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お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

フェリ引退公演 Aプロ ③

2007-08-07 14:47:15 | BALLET
Aプロ後半です

「ジゼル」 第二幕より アダージョ
精霊になったジゼルが、自分のお墓参りに来たアルブレヒトを、男を呪い殺す精霊(ウィリー)から守ろうとするシーンのプロローグです。
舞台下手に設けられた十字架(=ジゼルのお墓に)夜、忍んでくるアルブレヒト=ボッレ。
ベルベットの上着にマントがなんとも美しい。
そこに精霊ウィリーとなったジゼル=フェリが音もなく現れて、静かにアルブレヒトにリフトされて浮遊しつつ、ゆったりとした情感を通わせる、静謐なシーン。
貴族であること、婚約者がいることを隠して、自分を欺き死に至らしめたアルブレヒトをジゼルは静かに許し、これからのウィリー仲間からの罰から守る決意をほのかに滲ませる・・・。
伏目がちにたゆたう静かな動きの中にドラマを感じさせる至難の技を、しかも連続性のない一場面だけを切り取って、鮮やかにフェリは見せてくれました。
彼女の全幕「ジゼル」の名場面の数々が浮んでは消えて行きます。これが彼女の最後のジゼルかと思うと・・・。ボッレは登場時こそ、その持ち前の華で目を奪いますが、PDDでは、完全に受けに回ってでしゃばらず、静かに彼女の世界に同調している様に好感が持てます。
確か、ダーシー・バッセルの引退公演の際にも請われて共演したのではなかったかしら。
トリノオリンピックの開会式でも活躍し、ユニセフ親善大使としての顔なども持つ彼、成長著しい注目株ですね。

「太陽が降り注ぐ雪のように」
アリシア・アマトリアンとロバート・テューズリー。
これは2003年のバレフェスで、確かフリーデマン・フォーゲル、アリシアのヤングカップルが、黒鳥のPDDを予定していたのを、NBSの佐々木氏が、ベテランのロシアペアなどを前にグラン・クラシックを若手が踊っても見劣りするだけだと判断、急遽衣装(伸び~るピンクのTシャツ)を調達して変更。ショパンのプレリュ-ドをアレンジしたノスタルジックな曲想とTシャツを引っ張ったりユーモラスな動きを取り入れた独創的な動きが若い2人のキャラクターにピタリと合って評判を呼んだ作品。
実際、当時デーモン・アルバーンのようだったフォーゲル君とアリシアの2人がふざけ合うような振りが哀愁溢れるメロディーに乗って繰り広げられる様は、2度と帰らぬ子供時代の夏休みを郷愁を持って打ち眺めるような感慨をもたらしたもので、今でもはっきりと記憶に残っています・・。
大人で硬い踊りの輪郭を持つテューズリーがまた異なる味を出してはいたのですが、初見の印象には届かず。

「シンデレラ」
クデルカ版。
1920年代調の衣装のジュリー・ケントも美しいが、タキシードにロイヤルブルーのアクセントをつけた衣装がゴメスに似合うこと!
踊られるのは第2幕の舞踏会のPDD.
淡いオレンジとラベンダーを重ねた衣装のジュリーがなんとも優美。その彼女をサポートしつつ熱い視線を向けるゴメスがコワモテだけれど目が情熱的な感じで、うっとりとさせられる一幕。
プロコフィエフの華麗な音楽に乗せて、お互い自分にないものを感じ取る恋の芽生えと深化を表現して見事でした。

「ハムレット」
ノイマイヤー版のハムレットは一風変わっている。
シルヴィア・アッツォーニのオフィーリアは花輪や人形で遊ぶまだ子供と言っていい少女。
そこにパステルカラーのオーバーサイズ気味のシャツやジャケットやネクタイを手当たり次第に着込んだようなハムレット=リアブコが旅行かばん片手に駆け込んできます。
大人の振りをした彼もまだほんの少年。
鞄からバラバラと落ちる本、ハムレットがオフィーリアに故郷を離れることを告げるシーン。
明るく2人で踊ってみせるがリフトされたオフィーリアが別れなくてはならない現実に顔を覆うとその手にキスをしてハンカチーフを落として駆けて行ってしまうハムレット。
そのハンカチーフにそっと頬を押し当てるオフィーリア・・・。
リアブコがシャツの裾を片方出したドジな王子振りでいつもの端正さを崩す演技がどことなく往年の少女マンガのドジっ子キャラっぽい。ノイマイヤーの語る物語は興味深いのですが、残念ながらそこのところ、わたくしの好みではありませんでした。




フェリ引退公演 Aプロ ②

2007-08-07 09:44:49 | BALLET
続きます

「白鳥の湖」より第二幕 白鳥のパ・ド・ドゥ
ABTペア、清楚な美人で明るくフェミニンな感覚のあるジュリー・ケントと、”イケメンサッカー選手”系マルセロ・ゴメス。
どこまでも美しいジュリー。柔らかくしなる肢体は、白鳥のそれ、というよりもたおやかな美女そのもの。
長い睫に縁取られた瞳に赤い唇の古典的な美女とダークな長身のハンサムの織り成すロマンチックな戦前のハリウッド映画を観ているかのような一幕でした・・・。
所謂、「白鳥」のアカデミズムや神々しさとはまた違った味わいでしたが、この2人の並びは好きかも。

「へルマン・シュメルマン」
シュツットガルトバレエのアリシア・アマトリアンとフリーランスでインターナショナルに活躍中の何でも踊れる英国人ダンサー、ロバート・テューズリーが魅せるウィリアム・フォーサイスのちょっと面白い作品。
引き合う磁場の緊張と脱力のバランスが絶妙。
衣装はヴェルサーチ。上半身黒のシースルーでパンツ部分黒の女性、男性は黒のパンツに黒の短いTシャツの前半。後半は2人とも黄色のふんわりしたプリーツスカートを身に着けて・・・。
女性は胸も透けて見えるのですが、これはシルヴィ・ギエムの舞台写真集で見たときにも感じたことですけれど、寧ろカッコいい、という印象。それはこの作品を踊れるダンサーの肉体がすでに昇華されたものになっていることを織り込み済みであるという証なのかもしれません。
ちょっとしたユーモアの感覚もある洒落ゴコロのある作品。
ちなみにタイトルは「ゴロのよさで選んだ。意味はない」、とはフォーサイスの弁。
2人とも身体能力が高く”踊れる”ダンサーであることが今回の成功要因。
バレフェスではシュツットガルトの若手2人、ということでフリーデマン・フォーゲル君と組むことの多かったアリシア。ついつい若々しいカワイイ2人として見ていましたが、大変な強靭なテクニックを持った良いダンサーであることが、硬質な踊りのテューズリーとの並びでハッキリしたかも。
結論、踊れるダンサーのフォーサイスは楽しい!


「エクセルシオール」
前々回(?)のバレフェスでの語り草となった衝撃的な作品。
19世紀にスカラ座のために作品を多く残した作曲家マレンコの代表作・・・とあるのですが、テーマは文明の勝利。とは如何にも20世紀初頭的。
奴隷が文明によって解放される・・というシーンらしく、ほぼ裸体の男性舞踊手と、チュチュ姿でなぜか胸に赤十字の女性のPDDなのですが、女性はほとんど中央で回っているだけ。ダイナミックに舞台を縦横無尽に飛び、回転する男性舞踊手の妙技を見せる演目。
若きボッレは、190cmの長身にアポロ神さながらの豊かな柔らかい筋肉を漲らせて白い腰巻一つで登場して満場を驚きに包んだものですが・・・。
今回は、見違えるほど引き締まり、プロフェッショナルなダンサーとしての身体になったボッレを拝む作品、かと・・・。衣装もアシンメトリーに綱状の飾り紐が上半身を横断して前回の”イケナイものを見ている感(?)”が薄れ、ぐっと洗練されました。
この作品のためにスカラ座から参加のモニカ・ペレーゴのテクニックも安定感あり。

「オセロ」
この作品だけ、ボッレ以外のパートナーとフェリが踊ります。
マルセロ・ゴメスがオセロ。
暗闇の寝室で白いドレープのドレスのデスデモーナが暗い予感を胸に抱き、膝まずいて祈るシーンから。
背後より襲い掛かるのはオセロ。
それは高貴な野生の肉食動物のようなゴメス。
壮麗なるスピード感を持って獲物を仕留めるかのようにフェリを翻弄し、その悲劇を粛々と受け止めながらもドラマチックな悲劇性をその表情ににじませるフェリの存在感。
アメリカのモダンダンスの代表的な振付家というルー・ルボヴィッチの日本初演。
1997年作品とのこと。フェリは今年初めてデスデモーナ役を踊って高い評価を得た、とか。
引退の年に新しい役に挑み、尚且つその役に未だ誰もなしえたことのない深い心理表現を付け加えるなんて・・・。彼女ならではだと思ったことでした。
フェリも良いけど・・・ゴメスがいい!
男性の力強さがボリショイのスパルタクスを彷彿とさせる。

・・といいますか、今回の男性ダンサーは全て粒揃い。
プログラムも通好みでスリリング。実に面白い!
ここでAプロ前半終了、後半に入るわけですが・・・。
なんだかレポがどんどん長文化していくxxx
わたくし、このペースで行くと、今日、Aプロだけで終わってしまいそうxxx
後半、マキを入れて参ります!





フェリ引退公演 Aプロ ①

2007-08-07 05:13:24 | BALLET
アレッサンドラ・フェリ・・・。
大きな黒い瞳、黒髪、小さな顔、小柄ながら均整のとれた体つき、美しくしなる甲、表情豊かな脚・・・。

彼女の舞台、に思いを馳せるとき、浮ぶのは 初恋に胸ふるわせるジュリエット、ジゼル、無邪気なのになぜか男を惑わせてしまう不思議な魔力を持つマノン、確信犯カルメン・・・。
男女の拮抗する恋愛の磁場におけるヒロインを演じて、彼女ほどドラマチックに舞台を彩ったバレリーナはかつてなく、そしてこれからも出ては来ないかもしれません。


「女優バレリーナ」の名を冠せられ、国際的に活躍するアレッサンドラ・フェリが43歳で引退を決意。
3月にMILANOスカラ座初の全幕「椿姫」で、6月にはNYのABTで「ロミオとジュリエット」でそれぞれのバレエ団のプリンシパルダンサーとしてのキャリアに幕を引いた彼女。
この8月、日本のファンに別れを告げるべく、8月2,3日にAプロ、6日にBプロの3公演を、信頼する歴代のパートナーたち、そして同僚ダンサーらとガラ形式の公演があり・・・。
題して「エトワール達の花束 アレッサンドラ・フェリ引退記念公演withボッレ」
フジテレビの企画です。場所は東京文化会館。先行予約で押さえた11列目。
Aプロ2日目、そしてBプロに、行って参りました。

各日4演目ずつを踊ったフェリ。
「私のキャリアは信じられないほどの贈り物だった。最低の状態で裏口から出て行くのではなく、最高の踊りが出来る今、あでやかにお辞儀をして舞台から去りたいの。ローラン・プティのバレエの登場人物のように、シャンパン・グラスを持って
というお言葉通り、どの役も、その物語の世界に一気に引き込む確かな吸引力は健在で、そして何より美しい。
美男盛りのロベルト・ボッレと初恋を語るに相応しい容姿、マクミランのノイマイヤーの求める演技をこなせるテクニックとそれを超えて役に入る境地をともに手にして引退だなんて。あぁ・・・。
残念な、勿体無い、ファンとしては切ない限りの・・・素晴らしいパフォーマンス。

また、特筆すべきは、フェリの引退公演を盛り上げる、ゲストダンサーの質の高さ、演目の選択の妙。
これが引退特別公演でなければ、ボッレが座長らしいので、「ボッレと仲間たち」でレギュラー公演にして欲しいくらいです。

「海賊」
ホセ・カレーニョとパロマ・へレーラのABTラテン・ペア。
元気のいいパロマとエレガントでジェントルなサポートのホセ。
2人で踊るときの一瞬交わす視線の温かさ、リフトの最後に更にトウで立って高さを出すなどさりげなく随所に見られるホセのテクニックと安定感が目に心地よい。目を奪う2人のフェッテ。

「ロミオとジュリエット」より第一幕バルコニーのパ・ド・ドゥ
また見られるとは思わなかった・・・。2006年の夏、バレフェス、ガラで見せてくれた至芸を再び。
夜空を見上げてロミオを思うジュリエット、フェリのバルコニー上のシルエットを見るだけで涙腺が危うい。ボッレは抑え気味の演技で受けに回る。彼もしばらく見ないうちに大人になった。
小鳥が羽ばたくように恋に打ち震えるフェリ。
あんな顔をされて、恋に我を忘れない男はいない。
最後にバルコニーに戻ったジュリエットが下にいるロミオに手を差し伸べる。ロミオも・・。
求め合うが届かない指先が切ない幕切れ。

「マーラー交響曲第3番」
ハンブルグバレエから、金髪の可憐な容姿のシルビア・アッツォーニと、ご両親もダンサー、ゆるぎない端正なテクニックを誇るアレクサンドル・リアブコ。
お膝元だけあって、彼らの踊るノイマイヤーはその振付の語ることがはっきりと顕在化しているのがわかります。
赤いユニタードのアッツォーニが自在に身体をコントロール。リフトの状態での目まぐるしい体勢変化も実にスムース。
全ての身体の動きにコントロールが行き届いている美しいラインのリアブコ。一見華奢に見えるほっそりとした二人のそれと気取られぬ筋力が凄い。まさに音楽を奏でる肉体・・・。
この2人に参加を求めるあたり、フェリの考えなのか、ボッレと初めて「椿姫」全幕を踊ってセンセーショナルな成功を収めたスカラ座引退公演後、2人を即呼び寄せたというノイマイヤーの推薦か。
いずれにしても通の選択に拍手を贈りたいと思います。