アメリカの製造業を空洞化した結果:<o:p></o:p>
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誰も書かなかったアメリカ:これを語ってご理解願えれば、私の希望が達成されたことになると考えます。そこで、私の意見を述べていくことにします。<o:p></o:p>
私が語りたいことはアメリカ式資本主義の欠陥です。四半期毎の成績を気にしていなければ株主に切られます。そうならないように、短期的にしか物を考えられなくなるような資本主義です。経営担当者は自分の在任中に結果を出すことに集中します。そのためには資金を固定する結果になるような将来を見据えた設備投資を避けてしまうのです。その結果どうなったかの一例が空洞化でした。<o:p></o:p>
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空洞化:<o:p></o:p>
アメリカが労務費等のコスト高騰を嫌って非耐久財のようなものの製造業を国外、それも主に中国を主体とする東南アジアに移していったことは記憶に古い?かも知れない。それは諸外国でも当然の成り行きのように受け止められていた。そして、その空洞化は決してマイナス要素ばかりではないかの如くだった。すなわち、アメリカはその最終製品を輸入するための包装材料=段ボール原紙と段ボール箱を大量に中国に輸出に成功したし、製紙用パルプの販路も拡張していったのだから。彼らは「中国経済の成長性」に酔いし入れていた。<o:p></o:p>
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原料しか買わない日本:<o:p></o:p>
日本はアメリカから製紙の原料を大量に買っていた。そして輸出をしていた。その状況を聞いた上智大学経済学部の緒田原教授(当時)は言った「それではアメリカは日本の植民地のパタンではないか」<o:p></o:p>
その空洞化が始まって何年経ったかは定かではない。1980年代の終わり頃にアメリカが日本に完成品としての紙・板紙類の輸入量を増やせと猛烈な圧力をかけてきた。製紙産業は空洞化されていなかったのだ。スーパー30条適用などという脅かしもあった。この時の大統領は誰あろう、Hillary Clintonのご亭主Bill Clintonその人だった。<o:p></o:p>
日本の業界では「黒船の襲来」と怖れた人が多かった。それはそうだ。日本の2.5倍の紙・板紙を生産している当時としては世界最強と認識されていたアメリカが「原料だけではなく製品も買え」と牙を剥いてきたのだから。<o:p></o:p>
だが、かく申す黒船の乗組員は「心配ない。あなた方の好みに合わない左ハンドルの紙だ。しかもそれでも国産紙の値段より安く売ることは絶対にないから」と自らの雇用主を裏切るようなことを言って、業界を沈静化させようとしていた。当人はこんなことを言うのを全然気にならなかった。それは「業界の意表をつくことは衝いたが、ただ単に本当のことを言ったのだから」だからであった。<o:p></o:p>
もっと解りやすく言えば「異文化の国で作った紙は、世界最高の技術で作られている国産の紙に馴れた我が国の需要家を満足させることはない」と信じていただけだったのである。<o:p></o:p>
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警告:<o:p></o:p>
だから、アメリカの対日紙・板紙の輸出は一向に伸びなかった。だが、その様子を眺めていた北欧系の多国籍業T社の日本法人の副社長(日本人である)にして論客のK氏がこう言って警告した。「買わない、買えないからと言って放置しておくことが長期的視点に立てば得策かどうかは疑問だ。アメリカは日本が紙・板紙の形で買わないならば、最終製品を中国でも何処ででも作らせて、その包装容器から宣伝用のパンフレット類までアメリカ製の紙類にして輸出されたらどうするのか。国産紙の需要がそれだけ消えることにならないか?アメリカ人はそのくらいのことを考える頭脳があると思う」と。日本ではそこまでの危険性を認識していた人は少数派でもなかった。<o:p></o:p>
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中国で何が起きたか:<o:p></o:p>
ところで、空洞化のアメリカ対低労務費の中国の関係に話を戻そう。かの中国人が何時までも唯々諾々と紙類の輸入を続けていたわけではなかった。中国経済そのものが成長するにつれて、段ボール箱等の包装容器の需要も拡大・成長してきた。しかも、最終製品の輸出はアメリカ向けばかりではなかった。ご存知の通りに我が国でも中国詣では盛んになっていった。<o:p></o:p>
結果として何が中国で起きたかは、もう説明の必要はあるまい。K副社長の警告はアメリカに向けておいた方が良かったのである。中国の段ボール原紙生産能力は2009年には3,380万?/年に達して、アメリカに次ぐ世界第2の生産国になると予測されている。中国の2000年の能力は890万?でしかなかった。3.8倍の成長率である。アメリカの生産能力は2001年に3,697万?だったものが2009年に3,680万?と予測されている。これではマイナス成長である。<o:p></o:p>
驚くべき数字をお見せすれば、我が国の紙・板紙の2007年の総生産量は3,120万?であった。念のため申し上げて置くが、全部でこれである。中国の段ボール原紙だけの能力に追い越された。<o:p></o:p>
アメリカの段ボール原紙は最大の輸出先を失って、2007年には3,541万?にリストラされていたのであった。それを2009年には4%も増加させようという計画である。段ボール箱の需要は景気変動に極めて敏感である。2年でそれだけ回復するというのか?また横道に逸れるが、こういうのを英語で”ambitious”と言う。あの有名な「少年よ、大志を抱け」もambitiousだが、これは「野望」であって「大志」を意味しないと思う。誤訳であると信じている、念のため。<o:p></o:p>
ここまでの結論を急ごう。現時点で中国のメーカーが計画していることは段ボール原紙の対米輸出である。何分にも国内需要は3,380万?を完全に消化するまでには伸びていないのだから。アメリカは空洞化の対価を支払う段階に到達したのである。<o:p></o:p>
これは何もアメリカの紙・板紙・パルプ産業だけの現象ではない。アメリカ式経営が短期的に当面した重要課題を解りやすく示した実例であるに過ぎない。<o:p></o:p>
資料:RISI、Future(紙業タイムス社刊)<o:p></o:p>
続く)<o:p></o:p>