新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

ドナルド・トランプ氏の考察:

2023-04-04 10:46:16 | コラム
ドナルド・トランプ氏の強さと弱点の解析:

ドナルド・トランプ前大統領はニューヨークに現れて出廷するかと報じられている。そこで、誰も取り上げて論じてこなかった、この「余りにも異色な前大統領とは何者か」を、20年以上もアメリカを内側で体験してきたこの私が無謀にも解明してみようと思うのだ。

先ず指摘したいことは「トランプ前大統領はアメリカの知性というか、知識乃至は支配階層を代表していた人物ではない」点である。彼の熱烈な支持層を構成するのはトランプ氏自らが”working class“と呼んだ労働者階級と、それに準ずるかそれ以下の所謂少数民族(minoritiesと複数形で表現されている)が主体になっているのだ。具体的に言えば、あの国会を襲撃した者たちの出で立ちを子細に観察すれば、知識階層に属する者たちではなかったのは明らかだ。

ここで視点を変えてみよう。私はこれまでに繰り返して「アメリカを支配している階層に属する人たちは、アメリカの全人口の精々5%以下のごく少数派の者たちである」と指摘してきた。その頃のアメリカの人口はといえば2億6,000万人で、ザット言って我が国に倍だった。それが、今や(当方がリタイアした後の20数年間に)7,000万人も増えて3億3,000万人に達してしまった。

その増加分が白人であるとは到底考えられない。それは「専門家も有識者たちも遠からぬ将来に、従来の少数派民族の数が白人を追い越してしまうだろう」と予測していた通りで、海外からの移民の流入に寛容だったアメリカには、ヒスパニック、アジア系(中国と韓国等)、インド系が急増していた。現に、私は「カリフォルニア州に観光に出かけるのであれば、スペイン語と韓国語を習得した方が便利だろう」と冗談を言ったほどだ。彼らは最早minoritiesではないのではないか。

次に取り上げたいことは「アメリカの給与所得者の数」である。1975年頃に教えられたことは「アメリカには企業に勤めている者は多いが、その無数にいるサラリー制(この点が要注意で、会社側に属してはいない労働組合員たちは「時間給制」なのである)の者の中で年俸が5万ドルに達しているのは全体の5%にも満たないだろう」という話だった。$1=¥200としても\1,000万円でしかないのだ。換言すれば「高給取りの数は限られている」ということ。

と言うことは「アメリカの経済を支配している目もくらむような高額の年俸を取っている者たちの数は極めて少ない」という意味になるのだ。しかも、1970年代後半では高額の年俸を取っていた者の総数は1,300万人程度なのだ。その数は3億3,000万人の人口の時代になっても、その増加に比例して増えることはないと思うのだ。と言うのは、増えた人口は前記のような支配階層にある者たちではない合法・非合法の移民たちなのだから。

トランプ前大統領の着眼点はここにあるのだと思う。即ち、サラリー制の高等教育を受けて大手企業に就職している者たちに受けるような政策を打ち出しても、獲得可能な支持者の数は知れているのだ。トランプ氏は、そこで従来の民主党の地盤であったはずの”working class”に標準を定めたと同時に、7,000万人と急増したアメリカ社会の底辺を構成する者たちをも狙ったのだろうと見ている。

そう指摘する証拠に、トランプ氏は彼の熱烈な支持層乃至はこれから支持層に仕立てようとする者たちに語りかける場合には、いやしくもアメリカの大統領たる者が絶対と言って良いほど使ってはならない下品な表現を平気で使うし、当方があれだけ厳しく禁じられた”swearword“(=汚い言葉)を用いていたのだった。彼らは、そういう大統領に親しさを感じて「トランプ様は良い人。我々の言うことを聞いてくれる人」と身近に感じて支持者になったのだと思う。巧みな作戦だと見た。

ここまで言ったのだから例を挙げておこう。トランプ前大統領は「汚い場所」と言いたくて”shit hole”を使われた。”shit“は「汚い言葉」の代表的な単語である。聞いた方は一瞬呆れかえった。「汚い」と言いたければ、他にいくらでも表現の仕方があるはずだ。しかし、トランプ氏は支持層の語彙に標的を絞られたようだった。しかも、困ったことに無知なマスコミはこれを「野外便所」と誤訳したのだった。

ここまでで説明になったと思うのだが、起訴されたくらいではトランプ氏の支持層の連中は動じないだろうし、トランプ氏自身がバイデン大統領の悪意ある所業と反論したことに同調するだろう。さらに、裁判になっても決着するのは最高裁にまで」行くのだろうから、トランプ前大統領が共和党から候補者に名乗り出ることだった変わらないだろう。

今やアメリカの二分化などと言われ出したが、この国ではそんなことを言う前から、多くの層に分かれていて、その各層間での人の移動は認められなかった。確かなことは、経済のみならず政治を支配している階層も、他の多くの層の合計と比べれば少数派なのだ。トランプ氏を支持する階層の連中が彼を見放す確率は低いと思うのだが、如何か。この点がドナルド・トランプ氏の強さであると同時に、一朝事あれば非知識階層に見限られる危険性をも含んでいるような気もする。成り行きを見守ろう。