ファンドは何をするか:
サーベラス・キャピタル・マネジメント(CCM)はあおぞら銀行、帝国ホテル、西武グループ等の株主であり、最近でグッドウイルの株式を取得するなど、我が国の市場にも進出してきている投資ファンドである。<o:p></o:p>
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アメリカでも数多くの企業に投資している。その中で私にとってもっとも強烈な印象を与えてくれたのが05年2月のNewPage Corporation(ニューページ)の設立にいたる紙パルプメーカーへの進出であった。アメリカの紙パルプ業界の上位10社にランクされていたMead Corporation(ミード)はコート紙のような印刷紙では歴史と伝統あるメーカーで、そのライセンスの下にコート紙を生産していた日本の大手メーカーもある。因みに、「コート紙」とは光沢がある紙で表面にクレーを塗布されている。分かりやすい代表的な例を挙げれば週刊誌の表紙のような紙である。<o:p></o:p>
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そのミードが煙草のカートンのような包装容器用板紙の分野に強いWestvaco(ウエストヴェイコ)と合併してMeadWestvaco(ミードウエストヴェイコ)となった。印刷用紙のメーカーであるミードは包装材料の分野でも大きな存在で、コカコーラの瓶を6本纏めて持ち歩ける形式の包材等の昔懐かしい製品も手掛けている特徴があった。そのミードとウエストヴェイコの合併は一見理想的のようだった。<o:p></o:p>
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ところが合併して間もない05年1月にその印刷用紙部門をCCMに売却すると発表され、2月に新会社のニューページが事業を開始した。それまでに投資ファンドが紙パルプメーカーの株式を買収したことは聞いていたが、インターネット広告に圧され気味の印刷媒体向けの製紙産業の経営に乗り出したのは全く意外であった。<o:p></o:p>
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だが、業界としてはこの進出を歓迎していた様子ではなく、後に世界最大手のインターナショナル・ペーパーが同様にコート紙事業を売却した際にその工場の一つを購入したのが同業のメーカーであったと聞いて「ファンドでなくて良かった」とコメントした経営者がいたくらいであった。<o:p></o:p>
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一寸話題を変えるが、我が国ではマスコミも一部の経営者も外国資本の日本への進出というかM&Aを極度に怖れている節がある。すなわち「乗っ取り」を怖れているのである。その気持ちは解らないでもない。だが、何を怖れるかが間違っている。単に乗っ取られるだけでは、会社も従業員も全て安泰ではないか。経営権を取られることが怖いのか?アメリカのM&Aの後に起きることを考えて貰いたい。それはそんなことではない。買収した会社がコア事業の強化を目指してその会社を買収したのであれば、買い取った会社のそれ以外の事業を何ら躊躇うことなく、何の配慮もせずに売却または閉鎖してしまうことが往々にしてある。不採算事業があれば遠慮会釈無く売り払い、また廃止するのである。これが日本語になっている「リストラ」である。より具体的に言えば事業を辞めれば従業員も要らなくなるという簡単な図式である。<o:p></o:p>
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何かを怖れるならば、この点である。この景気低迷の時期に、ある日突然放り出された人たちに我が国で次の就職口が待っているか?アメリカのように社会通念が異なり、雇用に流動性がある国の人たちが日本の事情に配慮すると思うか?何もファンドでなくても、M&Aで会社の規模が必要以上にふくらんだ場合に、人員削減に手をつけるのが彼らの経営である。常識である。<o:p></o:p>
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話をCCMに戻そう。彼らがミードの生産設備能力を縮小、整理したとは聞いていない。だが、あっと驚くような手段に訴えてきた。それは、ただでさえネットに地盤を奪われて、不振なアメリカの印刷用紙業界である。各メーカーは操短や設備削減などの方法で供給を調節して価格を維持してきた。そこにアジアの新興勢力、中国、インドネシア、韓国が彼らの最新鋭の設備で造りだしたコート紙の輸出を開始した。アメリカは元はといえば世界最大の市場で、需要はまだまだ十分にある。<o:p></o:p>
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問題は「利益が挙がらなければ投資はしない」アメリカの資本主義である。コート紙を生産するマシンが皆古くて、小さくて、遅いこと難点だった。従ってコストは割高であった。そこにアメリカから原料を輸入する新しく、大きく、速いマシンで効率よく生産する低労務費の国の紙が雪崩を打って入ってきたのである。輸入紙が米国市場のシェアーの過半数を抑えんばかりの勢いで浸透していった。<o:p></o:p>
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その状況に対してニューページが打った手は、商務省にアジア三ヶ国は不当廉売=ダンピングであるから厳重調査の上「反ダンピング関税」と「相殺関税」を付加するべしと申請した。連邦政府は慎重審査の上これを認めた。結果して暫定的に中国品には合計で100%を超える課税が決定された。勿論他の2国にもそれほど高率ではないまでも課税と決まった。そして、輸入紙は高値となり輸入が激減した。そこでニューページ自社の価格を輸入紙並みに値上げした。長く引っ張ってきたが、これこそが同社の狙いだったのであろう。<o:p></o:p>
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自国の生産を設備ごと減らし、そこをユーザーが安くても品質も良い輸入紙で補っていた。自分で引いていった市場を輸入紙に狙われるや関税をお上に願い出る始末。私は余りにも定見がない経営方針であると非難・批判したい思い出見ていた。ファンドは何としても利益を確保したいのだろう。彼らは何時の日かニューページを利食いして転売したいのではないだろうか。そのためには輸入紙を排除しておきたかったのだろう。<o:p></o:p>
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資本主義を信奉する以上当然の措置という見方もあるだろう。だが、こういう思想の持ち主が我が国の風土に合うかどうかは考えるまでもあるまい。<o:p></o:p>
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因みに、この行きすぎた高率の関税の賦課は、流石に連邦政府が撤回したことをお伝えして終わる。<o:p></o:p>