評価
大学受験に失敗して、予備校受験のため東京の平河町一番ホテルに泊まっていた尾崎孝史は突然の火災にみまわれる。死を覚悟した瞬間、同宿していた男に助けられ、鈍いどすんという音と共に地面に叩きつけられた。時間旅行の能力を持つ男とタイムトリップしたのは昭和11年2月26日、今まさに二・二六事件が起きようとしていた帝都・東京の蒲生邸だった。
新年初読み。680頁の日本SF大賞を受賞した長編。孝史と何も知らず太平洋戦争へ歩み始める人々との交流が切なく、蒲生邸の主・蒲生憲之大将の死にまつわる謎解きも相まって頁をめくる手が止まらない。
そして、最終盤に涙がこぼれた。
好きになった蒲生邸の女中・ふきと現在に戻ろうとする孝史だったが願い叶わず、二人はその年(実際は58年後)のふきの誕生日4月20日正午、浅草雷門で会うことを約束して別れる。孝史とふきの運命は・・・
過去に同様のタイムトリップ物としては「僕たちの太平洋戦争(荻原浩)」「君の名は。(新海誠)」を読んだけど、ま~、どれも、時空を超えた再開、というわくわくする設定があるだけに、やっぱり泣ける。ある意味これがSFの強みなのかな~と思います。
最後に気に入った孝史のセリフをご紹介。
「俺ね、過去を見てきたの。それでわかったんだ。過去は直したってしょうがないものだし、未来のことを心配したって駄目なんだってことがね。なるようにしかならないんだから。だけど、だから、こそ俺、ちゃんと生きようと思ってさ。言い訳なんかしなくてもいいようにさ。そのときそのとき、精一杯やろうってさ」