1月19日 NHK海外ネットワーク
約200年前からベルリンの街を照らし続けてきたガス灯。
街が夕闇に包まれる頃 ほのかにあたりを照らし始める。
作られた当時のままのデザインで
19世紀の香りを今に残している。
4万基以上が今なお現役である。
「ガス灯の雰囲気は最高。
ベルリンになくてはならない。」
「見ていると心が安らぐ。」
ガス灯が数多く残されているのは東西冷戦の影響である。
まわりを東ベルリンに囲まれた西ベルリンでは
インフラの整備が進まず古いガス灯がそのまま使われてきた。
ドイツに留学した森鴎外の小説「舞姫」の中にもガス燈が登場する。
ベルリンを離れる惜別の思いを込めている。
森鴎外「舞姫」
鉄道馬車の軌道も雪に埋もれ
ブランデンブルグ門の畔の瓦斯燈(ガス燈)は
寂しき光を放ちたり
ガス灯はベルリンの歴史の一部なのである。
ガス灯は“後世への文化遺産”だと訴え保存活動を続けている人がいる。
レントゲン技師のベアトルト・クヤートさんは
ガス灯の存在がほかの都市との違いを際立たせてきたと話す。
(クヤートさん)
「ガス灯はベルリンのシンボルと市民の多くが思っている。
この歴史的遺産を守っていくことが重要だ。」
ところがガス灯はベルリンの町並みから姿を消そうとしている。
市当局はほとんどを電燈に切り替えることを決め
去年からガス灯の撤去作業を本格化している。
背景にあるのがコストの高さである。
故障が多く
昼間もついたままのガス灯が街のあちこちにある。
ガスを燃やし続け無駄な二酸化炭素を排出してしまう。
市当局は
伝統にすれば街灯1基当たりの年間のコストを最大で10分の1に抑えられると試算。
二酸化炭素の排出も削減できるとしている。
(ベルリン市 担当者)
「ガス灯は時代遅れ。
技術的に見れば過去の遺物。」
この決定には反対の声が上がった。
クヤートさんは市民の意見が反映されていないと集会を開いた。
撤去工事が予定されている一角で“人間の鎖”をつくり抗議の意を示した。
工事の日には集まった10人ほどで占拠しこの日の工事を中止させた。
しかし翌日クヤートさんが工事現場に行ってみると
ガス灯はすでに撤去され電燈の柱が建てられていた。
足元にはガス灯の部品が散らばっていた。
クヤートさんは行政を動かそうと2万人を超える市民から署名を集め
請願書を作成し署名した人のメッセージも添えた。
“調和ある慶安が重要”
“古き良きものをすべて取り除く必要は無い”
(クヤートさん)
「ガス灯はベルリンの道にある小さな宝物。
なんとしても守りたい。」
歴史と人々に暮らしを静かに照らしてきたベルリンのガス灯。
効率化という近代化の浪間で
灯りを灯しつづけている。