新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

これを言うことで失うものはない作戦

2014-04-11 14:19:32 | コラム
対アメリカTPP交渉で注意すること:

TPP交渉は甘利大臣以下の懸命の努力があっても一向に纏まらないようだ。牛肉ではオーストラリアとの間で合意に達したので、一部には「アメリカとも」といったような希望的観測もあるようだ。だが、アメリカは今度は自動車で我が国には非関税障壁が多過ぎると言いだした。大袈裟な表現を用いれば「厚かましくも」になってしまうのだが、私は「これを言うことで失うものはない作戦」に出たと解釈した。これは彼等の文化であって悪意はないと思っていて良いだろう。

甘利大臣及び安倍内閣が如何なる戦略と同時に、アメリカの交渉術の読みでこのUSTRとの折衝に入ったかは推理など出来ない。だが、彼等が妥協の余地を残しているとか、交渉に進め方というか進み方如何では落としどころを探るだろう等と見込んでいないことを祈るだけである。彼等は何度も言ってきたことだが、勝つか負けるか、または自分の主張か要求が受け入れられるか拒否されるかだけを考えて交渉するのだ。しかも、始末が悪いことに"contingency plan"も用意してきているのだ。

それだけではない、再三再四述べてきたことは「彼等は自国の労働力の質の低さ」を承知している点である。我が国とアメリカの自動車の質を比較した際に何れが優れているかなどは議論の必要がないほど明白である。私は彼等が我が国の自動車が過剰なまでの品質を備えており、ユーザーが望んでいないかも知れない領域にまで達していると知らないはずがない。そして、彼等ではそこまで出来ないと認識していないはずがないと思う。だから非関税障壁などと言うのだろう。

私は1980年代にアメリカの古物化した設備とあの労働力の質と組合制度を抱えた製紙産業が作り出す紙は、到底我が国の市場に手放しで受け入れられないだろうと言ってきた。さらに、我が国の製紙技術こそ世界最高と言ってきた。W社内ではこれくらいの認識は十分にあった。だが、彼等はそうではあると思っていても"It’s a mistake, if you don’t buy world’s best US made papers."くらいは言ってのけるものだ。

上記の節を自動車に置き換えても良いのではないか。2009年末にロスアンジェルス空港から30分ほどの水辺のホテルから外を見ていて「なるほど、アメリカでも未だ自動車を作っていたのだ」と思わせられるほど、所謂外車ばかりしか走っていなかった。それでもアメリカの自動車メーカーは「日本市場は過剰な品質の要求をして、非関税障壁を設けている」などと戯言とでも評したくなるようなことをTPP交渉の場に持ち出そうとする。それを又重大な出来事の如くに報じるマスコミがいるのだ。

私はこれくらいの「失うものがない作戦」に負けてしまう甘利大臣でも経産省でもないと信じている。しかし、オーストラリアの場合でもそうだったが、西川公也代議士のように「オーストラリアから輸入する牛肉にかけてきた高率関税を畜産農家の保護に回している」という議員がいる限り、アメリカの高飛車の如くにも聞こえる交渉術に怯える議員が、アメリカの国会議員の「TPPから日本を外そう」と主張する連中に力を貸すことになってしまうと危惧する。

私は「我が国のトヨタ他のメーカーの車と同等の質の高いものを持ってくれば喜んで関税撤廃を検討するがどうだ」くらいは言い返して欲しいし、牛肉であれば「貴国でも畜産家を督励して和牛並みの品質を生み出せる保証があれば関税率引き下げ交渉に席につく用意がある」とでも言って何かを失うだろうかと密かに考えている。

尤も、我が家には運転免許取得者はいないし、高級な輸入牛肉だの何のを今更食べたいとも思わないので、直接の関心はない。唯々、甘利大臣以下がアメリカの作戦を蹴散らしてくれることを祈念して終わる。