1月1日 編集手帳
「大阪」の文字が四角で囲まれている。
国鉄線100円区間。
「55―3・16」と日付があり、
改札の鋏(はさみ)がM字形に入っている。
暮れに東京・神保町の古書店街で買った清水崑の句集に、
紙片が栞(しおり)のように挟まれてあった。
前の所有者か、
大阪を走る電車の中でこの本をひらいた誰かの切符が、
三十余年の時間をかけてわが机上を訪問したらしい。
昭和「55」3月といえば駆けだしの頃である。
戦意旺盛なれど戦力伴わず、
上司の小言を伴奏に暮らしていたな…と、
日付を見ただけで妙に懐かしい。
過去へ旅する切符もあるのだろう。
思えば、
年賀状もそうかも知れない。
遠い昔の情景や誰かの表情が、
手に取った一枚から不意によみがえる。
楽しい記憶あり。
悔いの痛みあり。
きょうは馬の絵柄が刷られた切符を携えて、
過去へ旅する人も多かろう。
どこかの誰かが挟んだ電車の切符に、
あの頃わが身への応援歌にしていた若山牧水の歌を思い出した。
〈男なれば歳(とし)二十五のわかければあるほどのうれひみな来こよとおもふ〉。
男に変わりはないが、
歳に変わりがある。
どうか今年は、
ほどほどの憂いで済みますように。
「大阪」の文字が四角で囲まれている。
国鉄線100円区間。
「55―3・16」と日付があり、
改札の鋏(はさみ)がM字形に入っている。
暮れに東京・神保町の古書店街で買った清水崑の句集に、
紙片が栞(しおり)のように挟まれてあった。
前の所有者か、
大阪を走る電車の中でこの本をひらいた誰かの切符が、
三十余年の時間をかけてわが机上を訪問したらしい。
昭和「55」3月といえば駆けだしの頃である。
戦意旺盛なれど戦力伴わず、
上司の小言を伴奏に暮らしていたな…と、
日付を見ただけで妙に懐かしい。
過去へ旅する切符もあるのだろう。
思えば、
年賀状もそうかも知れない。
遠い昔の情景や誰かの表情が、
手に取った一枚から不意によみがえる。
楽しい記憶あり。
悔いの痛みあり。
きょうは馬の絵柄が刷られた切符を携えて、
過去へ旅する人も多かろう。
どこかの誰かが挟んだ電車の切符に、
あの頃わが身への応援歌にしていた若山牧水の歌を思い出した。
〈男なれば歳(とし)二十五のわかければあるほどのうれひみな来こよとおもふ〉。
男に変わりはないが、
歳に変わりがある。
どうか今年は、
ほどほどの憂いで済みますように。