夕方のニュースでもやっていたが、上中里駅付近で行われた不発弾処理は無事に終了したようだ。
私は福島県郡山市内のホテルに1泊した後、東北新幹線“なすの”272号に乗ったが、久しぶりに行き先表示に『大宮』という文字を見た。前に見たのは……何年か前に夏休みで増発された臨時列車ではなかっただろうか。それだけ珍しいということだ。
爆弾を埋めた当時の日本兵は恐らくもうこの世にいないと思われるが、もし埋めた記憶のある方は申し出てもらいたい。子々孫々の世代に渡って、迷惑な遺物だ。
もし仮に子孫繁栄を望んでいるのなら、
「ワシゃ、墓場まで持って行くぞ」
などと言わずに。
結局、墓場まで持って行きやがったな、うちの祖父さん。
元砲兵であるからして、ややもすると終戦のドサグサに紛れて、日本のどこかに爆弾埋めやがった恐れがあるんだ。
ったく、こんな罰ゲーム、子孫に残しよってからに……。だから私は顕正会時代から勤行の際、回向だけワザと省略している。塔婆供養もする気はない。
ああ、分かっている。それは良くないと、顕正会時代にも殊勝な上長に諭されたこともある。でもねぇ、自分が納得しないことはやりたくないのもまた事実なのだよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“新人魔王の奮闘記”より。
「……はあっ!……はぁ……はぁ……」
ルーシーは飛び起きた。何やら、嫌な夢を見たようである。
(ま、またこの夢……!Why……!?)
魔王城の謁見の間……。
「ルーシー・ブラッドプール1世陛下のおなーりー!」
春明が大声で宣言する。
観音開きのドアが開けられ、ルーシーが悠然と入ってくる。
人間と違うのはその際、わざと数㎝宙に浮いて滑るように入ってくること。実はこのアイディアは春明のものである。
「ん?」
しかし今日のルーシーは、普通に歩いてきた。で、ヴァンパイアが出自のルーシーは普段から肌が白い。しかし今日は、より蒼白くなっていた。
「……じゃ、謁見開始ね」
「ちょ、ちょっと待った!」
春明がまるで、サッカーの試合の審判が『タイム』をやる時みたいなポーズを取った。
「ルーシー……陛下!心なしか、お体の具合が優れぬようにお見受けしますが?」
「ちょっと寝不足なだけ。早く、呼んでちょうだい」
「しかし……」
ルーシーはPCのキーボードを叩いた。だが、画面が明るくならない。
「What!?ちょっと!立ち上がってないじゃない!?」
ルーシーのこめかみにビキッと怒筋が浮かんだ。
「も、申し訳ございません!」
別の大臣が慌ててPCの電源を入れた。
(おかしいな。そういう時は自分で電源を入れるのに……)
春明は不審な顔をした。
(本当に寝不足なだけか???)
結局その日、ルーシーの機嫌が良くなることはなかった。暴君ではないのは、それだけで誰かを処刑しようとかそういうことはしなかったことだ。
いや、やろうと思えばできるくらいの権力は与えられてはいる。
「うう……!」
ルーシーは執務室で明らかにイライラしていた。
(女性特有のアレか?でもそういう時は事前に俺に言って、自分から休むのに……)
春明は首を傾げた。
「ねえ、ルーシー。何か嫌なことでもあったの?俺で良かったら聞くよ?」
するとルーシーは赤く染まった目を春明に向けて言った。
「アンタ以外、言える人間はいないじゃないの」
「それもそうか。で、何かあったの?」
「最近、眠れないのは本当よ」
「あ、そうなの。本当に。でも今更、昼夜逆転のハンデが来たとは思えないけど……」
「それは違うと思う。嫌な夢を見て、すぐに起こされるから……」
「何の夢?」
「笑わない?」
「笑わない……と思う」
「じゃ、言わない」
「分かった!笑わないから!」
「……反乱を起こされて、ギロチンで首を刎ねられる夢」
「はあ!?」
「……笑わなかったね。笑ってたら、死刑にしてやるところだったわ」
「いや、笑う……話じゃないだろ。何で?」
「そんなの知らないよ!」
「俺、ヒマさえあれば城下に出てるの知ってるでしょ?」
「うん……」
「もし仮に国民の不満が鬱積していて、今にも反乱が起こりそうな気配だったら、とっくに俺が野ざらしの死体になってるはずさ」
「……うん。春明は嘘ついてないね」
「当たり前だろ」
「『革命』というのは、国民側の単語だから」
「ん?」
「為政者側だと、『反乱』だから。春明、『反乱』と言っていたから、春明は裏切らないね」
「当たり前だろうが!」
そう言いつつも、春明は冷や汗をかき始めてきているのを感じた。
もし仮に『革命』と言っていたら、恐らくルーシーの青い瞳が赤く光り、近衛兵に命じて、春明ですら地下牢にブチ込むくらいのことはしたかもしれない。
「とにかくここは魔界だからね、テロのやり方なんて人間界以上にある。もしかしたら、これも何らかのテロの形かもしれない。すぐに調査を開始する。それまでの間、公務はキャンセルしよう。何だったら、睡眠薬を用意するよ」
「……いい。寝たくない。寝たらまた、あの夢を見るから……」
「そ、そう?……あ、そうだ。疲れた時は甘いものがいい。ちょうど貢物に、カステラがあったんだ。夜食にそれでも食べよう」
「カステラで良かった」
「そう?」
「ブリオッシュなんか出したら、死刑にしてやるところだったわ」
「へ!?……はっ!」
その時春明は、先日一緒に観劇したミュージカル“悪ノ娘と召使”を思い出した。
革命を起こされた暴君王女の好物がブリオッシュだった……はずだ。
「な、何言ってるんだ、ハハハハ……。じゃ今、持ってくるから、待っててね」
春明は苦笑いして、執務室を出た。そして、外に控えている近衛兵に言った。
「大至急、陛下の悪夢について調査してくれ!俺の身が持たん!」
「は、ははっ!かしこまりました!」
私は福島県郡山市内のホテルに1泊した後、東北新幹線“なすの”272号に乗ったが、久しぶりに行き先表示に『大宮』という文字を見た。前に見たのは……何年か前に夏休みで増発された臨時列車ではなかっただろうか。それだけ珍しいということだ。
爆弾を埋めた当時の日本兵は恐らくもうこの世にいないと思われるが、もし埋めた記憶のある方は申し出てもらいたい。子々孫々の世代に渡って、迷惑な遺物だ。
もし仮に子孫繁栄を望んでいるのなら、
「ワシゃ、墓場まで持って行くぞ」
などと言わずに。
結局、墓場まで持って行きやがったな、うちの祖父さん。
ったく、こんな罰ゲーム、子孫に残しよってからに……。だから私は顕正会時代から勤行の際、回向だけワザと省略している。塔婆供養もする気はない。
ああ、分かっている。それは良くないと、顕正会時代にも殊勝な上長に諭されたこともある。でもねぇ、自分が納得しないことはやりたくないのもまた事実なのだよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“新人魔王の奮闘記”より。
「……はあっ!……はぁ……はぁ……」
ルーシーは飛び起きた。何やら、嫌な夢を見たようである。
(ま、またこの夢……!Why……!?)
魔王城の謁見の間……。
「ルーシー・ブラッドプール1世陛下のおなーりー!」
春明が大声で宣言する。
観音開きのドアが開けられ、ルーシーが悠然と入ってくる。
人間と違うのはその際、わざと数㎝宙に浮いて滑るように入ってくること。実はこのアイディアは春明のものである。
「ん?」
しかし今日のルーシーは、普通に歩いてきた。で、ヴァンパイアが出自のルーシーは普段から肌が白い。しかし今日は、より蒼白くなっていた。
「……じゃ、謁見開始ね」
「ちょ、ちょっと待った!」
春明がまるで、サッカーの試合の審判が『タイム』をやる時みたいなポーズを取った。
「ルーシー……陛下!心なしか、お体の具合が優れぬようにお見受けしますが?」
「ちょっと寝不足なだけ。早く、呼んでちょうだい」
「しかし……」
ルーシーはPCのキーボードを叩いた。だが、画面が明るくならない。
「What!?ちょっと!立ち上がってないじゃない!?」
ルーシーのこめかみにビキッと怒筋が浮かんだ。
「も、申し訳ございません!」
別の大臣が慌ててPCの電源を入れた。
(おかしいな。そういう時は自分で電源を入れるのに……)
春明は不審な顔をした。
(本当に寝不足なだけか???)
結局その日、ルーシーの機嫌が良くなることはなかった。暴君ではないのは、それだけで誰かを処刑しようとかそういうことはしなかったことだ。
いや、やろうと思えばできるくらいの権力は与えられてはいる。
「うう……!」
ルーシーは執務室で明らかにイライラしていた。
(女性特有のアレか?でもそういう時は事前に俺に言って、自分から休むのに……)
春明は首を傾げた。
「ねえ、ルーシー。何か嫌なことでもあったの?俺で良かったら聞くよ?」
するとルーシーは赤く染まった目を春明に向けて言った。
「アンタ以外、言える人間はいないじゃないの」
「それもそうか。で、何かあったの?」
「最近、眠れないのは本当よ」
「あ、そうなの。本当に。でも今更、昼夜逆転のハンデが来たとは思えないけど……」
「それは違うと思う。嫌な夢を見て、すぐに起こされるから……」
「何の夢?」
「笑わない?」
「笑わない……と思う」
「じゃ、言わない」
「分かった!笑わないから!」
「……反乱を起こされて、ギロチンで首を刎ねられる夢」
「はあ!?」
「……笑わなかったね。笑ってたら、死刑にしてやるところだったわ」
「いや、笑う……話じゃないだろ。何で?」
「そんなの知らないよ!」
「俺、ヒマさえあれば城下に出てるの知ってるでしょ?」
「うん……」
「もし仮に国民の不満が鬱積していて、今にも反乱が起こりそうな気配だったら、とっくに俺が野ざらしの死体になってるはずさ」
「……うん。春明は嘘ついてないね」
「当たり前だろ」
「『革命』というのは、国民側の単語だから」
「ん?」
「為政者側だと、『反乱』だから。春明、『反乱』と言っていたから、春明は裏切らないね」
「当たり前だろうが!」
そう言いつつも、春明は冷や汗をかき始めてきているのを感じた。
もし仮に『革命』と言っていたら、恐らくルーシーの青い瞳が赤く光り、近衛兵に命じて、春明ですら地下牢にブチ込むくらいのことはしたかもしれない。
「とにかくここは魔界だからね、テロのやり方なんて人間界以上にある。もしかしたら、これも何らかのテロの形かもしれない。すぐに調査を開始する。それまでの間、公務はキャンセルしよう。何だったら、睡眠薬を用意するよ」
「……いい。寝たくない。寝たらまた、あの夢を見るから……」
「そ、そう?……あ、そうだ。疲れた時は甘いものがいい。ちょうど貢物に、カステラがあったんだ。夜食にそれでも食べよう」
「カステラで良かった」
「そう?」
「ブリオッシュなんか出したら、死刑にしてやるところだったわ」
「へ!?……はっ!」
その時春明は、先日一緒に観劇したミュージカル“悪ノ娘と召使”を思い出した。
革命を起こされた暴君王女の好物がブリオッシュだった……はずだ。
「な、何言ってるんだ、ハハハハ……。じゃ今、持ってくるから、待っててね」
春明は苦笑いして、執務室を出た。そして、外に控えている近衛兵に言った。
「大至急、陛下の悪夢について調査してくれ!俺の身が持たん!」
「は、ははっ!かしこまりました!」