新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

本当は怖い便利な世の中

2017-04-22 09:19:51 | コラム
コインの裏側を読まねば:

もう30年以上も前のことだが、藤沢に住んでいた頃には、アメリカ出張となると余り何も考えずにABCに電話をしてスーツケースを成田空港に送って貰い、空港で受け取ってチェックインしていたものだった。そのサーヴィスを知ったのは確か何かのCMで「便利な時代になりました」と言っていたような記憶がある。確かに便利だった。

その頃は現在のようにトローリーケース(キャリーバッグは何処かで誰かが作り出した奇妙なカタカナ語だ)などなかったので、重たいスーツケースを如何にも軽々と持っているかのように見せるのが「旅慣れている」事の証だと誇りに思っていた。だが、他にもブリーフケースなども持って行かねばならないし、航空会社から貰ったオーヴァーナイトバッグなども肩にかけていたので、海外出張はは大変な重労働だったのだ。故に、ABCのサーヴィスは言わば福音のようなものだった。

私が頻繁にアメリカと日本の間を往復していた1993年一杯は未だこのスーツケース等を自分で運ぶ重労働の時代で、ABCのサーヴィスのようなものが、今日のヤマトの宅急便のような便利な事業にまで成長発展していくことなど考えても見なかった。ましてや、通販のような便利な(なのだろう)業態が現在のようにあまねく普及するとは想像も出来なかった。

AMAZONにしたところで、私の在職中の1994年1月末まではシアトルの南の外れの、言うなれば寂れたようなところにStarbucksとともに新興の事業会社の本社があったという程度の記憶しかなかった。話は違うが、1980年代にはマイクロソフトもシアトル空港の南にあるサウスセンターというショッピングセンターの広い敷地の隅に本社(だったのだろう)があって、「何の会社」と同様に尋ねれば「何かコンピュータのソフトだかを造っているらしい」という程度の認識だった。

以前にも取り上げたが、大和運輸は三越の配送を請け負っていた会社だったが、そこを離れてから宅配事業に進出し、ここでも「これまでになかった便利さ」でアッという間にあれだけの地盤を築き上げていった。「直ぐに配達する」という便利さを業者も消費者も最大限に活用し、時代の変化を楽しんでいたと思う、アマゾンのような業態があれほど世の中を変化させてしまうまでは。

アメリカにも(で良いのかな?)Federal Express(=FEDEX)もあれば、UPSもDHSもあって、世の中の便利さの先頭を走っていたと思う。W社でも私が転身した1975年には既に東京からこの種の”Courier service”を利用して本社に翌日に書類が到着するという離れ業を演じていたので、こういう時代の変化に疎かった私は「流石、世界のWeyerhaeuserは違う」と感心していたものだった。

我が国ではヤマトの黒猫便の対抗で佐川急便が進出してきた頃までは、佐川などはそのドライバたちの高収入が世間に知れ渡り、「金を稼ぎたいならば佐川に」などと言われていたような記憶があるほど、宅配便は日本全国に普及していった。私が思うには「消費者がその便利さを満喫していた」時代になっていったのだった。

だが、その輝くコインの裏側に潜んでいたことが週刊文春に潜入体験のレポートとなって、ユニクロとともにヤマトが取り上げられてからは様相が一変した。それは億の単位で配送される一般の消費者の荷物の他に、アマゾンのような時代の最先端を行っている業態が「送料無料」を引っ提げて参入してきたからだ。その便利さと魅力的(なのだろう)な価格は「今時の若者」の需要を引きつけてしまったのだった。

その宅配の普及の裏、即ちコインの裏側に何があったかをここで私が事あらためて解説するまでもあるまい。要するに「便利さ」の裏側には、それを支えてきた事業者側の努力と創意と工夫があったのだが、それを今日のような形にまで利用する事業者が現れるとは、恐らく計算外ではなかったのか。また、デイジタル化とITC化がここまで進んだ時代に生を受けた若者たちは紙の新聞も取らず、固定電話も置かず、商品に触らないでも買えるネットを利用するのだった。これもICT化の裏側に潜んでいた現象ではないか。

この変化を予測せよと言われても、予測すべき側の者たちは彼ら新時代の若者が軽蔑してきた「団塊の世代が中心だった頃」の人たちが主力ではなかったのか。だが、その時代は間もなく終わり、遠からず我々後期高齢者には想像も出来ない新時代の精鋭が世の中を支配するようになっていくだろう。だが、その連中ですら「コインの裏側を読み切れなかった」と嘆くような時代も直ぐにやってくるだろうと私は考えている。Facebookだか何処かが「脳の動きを読み切って文字にして打ち出すシステムを作った」と報じられている時代だ。

だが、心配する必要はないのだ。我々はその頃にはこの世にはいないのだから。