承前<o:p></o:p>
あらためてアメリカ企業の欠陥と思う点を指摘しよう。寡聞にしてここに指摘するような問題点を一般の方に知れ渡るような形で発表した例を知らない。彼らの経営方法では問題が生ぜざるをざるを得ないのである。そこで、一頃は彼らを追い抜いたかに見えた日本の手法を学ぼうという気運が盛り上がったこともあった。
私に言わせれば先を行っていると見える方が、案外に周回遅れだったりするものだ。そうでなければ、彼らに対して何の手も打たずに現状維持に気を遣っていると、いつの間にか何処かよその国に先を行かれている結果になるものだ。<o:p></o:p>
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(14)アメリカの企業社会の問題点:<o:p></o:p>
研究開発の投資→新技術の商業化:<o:p></o:p>
問題点の多さが問題:アメリカの製造業の会社は研究・開発に投ずる費用を惜しまず、次々に新技術をこの世に送り出している。その点には敬意を表しても良いだろう。だが、多くのアメリカの企業は折角投資して開発した新技術を商業化して商品にして売り出す技術と段階に問題が多い。その最大の問題点と私が長年主張してきたことが「労働力の質」であり「職能別労働組合」(=Horizontal Union or Craft Union)である。そこに少数民族問題を加えることも考えられるが、此処を強調することは余りfairではないと懸念するので深追いはしない。<o:p></o:p>
クリントン政権当時に日本に対して「極力、国内需要を喚起して、アメリカからの輸入を増やせ」という所謂外圧が激しくかかったのは、最早古い話のような気がする。94年7月にあるシンポジュームに参加した際に、USTR代表のカーラ・ヒルズ大使がアメリカ側の問題をズバリと「アメリカが対日輸出を増やすためになすべきことがある。それは基礎的、ないしは隠されたとも言える問題である。(大使が使った言葉が”underlying”だった)その問題の一つは識字率を上げることで、もう一つは初等教育の普及である」と言って指摘した。大使は解っておられたのだった。<o:p></o:p>
アメリカにそのような問題があるとは思えないと言われる向きもあるだろう。それに対しては一つだけ例を挙げて証明しておこう。アメリカには戸籍はなく出生届を出すことに止まっている。その届けは医師ないしは看護師が書くことになっている。それは両親が必ずしも英語で届が書けるとは限らないからであると聞かされた。すなわち、英語圏外の外国からアメリカに移り住んできた人がそれほど多いと認識されているからなのだ。<o:p></o:p>
アメリカの労働組合員にはそのような所謂少数民族が多いのもまた事実である。我が国にはアメリカの製造業の現場にはマニュアルが完備していると、いわば礼賛する声があると思う。それはその通りである。だが、識字率の問題があれば、折角完備したマニュアルが何の役にも立たない危険性があるのだ。それに組合員が時間給の身分を抜け出してサラリー制の社員になっていく例はごく希である。換言すれば、身分の垂直上昇がない世界である。努力した向こう側に何があるのかは初めから解っている世界である。職能別組合の弊害にこと細かく触れることがこの項の本旨ではないので避けるが、「我が国ではこの制度がない上に労働力の質が高いではないか」というに止める。<o:p></o:p>
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意思の疎通:この組合制度が「日本にも通用する高度な品質を備えた製品を作り出すことを阻害している」とヒルズ大使が指摘されたことを踏まえて、実際に経験したことを申し上げよう。W社では日本市場の厳しく、時には揚げ足取りのような?クレームに耐えて定着し、シェアーを拡大するためには、現場の労働力と製品の質を向上させることが大命題であるとの解りやすい結論に達した。
そしてある日、工場の三交替制の直の終わり毎に全員に残業代を支払う条件で私が「日本市場で成功するためには品質のさらなる向上しかない。日本市場はかくも厳しく細かい要求をする。その背景には各種のアメリカとは異なる特殊事情がある。そこで、皆は今でも良くやって貰っているし、品質も向上している。そこに加えてなお一層の努力と協力を是非賜りたい」と、1時間ほど訴えることに決まった。<o:p></o:p>
余談かも知れないが、「品質のさらなる向上」と「一層の努力と協力」としたのは、そう言わないと現在「向上させようとしておらず」「努力も協力もしていない」となってしまい、彼らの反感を買う危険性が高いのである。アメリカ人の通弊として(?)、何かの評価を伝えようとする際に「褒めること」から入ってきた時は点が想定外に点が辛いか、何かを改善せよとの注文をつけられると知るべきである。すなわち、その後に必ず「ではあるが、この点をこのように改善して貰えるともっとずっと良くなるのだが」等と落としてくるからだ。
本論は「ではあるが」から先にある。決して全面的に評価していないのだ。褒められた場合こそが要注意である。であればこそ、組合員に対しても「あなた方は非常に立派な仕事をしている。だが~」(例えば”All of you are doing very good job.”から入ってと行かねばならないのだ)。これが「文化の違い」であり、英語という言語の厄介な点だ。<o:p></o:p>
良くお考え願えれば解ることだが、この説明会はかなりの強行軍である。深夜勤務(”Grave yard shift”と呼ばれている)が明けるのが朝8時で、それから8時間置きに最終回は真夜中からとなるのだから。各直の間には他の仕事があるので全く休む暇も寝る間もなかった。中には熱心に「日本の特殊事情とは何か」と問い質した者もいれば、容易には理解できない英語で熱心に質問してくれたベトナム出身者もいた。正直なところ、何処まで効果があるのか手探りの24時間だった。<o:p></o:p>
工場に出張した際には特に用事がなくとも、必ず半日は現場で過ごすようにしていた。その24時間セッションの後数ヶ月経った後だった。組合員でそれほど会社側に協力的とも思えない怖い顔つきの巨漢がいた。その怖い顔つきの彼がウロウロしていた私に次のように声をかけてきた。<o:p></o:p>
「良いところに来てくれた。品質が疑わしいものができてしまった。現場の長が組合としての実績を挙げるためにこのまま正規品にしようと言っている。だが、自分はこの前のお前の話からすれば『格外品』とすべきだと信じている。そこに丁度お前が現れたので、良い機会だから合否の判定をしてくれ」と、であった。<o:p></o:p>
何とも言えない感動だった。そして立ち会った。彼の判断は正しかった。その製品を日本に出せば微妙なところだろうが、経験上から得意先で問題を起こすことは明らかだったと判断した。社内手続きとしては私には何ら命令権も発言権はないのだが、工場の非組合員の責任者には直ちに知らせた。彼らも感動して「彼奴がそこまで言ってくれたか。お互いに報われたな」と言った。これを自慢話と取らないで貰いたい。アメリカの現場に対しては「十分に知らしめる必要があり、正しく知って貰えれば必ずや進歩し改善されていく」と承知して頂きたいのだ。<o:p></o:p>
ここまでの結び:日本の会社組織の中にいれば、このような会社対組合の対立ではなく別組織であることから問題が生ずる等とは理解を超越しているだろう。だが、現実である。<o:p></o:p>
会社側の者は製造現場で直接手を出すことはできず、カーラ・ヒルズ大使が指摘された解消されるべき欠点があり、少数民族を雇用している状態では、我が国では想像もできない問題が起きるのである。輸入牛肉問題が起きた時に、日本側がこういう問題があることを知らずに、アメリカも日本と同じ労働の質だろうと思って交渉しているとしか思えなかった。<o:p></o:p>
だが、混入されてはならない部位が繰り返し入ってきた。マスコミは騒いだ。私は矢張り再発したかと思っただけだった。アメリカ側は日本市場と日本の消費者の潔癖性を認識させるためには、彼らに文化の違いを認識させることから取り組んでいかねばならなかったと思う。<o:p></o:p>
私はこういう状態を「相互理解の不足」と唱えてきた。イージス艦と漁船の衝突を一方だけに過失があったかの如き論陣を張るマスコミに問題があるように、片方だけの過失で問題が発生する確率は低いと考えている。相互理解不足同志で取引する危険性を指摘しておきたい。<o:p></o:p>
話が脱線したが、アメリカはここに述べたような根本的な問題を抱えていると認識願いたいと言って終わる。<o:p></o:p>
続く)<o:p></o:p>