報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「愛原の帰京」

2021-03-19 19:58:21 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月12日14:16.天候:雨 東京都千代田区丸の内 JR東北新幹線212B列車8号車内→JR東京駅21番線ホーム]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、東京です。東海道新幹線、東海道本線、中央線、山手線、京浜東北線、横須賀線、総武快速線、京葉線と地下鉄丸ノ内線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 ようやく東京に帰ることができた。
 車窓から見える通勤電車が、まるで出迎えてくれるかのように並走している。
 しかし、福島県内は辛うじて太陽が見えるほどの晴れ間があったのだが、都内は雨だった。
 分厚い窓ガラスには、いくつもの水滴がついては風圧で右から左に流れている。

〔「長らくの御乗車お疲れさまでした。まもなく終点、東京、東京です。21番線に入ります。お出口は、右側です。お降りの際、車内にお忘れ物の無いよう、今一度よくお確かめの上、お降りください。……」〕

 愛原:「リサと斉藤さんが迎えに来てくれているみたいなんです」
 高橋:「ちっ、余計なことしないで、家にいりゃあいいものを……」
 善場:「ですが、これは喜ばしいことです。『2番』のリサが如何に愛原所長を信頼して『制御できている』ことの表れですからね」

 と、善場主任が味気ないことを言う。
 しかし、その口元に微笑が浮かんでいたことから、あえてわざとそういう言い方をしたのだと分かった。
 そして、列車がホームに滑り込む。
 限られた有効長で長い編成を押し込む為、東京駅の新幹線ホームは曲がっている。
 もっとも、名鉄名古屋駅のようにS字に曲がっているわけではない。

〔「ご乗車ありがとうございました。東京、東京です。車内にお忘れ物の無いよう、ご注意ください。21番線の電車は折り返し、14時28分発、“はやぶさ”29号、新函館北斗行きとなります。……」〕

 私は東京駅のホームに降り立った。
 福島県会津地方では見られた雪も、ここでは一切見られない。

 愛原:「無事に帰って来られたなぁ……」
 高橋:「そうですね。先生の勝利です」
 愛原:「だから俺は何もしてないって」

 そんなことを話していると……。

 リサ:「先生!」

 改札口で待っているものと思っていたリサが、斉藤さんと共にホームにいた。

 愛原:「リサ!」
 リサ:「迎えに来たよ!」
 愛原:「わざわざホームまで来たのか」

 私はリサに抱き付かれた。

 斉藤:「ちょっ、リサさん!」
 善場:「こらこら。公共の場ですよ」
 愛原:「よく入場券買うって分かったな?」
 斉藤:「私が教えてあげたんです。リサさんがどうしてもって言うので……」

 斉藤さんは入場券を見せながら言った。

 愛原:「あ、そう。悪かったね」
 善場:「愛原所長、事務所までよろしいですか?書類手続きがありますので……」
 愛原:「あ、すいません。このコ達はどうしましょう?」
 善場:「事務所の中には入れませんので、先に帰ってもらうか……」
 リサ:「えーっ?一緒に行きたい」
 善場:「事務所の中には入れないのよ?」
 リサ:「先生達が終わるまで待ってる」
 善場:「……仕方ないですね」
 斉藤:「はい!私も行きます!」
 善場:「あなたはもっと帰っていいのよ」
 斉藤:Σ( ̄ロ ̄lll)ガーン

 さすがはキャリア組政府特務機関エージェント、善場優菜の氷の言葉が炸裂した!

 リサ:「私、サイトーと一緒に待ってる」
 善場:「分かりました。とにかく、移動しましょう」

 私達は新幹線ホームから移動した。
 新幹線改札口を出て在来線コンコースに行き、そこから山手線ホームに向かった。

[同日14:30.天候:雨 JR東京駅5番線ホーム→JR山手線1313G電車11号車内]

〔まもなく5番線に、品川、渋谷方面行きが参ります。危ないですから、黄色い点字ブロックの内側までお下がりください。次は、有楽町に止まります〕

 山手線ホームに移動して電車を待つ。
 山手線では最新型のE235系電車が滑り込むようにしてやってきた。
 ギッという車輪の軋む音がするのは、如何に最新型車両であっても、雨の日でレールが濡れている時には車輪が空転するからだ。
 それでも従来の電車よりは揺れは少なくなり、オーバーランもしなくなった。

〔とうきょう~、東京~。ご乗車、ありがとうございます。次は、有楽町に止まります〕

 最後尾の車両に乗り込む。
 リサというBOWが一緒にいる時は、指定席などの止むを得ない事情がある場合を除いて、基本的に先頭車か最後尾に乗ることとなっている。
 これは万が一リサが暴走した時に、BSAAが外から攻撃する場合、攻撃目標にしやすい為である。
 平日とはいえ昼下がりの時間帯は山手線と言えども、車内は空いている。

〔「各駅に停車致します山手線外回り、品川、渋谷方面電車です。有楽町、新橋でお降りのお客様は、この電車をご利用ください。お隣の京浜東北線は只今、全ての電車で快速運転を行っております。有楽町、新橋には止まりませんのでご注意ください。まもなく発車致します」〕

 ホームに陽気なテクノポップ(?)な発車メロディが大音量で流れる。

〔5番線の山手線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 チャイムが鳴りながらドアが閉まる。
 チャイムの音色は都営地下鉄新宿線の東京都交通局の車両のそれと同じだ。
 尚、乗り入れて来る京王電車のドアチャイムはJR東海のそれと同じなのだという。
 ドアが閉まって走り出す時は、空転はしない。
 昔の電車は走り出す時も空転していたというが、さすがに今現役で走っている通勤電車で、走り出す時も車輪が空転することは無いのではなかろうか。

〔この電車は山手線外回り、品川、渋谷方面行きです。次は有楽町、有楽町。お出口は、左側です。地下鉄有楽町線と地下鉄日比谷線はお乗り換えです〕
〔This is the Yamanote line bound for Shinagawa and Shibuya.The next station is Yurakucho.JY30.Please change here for the Yurakucho subway line and the Hibiya subway line.〕

 リサ:「あ、そうだ。先生」
 愛原:「何だ?」
 リサ:「卒業旅行はどこに連れて行ってくれるの?」
 愛原:「斉藤社長から依頼があるかどうかだな……」

 私はチラッと斉藤さんを見た。

 斉藤:「さっきお父さんに聞いたら、先生の事務所に依頼書を送ったって言ってましたよ?」

 斉藤さんが自分のスマホを私に見せながら言った。
 何気に斉藤さんのスマホ、新しくなっている。
 卒業祝いで新しいiPhoneを買ってもらったのだろうか。
 リサは特に欲しがっているわけではないようだが……。

 愛原:「そうなのか。帰ったら確認してみよう」
 斉藤:「多分、先生の好きな温泉地のどこかだと思います」
 愛原:「はは……。何だか俺の趣味に付き合わせるみたいで悪いな」
 高橋:「俺は先生の行かれる所なら、どこへでも行きますよ」
 リサ:「私も」
 斉藤:「私はリサさんの行く所なら、どこへでも行きます」

 事実上、私の希望次第となるようだ。
 とはいえ、最終的な旅行先の決定権は斉藤社長にある。
 そもそも最初の選択肢を出す権利からして、斉藤社長にあるのだ。
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“愛原リサの日常” 「リサと出迎え」

2021-03-19 15:42:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月12日08:00.天候:雨 東京都墨田区内某所 東京中央学園墨田中学校]

 斉藤絵恋:「おはよう、リサさん」
 リサ:「おはよう、サイトー」
 絵恋:「いよいよ、今日で最後だね」
 リサ:「? 明日、大掃除があるし、卒業式は15日だよ?」
 絵恋:「あ、いや、そういうことじゃなくて、普通に登校するのが最後ねってこと」
 リサ:「ああ」

 リサと絵恋は昇降口で上履きに履き替えた。

 絵恋:「この制服を着るのも、いよいよ最後……。明日は大掃除だから、ずっとジャージだし」
 リサ:「卒業式で着る。それまで」

 中高一貫校なので、中等部の生徒の大半は高等部へそのまま上がるのだが、通う校舎は変わるし、しかも東京中央学園は完全一貫校ではない。
 中等部を卒業して他の高校へ通う者や、高等部から入学してくる者も一部にはいる。
 その為、中高一貫校でも、中等部3年生の終わりには卒業式を行うし、高等部1年生最初の行事として入学式を行うのである。

 絵恋:「リサさん、今日ヒマ?」
 リサ:「今日は先生達を迎えに行く」
 絵恋:「愛原先生?今日退院なの?」
 リサ:「ん。今はまだ病院だろうけど、午前中には電車に乗って、昼過ぎに東京駅に着くはず」
 絵恋:「そうなの。じゃあ、私も一緒に行っていい?」
 リサ:「いいよ」
 絵恋:「萌えぇぇぇぇっ!!」
 リサ:(何故そこで悶絶?!)

[同日13:24.天候:雨 同区菊川 都営バス菊川駅前停留所]

 学校が終わったリサ達は昼食を取ると、一旦帰宅した。
 私服に着替えてから、また外出する。
 バス停へ向かう途中、信号待ちをしている間に絵恋が自分の傘を閉じ、リサの傘の中に入って来る。

 リサ:「何してるの?」
 絵恋:「あら、リサさん、知らないの?相合傘って言うのよ」
 リサ:「いや、知ってるけど、何でわざわざ……」
 絵恋:「これも愛の証なのよ」
 リサ:「愛の証……」

 リサは愛原と自分が相合傘をしている様子を想像した。

 リサ:「むふー。悪くないかも」
 絵恋:「でしょ?でしょ?このままバス停まで行きましょ!」

 バス停に行き、バスを待つ。

 絵恋:「新庄に頼めば、丸の内から飛んで来てくれるはずよ?どうせお父さんが仕事の最中は、地下駐車場でヒマしてるはずだから。何なら、タクシーチケットももらってるから、タクシーで東京駅まで行っても……」
 リサ:「別にいいよ。バスで行こう」
 絵恋:「リサさんがそう言うならぁ……」

 そんなことを話しているうちに、都営バスがやってきた。
 塗装はオリジナルのもので、車種自体も珍しいものではなく、全国的に見られるオーソドックスなノンステップバスである。

 運転手:「東京駅丸の内北口行きです」

 都営バスの中でもローカル線に当たる東20系統。
 時刻表で見ても、1時間に1本しか無い。
 前扉から乗って、先にPasmoで運賃を払った。
 そして、後ろの2人席に腰かけた。
 路線バスの2人掛け席は大の大人2人が座ると狭いが、中学生の少女2人が座るのにはちょうど良いサイズだった。

〔発車致します。お掴まりください〕

 前扉と中扉両方が同時に閉まり、バスが走り出す。
 外は雨なので、大きなフロントガラスの大きなワイパーが規則正しい動きで、左右に扇を描きながら雨を拭き取っていた。

〔ピンポーン♪ 毎度、都営バスをご利用頂き、ありがとうございます。このバスは東京都現代美術館、門前仲町、日本橋経由、東京駅丸の内北口行きでございます。次は森下五丁目、森下五丁目でございます。……〕

 絵恋:「ねえ、リサさん」

 通路側に座っている絵恋が、窓側に座っているリサに話し掛ける。

 リサ:「なに?」
 絵恋:「卒業旅行なんだけどォ、どこがいいか決めた?」
 リサ:「卒業旅行……」
 絵恋:「ほら、卒業式が終わって、高等部の入学式まで2週間くらい春休みじゃない?」
 リサ:「何か、先生が、『斉藤社長から依頼があるだろう』みたいなこと言ってた」
 絵恋:「そのまさかなのよォ!お父さん、また『仕事が忙しい』って言って、旅行に連れてってくれないの!」
 リサ:「いや、春休みに休める大人っていないと思う。今月の祝日、20日の一日だけだし。しかも土曜日。勿体ない。金曜日か月曜日なら3連休なのに」
 絵恋:「そうなのよねぇ」
 リサ:「サイトーんち、金持ちでしょ?サイトーんちの金の力で、今月もう一日くらい休みを作れない?」

 リサがメチャクチャなことを言う。

 絵恋:「ごめんなさい。うちの一族、情けないから、誰一人として国会議員になってないのよォ!伯父様は公明党の推薦外されて落選したし、叔母様は万年埼玉県議会議員だし」
 リサ:「いや、親戚に県議会議員がいるだけでも凄いと思う」
 絵恋:「ありがとう!リサさん!」
 リサ:「(サイトーの叔母さん、何党の議員なんだろう?まあいいや。そんなことより……)それで、サイトーのお父さん、先生にどこへ連れてけって依頼するんだろう?」
 絵恋:「分かんないけど、多分国内だと思うわ。お父さん、色んな企業と取引している上、自分も株主だったりするし、色々と優待券とか持ってるみたいだけど……」
 リサ:「さすがに全国のホテルの優待券をトランプのようにして、先生に引かせた時には私もヒいた」
 絵恋:「うん、あれは私もドン引きしたわ。あの時はさすがのお母さんも、思いっ切り突っ込んだからね。もちろん私も」

 妻や娘に強いツッコミを入れられたら、ヘコむだろう。

 リサ:「今回も温泉だろうなぁ。先生、温泉好きだから」
 絵恋:「それ関係の優待券もあるから、それを絶対に使わせるわね。愛原先生に行き先を決めさせるだろうから、決まったら教えてちょうだいね」
 リサ:「ん。サイトーは行きたい所とか無いの?」
 絵恋:「いいのよ。私はリサさんの行く所なら、どこへでも行くから。そう、地獄の果ての果ての果てまでも」
 リサ:(サイトーにバーサーカー状態で追跡されたタイラント君、逆に怖かっただろうなぁ……)

[同日13:56.天候:雨 東京都千代田区大手町 都営バス呉服橋停留所]

〔ピンポーン♪ 次は呉服橋、呉服橋でございます。地下鉄大手町駅、東京駅日本橋口へおいでの方は、こちらでお降りください。次は、呉服橋でございます〕

 リサ:「ん、ここで降りよう」

 リサは降車ボタンを押した。

 絵恋:「そうねぇ。東北新幹線なら、終点まで乗っても歩く距離はそんなに変わらないかもね。それに、雨のせいか、段々道が混んで来たし……。渋滞に巻き込まれる前に降りた方がいいかもね」
 リサ:「ん、やっぱり」

 バスは停留所の名前にもなっている呉服橋交差点を越えた。
 そして、JRバスの降車場ではなく、永代通り沿いのバス停に停車する。

〔「呉服橋です」〕

 バスを降りると、すぐに傘を差した。

 リサ:「先生とお兄ちゃんの分もあるから大変」

 リサは自分の傘の他に、2本の傘を持っていた。

 絵恋:「さすがに帰りはタクシーじゃない?」
 リサ:「どうだろう?」

 そんなことを話しながら、2人は多くのサラリーマンが行き交う永代通りから東京駅日本橋口のロータリーへと入って行った。

 
(東京駅日本橋口。ロータリーはJRバスの到着場の為、多くのJRバスが停車している。尚、“やきそばエクスプレス”もここに到着する。聳え立つビルはJR東海丸の内中央ビル)
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“私立探偵 愛原学” 「愛原の退院」

2021-03-17 21:22:28 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月12日10:00.天候:晴 福島県会津若松市 会津中央病院]

 私の名前は愛原学。
 都内で小さな探偵事務所を経営している。
 リサ達が『1番』との戦いに勝利し、栗原さんは望み通りに兄弟や家族の仇が取れたという話を聞いて私は嬉しくなった。
 と思う反面、肝心な時に私は役に立たないことを改めて思い知らされた。
 電話でボスは、

 ボス:「何を言っている。『1番』にとってキミが脅威だと思ったから、霧生市で座して来るのを待っていたのではなく、奇襲を仕掛けて来たのではないか。キミは何もしなくても、その存在感は大きくなっているのだよ。つまり、存在自体がキミの価値だ。何も心配いらん」

 と、言ってくれたが……。
 荷物を纏めて病室を出た。
 荷物はナースステーションで預かっててくれたので、それを受け取る。
 入院費などの支払いは、1階の受付で行われるという。
 まあ、入院経験は過去に何回かあるから何となく分かる。
 何か、この仕事を初めてから、自分で入院費を払ったことが無いのだが。

 善場:「お疲れさまです。愛原所長」
 高橋:「先生、お疲れ様っス!お迎えに上がりました!」
 愛原:「あ、これはどうも、わざわざ……。高橋、病院の中なんだから静かにしろ」
 高橋:「さ、サーセン」
 善場:「じゃあちょっと私は受付に行ってきますので……」
 愛原:「あ、すいません」

 善場主任が退院の手続きに行ってくれている間、私達はロビーの椅子に腰かけた。

 高橋:「先生。クソ『1番』に付けられた傷痕はどうなりました?」
 愛原:「おかげさまで、だいぶ薄くなったよ。『1番』のヤツ、そこからも俺をウィルスに感染させようと思ったらしいが、そうは問屋が卸さなかったようだ」
 高橋:「さすが先生っス!」
 愛原:「それより、『1番』が死んで、それからどうなったんだ?色々あるだろ?事後処理とか……」
 高橋:「俺も『1番』との戦いの時は、殆ど戦力外通告だったんです。でもまあ、『1番』の遺伝子情報から、更なるワクチンの開発とかできるかもって善場の姉ちゃんが言ってましたけど……」
 愛原:「リサのウィルスでも、コロナのワクチンは造れなかったのにか?」
 高橋:「そうですよね」
 愛原:「エブリンも死んだみたいだし、あとは白井を追い詰めるだけか。ヴェルトロの方はどうなんだ?あのガスマスクの男、俺が入院している間に現れたのか?」
 高橋:「いや、無いっスね。そんな話、全然聞いてないっス」
 愛原:「そうか……」

 しばらくそんな話をしてから、善場主任が戻って来た。

 善場:「お待たせしました。それでは帰りましょう」
 愛原:「すいません。費用まで持ってくれて……」
 善場:「今回の件は、所長は協力者です。協力して頂いた上での災害ですから、費用はこちらで持ちます」
 愛原:「ありがとうございます」

 病院の外に出て、タクシーに乗り込んだ。
 今や地方でも、プリウスのタクシーは珍しくなくなった。

 善場:「会津若松駅までお願いします」
 運転手:「はい。ありがとうございます」

 助手席に座った善場主任が行き先を告げると、タクシーは雪の積もる道に出た。
 南会津ほどではないが、この辺りも雪は珍しくない地域のようだ。

[同日10:55.天候:晴 同市内 JR会津若松駅]

 愛原:「あ、会津鉄道で行くわけではないんですね?」

 駅に着いて、善場主任から渡されたキップを見て私は言った。

 善場:「会津鉄道経由がご希望でしたら、そのように変更しますよ?」
 愛原:「あ、いえ、結構です。JRの方が速いのは知っています」

 とはいうものの、久方ぶりにディーゼルカーに乗って見たい気はした。
 が、今はとにかく帰京することが最優先であることは分かっていた。
 自動改札機にキップを通して、ホームに入る。
 目の前の1番線から、列車に乗れるようだ。

〔この電車は磐越西線、快速、郡山行き、ワンマン列車です。停車駅は磐梯町、猪苗代、磐梯熱海、喜久田、郡山富田、終点郡山です〕
〔This is the Banetsu West line,rapid service train for Koriyama.〕

 電車に乗り込むと、驚いたことに福島県内の都市間輸送列車でありながら、2両編成という短さだった。
 私が学生の頃、乗り鉄した頃は6両編成とか普通に走っていたのだが……。
 それほどまでに利用者が減ってしまったのだろうか。

 空いているボックスシートに座る。
 前の車両に乗り込むと、確かに運転席の後ろには運賃箱や運賃表があった。
 都市型ワンマンではなく、本当に車内で運賃を徴収するタイプらしい。

〔「11時8分発、磐越西線上り、磐梯町、猪苗代、磐梯熱海方面、快速列車の郡山行きです。発車までご乗車になり、お待ちください」〕

 運転士が放送しているところを見ると、本当にワンマン運転のようだ。

[同日11:08.天候:晴 同市内 JR磐越西線3236M列車先頭車内]

 しばらくすると新潟方面から遅れてやってきた気動車が到着し、そこから乗り換えて来た乗客達で満席に近くなった。
 ラッシュでもないのに満席になるのだから、これ、観光シーズンの時は車両足りなくないか?
 それとも、そういう時は車両を増結するのだろうか。

〔まもなく1番線から、磐越西線、猪苗代方面、快速列車、郡山行きが発車致します。お見送りのお客様は、黄色い線までお下がりください〕

 ホームに発車メロディが鳴り響く。
 いわゆるご当地メロディーってヤツで、曲名は『AIZUその名の情熱』という。
 駅で流れているのはメロディだけだが、原曲は南こうせつ氏が歌っている。
 首都圏でも、特に埼玉県の駅で市歌を流すのが流行っているが、それは東北でもというわけである。
 運転士が窓からホームの方に顔を出して、メロディーが鳴り終わると、笛を吹いてドアを閉めた。
 どうやら駆け込み乗車は無かったらしく、側灯滅を確認すると、再び運転席に座る。
 そしてガチャッというハンドルレバーを操作する音が聞こえて来て、電車が動き出した。

〔今日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は磐越西線、快速、郡山行き、ワンマン列車です。停車駅は磐梯町、猪苗代、磐梯熱海、喜久田、郡山富田、終点郡山の順です。途中の無人駅では後ろの車両のドアは開きませんので、前の車両の運転士後ろのドアボタンを押してお降りください。【中略】次は、磐梯町です〕

 変わったのは編成や運行体制だけではない。
 車両も東北本線で乗ったものと同じ、新型車両にはなっていた。
 首都圏の中距離電車で走っているものと雰囲気は変わらない。
 今の自動放送だって、ワンマン運転に関する放送が加わっただけで、声優や言い回しが変わっているわけではない。

 愛原:「おや?リサからLINEだ」

 私は窓の下のテーブルに缶コーヒーを置いていたのだが、それを手に一口飲んでいると、リサからLINEが来た。
 どうやらこの時間帯は休み時間で、私も電車に乗っている時間だろうと思っているらしい。
 実際その通りなので、私も今は磐越西線に乗っていることを伝えた。
 それで郡山駅に行き、そこから新幹線に乗り換えるのだと。

 善場:「『2番』のリサは信頼できるマスター(主人)がいたから良かったんですよ。それができなかった『1番』との大きな差です」
 愛原:「俺なんかがねぇ……」
 高橋:「先生だからですよ」
 善場:「そうですね。愛原所長だからだと思います」
 愛原:「私は特別なことはしていないつもりですが?」
 善場:「そんな御謙遜を……」
 高橋:「そんな御謙遜を。ん?」

 善場主任と高橋のセリフがハモってしまった。
 まあ、他人から良い評価を得られるのは良いことだ。
 そこは素直に受け止めることとしよう。
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“愛原リサの日常” 「戦いの後」

2021-03-17 16:09:34 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月7日09:00.天候:晴 福島県会津若松市 会津中央病院]

 善場:「愛原所長は治療と検査の為、1週間入院することになりました」
 高橋:「この前、先生が入院された病院とはまた違うでっけー病院だけど、何か理由があるのか?」
 善場:「もちろんです。前回の南会津病院と比べて設備が更に充実していること、BSAAによる応急手当や簡易検査の際に、感染が確認できなかったことから、災害拠点病院に搬送するのが適切と判断しました」
 高橋:「先生、感染してなかったのか?」
 善場:「現場においてBSAAが行った検査の結果ですが。今、また改めて本格的な検査をしています。しかし、私は楽観視しています」
 高橋:「何でだ?」
 善場:「高橋さんもそうですが、愛原所長もTウィルスに関しては従来型と変異型、両方抗体を持っていること。そして、Gウィルスに関しても抗体ができていることが挙げられます」
 リサ:「Gウィルスに関しては私のおかげ」

 リサが、むふーと鼻息を大きく出して言った。

 善場:「それは単なる結果論です。今後は一切あのようなことはしないように」
 リサ:「……はぁーい」
 高橋:「そんなんで大丈夫なのか?」
 善場:「基本的に日本版リサ・トレヴァーはTウィルスとGウィルスしか体内に有していません。『1番』の遺伝子を解析していますが、今のところそれ以外のウィルスは発見されていないので、私は楽観視しているんです」
 高橋:「あと、『経験者は語る』ってヤツか?元リサ・トレヴァーとして」
 善場:「まあ、そうですね」
 高橋:「それでも1週間入院しないといけないのか……」
 善場:「感染症に対する警戒の他、『1番』に痛めつけられた傷もありますので、その治療もあります」
 リサ:「私が舐めてあげれば、そんな傷たちどころに……」
 善場:「はいはい。愛原所長に人間でいてもらいたければ、それ以上、BOWの遺伝子は送り込まないように」
 栗原:「1週間後と言えば、中等部は卒業式でしょう?確か中等部は、卒業式を2日間に分けて、保護者も1人だけっていう制約があるとはいえ、予定通りに行われるって聞いたけど?」
 善場:「もし愛原所長の治療が予定通り進めば、12日には退院できるそうなので、十分間に合います」
 栗原:「そう。それならいいんだけど……」

 栗原は心配そうな顔をしているリサを見た。

 部下:「失礼します。お車の御用意ができました」
 善場:「ありがとう。帰りは車です。家まで送らせてもらいます」
 高橋:「そりゃ助かる。東京まで寝てていいんだな?」
 善場:「結構ですよ」
 リサ:「……ん?待って。12日に退院ってことは、私は迎えに行けない?」
 善場:「あー、そうですね。12日まで学校でしょう?」
 リサ:「お昼まで……」
 善場:「予定通りなら、所長は12日の午前中に退院ですから、直接ここへは行けないですね」
 リサ:「ぶー……。高校生なら、とっくに卒業して春休みなのに……」
 善場:「私と高橋助手で、責任もって迎えに行きますから、東京駅まで迎えに来てください」
 栗原:「東京駅には私も行こう。私も愛原先生に御礼を言っておきたい」

[3月12日05:00.天候:晴 東京都墨田区菊川 愛原のマンション]

 リサがふと目が覚めたのは、BOWの勘によるものだろうか。
 下級のBOWだと五感のうちどれかが欠落したりして、そこが弱点となることが多いが、リサ・トレヴァーのように上級BOWとなると、そのようなことは無い。
 パジャマ姿のまま部屋の外に出ると、洗面所から人の気配がした。
 高橋が既に起きていて、朝の身支度を整えているのである。

 リサ:「お兄ちゃん……」
 高橋:「ぅおっ!?……いきなり背後に立つんじゃねーよ!襲う気か!」
 リサ:「ゴメン。もう出発の準備をしてるいるの?」
 高橋:「ああ。5時台の電車で東京駅に向かわねーと間に合わねぇ。したら、善場の姉ちゃんにぶっ飛ばされる」
 リサ:「うん。そうだね」
 高橋:「朝飯は作って冷蔵庫ん中に入れてあるから、あとは適当にチンして食え」
 リサ:「分かった」

 高橋はリサの見送りを受けて、マンションを出た。

[同日05:33.天候:晴 同地区内 都営地下鉄菊川駅]

 高橋:(えーと……ここでメールすんのか?ったく、LINEの方が慣れてんのに、どうして姉ちゃんとだけはメールなんだ?メンド臭ェな。でもサボると、後でもっとメンド臭ェ!)

〔まもなく1番線に、各駅停車、笹塚行きが10両編成で到着します。ドアから離れて、お待ちください〕

 ようやく手持ちのスマホで善場に定時連絡のメールを入れると、接近放送が響いた。
 そして、東京都交通局所有の車両が入線してきた。

〔1番線の電車は、各駅停車、笹塚行きです。きくかわ~、菊川~〕

 高橋は1番後ろの車両に乗り込んだ。
 乗り換え案内で、次の路線への乗り換えは後ろの車両に乗るのが良いとあったからだ。

〔1番線、ドアが閉まります〕

 電車は空いていたので、空いている席に腰かけた。
 すぐにドアが閉まる。
 そして電車が走り出した頃、善場から返信のメールがあった。

〔次は森下、森下。都営大江戸線は、お乗り換えです。お出口は、右側です〕
〔The next station is Morishita.S11.Please change here for the Oedo line.〕
〔「この電車は終点の笹塚で各駅停車、高尾山口行きと区間急行、名無し……失礼しました。区間急行、橋本行きにお乗り換えができます。次は森下、森下です」〕

 善場からの返信メールの内容は非常に事務的なものだった。

 高橋:(ま、この方が何だか探偵らしくていいな)

 高橋は返信メールを確認すると、黒いマスクの下の口元に微笑を浮かべた。
 そして、電車が空いているのをいいことに、長い足を投げ出してスマホをポケットの中にしまったのだった。
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“私立探偵 愛原学” 「霧生市の戦い」

2021-03-15 20:03:22 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[3月7日04:29.天候:雪 某県霧生市南部 日本アンブレラビル跡]
(この話に限り、三人称です)

 善場:「こちら善場!ハートエリアに現着!」

 善場はインカムでデイライト本部とやり取りをしていた。
 まだ夜も明けない時間帯であり、外は暗い。

 善場:「……はい。こちらは『2番』とKが突入しました。BSAAはベータチームが突入しています」

 善場が突入せず、外で待っていたのには理由があった。
 かつてはゾンビパラダイスと化していたこの町も、今はゾンビの姿は全く見受けられない。
 廃墟のビルの壁を突き破って、何かが出て来た。
 それは『1番』と『2番』のリサだった。

 リサ:「待てぇーっ!逃げるなぁぁぁぁっ!!」

 リサは第1形態の鬼の姿をしており、それは『1番』も同じだった。

 『1番』:「あなたの御主人様は美味しかったよ。私の残り物で良ければ、アンタも食べてみたら?」
 リサ:「ブッ殺す!!」

 善場は狙撃用ライフルを構え、『1番』が地面に着地するのを待った。
 そして、1番が消灯している街灯の上に立つ。
 リサと比べて多くの人間を食した為に、身体能力自体は『2番』のリサよりも上回っているようだ。
 だが……。

 『1番』:「!?」

 『1番』は自分に向けて放たれたライフルに気づき、それを交わすと、銃弾が放たれた方向に跳んだ。

 『1番』:「あら?あなたは……誰だったっけ?」

 善場はライフルではなく、今度は近距離用のショットガンを取り出した。
 そして、それを構える。

 善場:「リサ・トレヴァー『0番』、善場優菜。死に場所は決まった?」
 『1番』:「『0番』?ああ。確か、元『12番』だったっけ。今はただの人間の」
 善場:「ええ、そうね。死ぬ前に1つ教えてくれない?」
 『1番』:「残念だけど、そんな時間は無いの」
 善場:「まあ、そう言わずに。『2番』とあなたは同等の完成品だった。だけど、どうしてあなたは『2番』と違って、いいコにできなかったの?」
 『1番』:「はっ(笑)、何を聞くかと思えば……。自分で探ったらー?」
 善場:「分かった。それじゃ、質問を変えましょう。白井は……」

 次の瞬間、『1番』の長く鋭く尖った爪が善場の首に刺さった。

 善場:「がっ……!はっ……!」

 倒れる瞬間、善場はショットガンを発砲させたが、ほぼ暴発に近い発砲だったので、『1番』に当たることは無かった。

 『1番』:(ちっ。『0番』じゃ、このくらいじゃ死なないか……)

 首から血を噴き出している為、普通の人間なら死亡は免れなかっただろう。
 しかし、『1番』は善場にトドメを刺すことはできなかった。
 何故なら、すぐ後ろに『2番』のリサが迫っていたからである。

 リサ:「待てっ!待てぇぇぇっ!」
 『1番』:「あはっ(笑)、鬼さんこちら~!」
 リサ:「オマエも鬼だろうがぁぁぁぁっ!!」

 リサは倒れている善場を横目に『1番』を追い掛けた。
 善場の血は、まるで水道の蛇口を締めるかのように見る見るうちに止まり、そしてズプズプという音がして傷口が塞がれていった。
 そして、最後には傷痕すら残さずに完全に治癒してしまった。

 善場:「こういう時、逆に変化ができないと不便に感じてしまうわ。愛原リサ、あとは頼んだわよ」

 善場はリサの走り去った方向を見ながらそう言うと、自分はビルの中に入っていった。
 ゾンビやら幽霊やら出そうな廃墟ビルだが、実際はそんなものはいなかった。
 もっとも、白骨死体はあちらこちらに転がっている。
 この白骨死体達は元はゾンビだったのか、或いはゾンビに食い殺された人間だったのかは不明だ。
 はたはまた、獲物が無くて餓死したゾンビの成れの果てか。
 いずれにせよ、白骨死体になれば、元は全員が普通の人間だと分かる。
 善場はヘッドランプを点け、一応はショットガンを構えながら先に進んだ。

 BSAA隊員A:「善場さん」

 ビルの地下へ下りると、そこには先行して突入したBSAAの隊員がいた。

 善場:「この先にターゲットは?」
 BSAA隊員B:「いました。愛原学氏ですね」
 善場:「無事でしたか?」
 隊員A:「目立った外傷はありません。ですが、恐らく『1番』による性的暴行の痕が見受けられます。つまり、『感染』の疑いもありますので、搬送は慎重に行う方針です」
 善場:「分かりました。慎重に行うのは大いに結構ですが、しかし迅速な対応もお願いします」
 隊員A:「分かっていますよ」
 善場:「愛原所長はTウィルスに関しては完全な抗体を持っており、Gウィルスに関しても抗体を持っています。今のリサ・トレヴァーの能力からして、それ以外のウィルスに感染した恐れは少ないと思います」
 隊員B:「ですが万が一のことは考えるべきだと思っています。とにかく、ここは我々にお任せください」
 善場:「分かりました。スノーモービルを貸してもらえませんか?」
 隊員A:「構いませんが、どちらに?」
 善場:「『1番』を追います。人間に戻ってしまった『0番』の私は見守ることしかできませんが、しかし未だにナンバリングを持つ者としてはそれが責務だと思います」
 隊員B:「分かりました。では、ご自由にお使いください。ただ、現況の報告だけはお願いします」
 善場:「分かりました」

 善場はビルの外に出ると、BSAAの隊員達が乗って来たスノーモービルの1台に跨ると、それを走らせた。

 善場:「栗原さん!」

 途中、雪深い道を無理に走っていた栗原蓮華に追い付く。

 栗原:「善場さん!」
 善場:「後ろに乗って!『1番』を追うわ!」
 栗原:「助かります!」

 栗原は善場の後ろに乗った。
 そして善場はスノーモービルを一気に加速させた。

[同日05:02.天候:曇 同市内南西部 霧生森林公園跡]

 『1番』はリサに追い付かれたらしい。
 そして、そこで激しい肉弾戦が行われたのだろう。
 本来なら多くの人間を食したはずの『1番』の方が圧倒的に力が強いはずだった。
 しかし、生来の臆病な性格は、例えどんなに力が強くなっても治らなかったと見える。
 何が言いたいかというと、善場達がその現場に到着した時、『1番』は原形を留めぬほどの化け物に変化していたというわけだ。
 自分がそれなりに傷ついても、落ち着いて対応すれば、『2番』のリサを返り討ちにすることはできたはず。
 しかし、『2番』のリサは第3形態の姿に留まっていた。
 『1番』の方は、まるで映画のゴジラのような姿である。
 『2番』のリサはどちらかというと、デビルマンのような姿。

 善場:「リサ、それ以上の変化はダメよ!制御できなくなる!そこの『1番』みたいに……!」
 リサ:「善場サン……」
 栗原:「デカい……!」
 善場:「デカいということは、それだけ的が大きくなったということよ。食らえ!」

 善場は高橋が持っているはずのマグナムを撃ち込んだ。
 しかし、それだけではやっぱり効かない。

 善場:「やっぱり、マグナムでもダメか。せめて、ロケットランチャーでもあれば……」

 善場はスノーモービルから降りると、さっきのBSAA部隊に連絡した。
 ロケットランチャーを持ってきてもらおうかと思ったのだ。
 しかし!

 栗原:「善場さん!あれ!」

 栗原が指さすと、上空にはヘリコプターが飛んでいた。
 しかし、それはBSAAではない。

 善場:「“青いアンブレラ”!?」

 日本では活動を禁止された民間軍事会社“アンブレラ”のヘリコプターだった。
 旧アンブレラの元関係者達が、過去の清算をする為に組織したものである。
 そのロゴマークは紅白の日傘を上から見た図をデザイン化したものだったのを、現在では赤い部分を青色に変えたことから、通称“青いアンブレラ”と呼ばれる。
 そのスライドドアを開け、そこからロケットランチャーを構えたのは……。

 善場:「た、高野!?高野芽衣子!?」

 東京拘置所で起きたバイオハザード事件に乗じて脱獄した高野であった。
 高野は躊躇わず、怪獣に変化した『1番』に対してロケットランチャーを発射した。
 それは『1番』に直撃し、大ダメージを受けた『1番』は第1形態へと戻って行く。

 栗原:「今だ!」

 栗原は公園の駐車場に放置されていた廃車に飛び乗ると、そこから落ちて来る『1番』の首に刀を振るった。

 『1番』:「おま……鬼斬り……」

 『1番』は首を刎ね飛ばされ、白い雪を鮮血で赤く染めながら体は仰向けに、首は雪の上に落ちた。

 栗原:「とどめを刺す前に、もう1度確認させろ。この町で、私の兄弟を食い殺したのはオマエだな?」
 『1番』:「……覚えてない」
 栗原:「見ろ。私の左足はオマエに食い千切られた。女の子の左足だけ食い千切るなんて、そうそう無いだろう。覚えてないか?」
 『1番』:「……ああ。そんなこともあったかもね。……くそっ!」
 栗原:「!?」

 首だけになった『1番』が悔しがったのは、体だけが起き上がり、首の無い姿で栗原の後ろから鋭い爪で襲い掛かろうとしていたからだ。
 それを阻止したのは『2番』のリサ。

 リサ:「危ないよ」

 リサもまた第1形態に戻っていた。

 栗原:「お前は何人、人を食い殺した?」
 リサ:「覚えてるわけないよ、ソイツ!」
 『1番』:「……フッ。5~6人くらいかな?」
 リサ:「ウソつけぇ!その10倍以上は食べてるだろ!!」
 栗原:「もういい。もうお前、死ね」

 栗原は『1番』の頭に日本刀を貫通させた。

 リサ:「もっと!もっと何度も突き刺して!それだけじゃ、こいつは死なない!!」
 栗原:「こいつだけじゃなく、アンタもでしょ?そして……あなたも」
 善場:「そうかもね」

 体の方は善場がマグナムを何度も撃ち込み、最後には火葬した。
 しかしその前に採血して、細胞のサンプルを採取することだけは忘れない。
 頭の方は栗原とリサの執拗な攻撃で、原形を留めなくなった。

 栗原:「お兄ちゃん……みんな……。仇は取ったよ……」
 リサ:「これで『1番』は死んだ。あとは『2番』の私と『0番』の善場さんだけ」
 善場:「ええ、そうね」

 いつの間にか“青いアンブレラ”のヘリコプターは去っており、今度はBSAAのヘリがこちらに向かって来ていた。
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