“新人魔王の奮闘記”より……。
ルーシーと安倍春明は、魔王城新館にリニューアルされた謁見の間にいた。ここではルーシーは玉座に座り、大衆の意見を聞く場を設けているわけだ。
因みに他と違うのは、玉座の横にパソコンを置いていること。記録用に置いているようだが、これもまた、いかにルーシーが人間界で生まれ育った魔王なのかの表れである。
「Next!」
「えー、次は……あっ、他国からの使者が来てますよ。海の向こうより、はるばるおいでです」
と、春明。黒い燕尾服に、黒い大きな蝶ネクタイを着けている。手には、タブレット。人間界に外遊した時に購入したものである。毎日の謁見希望者のリストも、ここに入っている。
「おっ、懐かしい。ノラン王国のスティーブン・C・ターナー王子の使者!?」
「知り合いなの?」
「ハハッ、陛下も会ってますよ。断頭台でね」
「What?」
「自分のパーティ(仲間)にいた1人ですよ。自分が陛下を倒しにきた“勇者”で、スティーブンは“賢者”でした」
「……覚えてないわね。それで?」
「実はスティーブンは魔界で唯一、人間が統治するノラン王国の出身で、旧・魔王軍の脅威に対抗する為に人間界に来てたんですよ。そこで、自分と会ったと」
「おおかた、私がここを統治するようになって脅威も無くなったので、実家に戻って王子やってるってとこね」
「ま、そんなところです」
実際に来たのは使者であって、本人ではない。では使者が何の用件で派遣されたのかというと、
「えっ、あいつ結婚すんの!?」
思わず軽い口調になってしまった春明。
「はい。殿下は予てより、隣国のオーランド王国のゼルダ王女様と婚約を交わされておりまして、是非ともアベ首相閣下とルーシー陛下に御臨席賜りたいと……」
「オーランド王国ね……。ミズ・ゼルダは、あるゲームで有名な名前よね」
ルーシーはキーボードを叩いた。もっとも、ゼルダという名前はスティーブンと同じく、英語圏の国の女性の名前として実在するのだが。
「!?」
「スティーブンは元気にやってますか?」
「はい、おかげ様で。アベ閣下の政治的辣腕に対し、大いなる賛辞を送られてございます」
「ははっ、照れるなぁ……」
「……ねぇ、ちょっと」
「ん?」
ルーシーは春明の袖を引っ張り、PCの画面を見せた。そして、ヒソヒソと小声で耳打ちする。
「この結婚、大丈夫なの?祝儀じゃなくて、香典持ってった方が良くない?」
「何言ってんだよ、失礼な」
というやり取りがあったのが半年前。
実はその後、春明もノラン王国とオーランド王国を比較してみて眉を潜めた。前者はなかなかの善政で、国民の王室に対する支持率も高い。是非とも、春明達のアルカディア王国も見習いたいくらいだ。
それに対し、隣国のオーランド王国は圧政で悪評だった。国王ガリバルディ3世とその娘の親子による民衆への暴政が異世界通信社からも報道されている。
その娘こそが、スティーブンの結婚相手とされるゼルダ王女であった。見た目は確かに美しい。だが、悪政を振るう父王の元、箱入りに育った姫はそれが当たり前のようになっているようだ。
既に罪無き罪人が今月に入ってから、何十人もギロチンに掛けられているらしい。
「何だか心配だなぁ……」
「塩まいた方がいいかもね」
などという会話をしていた春明とルーシー。
「どうする?出席辞退する?御祝儀でイチャモンつけられたら、バカ臭いぞ?」
「そうねぇ……」
と、そこへ、
「ご休憩中のところ、失礼致します」
共和党の横田理事が入って来た。何とか許してもらい、釈放されていた。
ルーシー自身が民主党タカ派に裏切られて、自分がギロチンに掛けられそうになっていたので、皮肉にもそれが、決して私情で死刑を言い渡さないことで評判になっていた。
因みに王室内での横田理事の立場は副侍従長である。
「どうした?」
「ノラン王国より緊急の伝書鳩でございます。あいにくと、私の愛鳥フローレンスには劣るようですが……」
「内容は?」
さらっと最後のコメントをスルーする春明。
「まもなく結婚式ではありますが、あいにくとアルカディア王国の臨席をお断りしたいとのことです」
「What!?」
「何か、嫌な予感がする……」
「理由については今は話せないが、後日必ず説明させて頂くので、くれぐれもお気を悪くされぬよう宜しく……と」
「春明!」
「スティーブンのヤツ、もしかして……!」
春明の予感は当たった。結婚式当日、異世界通信社が号外をアルカディアシティのあちこちにばら撒いた。そこには、こう書いてあった。
『オーランド王国、王室に血の大豪雨!』『首謀者はまさかのノラン王国、スティーブン王子!?』『ガリバルディ3世、スティーブン王子の剣により死亡!』
「やりやがったな、あいつ……」
ルーシーと安倍春明は、魔王城新館にリニューアルされた謁見の間にいた。ここではルーシーは玉座に座り、大衆の意見を聞く場を設けているわけだ。
因みに他と違うのは、玉座の横にパソコンを置いていること。記録用に置いているようだが、これもまた、いかにルーシーが人間界で生まれ育った魔王なのかの表れである。
「Next!」
「えー、次は……あっ、他国からの使者が来てますよ。海の向こうより、はるばるおいでです」
と、春明。黒い燕尾服に、黒い大きな蝶ネクタイを着けている。手には、タブレット。人間界に外遊した時に購入したものである。毎日の謁見希望者のリストも、ここに入っている。
「おっ、懐かしい。ノラン王国のスティーブン・C・ターナー王子の使者!?」
「知り合いなの?」
「ハハッ、陛下も会ってますよ。断頭台でね」
「What?」
「自分のパーティ(仲間)にいた1人ですよ。自分が陛下を倒しにきた“勇者”で、スティーブンは“賢者”でした」
「……覚えてないわね。それで?」
「実はスティーブンは魔界で唯一、人間が統治するノラン王国の出身で、旧・魔王軍の脅威に対抗する為に人間界に来てたんですよ。そこで、自分と会ったと」
「おおかた、私がここを統治するようになって脅威も無くなったので、実家に戻って王子やってるってとこね」
「ま、そんなところです」
実際に来たのは使者であって、本人ではない。では使者が何の用件で派遣されたのかというと、
「えっ、あいつ結婚すんの!?」
思わず軽い口調になってしまった春明。
「はい。殿下は予てより、隣国のオーランド王国のゼルダ王女様と婚約を交わされておりまして、是非ともアベ首相閣下とルーシー陛下に御臨席賜りたいと……」
「オーランド王国ね……。ミズ・ゼルダは、あるゲームで有名な名前よね」
ルーシーはキーボードを叩いた。もっとも、ゼルダという名前はスティーブンと同じく、英語圏の国の女性の名前として実在するのだが。
「!?」
「スティーブンは元気にやってますか?」
「はい、おかげ様で。アベ閣下の政治的辣腕に対し、大いなる賛辞を送られてございます」
「ははっ、照れるなぁ……」
「……ねぇ、ちょっと」
「ん?」
ルーシーは春明の袖を引っ張り、PCの画面を見せた。そして、ヒソヒソと小声で耳打ちする。
「この結婚、大丈夫なの?祝儀じゃなくて、香典持ってった方が良くない?」
「何言ってんだよ、失礼な」
というやり取りがあったのが半年前。
実はその後、春明もノラン王国とオーランド王国を比較してみて眉を潜めた。前者はなかなかの善政で、国民の王室に対する支持率も高い。是非とも、春明達のアルカディア王国も見習いたいくらいだ。
それに対し、隣国のオーランド王国は圧政で悪評だった。国王ガリバルディ3世とその娘の親子による民衆への暴政が異世界通信社からも報道されている。
その娘こそが、スティーブンの結婚相手とされるゼルダ王女であった。見た目は確かに美しい。だが、悪政を振るう父王の元、箱入りに育った姫はそれが当たり前のようになっているようだ。
既に罪無き罪人が今月に入ってから、何十人もギロチンに掛けられているらしい。
「何だか心配だなぁ……」
「塩まいた方がいいかもね」
などという会話をしていた春明とルーシー。
「どうする?出席辞退する?御祝儀でイチャモンつけられたら、バカ臭いぞ?」
「そうねぇ……」
と、そこへ、
「ご休憩中のところ、失礼致します」
共和党の横田理事が入って来た。何とか許してもらい、釈放されていた。
ルーシー自身が民主党タカ派に裏切られて、自分がギロチンに掛けられそうになっていたので、皮肉にもそれが、決して私情で死刑を言い渡さないことで評判になっていた。
因みに王室内での横田理事の立場は副侍従長である。
「どうした?」
「ノラン王国より緊急の伝書鳩でございます。あいにくと、私の愛鳥フローレンスには劣るようですが……」
「内容は?」
さらっと最後のコメントをスルーする春明。
「まもなく結婚式ではありますが、あいにくとアルカディア王国の臨席をお断りしたいとのことです」
「What!?」
「何か、嫌な予感がする……」
「理由については今は話せないが、後日必ず説明させて頂くので、くれぐれもお気を悪くされぬよう宜しく……と」
「春明!」
「スティーブンのヤツ、もしかして……!」
春明の予感は当たった。結婚式当日、異世界通信社が号外をアルカディアシティのあちこちにばら撒いた。そこには、こう書いてあった。
『オーランド王国、王室に血の大豪雨!』『首謀者はまさかのノラン王国、スティーブン王子!?』『ガリバルディ3世、スティーブン王子の剣により死亡!』
「やりやがったな、あいつ……」