報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「主人公不在の中で」

2014-11-28 02:24:10 | アンドロイドマスターシリーズ
[11月28日13:00.福島県福島市 福島赤十字病院 敷島孝夫、アリス・シキシマ、シンディ]

 敷島が重傷を負って、3週間以上の時が過ぎた。
 入院時は自力で起き上がることさえ不可能だったが、今では車椅子での移動が可能になっている。
「ここまで来たら、とっとと退院したいな」
 と、敷島。
「まだでしょ。外出許可が出るまで、あと数日。そしたら、仙台の病院に転院させるわよ」
 アリスが敷島の言葉に呆れた顔をした。
「それより、財団の方は大丈夫なのか?何か……ぼんやり聞いたんだけど、平賀先生が財団を辞めるとか……」
「学会とは別だからね、あの組織。研究者だからといって、全員が財団に所属してるとは限らないわ」
「まあ、それはそうだけど……」
「平賀博士は、気づいたわけよ」
「気づいた?」
「財団の存続理由が、あやふやだってこと」
「まあ、確かに『自分の研究内容が正しい』と主張する学会では、迫りくるロボット・テロに対抗できない。利害を超えて、一致団結してそれに立ち向かおうって話だもんな」
 そして、それが設立されるきっかけとなったのは、ドクター・ウィリーである。
 しかし世界的なマッド・サイエンティストは死亡し、その孫娘たるアリスも脅威では無くなった。
 あとは散発するテロくらいだが、わざわざ財団が出張って陣頭指揮を執るまでもない小規模なものばかりだ。
「別に解散したっていいわけだ。まあ、俺達はボカロで稼げるからいいけどさ」
「そうね」

[同日同時刻 東京都西部某所・スクラップ工場 平賀太一]

「……うん、やっぱりそうだ」
 平賀は約5年以上前の入退館記録簿を見ていた。
 工場の入口には守衛所があり、そこで来場者は入退館記録簿に名前や来場目的を記載することになっている。
 平賀が見つけたのは、まずは敷島の名前。
 目的は端的に書かれているが、まあ、シンディ(前期型)の『処刑執行』の立会いである。
 他1名とあるのは、エミリーを同行させたので、敷島はエミリーも頭数に入れたというのは容易に想像できた。
 平賀が予想通りだとしたのは、その日のうちに別の来場者がいたこと。
 目的はシンディの処刑執行確認とあるが、敷島に立会いをさせ、そこまでさせたというのに、何故改めて行う必要があったのかだ。
 敷島の報告内容に不備があったというのなら、それは後日になるはずだ。
 敷島達が退場した1時間後に来場している。
「この人がシンディから何か持ち出したりしましたか?」
 平賀が立会いをしている総務課長に聞いた。
「申し訳ありませんが、何ぶん、何年も前のことなので……」
 総務課長は頭をかいた。
 この入退館記録簿でさえ、本来なら外部の人間に見せるものではない。
 が、平賀の地道な努力の結果、調査に漕ぎつけることができたのである。
(もしもこの時、シンディに残されたデータなどが回収されたとしたら……。後期型のシンディの稼働は賛成してるくせに、前期型のこいつは先陣を切って処分しようとしていた……。今にして思えば、随分と怪しい話だ)
「あ、あの……」
 その時、総務課長と一緒に立会いをしている警備班長が手を挙げた。
「実はあの時、この方の受付をしたのは私なんです」
「それで?」
「同じく敷島さんのお名前を指差しながら、『この人は何か持ち出したか?』と聞かれました」
 平賀が今しがた総務課長に同じ質問をしたので、思い出したという。
 覚えている理由としては、この班長がまだ新人だった頃でインパクトが強かったこと、交替したばかりだったので、急いで警備本部に問い合わせたので、記憶に残っているという。
「敷島さんは、とある部品を持ち出しました。それを聞いて、どういう反応をしましたか?」
「『どんな部品か?』とか、『それは有り得ない』とかでした」
 敷島は律義に、シンディの胸の中から出て来た鍵を持ち出して良いか担当者に確認していた。
 鍵はウィリーが内緒で仕掛けていたものだから、この問い合わせ者も俄かには信じられなかっただろう。
「……分かりました」

[同日同時刻 東京都墨田区菊川 2DKマンション 十条伝助&キール・ブルー]

「失礼します。博士、食後のお茶をお持ちしました」
 キールが執事ロボットらしく、恭しい態度で紅茶を運んできた。
「うむ……」
「大丈夫ですか、博士?」
「何がだ?」
「顔色が少々優れぬようです」
「なに、心配無い。今日は……天気もあまり良くないみたいじゃの」
「ええ。確かに夕方より雨の恐れがあるようで、所によっては一時的に強く降るとのことです」
「それは夜の話かな?」
「さようでございます」
「あの時と同じじゃな」
「は?」
 十条は紅茶を口に運んだ。
「汝、一切の望みを捨てよ……」

[同日14:00.福島県福島市 東北自動車道下り線 アリス&シンディ(後期型)]

 アリスは敷島の見舞いが終わった後、研究所に戻るべく、車を走らせていた。
「ん?着信?」
 アリスのケータイが鳴る。
 モニターの発信元を見ると、平賀になっていた。
 アリスはすぐにインカムを装着する。
「何か用?」
{「ああ、これはこれは……。今、外部に音が洩れないようにしてるかな?」}
「一応ね」
{「件の人物だが、やっぱりウィリーと何かあったみたいだ。過去のことを考えると、色々と不自然なこともあるしな」}
「不自然?」
{「確かに前期のシンディは許し難い罪を重ねて来た。廃棄処分にするのは当然だ。だけど、後期タイプのそれの稼働に賛成している理由が不明だ」}
 アリスはちらっと助手席に座るシンディを見た。
「今のボディは何の罪も無いから、でしょ?」
{「ボディが云々というのなら、エミリーにも処分命令が来たっていいんだ。ボディの予備なら、いつでも複製可能だしな」}
 平賀は南里からエミリーを相続した時、その命令が財団から来るのではないかと思っていた。
 しかし、重鎮の1人がその心配は無いと言ったのだ。
 もはやマルチタイプが当時はエミリーしかおらず、学術的な価値があるという表向きの理由で……。
 それなのに、同じ理由で前期タイプのシンディを保管しようという理事の意見を封殺し、半ば強引に処分へと持って行った。
{「それとアリス。キミのお祖父さんが死んだ日の、彼の動きは知っているか?」}
「そんなの知らないよ。日本にいたことさえ知らなかったんだから」
{「そうか……」}
「シンディのメモリーには入っていたかもしれないけど、それだって処分されたりしたんだからね」
{「……だよなぁ」}
「まあ、私も心当たりを探してはみるけどね」
{「あるのか?」}
「じー様は何か大事なことがあった時、すぐビデオレターを残すクセがあったからね」
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作品も一段落したので、ここで普通の日記をお送りします。

2014-11-26 20:29:34 | 日記
 またもや中途半端な終わり方をしてスマソです。
 作者自身が御本尊不敬していると疑われてもおかしくない内容ですな。
 というわけで、私に御本尊下附はまだまだ早いよ。
 幸い私の所属寺院は、自分が御本尊をお預かりできる信心を持つことができたという自己判断のもと、御本尊下附願を提出することになっている。
 そして下っ端信徒までは監視の目が行き届いていないから、誰が内得信仰者か否かまでも、いちいち調べたり聞き取らなければ分からない状態だ。
 実に気が楽である。

 元顕では知らぬ者はいないトチロ〜さんが、当ブログにお越しになった。
 漂流中のあっつぁブログの裏話を少し紹介して下さったので、改めてゴースト・シップに乗り込んでみた。
 バイオハザード・リベレーションズみたいにクリーチャーと遭遇することはなかったし、誰かが「メーデー、メーデー」と叫んでいるわけでもなかったが、私があそこを追い出されるきっかけとなったスレを見ると、確かに不思議な現象が起きていたのが分かる。
 私の過ぎたおフザけで苦情が来たタイミング、ユージさんが現れたタイミング、ユージさんとトチロ〜さんのやり取りの内容。
 どれを取っても不自然なのである。

 あっつぁブログ創始者である、あっつぁ氏はどこへ消えた?

 何故、あっつぁ氏ではなく、ユージ氏が現れた?

 トチロ〜さんにブチギレ論戦している割に、絵文字を使っていたのは何故だ?
 本当に怒り心頭なら、絵文字を使う余裕は無いはずだ。

 私が苦情を受けるきっかけとなった参詣新聞、もちろんネーミングは私の愛読紙である産経新聞からだ。
 では、亜茶日新聞(朝日新聞)ならクレームは来なかったのか。
 最後にクレームを受けた参詣新聞の記事は何であったか?
 北朝鮮と浅井会長を結び付けたものではなかったか。
 在日朝鮮人の考えは分からないが、これが癪に障ったのではないか。
 そして、最後に1つ。
 ユージさんがトチロ〜さんに発したセリフ、

『ユタさんに対する厳しいコメントも、IDみりゃトチロ~さんの周りのやつじゃね~か』

 とのことだが、どうしてIDだけでトチロ〜さんの周囲の者なのだと分かったか。

 あ、更にもっと最大の理由。

 法華講員達に失望して逃げ出したのなら、どうして大型船であるブログを放置したか。
 船長たる管理者には、自爆装置のスイッチを起動させる権限がある。
 つまり、ブログ自体の閉鎖だな。

 全ての真相が明らかになるまで放置するおつもりか、はたまた醜い元顕法華講員の所業を知らしめる為の見せしめか。

 そういえば、うちの多摩準急先生にも噛み付いたヤツがいたな。
 無宗教者に噛み付いたところで、どうにかなるわけでもないのにね。
 無宗教者こそ、本来は丁重に扱うべきだ。
 それすら仏敵視するから、湘南坊遺氏みたいな人間が現れる。
 それとも……そうでなければ困るのかな?

 無宗教者を丁重に扱う必要があるのか?

 あると思う。理由は法道院で今月23日に行われた青年部大会。
 無宗教からの入信者が登壇していた。
 紹介者の態度を信用して、お寺に足を運んだそうだ。
 それと比べてあっつぁブログのリスナーはどうだ?
 無宗教者がお寺に足を運びたくなるか。ならないと思う。
 当時、無宗教だった私はならなかった。だから私は、あっつぁブログリスナーではない人の紹介で今のお寺に勧誡した。
 見事に私の紹介者は元学会員だよ。
 顕正会のことは知らないから、逆にこっちは自由だ。
 で、こっちも学会のことは知らないから、結構都合がいい。

 あっつぁブログリスナーの、それも「名無しのリスナー」の皆様方には都合の悪い者が舞い戻って来たけども、
「同心の徒を謗るは重罪」
 であることをお忘れなく。
コメント (17)
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“ユタと愉快な仲間たち” 「西方魔道抄」

2014-11-26 16:48:46 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月24日14:00.東京都江東区森下 ワンスター・ホテル マリアンナ・スカーレット、イリーナ・レヴィア・ブリジッド、エレーナ・マーロン]

「あっ、イリーナ……先生」
 フロントにいたエレーナは、入ってきた客がイリーナとマリアだと知って目を丸くした。
「こんにちは。部屋空いてるかしら?」
「冗談でしょう?別の用件で来たんじゃないですか?」
「マリアの捜査に付き合ってもらって、ありがとね」
「上層部が絡んでるなら、嫌とは言えないっス」
「この件に関して、ポーリンから何かあった?」
「『イリーナ先生に、十分気をつけろ』です」
「相変わらずだな」
 マリアは鼻を鳴らした。
 しかしイリーナは目を細くして頷いた。
「うんうん。さすが、アタシより魔道師歴が長いだけのことはあるわー」
「はあ?」
「魔界側の監視体制が疎かになっているせいで、向こうの魔法使いが人間界に入り込みやすくなってるから、エレーナも気をつけてね」
「ええ、分かってますよ。でも、もう新たには入ってこないんじゃないスか?」
「『鈴木』が死んだからだな」
 と、マリア。
「冥鉄上層部も混乱してるみたいだからねぇ……」
 イリーナとマリアはホテルを出た。
 ここから藤谷の会社は近い。
「『鈴木』が冥鉄役員の地位を悪用して、向こうの魔法使いを人間界に不正に呼び寄せたのは分かりました」
 マリアはイリーナに言った。
「しかし、いくら役員とはいえ、本人が勝手にできるものなんですか?」
「ええ、そこよ。きっと、彼を唆したり、或いは脅したりしたヤツがいるはずよ。恐らくそれは魔界側にいるだろうから、こちら側にいては捜査不能だと思う」
 威吹達が見たSL列車は、魔界側から不正に人間界に入境した魔法使い達が乗っていたと思われる。
 一部の者にしか知り得ないことではあるが、『邪悪なる者を退治する』名目で魔界の最深部に向かった大魔王バァル。
 それが戻って来るまで数百年掛かるとの話だったが、何故かそれが今年末になるという変な噂が政府高官や魔道師達の間に流れている。
 魔王軍の急激な軍拡も、それに備えたものであると……。
 その混乱に乗じて、少なからず人間界に危害を加えようとする者もいる。
「魔界に行くんですか?」
「今はまだ早いわ。まずは、ユウタ君のケガが治ってから」
「師匠の魔法……いや、私の魔法で一気に治してあげたいくらいです」
「まあ、もう入院しちゃってるからねぇ……。魔法なんか使ったら、大騒ぎになるわ。大丈夫。バァルが戻って来るとされるまで、あと1ヶ月ある。ただのデマで済んでくれればいいんだけど」
「大師匠様の予言が外れるようにと願うのも、何だか複雑な気分です」
「とにかく、御本尊を藤谷班長に渡したら、神奈川に飛ぶよ」
「ユウタ君のお父さん……」
「妖狐達が向かってはいるみたいだけど、ちょっと不安だからね」
「本当にあんなことがあるんですね。爆発の衝撃で転落した先、長距離トラックの荷台に落ちて、そのまま運ばれたなんて……」
「良かったじゃない。神奈川県内で済んで。そのトラックのナンバー、『なにわ』になっていたから、最終目的地は大阪よ」
 トラックの荷台に人がいるという通報を受けた神奈川県警が出動し、そのトラックを止めて調べてみたら、ユタの父親だったという。
 トラックは国道246号線をひたすら西に進み、御殿場と沼津で集配した後、そこで東名高速に乗って、更に西へ進む行路になっていたそうだから、国道上で確保できたのは幸いだった。

[同日17:00.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 威吹、カンジ、マリア、イリーナ]

「とにかく、ユタの御尊父殿がご無事であったのは何よりだ」
 威吹は茶を啜りながら言った。
 因みに移動は、ほぼイリーナの瞬間移動魔法ル・ウラを使用したので、そんなに時間は掛からなかった。
「無事といっても、入院が必要なケガだけどね」
 同じくイリーナが紅茶を啜りながら答えた。
「しかし、直接爆風に巻き込まれたわけではなく、あくまでその衝撃で転落しただけのことです。いくらトラックの荷台の上とはいえ、それの衝撃と長時間揺られていたダメージはあるでしょうね」
「ユタの本尊は、魔法使いが勝手に持ち出していたわけか」
「そういうこと。ユウタ君が使っていたものだから、尚更価値が高いわけよ」
「オレ達には禁忌の物なんだがなぁ……」
「妖怪には近づくことさえできない御本尊も、私達魔法使いには価値のあるものだったりするのね」
「……それは、その本尊……曼荼羅の出自が魔法具だからですか?」
 カンジが言った。
「えっ?」
「他の仏教宗派には、全く見当たらないタイプの曼荼羅です。似たようなものがあってもいいのに、何故かそれを使用しているのは日蓮正宗並びに日蓮宗各派。それはつまり、創始者が……ですね」
「カンジ、ユタの前でそんなことを言ったら……」
「ええ。滅されることでしょう。あくまでも、ここだけの話です」
「さすがカンジ君ね。でも、半分だけ当たり」
「半分だけ?」
「私も全てを知ってるわけではないから。少なくともカンジ君が言ったのは、真相の半分くらいでしょうね」
「あの曼荼羅本尊が魔法具だと?」
「全てがそうじゃない。だって、人間に使わせてるくらいだもの。多分、創始者が人間にも使えるタイプを作って渡したんだと思う。だけど、中には魔法具とし使えるものが混在してる。ユウタ君の御本尊はその1つだね。もっとも、元々はただの御本尊だった。だけど、霊力の強いユウタ君が使っているうちに霊力が魔力に変換され、そこそこ力が溜まった所に、敵の魔法使いが嗅ぎ付けて持ち出したんだと思うよ」
「何てこった……」
「本来、ユウタ君は一宗教人で終わるタイプの人間じゃないの。だからね、ユウタ君を私達が預かりたい。あなたも分かるでしょう?手に負えないって」
「いや、しかしだな……」
「そしたら、イリーナ先生。本尊を手放して良かったのですか?」
 と、カンジ。
「また敵の魔法使いの手に渡ったら、悪用されませんか?」
「大丈夫。あの敵がもう溜まっていた魔力を使ってしまったから。だから、今はただの御本尊よ。ユウタ君が使ってまた力が溜まる前に、返しちゃった方がいいと思う」
「全ての本尊がそういう風になってるのか?」
「ユウタ君みたいな人間が使えばね。でも、霊力の無い人間が使う分には大丈夫。お寺には木製の御本尊があるみたいだけど」
「厄介なものだな……」
「今はだいぶマシになったわよ。昔なんて、もっと大変だったんだから」
「ま、昔話は昔話として……。御尊父殿の会社にも話して、都内の病院に転院させるつもりらしいからな。御母堂様も、明日には退院される。あとはユタの回復を待とう」
 威吹が締めるように言った。
(御本尊不敬って、関係あったのか???)
 カンジたけが疑問の符を上げていたという。

                                    ユタの脱講編、一応、終
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“ユタと愉快な仲間たち” 「地涌讃徳」

2014-11-26 14:13:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[現地時間11月24日09:00.魔界アルカディア王国・魔王城首相執務室 安倍春明&大師匠]

「困りますなぁ……。いくら我が国を揺さぶる出来事がまもなく起きるという予言を出されているとはいえ、フライングされては……」
 首相執務室の壁に掲げられているのは、50インチくらいのモニター。
 そこにはイリーナと黒いローブの者の戦闘の様子が映し出されていた。
「人間界側の“監視者”でしょう?あなたは……」
「監視体制の不備、真に申し訳無い」
 安倍の苦情申し立てに、大師匠は黒いフードを深く被ったまま陳謝の言葉を述べた。
「人間界においては、私を始め、優秀な弟子達にも監視の強化を指示していた矢先だっただけに、真に遺憾であります」
「対策は?ちゃんとあの厄介者は退治できるのでしょうな?」
「それは御心配無く」
 大師匠は大きく頷いた。
「私の弟子のいずれかを、宮廷魔導師に推薦します。魔界側の監視は、それに任せます」
「で、あなたは高みからの見物ですか。結構な身分ですな」
「大魔道師とは呼ばれているが、所詮は神にもサタンにもなれなかった落伍者です。落伍者は落伍者らしく、表舞台から消え去るのみ」
「それで、大魔王バァルはいつ戻ってきますか?」
「『よも今年は過ごし候はじ』、最高の年末となるであろう」
 大師匠はそれだけ言うと、席を立った。
「いい加減、お名前で呼ばせて頂けませんか。大昔、日本人僧侶だった頃のお名前では、差し支えがありますか?」
「……大いにある」
 安倍は大師匠の背中を見送りながら溜め息をついた。

[日本時間同日同時刻 首都高埼玉大宮線付近の高層ビル屋上 イリーナ・レヴィア・ブリジッド]

「ぐわあああっ!!」
 黒いローブにフードを被った魔法使いは、イリーナとの戦闘に敗れ、ズブズブとした死体になった。
 肉体がドロドロに溶け、黒いローブだけが残ったのである。
「ユウタ君の御本尊は、返してもらうわよ」
 イリーナは敵が落とした巻物……御本尊を回収した。
 残った黒いローブも、自然発火……なのか分からないが、発火して燃え上がった。
「ちょうどいい火葬だわ」
 その時、屋内から屋上に出るドアが勢いよく開けられた。
「師匠!」
 やってきたのはマリアだった。
「あら、マリアじゃない」
「何をなされてるんですか!?」
「敵の魔法使いとケンカしてね」
「はあ!?」
「さすがにあのテロを放置しておくにはいかないでしょう?」
「!!!」
 イリーナが指さした先には、何十台もの車が燃え上がる高速道路があった。
「ユウタ君の御本尊も無事回収できたしね」
「ええっ!?」

[同日13:00.埼玉県さいたま市大宮区 ユタの病室前→レストラン“けやき” マリア&イリーナ]

「あれ?面会謝絶?」
 病室のドアには面会謝絶の札が掛けられ、その扉も閉ざされていた。
 中から出て来る看護師。
「あの、すいません。ユウタ君、どうしたんですか?」
 マリアは看護師を呼び止め、聞いた。
「ちょっと精神的に不安定になったので、鎮静剤を打ったところなんです。何でも御両親が事故に遭われたことを知って、錯乱してしまって……」
「事故?」
「首都高速の事故ですね」
「えっ?」

 医療センター1階の食堂に入る魔道師2人。
「参りましたね。せっかく持って来てあげたのに、面会謝絶なんて……」
「しょうがないから、藤谷班長に渡しておきましょうか。ユウタ君の望みは、『御本尊不敬が無いように』だからね。もし脱講させられるならさせられるで、きちんと御本尊は返納しなくちゃという気持ちはあるわけよ。私達で直接お寺に持って行くのも怪しいしね」
「なるほど……。でも、どうしてユウタ君のそれが敵の手に?」
「ユウタ君の思いが込められているから、結構魔法の依り代にできるからだろうね」
「ユウタ君の……思い?」
「そう。彼の元々強い霊力で、これに向かって祈りを捧げてご覧なさいよ、と。それを受け止めるこれは、いい依り代になるってものよ。あなたの人形もそうでしょう?」
「確かに、そうですね……」
 そう答えつつ、マリアには何か腑に落ちない所があった。
 イリーナくらいのベテラン魔道師なら、威吹達の監視を潜り抜けて、御本尊だけを窃盗することはできるだろう。
 しかし敵の魔法使いは、大した力は無かったように思える。
「あの、師匠」
「なぁに?」
「あの黒いローブの敵は、何なんですか?」
「魔界から来たヤツだね。魔界から人間界に向かう許可が下りていないのに、向こうが政情不安なものだから、その隙を突いてやってきたんでしょう。無謀にも程があるわ」
「それがダイレクトに、ユウタ君の本尊を狙うなんて……」
「だから、それだけ凄い代物なのよ。さ、今日あいにくユウタ君と会えないのは残念だけど、それならそれで、早くこの御本尊を返納してあげないとね」
「はい」

[同日同時刻 埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 威吹邪甲&威波莞爾]

〔「首都高速埼玉大宮線の爆発事故は、依然、火災が続いており……」〕

 威吹は居間のテレビで、繰り返し流される事故のニュースを険しい顔で見ていた。
 そこへカンジが急いで入ってくる。
「先生、やはり御尊父殿も事故に巻き込まれたもようです!」
 情報収集に当たっていたカンジが威吹に報告した。
「被害状況は?まさか、死亡ではないだろうな!?」
「は!爆発前に車から緊急脱出したところまでは、確認できました」
「では、爆発には巻き込まれていない?!」
「恐らくは……。ただ、どういうわけだか、その後の足取りが掴めておりません」
「それは一体、どういうことなんだ?」
「運転手も見失ってしまったと言ってます。ただ、首都高速から下に降りる脱出口がありまして、そこに向かう所までは見ているようです。その後、爆発が起きたと……」
「しょうがない。癪だが、あの魔女達の力を借りるとしよう。水晶球か何かで足取りが掴めるだろう」
「連絡してみます」
 カンジは固定電話に電話を掛けた。
 威吹はその電話のやり取りに聞き耳を立てていた。
 どうやらその場ですぐ占ってくれるらしい。
 そして、その答えは意外なものだった。
「は?移動中!?」
 ポーカーフェイスのカンジが一瞬、目を見開いた。
「行方不明の御尊父殿が移動中ですか?それはどういう……?車?ですがその車は、爆発炎上したはずですが……。……はあ、そうですか」
 しばらく電話でやり取りをしていたカンジだったが、
「どうもおかしいんです」
「何が?」
 電話を切った時、カンジはまた元のポーカーフェイスのカンジに戻っていた。
「どういうわけだか、御尊父殿は車で移動しているとのことです」
「場所はどこだ?場所も分かるだろう?」
「それが今、神奈川県内の国道246号線を下っていると……」
「はあ???」
 そこへ電話が掛かって来た。
 すぐにカンジが取る。
「……は?神奈川県警?……はい、そうですが。……はあ!?」
 今度はカンジ、一瞬だけだかポーカーフェイスを崩した。

 一体、ユタの父親に何があったのか。
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“ユタと愉快な仲間たち” 「時ぞ来たりぬ」

2014-11-25 21:54:40 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[11月23日16:00.埼玉県さいたま市中央区 ユタの家 藤谷春人、ユタの父親、マリアンナ・スカーレット、威吹邪甲、威波莞爾]

「何のご用ですか?息子なら入院中ですよ」
 父親はアポ無し訪問者に、険しい顔をしていた。
 それを涼しげな顔で受け止めるは、ユタの上長である藤谷春人であった。
「ええ、もちろん分かっております。今回は非常に残念でした」
「本来ならば、息子に無理な布教活動をさせた責任を追及するところですが、それは息子の望むところではありません。速やかに脱講させて頂ければ結構です」
「あいにくと、こちらは稲生ユウタ君に明確な指示をした記憶も記録も無いんですがねぇ……。つまりは、御本人の意思によるものですよ。電車の事故自体が想定外だったわけですから」
「ご用件はそれだけですか?」
「脱講は残念ですが、その前に御本尊を返納して頂きたいと思いまして」
「御本尊?」
「ユウタ君が仏壇に御安置している曼荼羅ですよ」
「それは私の知るところではありませんが……」
「では、持ち出してもよろしいでしょうか?ユウタ君の許可は取ってますし、むしろ持ってきて欲しいとのことです」
「あ、あの!」
 奥からバタバタとマリアがやってきた。
「む?キミは……」
 藤谷は表情を強張らせた。
 マリアとは、かつて人形絡みで一悶着あったからだ。
「本尊はここには無い!」
「無いだって?どういうことだ?まさか、勝手に処分したのか!?」
「確認はできていないが(ウソ)、どうやらユウタ君のお母様がお持ちのようだ(ウソ)」
「尚更意味が分からん。何だって、稲生君のお母さんが御本尊を?」
 ユタの父親が回答するように言った。
「脱講届と一緒に郵送するつもりだったんだろう。だが、あいにく家内はバスの事故に巻き込まれ、それを入れていたカバンが燃えてしまったという」
「燃 や し た!?」
「燃やしたんじゃなく、燃えたんだ。不可抗力だ。文句があるなら、事故を起こしたバス会社に言ってくれ」
「何と言うことを……」
 頭を抱える藤谷。
「コラ、魔道師!」
 威吹が堪え切れずに言った。
「御母堂様に責任を押し付けるのではない!御母堂様とて、本尊は持ち出しておられないとのことではないか!」
「はあ!?」

 仏間に入る藤谷。
「確かに、あの仏壇だ。御入仏式の時のまんまだ」
「ユタは熱心にやっていたからな、今さら取扱いがおざなりになるとは思えん。だいいち、ユタが外出する時点では本尊は確かにあった」
「どうして分かる?キミ達は仏間に入れないんだろう?」
 藤谷は詰問するように言った。
「外出する前まで、ここで唱題をしていたからだ。そこで本尊が無くなっていれば、ユタは大騒ぎするだろう。だが、別段変わった様子は無かった。つまり、ユタが外出してから紛失したものと思われる」
「ああ、言っておくが、私も家内もアリバイがあるぞ。私はユウタが外出した日は、ずっと会社にいた。家内もまた同じだ」
 と、父親。
「じゃあ、一体犯人は誰なんだ!?」
「侵入者がいれば、オレ達はすぐに気づく。妖狐の目・鼻・耳をナメてもらっては困る」
「私もこの家に異変があれば、水晶球が点滅して、すぐその模様が映し出されるようになっている」
「素晴らしいセキュリティシステムだ。警備会社が泣くぞ」
 父親は苦笑いした。
「お前の師匠じゃないのか?」
 威吹はマリアに言った。
「何で師匠が本尊を盗る必要がある?何のメリットも無い」
「どうしよう……!?ご、御住職様に何て説明すれば……!」
 頭を抱える藤谷に、
「弁済ならする。後で請求書を送ってくれ」(父親)
「責任取ってユタが辞めればいい話だ」(威吹。それに同調して頷くカンジ)
「いいじゃないか、もう。ユウタ君は辞めるんだから」(マリア)
「お、お前らなぁ……!」

[11月24日08:00.ユタの家→首都高速・埼玉大宮線上り ユタの父親]

「専務、おはようございます」
「ああ、おはよう」
 ユタの父親はいつも通り、迎えの役員車に乗り込んだ。
「それじゃ威吹君達、申し訳無いが、また仕事が忙しくなる。ユウタと家内の方、よろしく頼む」
「お任せあれ」
「分かりました」
 車は家の前を出発した。
 昨日は藤谷が半泣き状態で、家から出て行った。
(たかだか、小型の掛け軸に毛を生やしたものに固執するとは……。日蓮正宗とやらも大したことはないな。ユウタは、『今までの顕正会とは違う』と言っていたが……。まあ、痛い目に遭ったことだし、これでまた元の息子に戻ってくれることだろう)
 嗚呼、一代法華の哀しさよ。
 例え正法と言えど、近親者に全く理解を得られぬ信心に、長命は有り得ないのか。
 先に顕益が表れず、顕罰が出るとこうなるのだ。
 だが、現証のみに目先を奪われた者には、更なる罰が待っている。

「今日はやけに混んでいるな?」
「そうですね……」
 都内に入る前から車が止まるようになった。
 朝ラッシュの上り線である。
 渋滞するのは当たり前だが、今回は少し状況が違った。
「会議には間に合うかね?」
「少しずつは進んでいますので、恐らくは大丈夫だと思いますが……」
 運転手が答えた。
「頼むよ。さすがに遅れるわけにはいかないからね」
「はい」
 また、渋滞で車が止まる。
 すぐに後続車が次々と並ぶ。
 高速道路における渋滞の、ごくごく普通の光景だ。
 だが、さすがにアレは普通ではないだろう。
「ああっ!?せ、専務!!」
「なにっ!?」
 タンクローリーが次々と先行車を蹴散らすように突っ込んでくる様は!
「わあっ!?」
 ガソリンを垂れ流しながら突っ込んで来たタンクローリー。
 当然ながら、爆発しないわけが無かった。

[同日同時刻 首都高近くの高層ビル屋上 ???]

「汝、一切の望みを捨てよ」
 大惨事の阿鼻叫喚と化した首都高を見下ろしながら呟く人物。
 その手には、巻物のようなものが握られていた。
「!」
 その人物は背後の気配に気づき、フッと振り向いた。
「……何の用だ?ブリジッド」
 魔道師の杖を持ち、ローブを羽織って、それに付いているフードを被ったイリーナが険しい顔で立っていた。
「そこまでよ。これ以上、人間界で好き勝手なマネはさせないわ」
「好き勝手か……。お前もこれで得してるだろう?新弟子最有力候補が、まもなく手に入るのだから」
「黙って!」
「これは……お前の師匠の差し金か」
「問答無用!」
 イリーナは大きく魔道師の杖を振り上げた。
コメント (6)
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