[8月29日09:30.宮城県仙台市青葉区・仙台市科学館 敷島孝夫、平賀太一、マルチタイプ3姉妹、MEGAbyte]
「おはよう・ございます。本日から・よろしく・お願い・致します」
控え室に平賀とイベント主催者が入って来ると、エミリーは年長者らしくスッと立ち上がり、ロボット喋りながらも、しっかり挨拶した。
「よ、よろしくお願いします!」
他の姉妹や後輩のMEGAbyte達も慌ててエミリーに続いた。
そして科学館開館と同時に、イベントブースに立つマルチタイプ達。
その間、敷島は控え室で彼女らの姿を映したモニタを見ながら、話を始めていた。
「平賀先生には作戦がお有りということですが……」
「警察でも手に負えない伝助博士を闇雲に探しても、時間の無駄です。キールを挙げるべきだと思っています。幸い、バージョン・シリーズの地下工場は押さえましたから」
「押さえた!?」
「はい」
驚く敷島に対し、ただ冷静に頷く平賀。
そしてテレビのリモコンを手に取ると、それでモニタをテレビ画面に切り替えた。
ヘリコプターからの映像が映る。
〔「……はい、こちら宮城県と山形県の県境付近に来ています。この辺りはJR仙山線の旧・八ツ森駅から約500メートルほど南に下がった場所なんですが、今、警視庁の特別捜査本部の捜査員達が……」〕
「こ、これは一体……!?」
「今では駅が廃止になるほど寂れた場所ですが、廃屋を模した工場が建っていたんですよ。まだ南里先生が半分マッドだった頃、秘密の研究所があったというお話を昔したと思いますが……」
「そことは別でしょう?」
「別です。しかし、どうして閉鎖されたはずの旧・南里研究所にハンター型のバージョン達が入り込んでいたのかをずっと考えていました。もしかしたら、近くにそれを造る工場でもあったのではないかと……」
「今までどうして見つからなかったんですか?」
「その工場を持っていたのが、ウィリーではなく、伝助博士だったからですよ。だから、上手く隠ぺいされていたんです。とにかく、工場は押さえました。あと彼を守っているのはキールだけです。ヤツを叩き壊せば、あとはもう脆弱な老人ですよ」
「どうやって探すんですか?」
「その為に敷島さんの協力が必要なんです」
「その言い方、私個人的な協力ではなく、事務所に対する協力依頼では?」
「バレましたか」
「何年の付き合いだと思ってるんですか。で、うちの事務所……ボーカロイドがどのように協力すればよろしいのですか?」
「イベントが終わってからで構いません。後で極秘の作戦書をお渡しします」
「何だか、大掛かりな作戦になりそうですな」
「だからこそ、上手く行きやすいのです」
「なるほど……」
[同日12:00.天候:晴 同場所 敷島孝夫&平賀太一]
「えー、そうですね。彼女らを通して、世界のロボット技術を来館者の皆さんにアピールしたいと思いまして……」
テレビの取材を受ける平賀。
敷島も。
「今なお問題化しているロボット・テロを撲滅させる為に、彼女達の活躍は必要なのです。……え?私ですか?ブラジルのテロリストを日本に拉致してきたって?いやいやいや!拉致だなんて、そんな北朝鮮みたいなこと言わないでくださいよ。あれは貧しい現地の人を日本に招待するという国際ボランティアで……」
平賀は素直に世界のアンドロイド研究開発者としての取材を受けていたが、敷島はどうも違うようだ。
「もちろん、マルチタイプは平和利用に決まってるじゃないですか!うちのボーカロイド達を見てくださいよ!聴く人を幸せにする歌って踊れるアンドロイドなんて、そうそう無いですよ!……いや、全然!ミクにマシンガンなんか搭載してませんって!してるのはシンディだけ……」
「わー!わー!わー!」
マルチタイプが実弾を発射できる銃火器を搭載しているというのは、公然とはいえ秘密である。
うっかり敷島が口を滑らせるところだったので、平賀が大声を出して遮った。
[同日13:00.同場所・レストラン 敷島孝夫&平賀太一]
「あー……やっとマスコミ帰った。ちっくしょー、いつもなら取材は大歓迎なんだけどなぁ……」
敷島は疲れた様子で椅子に座った。
「いらっしゃいませ!」
「うわっ、出た!」
「六海!お前はまた……!」
六海という名のメイドロイド。
名前に海という漢字が付いているので、“海組”とか“海シリーズ”とか呼ばれている。
但し、マルチタイプが姉妹や兄弟の契りがあるのに対し、メイドロイドには無い。
敷島がボーカロイド専門の芸能プロダクションを経営しているのと同様、メイドロボットの派遣業をやっている会社もある。
六海はそこに引き取られ、このイベントを当て込んで派遣されたようである。
「ご注文は?」
「カレーライス大盛り」
「自分はチャーシューメンを」
「はい、かしこまりました。オムライス2つです!」
「ええっ!?」
「ちょっと待てい!」
平賀が目を丸くし、敷島がツッコミを入れた。
「平賀先生、このメイドロボットは聴覚がイカれているようです。ついでに人工知能も」
「人工知能は……一応、正常のような気はしますが……」
ニコニコしながら立っている六海。
注文を訂正する気は無いようだ。
で、
「それでは『おいしくなーれ』のおまじないをしまーす!」
「は!?」
意味の分からぬ平賀。
敷島は芸能関係の仕事をしているせいか、もちろん知っている。
「お前、それがしたかっただけだろ!」
敷島の叱責にも似た突っ込みにもめげず、
「萌え♪萌え♪キューン♪」
と、締める。
「……う、うちの七海でも、さすがにここまでは……」
平賀は茫然とした。
「後で六海の事務所に連絡して、アキバの店を紹介してもらいます」
敷島は呆れるばかりだった。
だが、
「レストラン、長蛇の列だけど、何かやってるの?」
と、バッテリー交換にやってきたシンディがレストランを指さして言った。
いつの間にか、レストランの看板には、
『メイドロボット六海が、おいしくなるおまじないをしまーす!』
なんて書かれていた。
「……マジか。うちもメイドロボット置こうかな……」
「既に一海がいるじゃないですか。何言ってるんですか」
敷島の戯れ言に対しては静かにツッコミを入れながら、シンディのバッテリー交換を粛々と行う平賀だった。
「おはよう・ございます。本日から・よろしく・お願い・致します」
控え室に平賀とイベント主催者が入って来ると、エミリーは年長者らしくスッと立ち上がり、ロボット喋りながらも、しっかり挨拶した。
「よ、よろしくお願いします!」
他の姉妹や後輩のMEGAbyte達も慌ててエミリーに続いた。
そして科学館開館と同時に、イベントブースに立つマルチタイプ達。
その間、敷島は控え室で彼女らの姿を映したモニタを見ながら、話を始めていた。
「平賀先生には作戦がお有りということですが……」
「警察でも手に負えない伝助博士を闇雲に探しても、時間の無駄です。キールを挙げるべきだと思っています。幸い、バージョン・シリーズの地下工場は押さえましたから」
「押さえた!?」
「はい」
驚く敷島に対し、ただ冷静に頷く平賀。
そしてテレビのリモコンを手に取ると、それでモニタをテレビ画面に切り替えた。
ヘリコプターからの映像が映る。
〔「……はい、こちら宮城県と山形県の県境付近に来ています。この辺りはJR仙山線の旧・八ツ森駅から約500メートルほど南に下がった場所なんですが、今、警視庁の特別捜査本部の捜査員達が……」〕
「こ、これは一体……!?」
「今では駅が廃止になるほど寂れた場所ですが、廃屋を模した工場が建っていたんですよ。まだ南里先生が半分マッドだった頃、秘密の研究所があったというお話を昔したと思いますが……」
「そことは別でしょう?」
「別です。しかし、どうして閉鎖されたはずの旧・南里研究所にハンター型のバージョン達が入り込んでいたのかをずっと考えていました。もしかしたら、近くにそれを造る工場でもあったのではないかと……」
「今までどうして見つからなかったんですか?」
「その工場を持っていたのが、ウィリーではなく、伝助博士だったからですよ。だから、上手く隠ぺいされていたんです。とにかく、工場は押さえました。あと彼を守っているのはキールだけです。ヤツを叩き壊せば、あとはもう脆弱な老人ですよ」
「どうやって探すんですか?」
「その為に敷島さんの協力が必要なんです」
「その言い方、私個人的な協力ではなく、事務所に対する協力依頼では?」
「バレましたか」
「何年の付き合いだと思ってるんですか。で、うちの事務所……ボーカロイドがどのように協力すればよろしいのですか?」
「イベントが終わってからで構いません。後で極秘の作戦書をお渡しします」
「何だか、大掛かりな作戦になりそうですな」
「だからこそ、上手く行きやすいのです」
「なるほど……」
[同日12:00.天候:晴 同場所 敷島孝夫&平賀太一]
「えー、そうですね。彼女らを通して、世界のロボット技術を来館者の皆さんにアピールしたいと思いまして……」
テレビの取材を受ける平賀。
敷島も。
「今なお問題化しているロボット・テロを撲滅させる為に、彼女達の活躍は必要なのです。……え?私ですか?ブラジルのテロリストを日本に拉致してきたって?いやいやいや!拉致だなんて、そんな北朝鮮みたいなこと言わないでくださいよ。あれは貧しい現地の人を日本に招待するという国際ボランティアで……」
平賀は素直に世界のアンドロイド研究開発者としての取材を受けていたが、敷島はどうも違うようだ。
「もちろん、マルチタイプは平和利用に決まってるじゃないですか!うちのボーカロイド達を見てくださいよ!聴く人を幸せにする歌って踊れるアンドロイドなんて、そうそう無いですよ!……いや、全然!ミクにマシンガンなんか搭載してませんって!してるのはシンディだけ……」
「わー!わー!わー!」
マルチタイプが実弾を発射できる銃火器を搭載しているというのは、公然とはいえ秘密である。
うっかり敷島が口を滑らせるところだったので、平賀が大声を出して遮った。
[同日13:00.同場所・レストラン 敷島孝夫&平賀太一]
「あー……やっとマスコミ帰った。ちっくしょー、いつもなら取材は大歓迎なんだけどなぁ……」
敷島は疲れた様子で椅子に座った。
「いらっしゃいませ!」
「うわっ、出た!」
「六海!お前はまた……!」
六海という名のメイドロイド。
名前に海という漢字が付いているので、“海組”とか“海シリーズ”とか呼ばれている。
但し、マルチタイプが姉妹や兄弟の契りがあるのに対し、メイドロイドには無い。
敷島がボーカロイド専門の芸能プロダクションを経営しているのと同様、メイドロボットの派遣業をやっている会社もある。
六海はそこに引き取られ、このイベントを当て込んで派遣されたようである。
「ご注文は?」
「カレーライス大盛り」
「自分はチャーシューメンを」
「はい、かしこまりました。オムライス2つです!」
「ええっ!?」
「ちょっと待てい!」
平賀が目を丸くし、敷島がツッコミを入れた。
「平賀先生、このメイドロボットは聴覚がイカれているようです。ついでに人工知能も」
「人工知能は……一応、正常のような気はしますが……」
ニコニコしながら立っている六海。
注文を訂正する気は無いようだ。
で、
「それでは『おいしくなーれ』のおまじないをしまーす!」
「は!?」
意味の分からぬ平賀。
敷島は芸能関係の仕事をしているせいか、もちろん知っている。
「お前、それがしたかっただけだろ!」
敷島の叱責にも似た突っ込みにもめげず、
「萌え♪萌え♪キューン♪」
と、締める。
「……う、うちの七海でも、さすがにここまでは……」
平賀は茫然とした。
「後で六海の事務所に連絡して、アキバの店を紹介してもらいます」
敷島は呆れるばかりだった。
だが、
「レストラン、長蛇の列だけど、何かやってるの?」
と、バッテリー交換にやってきたシンディがレストランを指さして言った。
いつの間にか、レストランの看板には、
『メイドロボット六海が、おいしくなるおまじないをしまーす!』
なんて書かれていた。
「……マジか。うちもメイドロボット置こうかな……」
「既に一海がいるじゃないですか。何言ってるんですか」
敷島の戯れ言に対しては静かにツッコミを入れながら、シンディのバッテリー交換を粛々と行う平賀だった。