新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

元北欧系多国籍企業副社長のHK氏と懇談した

2016-01-03 17:54:59 | コラム
HK氏は景気回復未だしと言った:

HK氏は北欧を代表する包装容器の多国籍企業TP社の副社長だった方で理論派で読書家。私は約40年間お互いにリタイヤーした後も交流を続けてきた。だが、一昨年末からの私の長期間の入院もあって直接語らったのは約2年振りくらいかもしれない。同氏は現在鉄鋼業界関連の小規模な商社の副社長で、週5日も出勤しておられるとのことだった。

鉄鋼産業は世界的に供給過剰であり、特に中国では内需の規模も弁えずに過剰な設備投資を行って来た為に、その粗鋼生産能力は我が国6~7倍に達し内需のほぼ4倍となり、世界の市場を攪乱する原因となっている由だった。この点では世界最大にして過剰な紙・板紙の生産能力を抱えて輸出に活路を見出そうとしても、最大の輸出先だったアメリカ政府に高率の関税を付加されて締め出されてしまった現状と酷似している。

HK氏はこのような現象は何も鉄鋼や製紙業界に限定されたことではなく、中国の過剰設備が世界の市場を荒らしまわっているのが実態だろうと語っていた。また、アメリカの景気が回復しつつあり失業率も低下し始めたとは言うが、中国のような輸出中心の新興国からの輸入を受け入れるだけの余裕は未だに生じておらず、この度のFRBの金利引き上げが如何なる影響を及ぼすか等は、予想や予測の限りではないと思うと指摘しておられた。

またアベノミクスについても世論や市場調査やエコノミストたちが評論するように株価を上昇させ円安をもたらした辺りまでは成功の部類に属するだろうが、私も同感の意を表したように、肝腎の年率2%のインフレには至っておらず、デフレ傾向は収まらず世界全部が景気回復未だしの状況下では、思ったほど輸出が伸びておらず、ここから先にはTPP対策も含めて如何に第4乃至はそれ以上の矢を放っていくがは重大な安倍内閣の課題となるだろうと言われた。

次に話題となったのは、私が常日頃唱えている「経営者の質の劣化」だった。彼は現在と言うか最近の経営者(私に言わせてもらえば経営担当者に過ぎないが)は現場での実務の担当者としては一定以上の功績があった者を「経営の任に当たらせても良いだろう」という錯覚で経営を担当させたことが大いなる過ちだったと切って捨てた。即ち、市場担当の実務とある程度以上の企業の経営とは全く異質なもので、実務担当の感覚でしか物事を判断できない者たちをして、経営させたことが今日の我が国の景気回復の遅れの最大の原因の一つとなっていると断じた。

そういう例としてお互いに挙げたの会社を敢えて列記すれば、シャープであり、東芝であり、ソニーであり云々ということになった。彼は「自社の本業以外を手掛けていく勇気もない経営者が多く、トヨタや東レや(余り好ましくない例だがと断ったうえで)孫正義のソフトバンクのように色々と多角化していく勇気を持った経営者よ出でよ」と声を大にして言いたいと言っていたのも印象的だった。

TP社は我がW社の世界市場での最大の得意先の一社で、W社が最後に残してあった紙パルプ部門の紙おむつ用のフラフパルプ、我が国の企業と合弁の新聞用紙事業、TP社も関係がある液体容器原紙事業を売却の計画を発表したと知らせると、「印刷媒体の衰退とともに紙パルプ産業がアメリカではそこまで追い詰められていたとは」と嘆息され、「その傾向は何れ我が国に押し寄せてくるだろう」との感想を述べられたが、この点も私の見方と同じである。

ここまでで他の話題を含めて約2時間。本来は私の方が彼のお住いの原宿に行くべきだったが、生憎と言うか何と言うか原宿駅は明治神宮への初詣客が何と一日に百万人も押し掛けるので、身動きが取れない状態故に、新大久保まで来て頂いたのだった。そこで再会を約して別れた充実した2時間だった。