報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“新アンドロイドマスター” 「8月のイベント」

2015-08-28 14:23:26 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月29日09:30.宮城県仙台市青葉区・仙台市科学館 敷島孝夫、平賀太一、マルチタイプ3姉妹、MEGAbyte]

「おはよう・ございます。本日から・よろしく・お願い・致します」
 控え室に平賀とイベント主催者が入って来ると、エミリーは年長者らしくスッと立ち上がり、ロボット喋りながらも、しっかり挨拶した。
「よ、よろしくお願いします!」
 他の姉妹や後輩のMEGAbyte達も慌ててエミリーに続いた。

 そして科学館開館と同時に、イベントブースに立つマルチタイプ達。
 その間、敷島は控え室で彼女らの姿を映したモニタを見ながら、話を始めていた。
「平賀先生には作戦がお有りということですが……」
「警察でも手に負えない伝助博士を闇雲に探しても、時間の無駄です。キールを挙げるべきだと思っています。幸い、バージョン・シリーズの地下工場は押さえましたから」
「押さえた!?」
「はい」
 驚く敷島に対し、ただ冷静に頷く平賀。
 そしてテレビのリモコンを手に取ると、それでモニタをテレビ画面に切り替えた。
 ヘリコプターからの映像が映る。

〔「……はい、こちら宮城県と山形県の県境付近に来ています。この辺りはJR仙山線の旧・八ツ森駅から約500メートルほど南に下がった場所なんですが、今、警視庁の特別捜査本部の捜査員達が……」〕

「こ、これは一体……!?」
「今では駅が廃止になるほど寂れた場所ですが、廃屋を模した工場が建っていたんですよ。まだ南里先生が半分マッドだった頃、秘密の研究所があったというお話を昔したと思いますが……」
「そことは別でしょう?」
「別です。しかし、どうして閉鎖されたはずの旧・南里研究所にハンター型のバージョン達が入り込んでいたのかをずっと考えていました。もしかしたら、近くにそれを造る工場でもあったのではないかと……」
「今までどうして見つからなかったんですか?」
「その工場を持っていたのが、ウィリーではなく、伝助博士だったからですよ。だから、上手く隠ぺいされていたんです。とにかく、工場は押さえました。あと彼を守っているのはキールだけです。ヤツを叩き壊せば、あとはもう脆弱な老人ですよ」
「どうやって探すんですか?」
「その為に敷島さんの協力が必要なんです」
「その言い方、私個人的な協力ではなく、事務所に対する協力依頼では?」
「バレましたか」
「何年の付き合いだと思ってるんですか。で、うちの事務所……ボーカロイドがどのように協力すればよろしいのですか?」
「イベントが終わってからで構いません。後で極秘の作戦書をお渡しします」
「何だか、大掛かりな作戦になりそうですな」
「だからこそ、上手く行きやすいのです」
「なるほど……」

[同日12:00.天候:晴 同場所 敷島孝夫&平賀太一]

「えー、そうですね。彼女らを通して、世界のロボット技術を来館者の皆さんにアピールしたいと思いまして……」
 テレビの取材を受ける平賀。
 敷島も。
「今なお問題化しているロボット・テロを撲滅させる為に、彼女達の活躍は必要なのです。……え?私ですか?ブラジルのテロリストを日本に拉致してきたって?いやいやいや!拉致だなんて、そんな北朝鮮みたいなこと言わないでくださいよ。あれは貧しい現地の人を日本に招待するという国際ボランティアで……」
 平賀は素直に世界のアンドロイド研究開発者としての取材を受けていたが、敷島はどうも違うようだ。
「もちろん、マルチタイプは平和利用に決まってるじゃないですか!うちのボーカロイド達を見てくださいよ!聴く人を幸せにする歌って踊れるアンドロイドなんて、そうそう無いですよ!……いや、全然!ミクにマシンガンなんか搭載してませんって!してるのはシンディだけ……」
「わー!わー!わー!」
 マルチタイプが実弾を発射できる銃火器を搭載しているというのは、公然とはいえ秘密である。
 うっかり敷島が口を滑らせるところだったので、平賀が大声を出して遮った。

[同日13:00.同場所・レストラン 敷島孝夫&平賀太一]

「あー……やっとマスコミ帰った。ちっくしょー、いつもなら取材は大歓迎なんだけどなぁ……」
 敷島は疲れた様子で椅子に座った。
「いらっしゃいませ!」
「うわっ、出た!」
「六海!お前はまた……!」
 六海という名のメイドロイド。
 名前に海という漢字が付いているので、“海組”とか“海シリーズ”とか呼ばれている。
 但し、マルチタイプが姉妹や兄弟の契りがあるのに対し、メイドロイドには無い。
 敷島がボーカロイド専門の芸能プロダクションを経営しているのと同様、メイドロボットの派遣業をやっている会社もある。
 六海はそこに引き取られ、このイベントを当て込んで派遣されたようである。
「ご注文は?」
「カレーライス大盛り」
「自分はチャーシューメンを」
「はい、かしこまりました。オムライス2つです!」
「ええっ!?」
「ちょっと待てい!」
 平賀が目を丸くし、敷島がツッコミを入れた。
「平賀先生、このメイドロボットは聴覚がイカれているようです。ついでに人工知能も」
「人工知能は……一応、正常のような気はしますが……」
 ニコニコしながら立っている六海。
 注文を訂正する気は無いようだ。
 で、
「それでは『おいしくなーれ』のおまじないをしまーす!」
「は!?」
 意味の分からぬ平賀。
 敷島は芸能関係の仕事をしているせいか、もちろん知っている。
「お前、それがしたかっただけだろ!」
 敷島の叱責にも似た突っ込みにもめげず、
「萌え♪萌え♪キューン♪」
 と、締める。
「……う、うちの七海でも、さすがにここまでは……」
 平賀は茫然とした。
「後で六海の事務所に連絡して、アキバの店を紹介してもらいます」
 敷島は呆れるばかりだった。

 だが、
「レストラン、長蛇の列だけど、何かやってるの?」
 と、バッテリー交換にやってきたシンディがレストランを指さして言った。
 いつの間にか、レストランの看板には、
『メイドロボット六海が、おいしくなるおまじないをしまーす!』
 なんて書かれていた。
「……マジか。うちもメイドロボット置こうかな……」
「既に一海がいるじゃないですか。何言ってるんですか」
 敷島の戯れ言に対しては静かにツッコミを入れながら、シンディのバッテリー交換を粛々と行う平賀だった。
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本日の雑感 0828

2015-08-28 02:38:46 | 日記
 相変わらず、1日の閲覧者数が400を超え、訪問者数も100を超えている。
 この数字が大きいのか小さいのかは分からない(紹介者氏は「多い!」と驚いていた)。

 それはさておき、度々このブログで取り上げている茜オバハンこと、パラパラ茜氏がブログを更新している。
 山門入り口さんや爆サイなどで指摘されている内容にほぼ同感なのだが、やはり顕正オバハンはどこか病んでいるようだ。
 それもサブカルチャーによくあるヤンデレは萌えポイントとして考えられているが、顕正オバハンの場合はただ単に、読んでて腹が立ったり呆れるだけなのである。
 共通するのは、やはりバブリーでワガママという点だろうか。
 バブル世代の金銭感覚と私らロスジェネ世代の金銭感覚は違うのだが、それよりもっと間隔の開いている団塊世代(つまり私の両親世代)が笑えるくらいなのに、バブル世代は呆れるだけだ。
 もうバブルはとっくに終わっているし、もうあの時代は来ないものと思っている。
 格差がこれだけ進んでいる為にアベノミクスの恩恵が全く受けられないのがその現証だし、これから東京オリンピックが控えているとはいえ、やはり私ら底辺までには恩恵が下りて来ないのではないか。
 そんな気がする。

 話が逸れてしまったが、いかに私が法統相続免除者に認定されつつあるとはいえ、顕正女子はあまり選びたくないのが正直な所だ。
 文証は茜オバハンのブログそのもの、そして山門入り口さんのブログで取り上げられている元・法華講で現・顕正会員の登壇記事だ。
 因みに偉そうなことを書いてはいるが、大石寺に参詣とかしていると、元・顕正男子も敬遠はされていることを肌で感じる。
 嘘だと思うなら、登山……特に添書で行ってみるといい。
 それも、1回や2回では分からないと思う。
 種明かしをしてしまうと、トチロ~さんみたいな立派な方もいらっしゃるが、元顕の男女は往々にして……まあ、上記の通りなのである。
 だからだろう。
 私も特に気を付けてはいるつもりだが、やはり罪障の強い人間が多いのだろう。
 あまり良いイメージは持たれていないようだ。

 私のブログで、日記の部分を読んでみて頂いてどうだろう?
 私が現役の顕正会員だったら、とっくに放火される内容も入っているのではないだろうか?
 法華講員の中でもコメント欄を承認制にされている所も珍しくはないが、大抵が破折を旨としている内容の為、怨嫉を防ぐというのが理由である。

 もっと言ってしまうと、元顕の方で現役顕正会員を見下している方は要注意。
 自分のブログや他方へのコメント欄の文面と、リアルでの性格に格差のある、二面性の強い人間も要注意。
 まあ、元顕によくある話。
 顕正会という新興宗教の勧誘を断れず、不覚にも入信してしまって、しかもそこで役職に就くまでドップリと浸かった人間が、たまたま脱会して宗門と縁したからといって、偉いわけではないことに留意する必要がある。
 確かに未だに現役で苦しんでいる人間がいる中で、たまたま自分達は早めに正しい御本尊に先に縁できたからといって、選ばれた人間ではないからね。
 登山していると、ちらほら勘違いしている人をたまに見かけるけど(んでもって、これがまたオバちゃんに多いんだ)。
 自称“無宗教”の人間は、よく、
「宗教は弱い人間がやるもの」「宗教やってるヤツはバカ」
 とか言うが、これはある程度当たっていると思う。
 だって、新興宗教の勧誘を断れる勇気が無かった弱さ、新興宗教の勧誘に引っ掛かってしまった運の弱さ、その稚拙な浅井教義に洗脳されてしまったバカさ加減が私ら元顕じゃないか。
 だから、偉そうに現顕を破折するのはやめようね。

 自分達も同じ穴のムジナだったのだから。
 もっと謙虚に折伏しよう。

 まあ、もっとも、茜オバハンに対しては謙虚な態度で接したところで、後でブログで、
「ビビリオタクのユタ!天罰下るようにお祈りしておきますわ!一生涯独身決定だね!」
 とか書かれそうだけどw
コメント (11)
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“新アンドロイドマスター” 「いま、再びの仙台へ」 2

2015-08-26 19:23:13 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月29日08:00.JR仙台駅→地下鉄仙台駅 敷島孝夫、3号機のシンディ、8号機のアルエット、井辺翔太、MEGAbyte]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、仙台です。仙石線、仙山線、常磐線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。仙台の次は、古川に止まります〕

 列車は速度を落とし、仙台市の市街地を走行していた。

〔「仙台でお降りのお客様、ご乗車ありがとうございました。11番線到着、お出口は右側です。仙台からは各駅に止まります。……」〕

「荷物、忘れるなよ」
「はーい」
 デッキの荷物置き場に置いてある物を取りに行くシンディとアルエット。
 因みにMEGAbyteがライブで着る衣装などに関しては、既に運送会社に委託している。
 ポイント通過で少し列車が大きく揺れると、更に速度を落として仙台駅の下り副線ホームに入線した。

〔「おはようございます。ご乗車ありがとうございました。仙台〜、仙台です。お忘れ物の無いよう、お降りください。11番線に到着の電車は8時2分発の“やまびこ”41号、盛岡行きです。終点、盛岡までの各駅に止まります」〕

 ここで降りる乗客は多数。
 敷島達も荷物を手にホームに降りる。
「シンディさんの荷物が1番大きいですね」
 と、井辺。
「シンディが1番の力持ちだし、何しろ今回のイベントはシンディ達がメインになるんだからな。尚更、持ち物は多いよ」
「色々な部品ですか?」
「えーと、グレネードランチャーが1基とAUGマシンガンが1丁、それとM3ショットガンが……」
「ちょっと待ってください、社長。陸上自衛隊の基地祭りじゃないんですよ?」
「冗談だよ。バッテリーパックやオイルとかもあるよ。車と共用できるヤツは現地調達でいいと思うけど」
「そうでしたか」
「エンジンオイルやラジエーターくらいガソリンスタンドで手に入る」
「そうですね」
 因みに先ほど、車内でオイルを経口摂取していたLily。
 ペットボトルに移し替え、ストローで飲んでいた。
 ラジエーターが減った場合、水で代用することがある。
 そのLilyだが、前髪を押さえる為の赤いカチューシャを着けている。
 最近着けたもので、MEGAbyteを旗揚げしてから却って人気の落ちたことを気にしていた彼女に井辺が買い与えたもの。
 但し、プライベートでは着けるが、公式イラスト……もとい、宣材写真とは違うので、ライブの時には基本外す。

 改札口を出た後、敷島達は地下鉄の駅へ移動した。
 その間、平賀に仙台駅には到着した旨伝えようかと思ったが、既にシンディがエミリーと交信していて、
「ちょうど今、科学館に着いたってよ」
 とのことだ。
「平賀先生も熱心だなー。マルチタイプの研究には、意外と消極的だったのに」
 世間一般に受け入れられるのは、マルチタイプではなくメイドロイドだという提唱だったのだが、気が変わったのだろうか。
「アルができたから、やろうと思えばできるかもと思ったかな?」

[同日08:17.地下鉄仙台駅→地下鉄車内 上記メンバー]

「何気に新幹線から遠い」
「まあ、鉄道会社が違いますから」
 敷島のボヤきに、冷静にツッコむ井辺。
「意外とそこの壁壊せば、仙石線が走ってたりしてな」
「九段下駅じゃないんですから……」

〔2番線に、泉中央行き電車が到着します。……〕

「九段下駅の壁撤去工事、エミリー使えば速かったのにな……」
「駅ごと無くなってしまう恐れがありますから……」
「ん、そうか?」
「姉さん、サクッとやっちゃうからね」
「はは、そうか」
「アタシはザックリやるけど」
「九段下の壁撤去工事、お前は東西線の壁も壊しそうだ」
「ええ、そうね」

 電車がやってくる。
 4両編成という、地下鉄にしては短い編成だ。

〔仙台、仙台。JR線は、お乗り換えです〕

「ロボットの感じがする」
 アルエットは運転室の方を見て言った。
「運転士がボタンだけで操作する自動運転(ATO)だからな。“ロックマン・エグゼ”みたいに暴走したら止めてくれよ」

〔2番線から、泉中央行き電車が発車します。ドアが閉まります。ご注意ください〕

 ドアが閉まって電車が走り出す。

〔次は広瀬通、広瀬通です。一番町、中央通はこちらです〕
〔日蓮正宗、上方山・日浄寺へは北仙台でお降りください。駅から徒歩5分です〕

「そ、そう言えばシンディ……」
「なーに?」
 敷島が思い出したように口を開いた。
「お前、昔、南里所長を拉致して地下鉄の倉庫に閉じ込めたことがあるよな?」
「……ああ、そういえばあったわね」
「脱走した南里所長を追い掛けて、たまたまやってきた電車に体当たりしたよな?」
「それも知ってるのね」
「南里所長が言ってたよ」
「まあ、とんだテロ行為をしてしまったわね」
「そんなことがあったんですか」
「そうなんだよ。だからまあ、暴走したら止めてくれ。マルチタイプならそれができる。エミリーにあっては、電車に轢かれそうになった人を助ける為に電車に体当たりしたくらいだ」
 もっとも、シンディは本当に体当たりなのに対し、エミリーは両手で止めた形だ。
「わたしもしないとダメですか?」
 と、アルエット。
「お前はムリしなくていい」
 敷島はキッパリ言い放った。

[同日08:45.宮城県仙台市青葉区・仙台市科学館 上記メンバー、平賀太一、1号機のエミリー]

「いやー、やっと着いた」
「敷島さん、井辺さん、おはようございます!」
 まだオープンしていない科学館に来ると、既に設営準備を終えている平賀とエミリーがやってきた。
「今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ。7月の通りにするということですが……」
「まあ、基本はそうですね。取りあえず、会場と控え室をご案内します」
「ああ、すいません」
「彼女達にはすぐに準備してもらいますが、私達は一息つきましょう」

 着替える場所はさすがに別室にしてもらった。
「お忙しい中、すいませんね」
「いえ、MEGAbyteにとってもいい経験にはなると思います」
 平賀の言葉に、井辺が答えた。
「間違い無く科学雑誌には載りますよ。今、マルチタイプは世界中から注目されてますから」
「そうなんですか」
「皮肉にも十条伝助博士のテロ活動と、弟の達夫博士が新しいタイプを造ったことが注目されているんです」
「そうなんですか。その伝助の爺さんも、そろそろお縄になる頃だと思いますが、逆に何もしかけてこないのも、それはそれで不気味ですね」
「そう簡単に捕まらないでしょうし、捕まったとしても、またキールが脱獄させるでしょう。自分にとって、ラスボスはキールのような気がします」
「なるほど……」
「実はイベントの方もそうなんですが、今回ここに敷島さんをお呼び立てしたのは、そのキールのことについてなんです」
「えっ?」
「警察は伝助博士を直接狙っていますが、自分はキールの方を落とすべきだと思うんですよ」
「へえ……。何か作戦がありそうですね」
「いや、作戦というほどのものではないです。奴もロイドである以上、完全に居場所を隠すことはできないであろうということですよ」
「面白い理論ですね。是非聞かせてください」
「分かりました。それは後ほど……」
「ん?」
「まずはイベントを開始しましょう。館長も、後で来ますよ」
「ああ、それもそうですね」
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“新アンドロイドマスター” 「いま、再びの仙台へ」

2015-08-26 10:22:04 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月29日05:50.天候:曇 JR東京駅・東北新幹線ホーム 井辺翔太、3号機のシンディ、MEGAbyte]

〔21番線の電車は、6時4分発、“やまびこ”41号、盛岡行きです。この電車は……〕
〔「21番線、お待たせしました。まもなくドアが開きます。乗車口まで、お進みください。業務連絡、41Bカレチ、準備できましたらドア操作願います」〕

 大きなエアーの音と共にドアが開く。

〔「お待たせしました。どうぞご乗車ください」〕

 井辺達は車内に入った。
 “はやぶさ”に使用されるE5系ではなく、“はやて”デビューの際に登場して中国高速鉄道には勝手にパクられたE2系であり、中国高速鉄道で脱線事故が起きた際には「日本のせいアルよ!責任取るよろし!」と騒いだ車両である。オマエらのスピードの出し過ぎと運行管理体制の不備じゃんかよ。
「MEGAbyteの皆さんは3人席にどうぞ」
「はーい」(未夢)
「……あれ?充電コンセントが無い」(結月ゆかり)
「古い車両だし、それに私達、まだバッテリー沢山残ってるでしょ?」(Lily)

〔「皆様、おはようございます。この電車は6時4分発、東北新幹線“やまびこ”41号、盛岡行きでございます。停車駅は上野、大宮、宇都宮、郡山、福島、仙台、古川、くりこま高原、一ノ関、水沢江刺、北上、新花巻、終点盛岡の順に止まります。……」〕

「あとは大宮から社長とアルエットさんが乗ってきますので……」
「社長とプロデューサーはそっちの2人席に座っておきなよ」
 と、シンディ。
「え?」
「今回のイベントのことで、社長に色々聞きたいこととかあるんでしょ?」
「た、確かに……」
「アタシとアルが後ろにいるから、何かあったらすぐに動くよ」
「よろしくお願いします。では、私はお弁当を買ってきます」
「いいよ。弁当ならアタシが買ってくるよ。何がいい?」
「えー……それでは東京弁当とお茶を」
「了解」
 シンディがSuicaを手に列車から降りる。
「プロデューサーさん」
 そこへ、ゆかりが声を掛ける。
「わたし達のライブ、夕方からみたいですけど、その間は何をしていればいいんですか?」
「基本的にはイベントコンパニオンをやって頂きます。科学館におけるイベントは、あくまでマルチタイプの皆さんの展示がメインです。従いまして、あなた達はお客様をご案内する役をやって頂きます」
「なるほどー」
「私も展示される側だったのかなぁ……」
 と、未夢が複雑そうな顔をした。
 未夢は国産初のマルチタイプとして、つくばの大学の研究所で製造されたが、国際基準(といってもエミリーとシンディしかいないが)を満たせなかったため、廃棄処分になるところを、ガイノイドとしては高性能だということで、平賀のつてで敷島が引き取り、ボーカロイドに用途変更したという経緯がある。
「マルチタイプは、一大学の研究所では造れるものではないと平賀教授が仰っていたそうです」
 その平賀が一大学の研究所で造ったのは、専らメイドロボット(ロイド)である。
 それでさえ凄いことなのだが。
「厭らしい話ですが、お金の話をしますと、マルチタイプ……アルエットさんはまだ値段が付いていませんが……」
「アタシ達の約10倍の値が付いてるんでしょ?」
 Lilyが腕組みをして答えた。
「そうです。世界ではもう国際基準を満たしているマルチタイプを造れる人間が、本当に数えるほどしかいないので」
「でも、数えるくらいはいるんだ」
「まあ……」
 アルエットに値段が付いていないのは、そもそもアルエット自身、国際基準を満たしているかどうかさえ怪しいからだ。
 肝心の製造者が死亡してしまったため、その検査すら難しいのが実情である。

[同日06:04.東北新幹線“やまびこ”41号8号車内 上記メンバー]

 東北新幹線の始発列車は定刻通りに発車した。
 すぐに朝日が差し込んで来るかと思われたが、関東地方は今日1日曇であるため、それは無かった。

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は東北新幹線“やまびこ”号、盛岡行きです。次は、上野に止まります。……〕

「ちょっと社長に連絡してくるよ。『新幹線乗った』ってね」 
 シンディが席を立った。
「ああ、どうも」
「プロデューサーは食べてて」
 そう言って、シンディはデッキに出た。
 デッキには荷物置き場があって、井辺達の大きな荷物がそこにあった。
 シンディがイベントで使用するフルートはそんなに大きくないし、エミリーは向こうで用意されたピアノを使うので、荷物にはならない。
 アルエットが持ち込むトランペットは大きいかもしれない。

[同日06:30.JR大宮駅・東北新幹線ホーム 敷島孝夫&8号機のアルエット]

「シンディ姉さんが来ます。あと……MEGAbyteの皆さんの反応も接近しています」
「おー、そうか。基本的な性能はエミリー達と同じだな」
 東京方面から眩いヘッドライトが近づいて来る。
「それにしても、指定席車が10号車じゃなくて8号車というのは、さすが平賀先生も考えたな」
「えっ?」
 列車がホームに止まって、ドアが開く。
「おー、皆、おはよう」
「おはようございます!」
 電車に乗り込んで、敷島は東京駅から乗って来た事務所のメンバーに手を振った。
「着いたらすぐに調整を始めるからな。それまでは寛いでて」
「はい!」
 大宮駅はすぐに発車する。
「社長、こちらへ」
 井辺が2人席の窓側に案内する。
「ああ。井辺君は朝、食べたの?」
「はい。先ほど、東京駅の駅弁を」
「奇遇だな。俺もさっき買ってきた」
「そうですか」
「俺がミクを連れて歩いていた時は、よくミクが弁当買ってきてくれたものだ。今は、トップアイドルにそんなことさせるわけにもいかないからな」
 そう言って、敷島は大宮駅の“大宮弁当”の蓋を開けた。
 その後ろに座っているアルエットが、隣に座る従姉のシンディに話し掛ける。
「……えっ、社長がそんなこと言ったの?」
「どういう意味なの?」
「さすが社長ね。それは、狙撃するなら先頭車が狙いやすいから。それを知ってて、中間車の指定席寄越した平賀博士もさすがだけどね。あの2人、アタシの攻撃を何度も掻い潜っただけのことはあるよ」
「お姉ちゃんの?」
「ああ、前のボディを使っていた頃ね」
 シンディは片目を瞑った。
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“新アンドロイドマスター” 「早朝の出発」

2015-08-25 19:26:20 | アンドロイドマスターシリーズ
[8月29日05:04.都営新宿線・菊川駅 井辺翔太、3号機のシンディ、MEGAbyte(結月ゆかり、Lily、未夢)]

 敷島エージェンシーのプロデューサーとボディガード、新人ユニットは早朝の最寄り駅で始発電車を待っていた。

〔まもなく1番ホームに、各駅停車、笹塚行きが短い8両編成で到着します。白線の内側まで、お下がりください〕

 井辺は錦糸町のマンションから自転車で事務所に行くと、そこでロイド達と合流した。
 本八幡方向から眩いヘッドライトが接近してくる。

〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。菊川、菊川〕

 緑の塗装が事務所のトップアイドル、初音ミクを彷彿とさせ、座席脇の仕切り板も淡い緑色だった。
「プロデューサーは座って」
 シンディは井辺を着席させた。
「座ったら寝てしまいそうで……」
「その時は起こしてあげるわよ」

〔1番線、ドアが閉まります〕

 朝一の始発電車はインバータの音を響かせて発車した。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕

「シンディさん、本当にあなたのルートでよろしいんですね?」
「ええ。確かに見た目は遠回りっぽいけど、実は乗り換え1回でいいし、電車の待ち時間も短くて済むわ」
 シンディには乗換案内などのアプリが搭載されていて、それでルート検索をしたようだ。
 因みにそのアプリは、ボーカロイド達にも標準装備となっている。
「アタシも気になってたんだけど……」
「何ですか?」
「7月の時のイベントは前日入りしていたけど、今回は朝早くとはいえ当日ね」
「ああ。主催者の意向で、基本的には7月の通りに行うことになりました。シンディさん達のやることも、7月とあまり変わらないそうです。つまりノウハウはその時のものを踏襲すれば良いということで、皆さんは当日入りで構わないとのことです」
「そうなんだ。ライブにしたって、メンバーが違うだけだもんね」
「はい」
「社長とアルは?」
「社長は埼玉の御自宅に、アルエットさんは同じさいたま市内の研究所にいるので、大宮駅から乗ります」
「なるほど。分かったわ」
 ゆかりが質問があるかのように手を挙げた。
「シンディさんは社長さんについていなくていいんですか?」
「社長が家にいる時はね。アタシよりかは弱いけど、でもそこそこ強いマリオとルイージがいるしね」
「あの、バージョン・シリーズ最新モデルの?」
「そう」
 敷島夫妻の家の警備に当たっているのは、ウィリーが設計し、アリスがそれに独自のアレンジを加えて製造したバージョン5.0モデル。
 それまでの4.0のフルモデルチェンジであり、身長が高くなって体型もスマートになった。
 当然動きも速く、人間が走るのと同じ速さである。
 赤く塗装された方が1号機、黄緑色に塗装された方が2号機で、それが任天堂のスーパーマリオブラザーズを彷彿とさせるので、赤い1号機をマリオと呼び、黄緑色の2号機をルイージと呼ぶ愛称が付けられた。
 警備の片手間でキノコ栽培なんか始める辺りがもう……。
「確か、社長さんの家の警備を務める傍らで、植物の栽培をしているとか……」
「おっ、ゆかり。よく知ってるわねぇ」
 シンディが感心したように笑みを浮かべた。
「えーと……確か、サツマイモでしたっけ?」

 ズコーッ!

「芋掘りロボット、ゴ◯スケじゃないのよ?」
 シンディも一緒にズッコケたが、ゆかりに対するツッコミは忘れなかった。

[同日05:30.埼玉県さいたま市西区・デイライトコーポレーション・ジャパン埼玉研究所 8号機のアルエット]

 タイマーでキチンと“起床”するアルエット。
 この辺、タイマー設定をミスらない限り、絶対寝坊しないのがロイドの特長だ。
 充電が終わっても、タイマー設定でスリープ状態になっている。
 アルエットが寝泊まりしている部屋は、研究所の地下であった。
 元々は警備員の仮眠室だった部屋だ。
 タイルカーペットは敷かれているが、広さは三畳ほどしかない。
 ドンチャン氏の掲示板にたまに出て来るドヤ街の簡易宿所の一室みたいだ。
 室内にはパイプベッドとステンレス製のロッカーがあるだけ。
 照明は電球型蛍光灯(ダウンライト)が2つと、枕の上に電球スポットライトがあるだけだ。
 で、監視だけはちゃんとされていて、黒いスモークカバーに覆われたカメラが天井に付いている。
 これは何も、アルエットが冷遇されているというわけではない。
 研究所が7号機のレイチェル率いるKR団に半壊状態にされ、鋭意復旧工事中なのと、これを機に研究所としての機能は終了させ、D.C.Inc.がそれまでに手掛けてきた研究成果を一般公開するロボット科学館にリニューアルする為、大掛かりな工事をしている状態でもある。
 で、それが為に実はアルエットに住んでもらう部屋が用意できなかったのである。
 元々は人間の警備員が詰めていた西館部分は完全に機械警備化し、その人間の警備員が休憩室や仮眠室に使っていた部屋をアルエットが使うようにした。
 損壊の大きかった東館部分こそ機械警備化できない為、そこだけは仮設の建物を建てたり、何とか生き残った部屋を使って工事や警備の拠点にしたりしている。
 アルエットは自分の体とコンセントを繋いでいるプラグを自分で外すと、服に着替え始めた。
(始発の新幹線で仙台だっけ。社長さん、起きてるかなぁ……?)
 エミリーやシンディがスリットの深いロングスカート、ノースリーブの衣装を着るのに対し、アルエットは制服ファッションでいることが多い。
 ボーカロイドでも、そういう撮影の仕事でも無い限りはなかなか着ない。
 地下の仮眠室から無機質な螺旋階段を登って1階に上がると、元々は人間の警備員が休憩室として使っていた部屋に着く。
 その時の道具は殆ど運び出された上、復旧・リニューアル工事に使う機材の保管庫になっていた。
 整理整頓はされているが、カラーコーンにトラバー、トラロープ、ブルーシートなどが置かれている様は、確かにどこかの工事事務所をイメージさせる。
 制服ファッションに身を包んだ少女がいるような場所ではない。
 だけど、彼女はそこにいる。
 洗面台やシャワールームはあって、そこは彼女が専用で使っている。
 洗面台の前に立っていると、外の窓から、陽気な歌声が聞こえた。
「あーあ、またやってる……」
 窓の外を覗いて、アルエットは呆れた顔をした。
 確かにそこには、とあるロボットが実験として“畑”を作っていた。
 2足歩行のロボットだが、マルチタイプなどと違って、全く人間とは似ても似つかない。
 “オズの魔法使い”のブリキ男よりは、まだ性能は良いのだろうか。
 それとも、“スターウォーズ”のよく喋る2足歩行ロボットか。
「あっ、お嬢様〜!おはようございま〜ス」
 既に工事区域に指定され、サツマイモ栽培が禁止された場所で耕作をしているロボットは、アルエットの姿を見ると、作業の手を休めて手を振って来た。
 アルエットはここのロボット達からは概ね歓待され、今の芋掘りロボットのように『お嬢様』と呼ばれることが多い。
「そこで畑耕してたら、また怒られるよ〜!」
 と、一応アルエットは応えておく。
 あの芋掘りロボットも、プログラムに従って動いているだけなのだ。
 そのプログラムを解除する研究員なのだが、バージョン4.0が発砲した銃弾に被弾し、今もなお市内の病院に入院しているため、それができないのである。
 従って、芋掘りロボットは賽の河原のように、耕しては工事用重機に踏み潰され、また耕しては潰されるを繰り返しているのである。

 最後に白いブラウスの襟元に緩く赤いリボンを着けると、室内のインターホンが鳴った。
「はい」
{「東棟臨時警備室です。敷島エージェンシーの敷島社長がお迎えに来られてます」}
 と、復旧工事中の東棟に詰めている人間の警備員から連絡があった。
「あ、はい!今、行きます!」
 まさか迎えに来るとは思っていなかった。
 アルエットは自分の荷物を入れたキャリーバッグと、通学用バッグに似たそれを右肩から掛けると急いで東棟に向かった。
「い〜しやァ〜きィイモ〜♪おイモ♪おイモ♪おイモ♪おイモ♪おイモだよォ〜♪」
「ちょっとゴメンね!」
 アルエットは機嫌良く歌う芋掘りロボットの頭上をジャンプで飛び越えて、敷島の待つ東棟へ走っていったのだった。
「今度の研究所の紅一点は、元気なお嬢さんで」
 芋掘りロボットはアルエットが走り去って行った方に向かって手を振ると、再び鍬を手に耕作を始めたのだった。
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