[3月6日10:00.天候:晴 神奈川県相模原市緑区 (独)国家公務員特別研修センターB3F研究施設・会議室]
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今、斉藤絵恋さんは隔離されて研究室の方に行き、私達は善場主任から説明を受ける為に会議室にいる。
善場:「……このように、生きている人間の肉ではなく、血を求めるクリーチャーは“ウーズ”しかいません。これはTウィルスに海洋性ウィルスを混合して作られたTアビスというウィルスに感染すると変化するクリーチャーです」
愛原:「主任。そうは仰いますが、2005年のバイオテロでそのウィルスが出てきますが、BSAAの記録映像を見る限り、ウーズというクリーチャーは相当グロテスクなものです。絵恋さんは人間の姿を保っていますが、これは?」
善場:「あくまでも可能性を述べただけです。斉藤さん自身、Tアビスを投与されただけとは限りません」
愛原:「しかし、今やCウィルスだのTフォボスだの特異菌だの、最新型の生物兵器が出回ってしまったのに、旧式のTアビスとは……」
善場:「現段階では調査中ですが、大日本製薬はかつてFBCに協力していたようです。アメリカ進出の際、後ろ盾してもらう見返りとしての支援だったそうですが、それが何か関係しているのかもしれませんね」
その流れから、今はBSAAに協力しているのだと斉藤社長から聞いたことはある。
BSAAこそ今は正義の味方だからいいが、FBCは長官が残念ながら黒幕であった。
事件は2005年のことだから、少なくとも絵恋さんやリサはまだ生まれていない。
善場:「あと、これは昨日の検査で分かったことなんですが、斉藤さんにはありとあらゆる人工ウィルスの抗体があります。Tウィルスはもちろん、2013年のCウィルスに至るまでです」
愛原:「どういうことだ?」
善場:「大日本製薬では、バイオテロに使用されたウィルスのワクチン開発を日本代表として取り組んでいることで有名です。今回こちらに協力したのも、新型コロナウィルスのワクチン製造の為だということです」
高野:「斉藤社長、何か怪しくないですか?まるで娘さんをモルモットとして送り込んだかのような……」
愛原:「うーむ……」
善場:「Gウィルスを投与されつつも、上手く自分の体内に取り込んで、驚異的な回復力と身体能力を持ち、政府エージェントとして活躍しているシェリー・バーキン氏の例もあります」
愛原:「でも、そのシェリー・バーキン氏はBOWではないんでしょう?」
善場:「少なくとも人間の姿から他の生物に変化することはなく、あくまでも驚異的な回復力と身体能力に終始しているので、人間ということで良いでしょう。あいにくと、愛原リサさんは既に自我を保ちつつ、理性と知性を保ちつつも、しかし他人の制御を必要とし、場合によっては異形の者に変化するという意味では人間ではありません。それでも普段は人間の姿でいられることから、こちらとしては是非エージェントとして将来働いて頂きたいと思っているのです」
高橋:「で?結局あのガキはどうするよ?殺処分にするのか?」
リサ:「サイトーを殺さないで!」
善場:「今、実験をしています。実はもうTアビスに対するワクチンは存在するのです。それを投与してみまして、様子を見たいと思っております」
愛原:「デイライトは効かんかね?」
デイライトとはTウィルスに対するワクチンのことだ。
ただ単にTウィルスを無効化するだけでなく、投与者には抗体も作られる。
高野:「先生、ウィルスが違います」
愛原:「ん、そうか」
善場主任は室内にある大型モニターの電源を入れた。
それからリモコンのボタンを何個か押すと、とある映像が映し出された。
それはここの研究室。
ベッドの上に絵恋さんが寝かされ、まるで病院の集中治療室のような光景が広がっていた。
善場:「これは今、点滴によるTアビスのワクチンを投与しているところです。このように、今はおとなしく眠っています。恐らく効いているものと思われます」
愛原:「上手く行けば絵恋さんは人間に戻れるんですね!?」
善場:「上手く行けば、です。ただ恐らく、シェリー・バーキン氏のように、体内に何らかの影響は残るものと思われます」
高橋:「で、政府エージェントにスカウトか?」
善場:「状態如何によっては、是非とも来て頂きたいですね」
高野:「その前に真相を究明しませんと」
高橋:「社長のオッサン締め上げんのか?」
善場:「それはこちらに任せてください。少なくとも娘さんがああなった経緯については、事情を聴く必要がありそうです」
高橋:「娘をモルモットにして最悪だな」
愛原:「まだそうと決まったわけじゃないだろう。バイオテロ組織に浚われて、実験させられたのかもしれんぞ?」
高野:「だから先生、そういう記録が無いんですって」
愛原:「ん?しかしそんな記録、森友みたいに政治権力で『無かった事』にできるだろう」
善場:「とにかく、斉藤社長にはこちらから事情を聴きます。リサさんは引き続き、実験に協力してください。もしかしたら、あなたの体内から斉藤さんのウィルスに対抗する物が作れるかもしれませんからね」
リサ:「なるほど。分かりました」
高橋:「先生。実際、先生から社長に電話してみてはどうですか?」
愛原:「余計なことしなくていいって。それに、ここ圏外だ」
善場:「機密保持の為に電波は遮断しております。GPSも届かないようになっております」
高橋:「ここに死体埋めたら完全犯罪だなw」
愛原:「滞在期間は延びることになりそうですか?」
善場:「そうですね。でも、ご安心してください。ちゃんと宿泊室とお食事は御用意させて頂きますから」
高橋:「レンタカーの延長料金は?」
善場:「それもこちらで負担しますから、どうかご安心を……」
何だか大変なことになったなぁ。
新型コロナウィルスのワクチン製造の為の実験に協力するはずが、とんでもないことになったものだ。
私の名前は愛原学。
都内で小さな探偵事務所を経営している。
今、斉藤絵恋さんは隔離されて研究室の方に行き、私達は善場主任から説明を受ける為に会議室にいる。
善場:「……このように、生きている人間の肉ではなく、血を求めるクリーチャーは“ウーズ”しかいません。これはTウィルスに海洋性ウィルスを混合して作られたTアビスというウィルスに感染すると変化するクリーチャーです」
愛原:「主任。そうは仰いますが、2005年のバイオテロでそのウィルスが出てきますが、BSAAの記録映像を見る限り、ウーズというクリーチャーは相当グロテスクなものです。絵恋さんは人間の姿を保っていますが、これは?」
善場:「あくまでも可能性を述べただけです。斉藤さん自身、Tアビスを投与されただけとは限りません」
愛原:「しかし、今やCウィルスだのTフォボスだの特異菌だの、最新型の生物兵器が出回ってしまったのに、旧式のTアビスとは……」
善場:「現段階では調査中ですが、大日本製薬はかつてFBCに協力していたようです。アメリカ進出の際、後ろ盾してもらう見返りとしての支援だったそうですが、それが何か関係しているのかもしれませんね」
その流れから、今はBSAAに協力しているのだと斉藤社長から聞いたことはある。
BSAAこそ今は正義の味方だからいいが、FBCは長官が残念ながら黒幕であった。
事件は2005年のことだから、少なくとも絵恋さんやリサはまだ生まれていない。
善場:「あと、これは昨日の検査で分かったことなんですが、斉藤さんにはありとあらゆる人工ウィルスの抗体があります。Tウィルスはもちろん、2013年のCウィルスに至るまでです」
愛原:「どういうことだ?」
善場:「大日本製薬では、バイオテロに使用されたウィルスのワクチン開発を日本代表として取り組んでいることで有名です。今回こちらに協力したのも、新型コロナウィルスのワクチン製造の為だということです」
高野:「斉藤社長、何か怪しくないですか?まるで娘さんをモルモットとして送り込んだかのような……」
愛原:「うーむ……」
善場:「Gウィルスを投与されつつも、上手く自分の体内に取り込んで、驚異的な回復力と身体能力を持ち、政府エージェントとして活躍しているシェリー・バーキン氏の例もあります」
愛原:「でも、そのシェリー・バーキン氏はBOWではないんでしょう?」
善場:「少なくとも人間の姿から他の生物に変化することはなく、あくまでも驚異的な回復力と身体能力に終始しているので、人間ということで良いでしょう。あいにくと、愛原リサさんは既に自我を保ちつつ、理性と知性を保ちつつも、しかし他人の制御を必要とし、場合によっては異形の者に変化するという意味では人間ではありません。それでも普段は人間の姿でいられることから、こちらとしては是非エージェントとして将来働いて頂きたいと思っているのです」
高橋:「で?結局あのガキはどうするよ?殺処分にするのか?」
リサ:「サイトーを殺さないで!」
善場:「今、実験をしています。実はもうTアビスに対するワクチンは存在するのです。それを投与してみまして、様子を見たいと思っております」
愛原:「デイライトは効かんかね?」
デイライトとはTウィルスに対するワクチンのことだ。
ただ単にTウィルスを無効化するだけでなく、投与者には抗体も作られる。
高野:「先生、ウィルスが違います」
愛原:「ん、そうか」
善場主任は室内にある大型モニターの電源を入れた。
それからリモコンのボタンを何個か押すと、とある映像が映し出された。
それはここの研究室。
ベッドの上に絵恋さんが寝かされ、まるで病院の集中治療室のような光景が広がっていた。
善場:「これは今、点滴によるTアビスのワクチンを投与しているところです。このように、今はおとなしく眠っています。恐らく効いているものと思われます」
愛原:「上手く行けば絵恋さんは人間に戻れるんですね!?」
善場:「上手く行けば、です。ただ恐らく、シェリー・バーキン氏のように、体内に何らかの影響は残るものと思われます」
高橋:「で、政府エージェントにスカウトか?」
善場:「状態如何によっては、是非とも来て頂きたいですね」
高野:「その前に真相を究明しませんと」
高橋:「社長のオッサン締め上げんのか?」
善場:「それはこちらに任せてください。少なくとも娘さんがああなった経緯については、事情を聴く必要がありそうです」
高橋:「娘をモルモットにして最悪だな」
愛原:「まだそうと決まったわけじゃないだろう。バイオテロ組織に浚われて、実験させられたのかもしれんぞ?」
高野:「だから先生、そういう記録が無いんですって」
愛原:「ん?しかしそんな記録、森友みたいに政治権力で『無かった事』にできるだろう」
善場:「とにかく、斉藤社長にはこちらから事情を聴きます。リサさんは引き続き、実験に協力してください。もしかしたら、あなたの体内から斉藤さんのウィルスに対抗する物が作れるかもしれませんからね」
リサ:「なるほど。分かりました」
高橋:「先生。実際、先生から社長に電話してみてはどうですか?」
愛原:「余計なことしなくていいって。それに、ここ圏外だ」
善場:「機密保持の為に電波は遮断しております。GPSも届かないようになっております」
高橋:「ここに死体埋めたら完全犯罪だなw」
愛原:「滞在期間は延びることになりそうですか?」
善場:「そうですね。でも、ご安心してください。ちゃんと宿泊室とお食事は御用意させて頂きますから」
高橋:「レンタカーの延長料金は?」
善場:「それもこちらで負担しますから、どうかご安心を……」
何だか大変なことになったなぁ。
新型コロナウィルスのワクチン製造の為の実験に協力するはずが、とんでもないことになったものだ。