初音ミクはネギが好きだ。あいにくと、私は嫌いだ。
先輩Tは初めて乗った野田線で、早々と60000系に乗れたそうだ。しかし、8000系に乗ったことはない。
友人Tは高速バスで日野・新型セレガによく乗ることがあるが、三菱ふそう・新型エアロに1度も乗り合わせていない。私は新型エアロばっかりで、正直飽きている。
友人Nは学会員の熱心な折伏に悩まされている。私は法華講員の熱心な折伏に悩まされた。
友人Sは日・祝しか休めない仕事のために、平日私事が頻発すると困る。私は日・祝休めない仕事のために、休日私事があると困る。
同志Hは絵が上手いが、文章を書くのが苦手だ。私は絵を描くのは苦手だが、文章を書くのが好きだ。
同志Kは曲を作るのが好きだが、作詞が苦手だ。私は作詞もできるが、曲作りはできない。
でも皆、ボーカロイドが好きだ。
嗚呼、人間模様。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“ボーカロイドマスター”より。更に続き。
南里の緊急手術が行われた。
後で駆けつける敷島達。
「先生の具合はどうだ!?」
「今、手術が行われています」
ルカは俯き加減に、平賀の質問に応えた。
「院長先生が、全力を尽くしてくれるそうですが……」
「この病院の院長先生と、南里先生は旧友だからな。……くそっ!何でこんなことに……!」
平賀は拳を壁に叩きつけた。
「ちょっと失礼します」
敷島はケータイ片手に、通話可能場所まで移動した。
「ルカ、経緯を説明してくれないか?ここ1年、先生の体調は良かったはず。それが急に心臓発作なんて……」
「そ、それは……」
ルカは敷島が立ち去った方向を見た。
「敷島さんが・原因です」
「え、エミリー!」
「なに?どういうことだ?」
「ええ。どうやら、事態は深刻のようです」
敷島はケータイで、大日本電機本社の上司と通話していた。
「手術成功の是非を問わず、プロジェクトを推進するなら今のうちです。今なら本人も口出しができないでしょう。大丈夫です。エミリーは他のボカロ達と違って、南里所長が私有しているものです。また、彼は天涯孤独で財産を相続する遺族もいない。我が社でエミリーを手に入れることは可能です。そうすれば、量産化プロジェクトを進めることができるかと。……ええ。既にそのプランは立っています。……ありがとうございます。それではまたご連絡します。……ええ。手術後にでも。失礼します」
ピッと電話を切る。その時、気配を感じた。
「あっ、平賀先生?すいません。本社から着信があって……ははは……。手術、成功するといいですね」
「敷島さん……。自分はどうやら、敷島さんという人間を見誤っていたようだ……!」
「な、何がです?」
「あんたは先生の財産を乗っ取る気か!?」
「財産乗っ取りなんて、人聞きが悪い。私はただ最悪の事態を想定して、これから取るべき行動を……」
「主人公が悪役だったなんて、普通のラノベにすら無い話ですね!」
「何の話ですか?」
「敷島さん。私は・ドクター南里が・亡くなられたら・完全機能停止する・システムが・組み込まれて・います。メモリーも・何もかも・消去されます」
「な、何だって?……あ、いや、それでもいいさ。設計図と元となるボディが手に入ればな」
「やっぱりそうだったか!本音が出たな!」
「プロデューサー。冗談ですよね?」
ルカが懇願するような顔をした。
「アイドル活動が重点過ぎたせいでボカロの量産化は遅延したが、エミリーのようなターミネーチャンが量産化できればいいことになったんだ!」
「ミクが悲しみます!」
「ああ、ミクね。残念だったな。大日本電機でイチオシだったのに。せめてミクだけでも、先に量産化したかったけどな。それも妨害したジジィが悪い」
「先生は妨害なんかしてない!強過ぎる商業主義に警鐘を鳴らしただけだ!」
「平賀先生、私は大日本電機からの出向社員ですよ?商業主義なのは当たり前でしょう?」
そこへ、院長が走ってきた。
「ここにいましたか!」
「院長先生、南里先生は!?」
「全力を尽くしましたが、残念ながら……」
「そ、そんな……!」
「!!!」
「プロデューサー!?何してるんです!?」
ルカが叫んだ。敷島はエミリーの口の中に何かねじ込んだ。
「舌は噛ませんぞ!今からお前は大日本電機の所有だ!こっちへ来い!」
「なっ……!?そんなことまで知ってたのか!?」
「平賀先生も人が悪い。エミリーが自分自身で完全に機能停止すること、メモリーも何もかも消去する為には“舌を噛み切る”のが起動スイッチだったことを教えてくれないんですから」
「誰がそんなこと教えられるか!いい加減にしろ!ルカ、こいつを引き離せ!……ルカ、何やってる!?」
「もう……何もかもダメね……」
「泣いてないで、何とかしろ!」
「……ん?」
その時、敷島の動きが止まった。
「これは……?」
平賀も気づいた。どこからか歌声が聞こえる。
「これは、ミクの声?」
ルカがそれに気づいた。
「どうしてだ?研究所にいるはずなのに……」
敷島の耳に聞こえてきたのは、ミクが初めて敷島の前で聞かせた歌。
「お、おい!ミクはどこにいる!?やめさせろ!」
「敷島さん!?」
平賀は敷島の様子がおかしいことに気づいた。
ルカは意を決して、ミクの歌に合わせて自分も歌い出した。いつの間にか、リンやレン、MEIKOやKAITOの声も聞こえてくる。
「うっ!」
振り払ったエミリーが、敷島の後頭部に衝撃を与えて気絶させた。
「エミリー!?」
エミリーは詰め物を取り出した。
「ご安心ください。今すぐには・起動しません。ドクター南里の・遺言が・ありますので」
エミリーは倒した敷島を抱え起こすと、静かにそう言った。
「遺言?」
先輩Tは初めて乗った野田線で、早々と60000系に乗れたそうだ。しかし、8000系に乗ったことはない。
友人Tは高速バスで日野・新型セレガによく乗ることがあるが、三菱ふそう・新型エアロに1度も乗り合わせていない。私は新型エアロばっかりで、正直飽きている。
友人Nは学会員の熱心な折伏に悩まされている。私は法華講員の熱心な折伏に悩まされた。
友人Sは日・祝しか休めない仕事のために、平日私事が頻発すると困る。私は日・祝休めない仕事のために、休日私事があると困る。
同志Hは絵が上手いが、文章を書くのが苦手だ。私は絵を描くのは苦手だが、文章を書くのが好きだ。
同志Kは曲を作るのが好きだが、作詞が苦手だ。私は作詞もできるが、曲作りはできない。
でも皆、ボーカロイドが好きだ。
嗚呼、人間模様。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
“ボーカロイドマスター”より。更に続き。
南里の緊急手術が行われた。
後で駆けつける敷島達。
「先生の具合はどうだ!?」
「今、手術が行われています」
ルカは俯き加減に、平賀の質問に応えた。
「院長先生が、全力を尽くしてくれるそうですが……」
「この病院の院長先生と、南里先生は旧友だからな。……くそっ!何でこんなことに……!」
平賀は拳を壁に叩きつけた。
「ちょっと失礼します」
敷島はケータイ片手に、通話可能場所まで移動した。
「ルカ、経緯を説明してくれないか?ここ1年、先生の体調は良かったはず。それが急に心臓発作なんて……」
「そ、それは……」
ルカは敷島が立ち去った方向を見た。
「敷島さんが・原因です」
「え、エミリー!」
「なに?どういうことだ?」
「ええ。どうやら、事態は深刻のようです」
敷島はケータイで、大日本電機本社の上司と通話していた。
「手術成功の是非を問わず、プロジェクトを推進するなら今のうちです。今なら本人も口出しができないでしょう。大丈夫です。エミリーは他のボカロ達と違って、南里所長が私有しているものです。また、彼は天涯孤独で財産を相続する遺族もいない。我が社でエミリーを手に入れることは可能です。そうすれば、量産化プロジェクトを進めることができるかと。……ええ。既にそのプランは立っています。……ありがとうございます。それではまたご連絡します。……ええ。手術後にでも。失礼します」
ピッと電話を切る。その時、気配を感じた。
「あっ、平賀先生?すいません。本社から着信があって……ははは……。手術、成功するといいですね」
「敷島さん……。自分はどうやら、敷島さんという人間を見誤っていたようだ……!」
「な、何がです?」
「あんたは先生の財産を乗っ取る気か!?」
「財産乗っ取りなんて、人聞きが悪い。私はただ最悪の事態を想定して、これから取るべき行動を……」
「主人公が悪役だったなんて、普通のラノベにすら無い話ですね!」
「何の話ですか?」
「敷島さん。私は・ドクター南里が・亡くなられたら・完全機能停止する・システムが・組み込まれて・います。メモリーも・何もかも・消去されます」
「な、何だって?……あ、いや、それでもいいさ。設計図と元となるボディが手に入ればな」
「やっぱりそうだったか!本音が出たな!」
「プロデューサー。冗談ですよね?」
ルカが懇願するような顔をした。
「アイドル活動が重点過ぎたせいでボカロの量産化は遅延したが、エミリーのようなターミネーチャンが量産化できればいいことになったんだ!」
「ミクが悲しみます!」
「ああ、ミクね。残念だったな。大日本電機でイチオシだったのに。せめてミクだけでも、先に量産化したかったけどな。それも妨害したジジィが悪い」
「先生は妨害なんかしてない!強過ぎる商業主義に警鐘を鳴らしただけだ!」
「平賀先生、私は大日本電機からの出向社員ですよ?商業主義なのは当たり前でしょう?」
そこへ、院長が走ってきた。
「ここにいましたか!」
「院長先生、南里先生は!?」
「全力を尽くしましたが、残念ながら……」
「そ、そんな……!」
「!!!」
「プロデューサー!?何してるんです!?」
ルカが叫んだ。敷島はエミリーの口の中に何かねじ込んだ。
「舌は噛ませんぞ!今からお前は大日本電機の所有だ!こっちへ来い!」
「なっ……!?そんなことまで知ってたのか!?」
「平賀先生も人が悪い。エミリーが自分自身で完全に機能停止すること、メモリーも何もかも消去する為には“舌を噛み切る”のが起動スイッチだったことを教えてくれないんですから」
「誰がそんなこと教えられるか!いい加減にしろ!ルカ、こいつを引き離せ!……ルカ、何やってる!?」
「もう……何もかもダメね……」
「泣いてないで、何とかしろ!」
「……ん?」
その時、敷島の動きが止まった。
「これは……?」
平賀も気づいた。どこからか歌声が聞こえる。
「これは、ミクの声?」
ルカがそれに気づいた。
「どうしてだ?研究所にいるはずなのに……」
敷島の耳に聞こえてきたのは、ミクが初めて敷島の前で聞かせた歌。
「お、おい!ミクはどこにいる!?やめさせろ!」
「敷島さん!?」
平賀は敷島の様子がおかしいことに気づいた。
ルカは意を決して、ミクの歌に合わせて自分も歌い出した。いつの間にか、リンやレン、MEIKOやKAITOの声も聞こえてくる。
「うっ!」
振り払ったエミリーが、敷島の後頭部に衝撃を与えて気絶させた。
「エミリー!?」
エミリーは詰め物を取り出した。
「ご安心ください。今すぐには・起動しません。ドクター南里の・遺言が・ありますので」
エミリーは倒した敷島を抱え起こすと、静かにそう言った。
「遺言?」