新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

将に“unpredictable”

2019-02-21 08:32:46 | コラム
トランプ大統領とDPRK金正恩委員長との2度目の会談:

トランプ大統領は当初は「完全で後戻りしない非核化」を目指して、将に歴史的な金正恩委員長との会談に臨んだはずだったが、この会談は言わば顔合わせに終わり具体的な成果に乏しかったというのが大方の専門家の見方だった。この件やロシアゲートのような事案を捉えて、トランプ大統領の外交的な力量やら個人的な能力を云々する向きがある。だが、彼は19ヶ項目の公約のうちの16はその強引とも言える手法で完遂しているのだ。

実に8割以上の達成率で、我が国の閣僚や議員たちに改めて「トランプ氏に学べ」と言いたくもなろうというもの。この完遂度こそが彼の40%を超えたとも言われている支持層に受けている最大の要因だろうと思わざるを得ない。言うなれば、内政面では景気の盛り上がりと労働者層の“job”(何度でも言うがこれを「雇用」と訳すのは、アメリカの事情を知らぬ誤訳である)を増やして、彼らの支持を不動のものとしたのだ。

ところが、積み残された3項目の中でも最重要項目と思われるこの完全な非核化を2度目の会談の1週間前になって「急がない」と表明したのだった。専門家の中にはそのような予測をする者もいたが、この表明は矢張り“unpredictable”だったと言えると思う。トランプ氏は矢張り重大な公約だった「メキシコ国境の壁の建設」は“get it built”と一般教書演説で確約した以上、如何に野党が反対しようとも議論を呼んでいた非常事態宣言まで発令して強行する構えなのに、ここでは「急がない」となってしまった。

中国との3月1日までの猶予期間を与えた貿易交渉でも、難航するとの見通しが出てきたのを見て60日間の延期を仄めかしたのも、確かにそのような予測をしていた専門家の言う通りかも知れないが、私には「あれあれ」の感があった。確かに習近平主席は「原則を変える意思はない」と明言していたので、知的財産権問題や中国の体制を変えるという案件では難航どころか、中国が屈服しないだろう事が明白になったのでは、延期もあり得るかと思わせてくれる。

トランプ大統領はこれと思う重大な案件は周囲には任せずに自らが乗り出して、強引と言われようと何だろうと実行してきた。その為には屡々大統領令を発行して押し切ったし、関税の賦課が国会を通さずとも出来るという(浅学非才の私は知らなかった)大領の権限で実行してきた。だが、このところフジの夜のPrime Newsに出演する専門家たちが論うように「貿易の実務と規制をご存じない」という問題点はあるにはあるだろうし、私以外の方でも「その辺りを無知なのか、あるいは承知しておられても押し切っておられるのが解らない」と言って来たのだった。

だが、「最も上に立つ指導者が実務を端から端まで熟知している必要があるか」という考え方もあるかと思う。即ち、上に立つ指導者は実務に練達熟練した者を置いて、その者たちに「自らが定めた目的と目標を示して、その通りに達成するように指示を与えれば済むこと」でもあるのだ。だが、トランプ大統領は多くの公約を大統領自身が乗り出すことで達成してきた。専門家たちはそこには「トランプ大統領はその意に染まない進言乃至は提案は採らないのだ」とも言っている。

また、多くの専門家の中には「今や習近平主席も金正恩委員長はトランプ大統領与し易しと読んで、その交渉に臨んでくるのではないか」とまで言っている者も出てきた。私は在職中には「交渉事では、相手がこちらを舐めてかかるか侮っている気配を見せた時がこちらのチャンスである。何故ならば、そういう相手は自分たちも知らぬ間に隙が出来ているから」と考えてその場に臨んでいたものだった。

言い方を変えれば「習近平主席も金正恩委員長のトランプ大領の“unpredictability”を余程良く理解し認識してかかるべきでは」ということだ。但し、多くの専門家が危惧するように「今やトランプ大統領の周囲には本当に実務に精通した専門職の閣僚がいなくなり、ペンス副大統領のみとなってしまっている事」が難点ではないのか。私は対中国と対金正恩委員長及びDPRKとの交渉の結果を、トランプ大統領の“unpredictable”な豪腕に期待して見守っていくしか無いと思っている。