてしまった。

 稲生:「なっ!?」
 佐久間:「鍵掛かってねーんだよ。どういうわけだか」
 稲生:(そ、そうか。幽霊が入れないようにする為の閉鎖だから、鍵掛けなくていいのか)

 イジメを苦に自宅の自室で首つり自殺をした女子生徒の幽霊が、対応の悪かった学校に抗議をする為、下校のチャイムと共に自宅から学校へやってくるという怪談話がある。
 首を吊ったのが17時であったからだ。
 もしも幽霊が本気なら鍵が掛かっていようが、平気で入って来るだろう。
 それができないということは、所詮その程度の力しか無かったということ。
 それなら鍵を掛けなくても、入って来れないだろうというものだ。

 佐久間:「早く行こう。あまり時間が無い」
 稲生:「う、うん」

 稲生は足早に裏門に向かおうとした。
 だが、ゴッと後頭部に強い痛みが走り、目の前が真っ暗になって……あとは何も覚えていない。

 佐久間:「ヒャハハハ!こんなにも簡単に行くとは思わなかった!飴玉婆さん、魔道師を倒しましたよ?こいつの目を繰り抜けばいいんですね?」

 飴玉婆さんと思しき老婆の声が佐久間の頭の中に響く。

 飴玉婆さん:「待つんじゃ。そこではちと人目があるでの。旧校舎に連れて行くんじゃ。幸いこの学校の旧校舎にも、『魔法の鏡』があるでの」
 佐久間:「旧校舎は鍵が掛かってますよ?」
 飴玉婆さん:「ワシをナメるな。鍵くらい魔法で開けとくわい」
 佐久間:「俺の部屋にもそうやって侵入したのか?」
 飴玉婆さん:「つべこべ言わんと、そいつの仲間が来る前に連れて来るんじゃ」
 佐久間:「へいへい」

 佐久間は稲生を担ぎ上げると、今は教育資料館として再生している旧校舎へと向かった。

 鈴木:(わわわっ、ヤバいぞ!稲生先輩がやられた!早いとこエレーナに連絡だ!)

 物陰に隠れて様子を伺っていた鈴木。
 もちろんエレーナに頼まれて潜んでいたのである。
 最初は渋っていた鈴木だったが、頬にキスをされた瞬間、両目をハートマークにしてミッションに応じたわけである。
 オトコって単純よねぇ~?

 鈴木:「も、もしもし!エレーナ!?た、大変だ!稲生先輩がやられた!」
 エレーナ:「何だって!?マリアンナのバカはやってんだ!?」

[同日18:00.天候:曇 同校旧校舎(教育資料館)3F]

 佐久間は木製の階段を3階まで登った。
 その踊り場には大きな鏡がある。
 姿見というヤツだ。
 その前に『飴玉婆さん』と呼ばれた老婆は立っていた。

 飴玉婆さん:「フォフォフォ……。御苦労……」
 佐久間:「なあ、これでもういいだろ?俺の目玉を返してくれよ?」
 飴玉婆さん:「お前さんの好きな飴玉を更に2個あげたのじゃぞ?それを両目に入れて……」
 佐久間:「確かにこれでも見えるけど、やっぱり自分の目玉がいいよォ。お願いだよ」
 飴玉婆さん:「フォフォフォ。まあ、お前さんも十分反省したようじゃし、あれからワシの為に色々と働いてくれたしのぅ……。そろそろ頃合いかのぅ……」
 佐久間:「だろ?だろ?な?頼むよ」
 飴玉婆さん:「あい分かった。それでは最後の仕事じゃ。こやつを鏡の前に引き立てい」
 佐久間:「う、うん」

 佐久間はまだ気絶している稲生を引き立たせると、鏡の前に立たせた。

 飴玉婆さん:「ワシはこれから呪文を唱える。そしたらこの鏡から悪魔が出てくるでな」
 佐久間:「あ、悪魔だって?」
 飴玉婆さん:「さよう。生贄を欲しがる悪魔じゃ。なに、心配するでない。悪魔が出て来たら、速やかにそやつを引き渡せば良い。悪魔は満足して、そやつを連れて再び鏡の中に消えよう……」
 佐久間:「それで俺の目玉を返してくれるんだね!?」
 飴玉婆さん:「ああ。約束しよう」
 佐久間:「分かったよ!」
 飴玉婆さん:「それでは……コホン……」

 飴玉婆さんは呪文を唱え出した。
 ダンテ一門が『パペ、サタン、パペ、サタン、アレッペ!』と唱えるのに対し、この飴玉婆さんは……。

 飴玉婆さん:「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム。我は求め、訴えたり」

 聞いたことあるような呪文を唱え出した。
 しかし、鏡が光り出す。

 佐久間:「うおっ、まぶしっ!」

 だが、佐久間は本物の目玉は無く、しかもサングラスを掛けているはずだが。
 それでも眩しいと思うくらいの強い光だったのだろうか?

 佐久間:「何か出て来た!?」
 飴玉婆さん:「静まれい!」

 鏡の中から出て来たのは、意外にも人間の姿をした男だった。
 上下ともに黒い服に身を包んでいるが、顔は佐久間や稲生よりも若い男のようだった。
 茶色に染まった髪は肩まで伸ばしている。

 佐久間:「これが悪魔!?」

 おどろおどろしい姿を想像していた佐久間は、あまりにも人間によく似た風体の悪魔に拍子抜けしてしまった。
 だが、そこに油断が発生した。

 稲生:「わああああああっ!!」
 佐久間:「!!!」
 飴玉婆さん:「!?」

 いつの間にか意識を取り戻していた稲生が激しく暴れた。

 佐久間:「うわっ!?」

 稲生に振り解かれた佐久間は、その拍子に前のめりになってしまった。
 転倒するかと思いきや、それを受け止める人物がいた。

 悪魔:「生贄、確かに頂戴した」
 佐久間:「ち、違う!お、俺は生贄じゃねぇ!」

 だが、飴玉婆さんはほくそ笑んだ。

 飴玉婆さん:「うむうむ。それでは契約の方、よろしく頼むの」
 佐久間:「た、助けてくれっ!助けてくれーっ!!」
 悪魔:「我が契約は成立せり!」

 悪魔は佐久間を抱き抱えるようにして、鏡の中に消えて行った。
 断末魔に近い佐久間の叫び声を残しながら……。

 飴玉婆さん:「フォフォフォ!ダンテ一門も大したこと無いのぅ!フォフォフォ!」
 稲生:「あ、あなたは一体……!?」

 稲生が驚愕の顔で飴玉婆さんを見た。
 と、階段を駆け登って来る者が1人。

 マリア:「勇太!?勇太、そこにいるのか?!」

 マリアの声だった。

 飴玉婆さん:「同じ魔道師のよしみで、お前さんは見逃してやろう。他門であるが、見習よ。精進せよ……」
 稲生:「マリアさん!」
 マリア:「よくも勇太を!!」

 マリアは魔道師の杖を振り上げて、飴玉婆さんに振り落とした。
 だが、マリアの杖は空を切っただけだった。
 飴玉婆さんは消えてしまったのである。

 マリア:「ちくしょう!油断した!」
 エレーナ:「何やってんだ、マリアンナ!この大バカやろう!!」

 エレーナは件の鏡から出て来た。
 
 マリア:「バカとは何だ、このドアホ!」
 エレーナ:「バカにバカって言って何が悪い!?このバカ!」
 稲生:「ちょちょちょ!ケンカしてる場合じゃないよ!というか、エレーナはどうしてここが分かったの!?」
 エレーナ:「鏡の中をテレポートして行く魔法を最近習得したんだ。途中に人間の生贄を手にした悪魔がいたんで、道を聞いたらここだったんだ」
 稲生:「その悪魔、若かりし頃のキムタクみたいな姿で、サングラスを掛けた人を連れてなかった?」
 エレーナ:「ああ、そうそう!そいつ!」
 稲生:「その2人を捕まえて欲しかったんだよっ!」
 エレーナ:「ええっ!?」

 この後この3人は、他門の魔道師にシマ荒らしを受けたあげく、何の対処もできなかった廉で反省文を書かされたとのことである。

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